孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド  モディ政権、反イスラム扇動による首都圏奪回失敗 増長する政権傘下組織による暴力行為

2020-02-12 23:23:35 | 南アジア(インド)

(11日、ニューデリーで支持者に手を振るケジリワル氏(前方左)【2月12日 日経】)

【ニューデリー首都圏選挙 モディ政権の攻撃を跳ね返してケジリワル氏率いる「庶民党」大勝】
日本ではあまり馴染みのない政治家ですが、インドにアルヴィンド・ケジリワルという政治家がいます。

*****アルヴィンド・ケジリワル****
2013年12月にデリー首都圏で行われた選挙で「汚職根絶」を掲げデリー首都圏首相に就任した[1]が、2014年2月14日議会が汚職防止法案を否決したことに抗議するため、辞任した。

デリー首都圏首相在任中は「汚職撲滅ホットライン」を設置した。この「汚職撲滅ホットライン」の受付時間は午前8時から午後10時までで、公務員が賄賂を要求してきた場合の対応を助言する。
 
その後2015年2月7日にデリー首都圏で行われた選挙(2015年デリー首都圏選挙(英語版))において自らが党首を務めるアーム・アードミ党が全70議席中67議席を獲得し躍進しケジリワルは再び首都圏首相に就任する事になった。
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今からほぼ10年前、汚職撲滅を訴える大規模な抗議行動でインドを揺るがし、上記のように「庶民党」という新興政党を立ち上げて、既成政治の腐敗・汚職を批判して5年前のニューデリー首都圏選挙で地滑り的大勝利を収めた政治家です。

やや、扇動家、あるいは近年各地で流行るポピュリスト的な雰囲気があって、2015年の大勝利以降はあまりその名前を見聞きする機会は、私はありませんでした。もっと正直に言えば“忘れて”いました。

そのケジリワル氏と「庶民党」、かつての国民会議派に代わってモディ首相率いるインド人民党(BJP)が大きな勢力を誇るインド政界にあって、現在も健在のようです。

****モディ首相の印与党、首都議会選に敗北**** 
インドのデリー首都圏議会選(定数70)が11日開票され、モディ首相率いる国政与党のインド人民党(BJP)が庶民党に敗れた。地元メディアが一斉に報じた。

庶民党は首都の教育やインフラ改革を訴え、前回5年前に続いて同議会の与党の座を確保した。BJPはイスラム教徒を排除する姿勢や景気低迷から支持が低迷した。

有権者は1400万人超で8日に投票があった。投票率は62%。11日午後6時の時点で庶民党が優勢を含め63議席を獲得したのに対し、BJPは7議席にとどまる。

庶民党は元国税専門官のケジリワル氏が党首を務め、汚職撲滅を掲げて2012年に結党した。BJPは19年8月にイスラム教徒が多いカシミール地方の自治権を剥奪するなど、少数派を排除する政策に反発が出ている。【2月11日 日経】
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なお、議席数は庶民党62~63に対し、BJPは7~8議席と大差がつきましたが、得票率では庶民党が50%台に対しBJPも40%台と、議席数ほどの差はありません。

国民会議派は得票率は数%で議席数ゼロと、その凋落ぶりが顕著です。

今回の庶民党の勝利は、首都圏奪還を目指すモディ首相率いるBJPの激しい攻撃を跳ね返してのものだったようです。

野党・国民会議派が精彩を欠く中で、庶民党は、これまでの首都圏政党からモディ政権に対抗しうる全国政党に発展する可能性も指摘されています。

****首都議会選で新興政党圧勝、インド政治に風雲急(2月11日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 )****
アルビンド・ケジリワル氏は2011年、インドを揺るがした大規模な反汚職運動で誰もがその名を知る存在となった。4年後、同氏は自らの新興政党を率いてデリー首都圏(州に相当)議会選に臨み、モディ首相の強大な集票マシンを破って衝撃的な勝利を収めた。

そして今、ケジリワル氏はデリー首都圏首相として再びモディ氏の前に立ちふさがった。同首都圏議会選で、自身が8年前に立ち上げた「庶民党」がモディ氏率いる国政与党インド人民党(BJP)の猛烈な選挙運動をはねのけ、圧勝で政権を維持したのだ。

■働く人の生活を支援
庶民党は11日、定数70の同議会選で61議席を獲得した。学校や病院の再整備、電気料金の引き下げ、下位中間層の働く人々の生活支援などの取り組みで支持の波に乗った。

BJPの容赦ない選挙運動を受けても庶民党が首都で大勝利を収めたことは、小柄ながら自らの大義に人々をまとめ上げる能力を実証しているケジリワル氏が依然、インド政治をかき回しうる存在であることを物語っている。

「彼はモディにとっていらだたしい存在だ。それもデリーでだ」と、アショカ大学のジル・バーニアース教授(政治学)はケジリワル氏について話す。穏やかな物腰のケジリワル氏は国税官から汚職撲滅の活動家に転身した。

