(パレスチナ和平に関する風刺画です。 ネタニアフと書かれた重機が、平和の鳩の上から入植地と書かれた建物を落しています。 まあ、実情はこの通りですが、アラブの方はこんな風刺画を描いてやせ我慢するしか仕方がないのでしょうね【12月21日 中東の窓】)
【閉塞的な状況が続くパレスチナ イスラエルによる「なし崩し的」な侵襲も】
トランプ流政治に翻弄されたパレスチナに関しては、昨年末クリスマスイブ12月24日ブログ“中東・パレスチナ情勢 トランプ政権の下で現状追認的に大きく変容 政権交代で流れは変わるのか?”で「久しぶり」にとりあげましたが、そこで紹介した記事“パレスチナ、抵抗は失われるか 抗議デモは30分「民衆蜂起、起こせる空気じゃない」”【12月24日 朝日】に示されているように、一言で言えば「バイデン米新政権への期待はあるものの、流れを大きく変えるだけの熱気はなし」といったところ。
そうした事情にくわえて新型コロナ禍・・・パレスチナ自治区やイスラエルでは感染拡大を防ぐための都市封鎖が断続的に続き、外国人観光客が訪れることが難しい状況が続いており、例年のベツレヘム・聖誕教会で行われるミサも寂しいものになったようです。
“クリスマスイブに聖誕教会で行われるミサは例年、ホリデーシーズンの目玉とされ、数十万人がベツレヘムを訪問していた。だが今年のミサは一般公開されずネットで配信され、聖職者と招待された人だけで行われる。ミサの行われる同教会では24日、消毒作業が行われた。”【12月25日 AFP】
例年参列していたパレスチナ自治政府アッバス議長も参加を見送ったようです。
翌25日には、イスラエル軍のガザ空爆が行われました。クリスマスプレゼントという訳でもないでしょうが・・・。
****IDF(イスラエル国防軍)のガザ空爆****
クリスマスイブにはシリアのハマ近郊ですが、クリスマスにはIDFのガザ空爆です。
アラビア語メディアは、IDFは、25日ガザからイスラエル南部に複数のミサイルが撃ち込まれたことへの報復として、IDFがガザのハマス軍事拠点(ミサイル製造所、地下の拠点等)を空爆したとツイッターに書き込んだと報じています。
なおIDFはパレスチナ側からのミサイルのうち2発は短距離射程ミサイルに対抗するiron fistが捕捉したと発表した由
又パレスチナ通信もIDFが26日早朝ガザ市の南に5発のミサイルを撃ち込んだと報じている由。
これらミサイルはハマス拠点を狙ったが、そのうち1発は病院の近辺に落ちた由
(現在のことろ病院の被害も含め、死傷者等の有無は不明。
きな臭い年末年始になりそうですが・・・・【12月26日 中東の窓】
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年末にも、パレスチナにおけるイスラエルの「なし崩し的拡大」を伝える記事を、パレスチナ寄りのトルコ系メディアが報じています。
(もっとも、トルコ・エルドアン大統領もイスラエルとの関係改善を目指す動きが報じられています。トランプ中東外交の流れに乗った形)
****イスラエル、2020年にパレスチナ人の家170軒を取り壊し****
イスラエルは2020年に(一部の国や地域では「エルサレム」と呼ばれている)クドゥスで170以上の家を取り壊してパレスチナ人およそ400人が家を失う原因となった。
パレスチナ外務省から書面で出された声明では、今年(2020年)クドゥスでユダヤ人入植地の建設が加速し、危険な形で増加したと述べられた。
イスラエルがクドゥスをユダヤ化し、アラブのアイデンティティを消すことを目指している攻撃は占領国家の支持国であるアメリカのドナルド・トランプ大統領時代に増加したことが強調された声明では、「これ以外にアメリカで実施された大統領選挙でトランプ大統領の敗北が明らかになったことを受けて、イスラエル政府は占領下にある東クドゥスの様々な地区で何十もの入植地プロジェクトを公表した」と述べられた。
