
(スーダンの首都ハルツーム郊外で、反政府デモに向けて発射された催涙ガス=15日【1月19日 共同】)
【物価上昇・高失業率などの経済状況を契機とする混乱】
急速な人口増加が続くアフリカ、将来的には「アフリカの時代」が・・・と言われるアフリカですが、現在は未だ多くの国で混乱状態にあります。
混乱の原因は様々で、悪化する経済状況・汚職や強権支配といった政治の問題・以前からの部族対立など、いくつかの要因が絡み合ってはいますが、食料・燃料・日用品などの価格上昇や高い失業率といった経済状況の悪化を契機とし混乱が拡大するケースが多々見られます。
****ジンバブエ、強硬措置で抗議封じ込め 燃料費高騰や日用品不足で混乱*****
深刻な経済危機が続くジンバブエで、燃料費の高騰や日用品の不足をきっかけに混乱が広がっている。ムナンガグワ政権の治安当局は強硬措置で抗議行動を抑え込み、数日間で600人以上を拘束する異常事態となっている。
同国政府は12日、ガソリン価格を150%超引き上げて1リットル当たり3.31ドル(約364円)にすると発表。値上げは市民生活を直撃し、労働組合は14日からゼネストを呼びかけた。首都ハラレや第2の都市ブラワヨでは大半の商店や学校が閉鎖。デモ隊の一部が暴徒化し略奪も起きた。
これに対し、当局はインターネットを遮断し、野党支持者や人権活動家らを次々と拘束。「当局は市民に対し無差別に発砲、暴行している」(ハラレの弁護士)とされ、17日までに68人が銃撃を受けて病院に運ばれた。
同国では長期政権が続いたムガベ前大統領時代の2008年に年率2億%を超えるハイパーインフレを記録した後、自国通貨のジンバブエドルを廃止。代わりに米ドルなどを採用した。
だが17年に事実上のクーデターでムナンガグワ氏が大統領に就任した後も物資の輸入に必要な外貨の不足に歯止めがかからず、昨年12月のインフレ率は過去10年間で最も高い42%に達した。
会社員のシーラ・グンボさん(29)は「市民がゼネストを支持するのはとても生活できないから。野党関係者を逮捕しても問題は解決しない」と話した。
現地からの情報によると、日用品や食料の不足が慢性化し、市民が支払いに使う電子マネーや代用貨幣「ボンドノート」の価値も急落している。ハラレ市内のあるスーパーでは紙おむつのパック(24枚入り)に80ドルという法外な値札が付き、ガソリンスタンドでは給油まで数日待たされることもあるという。
国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」のデワ・マビンガ氏は「政府は不満に耳を傾けるどころか、平和的な抗議行動まで弾圧している」と指摘。ムナンガグワ氏は経済再生に向けて外資誘致を図るが「人権侵害が横行する国にだれが投資するのか」と述べ、旧態依然とした政府対応を批判した。【1月19日 毎日】
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****焼身自殺きっかけに抗議行動、警官隊と衝突 チュニジア****
「アラブの春」の先駆けとなった北アフリカのチュニジアで、男性の焼身自殺をきっかけに、政府に抗議する若者たちと警官隊が衝突した。
背景にあるのは約3割とされる若者の高い失業率。2011年に政権を崩壊させた大規模デモも焼身自殺を機に始まっており、二の舞いを恐れる政府は警戒を強めている。
現地報道によると西部カセリーヌで24日、ジャーナリストの男性(32)が焼身自殺した。男性は自殺する前にネット上に動画を投稿。「政府の目を失業問題に向けさせるため、私は命を絶つ。仕事がない者は立ち上がれ」と呼びかけた。
呼応した数百人とみられる若者たちは24日夜、路上でタイヤを焼いたり警官隊に投石したりした。抗議行動は25日も続いた。
チュニジアの最近の失業率は15・5%。特に若者は約30%とされる。さらに11月の物価上昇率は7・4%で、国民は政府への不満を募らせている。
青果商の青年が当局の嫌がらせに抗議して焼身自殺したのは10年12月。これを機に反政府デモが全土に広がり、翌月、23年間続いたベンアリ政権が崩壊した。今回の抗議行動はその時ほど大規模ではないが、警察当局はカセリーヌでの警備を強化。抗議の拡大を食い止める構えだ。【2018年12月27日 朝日】
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****スーダン反政府デモ、死者数は24人に パンの値上げがきっかけ****