「普通の人、英雄というには遠い人のように見える。勤労の倫理やつつましさの価値を体現する存在で、それが奏功している」

その結果、BJPは首都の支配権掌握と打倒ケジリワル氏にまなじりを決しながらも大敗を喫した。BJPにとって、ケジリワル氏はモディ氏に対する野党勢力結集の核になりうる脅威だ。(中略)

(10年前のケジリワル氏の)抗議行動は当時の国民会議派政権の弱体化に大きく影響し、14年のモディ氏の政権掌握に道を開いた。(中略)

「彼はかなりの部分、扇動者として登場した。革命的な人物、政府を倒そうと文字通り街頭で抗議する人物だったが、自分の立場を行政官に変えた」と、インド政治について数冊の著書があるミラン・バイシュナフ氏は言う。

庶民党は首都圏以外への勢力拡大に全力を挙げながらも苦労している。だが、激闘となった首都圏議会選での圧勝に加え、最大野党・国民会議派が精彩を欠くネール・ガンジー家の指揮下で漂流しているため、政権獲得を争える存在として信頼度が高まるはずだ。(中略)

■幅広い訴求力
モディ氏のライバルの多くは、民族や言語、さらにはカーストに基づくアイデンティティー政治で特定の州を基盤とする政党の指導者だ。専門家は、ケジリワル氏の政治路線のほうが幅広い訴求力があるとみている。

「極めて野心的な人物で、国民会議派の退潮が続くなか、庶民党のような政党が間隙を突けると見て取っている」とバイシュナフ氏は言う。「現在、庶民党は単一州の政党だが、彼らの訴えや基盤に、それ以上進めないことを示唆するものは何もない」。「ケジリワルはとても周到に自分を位置付けている。ほぼ中道ナショナリストに近い」(中略)

アショカ大学のバーニアース氏は、BJPにとって最大の懸念はケジリワル氏が大衆を揺り動かす扇動者という自身のルーツに戻り、ほぼ10年前に国民会議派に対してしたのと同様に反BJPの世論の高まりを引き起こすことだと指摘する。

「BJPは選挙政治の政敵としてケジリワルを恐れているわけではない。だが、ケジリワルがBJP政府の合法性を否定しようとする政治運動の一部分になれば、とても大きな懸念材料になる」とバーニアース氏は言う。

「BJPは彼を、すでに国民会議派というゴリアテ(旧約聖書に登場する巨人)を殺したダビデとみなしている。彼らが危惧するのは、その彼が別のゴリアテを殺すことだ」【2月12日 日経】
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【警察も協力する政権傘下過激派組織による暴力行為】
一方の敗れた政権与党のインド人民党、経済失速をヒンズー至上主義で糊塗しようとするモディ政権の「反イスラム」が裏目に出たとの指摘も。

****モディ首相与党、首都で敗北=景気低迷、反イスラム裏目―インド****
(中略)BJPは、西部マハラシュトラ州、東部ジャルカンド州の両議会選に続き地方選3連敗となった。(中略)
 
昨年4〜5月の総選挙では、BJPがデリー首都圏の全7議席を独占した。その後、経済成長が14年のモディ首相就任前のレベルまで落ち込んだことを背景にBJPは失速。昨年10月以降は地方議会選で連敗した。
 
ヒンズー至上主義を掲げるモディ氏は昨年12月、国民の8割を占めるヒンズー教徒の支持を固め失地回復を図ろうと、「(ヒンズー教徒ら)迫害された少数派を守る」名目で周辺国からの不法移民に国籍を与える法改正を実施。

イスラム教徒を国籍付与の対象から外したことで全国的な抗議行動を招き、首都圏議会選でも逆風となった。【2月11日 時事】 
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そのモディ政権のヒンズー至上主義、反イスラムは1月9日ブログ“インド モディ首相が目指すインドとは? 危険にさらされる少数派の生きる権利”でも取り上げましたが、最近ますます暴力的な状況になっています。

****ヒンズー過激派が大学襲撃=イスラム差別抗議に反発か―インド****
インドの首都ニューデリーにある国立ネール大が襲撃され、学生と教員計30人超が負傷する事件があり、同国の主要メディアは7日、ヒンズー過激派グループが犯行を認めたと報じた。

ネール大では、ヒンズー至上主義を掲げるモディ政権による少数派イスラム教徒差別に対する抗議行動が起きており、グループはこうした動きに反発したもようだ。
 
事件は5日に発生。覆面の集団が大学構内に侵入し、鉄の棒やハンマーで学生らを殴打した。過激派「ヒンズー・ラクシャー・ダル」は声明で「ネール大は反国家活動の温床だ。容認できない」と述べ、メンバーが襲撃を行ったと主張した。【1月7日 時事】 
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このヒンズー過激派グループとはインド人民(BJP)党傘下(と言うより、BJPの母体と言うべきか)の極右団体「民族義勇団」(かつてイスラムに宥和的なガンジーを暗殺した者もこの組織メンバー、そしてモディ首相もメンバー)が主導しているもので、警察もこれに協力しており、その暴力行為が黙認されています。