数百の入植地プロジェクトと植民地計画によりクドゥスに暮らすパレスチナ人を強制移住させる狙いがあると指摘された声明では、これらにより東クドゥスとパレスチナ人とのつながりを断つことが目指されていると強調された。
声明では、イスラエルがクドゥスで行っていることは違法であると強調され、国連及び国際社会にクドゥスを保護し、ユダヤ化を阻止するために責任を果たすよう要請された。【12月27日 TRT】
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****イスラエル軍兵士がラマッラーを襲撃、ヨルダン川西岸でパレスチナ人のオリーブの木を引き抜く****
イスラエル軍兵士が、占領下のヨルダン川西岸のラマッラー市を襲撃し、パレスチナ人5人を拘束した。
目撃者から得られた情報によると、イスラエル軍兵士がラマッラー市の一部地区を襲撃した。
この襲撃で、パレスチナ人5人を拘束した兵士は、パレスチナ人の車1台も押収した。
この襲撃に抗議しデモを行ったパレスチナ人数十人とイスラエル軍兵士の間で騒乱が起きた。
イスラエル軍兵士は、パレスチナ人を解散させるために催涙ガスやゴム弾、実弾を使用した。
現在までに、この事件による負傷者はいない。
一方、イスラエル軍兵士は、占領下のヨルダン川西岸にあるベツレヘム市でパレスチナ人が所有する数十本のオリーブの木を、「国家の所有物である」と主張した土地から引き抜いた。
パレスチナ解放機構(PLO)に属する「分断の壁との闘い団」ベツレヘム支局のハサン・ブライジャ局長は声明を発表し、イスラエル軍兵士はオリーブの木があった場所を国家の所有物であると主張したが、その土地はパレスチナ人のものであると強調した。
パレスチナ人はこの土地が自分のものであることを立証するために長い間イスラエルの裁判所に訴え続けていると述べたブライジャ局長は、イスラエルは地域のユダヤ人入植地を拡大するためにこの土地を押収しようとしていると語った。【12月30日 TRT】
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また、新型コロナに関する占領者イスラエルの対応についても。
イスラエルはすでに国民の2割がワクチン接種を受けるという、断トツに世界最速ペースでワクチン接種を進めていますが・・・。
****ワクチン接種強国イスラエル、パレスチナ住民は接種から排除****
世界で最も早く自国民に新型コロナウイルスのワクチンを接種しているイスラエルが、占領地パレスチナの住民にはワクチンを接種せず、批判を受けている。
3日、英紙ガーディアンなどによると、昨年12月20日から米製薬大手ファイザーとドイツのバイオ企業ビオンテックが共同開発したワクチンの接種を始めたイスラエルは、今月2日までに約109万回の接種を終えた。人口100人当たり12.6回で世界最高水準だ。イスラエルの占領地であるヨルダン川西岸地区の入植地に住む一部ユダヤ人もすでにワクチンを接種した。
しかし、西岸地区内のパレスチナ住民は接種から排除された。イスラエルの高官らは、「パレスチナ自治を合意した1993年オスロ合意により、イスラエルはパレスチナ人に対するワクチン供給の責任がない」とし、「イスラエル人の接種が終わった後、ワクチンが残ればパレスチナに提供することはできる」と明らかにし、大きな批判を受けている。
14の国際人権団体は最近、共同声明を出し、「占領者の感染症対策の義務を規定しているジュネーヴ条約により、イスラエルはパレスチナ人のためのワクチン購入と配布を支援しなければならない」と指摘した。
制限的自治権だけ持つパレスチナ自治政府が確保したワクチンは、供給時期が確実でない、ワクチン分配の国際的な枠組み「COVAX(コバックス)ファシリティー」のワクチンだけだ。
