孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

コロンビア  左翼ゲリラ組織との戦闘、コカ栽培の拡大 再び混乱が広がる恐れも

2019-01-18 22:54:59 | ラテンアメリカ

(コロンビアの首都ボゴタの警察学校で起きた車爆弾攻撃の現場近くを巡回する治安要員(2019年1月17日撮影)【1月18日 AFP】)

【首都で大規模テロ 再び混乱の懸念も】
南米コロンビアでは2016年、左翼ゲリラ最大組織FARCとの和平合意が成立し、治安改善が期待されていましたが、いまだ情勢は不安定です。
昨日には、首都ボゴダでFARCに次ぐ左翼過激派組織のELNとの関係も疑われるテロが起きています。

****警察学校で爆弾テロ、21人死亡 コロンビア****
南米コロンビアの首都ボゴタにある警察学校で17日午前、自動車が爆発し、AP通信によると少なくとも21人が死亡、68人がけがをした。

コロンビア政府はテロ事件と断定。ドゥケ大統領は「団結してテロに立ち向かう」と語った。2016年の左翼ゲリラとの和平合意成立で治安改善が期待されたコロンビアだが、再び混乱が広がる恐れもある。
 
政府発表などによると、17日午前9時半ごろ、男が運転する四輪駆動車が警察学校の門に接近。警察犬が異常に気づいたため警察官が近づくと、車は猛スピードで検問を突破して爆発したという。車は80キロの爆弾を積んでいたとみられるという。
 
事件現場を訪れたドゥケ大統領は「これは警察に対してだけでなく、社会全体へのテロだ。すべてのコロンビア人はテロを拒絶する」と演説した。
 
運転していた男は、ホセ・ロハス・ロドリゲス容疑者(56)で、現場で死亡が確認された。現地紙によると、容疑者はベネズエラ国境近くの出身。左翼ゲリラ・民族解放軍(ELN)の影響が強い地域だ。
 
ロドリゲス容疑者とELNの関係は不明だが、18年8月に就任したドゥケ氏は「ベネズエラがゲリラを支援している」として、ELNとの和平交渉を昨年9月に打ち切っていた。
 
コロンビアでは16年、当時のサントス大統領が中南米最大の左翼ゲリラ・コロンビア革命軍(FARC)との停戦に合意。半世紀続いた内戦に終止符を打った。だが、ドゥケ氏はこの停戦合意の見直しも主張している。
 
事件を受け、合法政党に移行したFARCは声明を発表し、「犠牲者とその家族に連帯する。すべての勢力に、平和を構築する和平合意にとどまるよう呼びかける」と訴えた。【1月18日 朝日】
*******************

【左翼ゲリラ組織との戦闘が続く】
左翼ゲリラ・民族解放軍(ELN)は年末にはクリスマス停戦を呼びかけていました。

****クリスマス停戦を宣言、コロンビアの左翼ゲリラ****
コロンビアの左翼ゲリラ組織「民族解放軍(ELN)」は17日、クリスマスと新年に合わせて、「12月23日から1月3日までの間、停戦する」と宣言した。同国政府は8月から、組織との和平協議を進めてきたが前進が見られていない。

ELNにとって、このようなクリスマスシーズンの停戦はまれではない。ELNは、「過酷な戦争の苦難にさらされてきた住民の希望」に応じた一方的な停戦措置だと述べた。また、保守派のイバン・ドゥケ大統領が就任した8月初め以降、宙に浮いている和平交渉を進めたい意向を改めて示した。

フアン・マヌエル・サントス前大統領は2016年、当時の国内最大ゲリラ「コロンビア革命軍」と和平合意を締結。半世紀に及んだ内戦は終結しFARCは政党に移行したが、ELNとは和平合意に至らなかった。

ドゥケ大統領は、ELNが捕らえている人質を全員解放し、犯罪活動をやめない限り和平交渉を開始しない厳しい姿勢を示している。政府は、ELNは現在10人の人質を取っているとみている。