スーダン当局は12日、先月から同国全土で続く反政府デモにより、これまでに24人が死亡したことを明らかにした。
抗議運動は昨年12月19日、政府がパンの価格を3倍に引き上げたことをきっかけに複数の州で発生。オマル・ハッサン・アハメド・バシル大統領の辞任を求める全国的な反政府デモに発展した。
検察当局が設置した、一連の抗議デモでの暴力行為に関する調査委員会のアメル・イブラヒム委員長は報道陣に対し、抗議行動が始まった昨年12月19日以降、計24人が死亡したと発表した。
だが国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチは死者数について、少なくとも40人に上るとの見解を示すなど、各人権団体は、実際の死者の総数は24人をはるかに上回り、子どもや医療スタッフも含まれていると指摘している。
抗議行動はこれまでに数百回発生したものの、機動隊や警備隊が催涙ガスを使用し鎮圧してきた。
人権団体や欧州連合は、治安部隊がデモ参加者に対し「実弾」を使用したと主張している。 【1月13日 AFP】
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国際人権団体アムネスティ・インターナショナルも、市民ら40人以上が死亡、千人超が当局に拘束されているとしています。【1月19日 共同】
【政治への信頼欠如、民族・部族対立を背景とした混乱】
上記の国々の場合でも、経済問題を契機とはしていますが、根底には強権的支配や長期政権への反感、問題を解決できない政治への不信感といった政治的な要因があります。
アフリカの場合、そうした政治的な問題に、往々にして民族・部族対立という要因が絡んで問題が深刻化します。
コンゴでは大統領選挙の結果が“一応”でましたが、基本的に政治への信頼がありませんので、予想されたものと違う、裏取引・密約があるのでは・・・という反発もあり、混乱も懸念されています。
****野党候補の当選発表 コンゴ民主大統領選、混乱の恐れ*****
アフリカ中部コンゴ民主共和国の昨年末に実施された大統領選挙で、選挙管理委員会は10日未明、野党候補のフェリックス・チセケディ氏が当選したと発表した。
独立以来初の民主的な政権交代につながるとの期待の一方、票の集計などを巡って不正が指摘され、混乱が続く恐れがある。
選管の発表によると、最大野党、民主社会進歩同盟の党首を務めるチセケディ氏が約38%の票を獲得。優勢とみられていた実業家のマルタン・ファユル氏は約34%の得票にとどまり、現職のカビラ大統領が後継指名したシャダリ元内相は約23%だった。
ロイター通信によると、選挙結果を巡っては、選挙監視や開票集計に関わったキリスト教系の団体がファユル氏の勝利を示唆していた。にもかかわらずファユル氏が敗れたため、国内では選管を取り込んだカビラ氏側とチセケディ氏側が手を組み、チセケディ氏を勝利させる見返りに両者による権力分担の密約を交わしたとの観測も出ている。
結果の発表後、ファユル氏は「投票箱の真実とはほど遠い」として、選管に正確な得票数を出すよう要求。主要な援助国のフランスも「真の結果と違っている」と批判を強めている。
カビラ氏は、暗殺された父親の後を継いで2001年に就任。16年末の任期切れ後も選挙の実施を先送りして権力の座にとどまっていた。欧州の援助国や野党からの圧力を受け、2年遅れでようやく選挙を実施した。
選挙戦では、各地で与野党の支持者や部族間の衝突が発生。混乱が続いた。【1月11日 朝日】
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上記の大統領選挙とは直接にはリンクしていないようですが、900人近い死者が出ているという民族間の衝突も報じられています。(投票は12月30日、衝突は12月16〜18日)
****コンゴ西部で民族間の衝突、約900人死亡 国連発表****
コンゴ民主共和国西部で昨年12月16〜18日、民族間の衝突が発生し、少なくとも890人が死亡した。国連人権高等弁務官事務所が16日、明らかにした
OHCHRが「信頼できる筋」からの情報として明らかにしたところによると、首都キンシャサから北へ約300キロ離れたマインドンベ州の4つの村で、バヌヌ人とバテンデ人によるものとみられる衝突が発生した。
他に少なくとも82人が負傷したと伝えられており、最終的な死傷者数はさらに増える見通し。
同国政府のランバール・メンドゥ報道官はAFPに対し、OHCHRが発表した死者数については認めず、「政府に報告された最新の推計によると、死者数は100人前後」と述べた。