上記ネール大学襲撃も警察が手引きしたとのことで、襲撃者の何人かは名前も特定されていますが、逮捕者はゼロ。(「選択」2月号より)

ネール大学は以前からリベラルの気風が強く、モディ政権はそれを嫌っていたとか。
そして、また同様の暴力行為が。こんどは女子大。

****インド女子大の学園祭、男が集団で襲撃 暴力やセクハラ繰り返す****
インドの首都ニューデリーの南側に位置するサウスデリーの女子大学で先週、学園祭の最中に男たちが大挙してキャンパスに押し入り、暴力やセクハラ行為を繰り返していたことが分かった。

この大学では4日から6日まで、毎年恒例の学園祭が開かれた。学生団体の発表によると、最終日の6日に「数千人」の男たちが門を乗り越えて敷地内に侵入。施設を破壊したり、コンサート会場で女子学生らの体を触ったりした。

男たちはコンサートの後も学生らの後をつけてやじを飛ばし、名前やインスタグラムのIDを聞き出すなどのセクハラ行為を続けた。警官や職員らは何もせずに傍観していたという。

ニューデリーの警察は、正体不明の集団による不法侵入や暴行、女性へのいやがらせ事件として捜査していると発表した。大学の学長と連絡を取り、防犯カメラの映像も調べているという。

また地元警察幹部は、警官が暴力行為を放置したとの報告についても内部調査を進めていると述べた。

被害の多くは学生自治会にオンラインで届け出があった。大学当局も調査委員会を設けて被害者や目撃者の話を聴き、結果を警察に報告すると表明している。

大学前では10日、学長の退任などを求めるデモが実施された。学生団体は学長や治安担当教員らとの話し合いを求め、一斉ストを呼び掛けている。

市内の性犯罪を監視する「デリー女性委員会」のスワティ・マリワル委員長は10日に大学を訪れ、ツイッターを通して警察が大学当局の対応を非難。男たちをただちに逮捕するべきだと訴えた。【2月11日 CNN】
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こうした暴力行為の背後にいるとされているのが、モディ首相が信頼するアミット・シャー内相。
ジャム・カシミール州の自治権はく奪、イスラムを排除した国籍法改正などを主導している人物です。

民族義勇団にも子供の頃から参加し、そこでモディ首相と知り合ったとか。

****インド政府お抱え「暴力組織」の猛威****
「宗教対立」優先で停滞する経済
(中略)
「もつと経済に集中すべきだ」
シャー内相とモディ首相のコンビで進める「ヒンドゥー至上主義・反イスラム」政策は、今のインドに必要なのだろうか。
 
インドのイスラム教徒(人口の約一三%)が少数派だとしても、総数は一億八千万入超とされ、イスラム大国インドネシア、パキスタンの全人口に次ぐ数なのだ。

前出の英国紙特派員は、「これだけの人間を、警察権力による弾圧だけで抑え込めるわけがない。社会に大きな亀裂
を生み、インドが分裂してしまう」と懸念する。
 
抗議の長期化を予感させるのが、ニューデリーのシャヒーンバグ地区で昨年から始まった「女たちのデモ」だ。

国籍法改正反対を主軸に、女性への差別、性暴力、労働組合や学生運動弾圧への抗議など、現在のインドの不正義全般に抗議する運動に広がった。「ノンストップ」と「非暴力」を掲げ、一月下旬には連続四十目を超えた。
 
運動は全国に広がり、ゴルゴタ、ムンバイなど他の大都市に伝染。全国各地から抗議運動を中継したインドのテレビ局は、「国全体がシャヒーンバグになったようです」と伝えた。

女性の運動に対しては、ヒンドゥー教徒男性が、新たな憎悪をたぎらせている。
 
インド経済は昨年、名目国内総生産(GDP)で、旧宗王国英国を抜いて、世界第五位に躍り出た。二〇二〇年代半ばには、ドイツも抜き、米中目印の四強時代がやってくる。

インド経済界や国際金融界では、「モディ政権は、宗教紛争をやっている場合か」との懸念が高まっている。
 
トルコ生まれの著名なエコノミスト、ヌリエル・ルービニ氏は一月のインド講演で、「政府は、人種や宗教問題ではなく、もっと経済に集中すべきだ。街頭で起きていることは心配だ」と苦言を呈した。

ニューデリーの街頭には、抗議デモや警官隊との衝突だけでなく、「世界最悪」とされる大気汚染、生活用水不足、極端な雇用不安など、新興国経済の諸矛盾が噴出している。モディ=シャー・コンビに、この光景が見えているかは、はなはだ疑わしい。【「選択」2月号】
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