今回のELNの停戦宣言に対しドゥケ大統領は、組織に対して強い態度で挑む姿勢を繰り返し強調した。

一方、約1800人の戦闘員を抱え、コロンビアで活動を続けている最後の反政府組織とみられているELNは、大統領の要求を「受け入れられない」と拒否している。 【12月18日 AFP】AFPBB News
*****************

停戦の呼びかけがどうなったのかはよく知りませんが、下記きじなど見ると、年末年始も戦闘が続いていたように思われます。

****ELNの狙撃兵がコロンビア軍兵士を射殺 ノルテ デ サンタンデール県****
共産主義ゲリラ組織国民解放軍(ELN)はクリスマスから1月3日までの停戦を宣言しています。
 
「アカリ市とサン カリスト市に影響力を持つディエゴが率いるELN東北戦線と戦闘となっています。」とコロンビア陸軍第3旅団司令官マウリシオ モレノ将軍が断言しています。(後略)【12月30日 「音の谷ラテンニュース」】
******************

年明け後も・・・

****ELNがヘリコプターの撃墜と乗員3人の誘拐を認める コロンビア ノルテ デ サンタンデール県****
共産主義ゲリラ組織国民解放軍(ELN)は先週金曜日にノルテ デ サンタンデール県で墜落した現金輸送ヘリコプターの乗員3人を拘束していることを認めています。
 
ELNは誘拐を認めると共に、人道的人質解放に応じる意思があると表明しています。(後略)【1月17日 「音の谷ラテンニュース」】
*****************

【大統領が見直しを掲げるFARCとの和平協定の今後も不透明】
左翼ゲリラ組織「民族解放軍(ELN)」との戦闘は続くにしても、和平を実現した最大組織FARCとの関係が保たれるなら、大枠としては「以前よりは平和に近づいている」とも言えますが、どうもFARCとの関係も不透明です。

そもそも、政府との和平協定に反対して戦闘を続けているFARC分派も存在しています。

****Farc分離派ゲリラの数は1749人 コロンビア****
コロンビア検察の調べによれば、現在コロンビアにはカウカ県・ナリニョ県・プトゥマヨ県・カケタ県を中心にFarc分離派組織11が存在し、1749人の戦闘員がいます。
 
コロンビア政府と2016年11月に和平合意を結び武装解除を行ったFarc主流派から離れ、武装闘争を継続しているFarc分離派はコロンビアの19県129市に存在し、麻薬栽培・取引と恐喝を主な資金源として活動しています。
 
昨年1年間で145人のFarc分離派メンバーが逮捕され、エクアドルとの国境地域で活動していたFarc分離派の最大ボス通称グアチョが治安部隊に殺害されています。【1月3日 「音の谷ラテンニュース」】
****************

一方、和平交渉をまとめてノーベル平和賞を受賞したサントス前大統領とは異なり、イバン・ドゥケ現大統領は和平合意には誤りがあったとして、合意の見直しを主張しています。

****コロンビア新大統領が就任 ドゥケ氏、左翼ゲリラとの和平合意「誤り正す」 ****
南米コロンビアで(2018年8月)7日、6月の決選投票で大統領に当選したイバン・ドゥケ氏(42)が就任した。任期は4年。

ドゥケ氏はかねて、サントス前大統領が実現した左翼ゲリラとの和平合意の見直しを主張。7日の就任演説でも「構造的な誤りを正す」と訴え、合意修正に改めて意欲を示した。一方、合意の対象でなく活動を続けているゲリラには和平を呼びかけた。

ドゥケ氏は演説で前政権による左翼ゲリラ、コロンビア革命軍(FARC)との和平合意について「(FARCが関わった内戦の)犠牲者は道徳上の補償を求めている」と述べ、内容を見直す姿勢を示した。「ゲリラ基地の武装解除や再統合のための政策を強化する」とも語り、「平和を求めている」と強調した。

サントス氏は和平合意の功績でノーベル平和賞を受けた。
FARCは武装解除されたが、ほかのゲリラ組織は残る。現状で国内最大の左翼ゲリラとされる民族解放軍(ELN)に対してドゥケ氏は「30日以内に責任ある進展を実現する」と言明し、国連やカトリック教会の協力を得て和平交渉に乗り出すと明らかにした。(後略)【2018年8月8日 日経】
*******************