今回の衝突とは無関係ながら、昨年12月30日に大統領選挙が実施された同国では、同規模の暴力抗争により、一部地域での投票の延期が要請される事態となっていた。
バヌヌ人とバテンデ人は長年にわたって対立を繰り広げており、今回の衝突もそれに根差したものとみられるが、直接のきっかけは、バヌヌの人々が昨年12月13日夜、自らの酋長をバテンデ人の土地に埋葬したことだった。
OHCHRによると、小学校2校、保健施設1軒、商業施設1軒、選挙管理委員会の事務所1軒を含む、465棟前後の建物が焼き討ちや略奪の被害を受けた。今月までに、1万6000人が4つの村から隣国のコンゴ共和国に避難したという。 【1月17日 AFP】
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民族・部族対立からの衝突はアフリカ各地で発生していますが、ナイジェリアでは“2016年以降に3600人超が死亡”とも。
****ナイジェリアでの農民と牧畜民の衝突、3年で3600人超死亡 人権団体****
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは先週、ナイジェリアで続く農民と牧畜民の衝突により、2016年以降に3600人超が死亡したと発表した。同団体は、同国政府が加害者を処罰しないため、暴力が激化していると非難している。
アムネスティが17日に発表した報告によると、衝突による死者は18年のみで2000人を突破。数千人もの人々が家を失ったという。
農民と牧畜民の間では、干ばつと人口の急増により希少になりつつある肥沃(ひよく)な土地と水利をめぐって、暴力沙汰が増加傾向にある。
アムネスティは「ナイジェリア当局がコミュニティー間の衝突に対する捜査を怠り、加害者に法の裁きを受けさせていない状況が、全国各地での農民と牧畜民の争いに拍車をかけた。この結果、死者数は過去3年で少なくとも3641人に上り、居住地を追われた住民もさらに膨らんでいる」と説明。(中略)
アムネスティはさらに、殺りくを阻止するため取り組みが不十分だとして同国の治安部隊を批判。「治安部隊はしばしば襲撃の現場近くに配置されているものの、また衝突が数日続く場合があるにもかかわらず、対応が遅い」と述べた。
襲撃が差し迫っていることを警告されていたにもかかわらず、治安部隊は殺人や略奪、家屋の焼き討ちを防ぐ措置を全く取らなかった事例もあるという。【12月23日 AFP】
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ナイジェリアでは「ボコ・ハラム」の問題もありますが、上記の農民と牧畜民の衝突、更に、キリスト教徒が多い南部とイスラム教徒が多い北部の中間地帯での宗教がらみの衝突も多発しています。
ここまで取り上げてきたのは、主だった国における状況ですが、国際的にはマイナーな多くの国々でも状況は同じでしょう。
こうした混乱をなんとかしない限り、欧州を目指すアフリカからの難民はなくなりません。
【中国に対抗するアメリカの対アフリカ戦略 ベースはやはり「アメリカ第一」】
発展の余地は大きいものの、多くの問題・課題を抱えるアフリカにおける中国の影響力拡大が近年取りざたされていますが、アメリカ・トランプ政権は対抗戦略を発表しています。
****米国の新たなアフリカ戦略、中ロへの懸念****
12月13日、トランプ政権は対アフリカ戦略を発表、それに先立ち、ボルトン安全保障担当補佐官はヘリテージ財団(保守派のシンクタンク)で、この新戦略について講演を行い、中ロのアフリカにおける行動を厳しく非難した。講演の主要点は次の通り。
新たなアフリカ戦略においては、次の3つを米国のアフリカ大陸における中核的利益とする。
第一に、米国とアフリカ諸国との貿易・商業的関係を強化し、それにより双方が利益を得る。(中略)米国は経済取引において、相互性のみを求め、服従を求めない。
第二に、過激派イスラム主義テロと暴力的紛争がもたらす脅威に対抗する。(中略)
第三に、我々は、支援に使われる米国の納税者のカネが効率的かつ効果的に使われるようにする。米国はもはや、アフリカ全土に優先順位をつけずに無差別的に援助を提供するようなことはない。非生産的で、不成功で、説明責任が果たされていない国連平和維持活動については、もはや支援しない。
新たなアフリカ戦略の下では、我々は米国の資金を、カギとなる国々、とりわけ戦略的対象に的を絞る。米国の対アフリカ支援は、米国の国益を増進し、アフリカの国々の自立への動きを助けることになろう。