国際統計サイト「ワールドメータ」によると、3日のパレスチナの累計感染者は14万人、死者は1470人。実際の被害はこれよりもさらに深刻とみられる。西岸地区のある住民は、「仕事も食べるものもないのに、ワクチンの接種は夢見ることもできない」と吐露した。【1月5日 東亜日報】
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政治的な問題は別にして、純粋に保健衛生的観点からしても、シンガポールやタイなどが、劣悪な居住・衛生環境に置かれた外国人労働者から感染が拡大したように、イスラエルもパレスチナ人を同時に対象としないと自国民の安全も達成できません。
【15年以上行われていない議長・議会選挙の実施の議長令 実現には不透明部分も】
このように閉塞的状況で暗いニュースばかりのパレスチナですが、そうした状況の大きな原因のひとつが、パレスチナ自治政府を主導するアッバス議長・穏健現実派ファタハとガザ地区を実効支配しイスラエル敵視を続ける急進派ハマスの両勢力に分断されており、当事者能力を著しく損ねていることです。
両勢力による統一政府の話は過去に幾度もありましたが、ここまで実現していません。
統一の基盤となる選挙も行われておらず、アッバス議長の正統性にも疑問があります。
今、再び選挙の実施が発表され注目されています。
****パレスチナ、15年ぶり選挙へ議長令 実施は不透明****
パレスチナ自治政府のアッバス議長は15日、15年ぶりとなる選挙を実施するための議長令を出した。5月22日に自治評議会選、7月31日に議長選を行うと発表した。
ただ、パレスチナでは2006年以来、政治分裂によって選挙ができておらず、今回も予定通り実施できるかは不透明だ。
パレスチナでは長く政治勢力が分裂したまま選挙が実施されず、アッバス氏をはじめとする指導部への支持も低迷している。選挙によって自治政府が民主的な正統性を取り戻せば、イスラエルとの和平交渉再開への足がかりとなる可能性もある。
パレスチナで選挙が最後に実施されたのは15年前。05年の議長選で当選したアッバス氏が、故アラファト議長の後任に就任した。
しかし06年の議会選で、イスラム組織ハマスがアッバス議長率いるファタハを破ると、翌年にガザ地区を武力制圧。以来、パレスチナはファタハ主体の自治政府が統治するヨルダン川西岸と、ハマスが実効支配するガザに分裂したままだ。
両者はこれまで複数回にわたり選挙の実施に向けて協議してきたが、合意できずに続いてきた。19年にもアッバス氏が国連総会で選挙実施の意向を示したが、実現しなかった。
ここ数年、トランプ米政権がイスラエル寄りの政策を取り、アラブ諸国もイスラエルとの関係改善を進めるなど、パレスチナは苦境に立たされてきた。こうした状況に対抗するため、パレスチナでは政治分裂を解消し、政治体制を立て直す必要に迫られていた。
こうした状況を受け、選挙の実施に向けてファタハとハマスが合意し、06年以来初めて、具体的な選挙日程の決定にこぎ着けた。
しかし、選挙の公正性の確保や、イスラエルと領有権を争う東エルサレムでの選挙実施の可否など、課題は多く残っている。また、アッバス氏が続投を目指して議長選に立候補するかどうかも明らかになっていない。【1月16日 朝日】
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ハマスは議長令を「歓迎する」と声明を出していますが、“パレスチナが将来の国家の首都と位置付ける東エルサレムでの投票をイスラエルが認めない可能性があり、新型コロナウイルスの感染拡大も足かせとなりそうだ。”【1月16日 時事】との指摘も。
なお“パレスチナ政策調査研究所が昨年実施した異例の世論調査では、議長選の支持率でハマスの指導者イスマイル・ハニヤ氏がアッバス氏を上回った。”【1月16日 AFP】とのことで、選挙後の自治政府を急進派ハマスが主導する形になるとイスラエルとの関係は今以上に硬直することも予想されます。
とは言え、民意の反映は、当事者能力回復のためいは避けて通れないところです。