こうしたドゥケ大統領の姿勢のほか、FARCメンバーに対する報復などもあって、和平交渉のFARC側の責任者でもあったマルケス氏は地下に潜り、「平和はコロンビア国家によって裏切られ、誠意をもって合意された和平は失われた。」としています。

****イバン マルケスの表明をイバン ドゥケ大統領が批判 コロンビア****
コロンビア大統領イバン ドゥケは元Farc最高幹部の1人イバン マルケスが土曜日に発表した動画について、コロンビアに新たな暴力の波をもたらそうとしていると批判しています。
 
大統領は月曜日の朝にバジェ デル カウカ県の県都カリ市で行われたインタビューで、「組織の指導者がコロンビアに新たな暴力をもたらそうとしていることは、非常に深刻である。」と語っています。
 
数か月前から行方をくらましているマルケスは12分間の動画の中で、2年前にハバナで調印された和平合意はむなしい物となったと表明し、この間多くの社会的リーダーと元Farcゲリラ85人以上が殺害されていると非難しています。
 
「平和はコロンビア国家によって裏切られ、誠意をもって合意された和平は失われた。」とアヘンシア ボリバリアナ デ プレンサを通じ公表された動画の中でマルケスは語り、武装を放棄したのは過ちであったと締めくくっています。
 
イバン マルケスの表明に対して最初に拒絶反応を示したのは、コロンビア政府和平交渉団団長であったウンベルト デ ラ カジェです。
 
「Farcが武装を放棄したのは過ちであったとイバン マルケスは言うが、これは間違いです。武装放棄が無ければ和平合意はあり得ませんでした。最後の一線でした。最初に日から分かっていました。」とデ ラ カジェはツイッターを通じ月曜日に朝に表明しています。

ドゥケ大統領は元Farcボスに対して、平和のための特別法的措置(JEP)に出頭するよう求めています。【1月16日 「音の谷ラテンニュース」】
******************

いったん武装放棄したFARCが再び武力闘争に戻るのは難しいところでしょうが、現在も戦闘を続けるFARC分派に相当数のメンバーが合流することで不穏な情勢が続くことはありそうです。

【拡大するコカ栽培 左翼ゲリラ・麻薬組織の資金源に】
一方、アフガニスタンのタリバンを資金的に支えるのがケシ栽培・アヘン製造であるなら、コロンビアの武装勢力の資金源になり、また、麻薬組織の跋扈の温床にもなって、コロンビアの治安を揺るがしているのはコカ栽培・コカイン製造です。

そのコカ栽培が拡大していることも、コロンビアの治安にとっては暗いニュースです。

****コロンビアのコカ畑面積、最大に=麻薬経済回帰に懸念―国連****
国連薬物犯罪事務所(UNODC)は19日、南米コロンビアで昨年、麻薬コカインの原料となるコカ葉の栽培面積が過去最大の17万1000ヘクタールに達したと発表した。前年比17%増となった。コロンビアはコカインの最大の生産国。
 
UNODCによると、同国のコカイン生産は推定で前年比31%増の1379トン。一方、コカイン押収量も同20%増の435トンに達したという。
 
政府の摘発強化や転作奨励などで、コロンビアのコカ栽培面積は2013年に4万8000ヘクタールまで縮小したが、その後は一貫して拡大。転作に応じた農民らが、金になるコカ葉栽培に回帰していることがうかがえる。
 
UNODCは、コカインの現地経済規模が27億ドル(約3000億円)に上る可能性があると指摘。「麻薬経済の金が(内戦後の)平和構築を邪魔したり、武装組織の強化に使われたりする可能性がある」と懸念を表明した。【9月20日 時事】 
*****************

コロンビア政府も傍観している訳でもなく、(コカイン被害の大きいアメリカからの強い要請もあって)健康被害などの問題も多い飛行機による薬剤散布に代えて、ドローンによる低空からの的を絞った薬剤散布を検討しているようです。