競争相手たる大国、すなわち中ロは、アフリカにおける経済的・政治的影響力を急速に拡大している。
2016年から2017年における中国の対アフリカ対外投資は、64億ドルに達した。中国は、賄賂、不透明な合意、債務の戦略的利用により、アフリカを意のままにしようとしている。中国の投資ベンチャーは腐敗にまみれ、米国の開発計画と同じ環境・倫理的基準を満たしていない。(中略)
ロシアも、腐敗した経済的取引によりアフリカにおける影響力を高めている。ロシアはアフリカ中で、法の支配、透明性の高い統治にほとんど考慮を払うことなく、政治的・経済的関係を進展させている。
ロシアは国連の場での票と引き換えに武器、エネルギーを売り続け、平和と安全を損ね、アフリカの人々の利益に反している。ロシアは、自らの利益のためにアフリカから天然資源を持ち出し続けている。(中略)
要するに、中ロの略奪的行動は、アフリカの経済的成長を妨げ、アフリカの国々の財政的自立を脅かし、米国の投資の機会を阻害し、米軍の軍事的行動を妨害し、米国の安全保障上の利益に重大な脅威を与えている。(後略)【1月16日 Wedge】
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アメリカがアフリカに目を向けるのは結構なことですし、“相互性のみを求め、服従を求めない”というのも結構ですが、要するにアメリカの国益に合致する国への優先的支援を行うという話でもあり、無差別的・非生産的国連PKOは支援しないということでもあります。
この「アメリカ第一主義」からこぼれおちる国々、国際情勢に関心がないトランプ大統領が「そんな国の名前は聞いたこともない」とする国々はどうするのか?といった問題もあります。
【日本のアフリカ支援 リスクが大きいアフリカ投資には民間主導では限界も】
日本も中国に対抗する形でアフリカ支援を行っていますが、量的なところでは中国に対抗するのは難しくなっています。
質的に高いレベルの支援、真に相手国の生活改善につながる支援を・・・というところですが、現実問題としては、最初に挙げたような様々な混乱・リスクを伴うアフリカ投資は民間企業としては難しいという面があります。
****日本のアフリカ投資、停滞 300億ドル「約束」、140億ドル未達 首相表明も民間投資低調****
アフリカ支援などを話し合う7回目の「アフリカ開発会議」(TICAD7)を来年8月に控え、安倍晋三首相が2年前に約束したアフリカへの300億ドル規模(約3・4兆円)の投資実現に黄信号がともっている。
想定した民間投資が伸びず、今年9月で達成できたのは160億ドル。現地の日本企業からは見通しの甘さを指摘する声も出ている。(中略)
首相は2016年にあった前回のTICADで、16~18年の3年間に官民合わせて300億ドル規模を投資する方針を表明。「日本は必ず約束を守る国で、一つ残らず実行いたします」とまで言い切っていた。(中略)
■政情不安のリスク
南アフリカの行政首都があるプレトリアから東に約70キロ。三菱日立パワーシステムズ(MHPS)がボイラー建設を担うクシレ石炭火力発電所の建設が続いている。
(中略)だが、(事業主体の地元電力会社)エスコムの汚職疑惑などをめぐる経営難から建設は遅れ気味で、地元の建設作業員は「数年はずれこむだろう」と苦笑いする。
JETROが昨年、アフリカに進出する日系企業を対象にした調査では、約8割前後の企業がアフリカ諸国への投資リスクとして、「規制・法令の整備、運用」や「不安定な政治・社会情勢」を挙げた。
アフリカ諸国への投資をめぐっては、00年代から中国の存在感が急拡大した。米ジョンズ・ホプキンス大の研究機関によると、中国からアフリカ諸国への融資額は00~17年に約1400億ドル(約15兆7400億円)に達したという。
日本政府が促す民間投資について、アフリカ南部に駐在する日本企業の関係者は、「政府は中国への対抗心があるのかもしれないが、民間にはまだリスクが大きい」。アフリカに進出する日本の繊維業者も「中国企業は政府の支援があるから安心して投資ができる。日本企業は同じ土俵には立っていない」と語る。【12月20日 朝日】
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もはや「世界第2位の経済規模、アジア唯一の先進国」ではなくなった日本、今後労働人口は減少し、「普通の国」に移行していく日本に可能なアフリカ支援の形はどういうものか・・・難民・移民受け入れの拡大とか、発想の転換が必要かも。