****コカイン撲滅にドローン、コロンビアの新たな試み****
違法な麻薬原料作物の栽培が急増、政府は無人機による除草剤散布をテスト

南米コロンビアでコカインの原料となるコカの葉の収穫量が急増するなか、同国の警察は栽培撲滅のため、コカの畑にドローン(無人機)で除草剤をまくのが有効かどうかの試験を始めている。

コロンビアから米国の消費者への薬物供給が増えることを懸念するトランプ政権の当局者からも支持を取りつけたい考えだ。(中略)

コロンビアの新大統領に就任したイバン・ドゥケ氏は、コカ畑に空中から薬剤を散布する考えを示していた。

ホワイトハウスが6月に発表したデータによると、コカ栽培面積は2012年から17年に160%拡大し、51万6000エーカー(約2100平方キロメートル)に達した。だがドゥケ氏が選んだのは飛行機ではなくドローンを使って除草剤を投下する方法だ。

コカ畑に近接する畑で育つ合法的作物への悪影響を抑えるためだ。また同氏は、これまで飛行機で散布していた除草剤グリフォセートの使用には消極的な姿勢を示している。(中略)

米国およびコロンビアの当局者は、コカ栽培が拡大したのは、コロンビア政府がここ数年、農薬散布用飛行機によるコカ畑へのグリフォセート散布を徐々に縮小し、最終的に取りやめたたからだと主張する。
 
フアン・マヌエル・サントス前大統領は、農家が健康への懸念を理由に集団訴訟を起こしたことや、世界保健機関(WHO)がグリフォセートの発がん性に言及し、憲法裁判所がその使用を禁じたことから、14機の飛行機の使用を中止していた。
 
2000年に始まった米政府の外国支援事業の1つである「プラン・コロンビア」に基づくグリフォセートの空中散布により、コロンビアのコカ畑は2001年の47万エーカーから2012年には19万3000エーカーに減少していた。
 
だが最近の急回復で、成果はすでに帳消しになった。米疾病対策センター(CDC)によると、米国では2017年にコカイン過剰摂取による死亡が1万4000件報告され、14年の5500件弱から大きく増えた。そのため米政府や薬物取り締まり当局は、薬剤の空中散布による積極的な対策を求めている。(中略)

米当局者は、ドローン使用が検討に値するとしつつも、コロンビア警察が最長で来年1月まで予定している試験が終了した後、その能力を精査する必要があるとした。

明らかな利点としては、違法作物に近い距離で飛べるため、飛行機より精度の高い活動ができることがある。また農薬散布用飛行機のパイロットが危険な目に遭うこともなくなる。コロンビアの反政府組織や麻薬密輸業者はこうした飛行機を過去に数回、撃墜している。【2018 年 8 月 22 日 WSJ】
******************

【殺人が起きなかったことがニュースとなる状況】
ゲリラ組織や麻薬組織の活動によってコロンビアの治安は極めて危険なレベルにありますが、そうした状況を物語っているのが下記の「昨日は当市では殺人が起きなかった。よい1日だった。」というニュース。

****木曜日、カリ市で1人も殺されなかった コロンビア バジェ デル カウカ県****
バジェ デル カウカ県の県都カリ市の治安担当責任者アンドレス ビジャミサールは、カリ市警の報告をもとに、木曜日にカリ市で1人も殺害されなかったと金曜日に発表しています。
 
「カリ市にとってよい日となりました。昨日カリ市で発生した殺人事件は0件です。」とビジャミサールはツイッターに書き込んでいます。
 
今年の初日1月1日にカリ市で殺害されたのは7人で、うち2人が喧嘩で2人が復讐で殺されています。
 
カリ市で昨年1年間に殺害されたのは1157人ですが、殺人率(10万人当たり1年間に殺害された人数)は47,3人で過去25年間で最少でした。(後略)【1月6日 「音の谷ラテンニュース」】
******************

殺人事件はもはやニュースではなく、殺人が起きなかったことがニュースとなる・・・・という状況です。

コロンビアの殺人事件は減少傾向にありますが、左翼ゲリラ組織との戦闘が拡大し、コカ栽培拡大によって麻薬組織が更に勢力を増すようなことになれば、そうした殺人減少の流れもふいになってしまいます。

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする