孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インドネシア領ニューギニア  開発の遅れ、差別的処遇が生む貧困と独立運動

2018-01-26 22:41:45 | 東南アジア

(【ウィキペディア】 赤い部分がインドネシア領ニューギニア ジャワ島・ジャカルタよりオーストラリアに近い位置にあります。)

ニューギニアで麻疹拡大 栄養失調による免疫機能の低下が一因
太平洋南部のニューギニア島は日本の2倍もある非常に大きな島です。
“面積は約78.6万km2で日本の国土の約2倍の大きさである。世界の島の中では、グリーンランドに次ぐ面積第2位の島であり、大陸を含めても8番目に広い陸塊である。”【ウィキペディア】

第2次世界大戦では、日本が北部を占領し、オーストラリア軍と戦闘を行った島でもあります。

現在は、東経141度線とフライ川を境に、西部をインドネシアが領有し(パプア州、西パプア州)、東部はパプアニューギニアとして独立国家を形成しています。

そのインドネシア領のパプア州からのニュース。

****子ども800人が麻疹や栄養失調、100人死亡か インドネシア・パプア州****

インドネシア最東部パプア州アガツの病院で、床にじかに横たわって点滴を受ける少女(2018年1月25日撮影)。

インドネシア最東部パプア州で麻疹と栄養失調が広まっている問題で、同国の当局は25日、子どもの患者数が約800人に達しており、さらに最大100人が死亡した恐れがあると明らかにした。死者の大半は幼い子どもとされる。
 
隣国パプアニューギニアと領土を二分しているニューギニア島の西側に位置するパプア州では、貧困に対する不満などを背景に分離独立派による小規模な反乱行為も起きている。
 
今回の健康危機は今月半ばに初めて公になったもので、医療などの基本的なサービスが深刻に不足している状況を浮き彫りにしている。

インドネシアのジョコ・ウィドド大統領は事態を受け、同州の遠隔地にある村々への物資供給を軍隊と医療当局に指示した。
 
AFP記者によると、同州アガツでは25日、設備が整っていない病院が患者であふれかえり、医師らは対応に苦慮している。悪臭の漂う病院の廊下では、やせ細った子どもらが泣きながら歩きまわる姿や、ぼろぼろの担架の上に横たわる患者が見られた。
 
地元当局者らは、麻疹患者の急増に衝撃を受けている。院長はAFPの取材に対し「われわれは(麻疹拡大についての)情報を受けるのが遅すぎたため、多くの死者が出ることになった」と説明した。感染拡大の一因には、食糧不足による免疫機能の低下があるとされている。
 
アガツは、麻疹がまん延している湿原地帯のアスマットで唯一の病院がある場所で、子どもに治療を受けさせるために数時間かけて訪れる親も多い。

同地域の多くの建物と同じく杭上に建てられている同病院では病床数が80床とスペースが不足しているため、数十人の患者が近くの教会で治療を受けている。【1月26日 AFP】
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開発が遅れるニューギニア
ジャワ島を中心に、赤道にまたがる1万3,466もの大小の島からなる「島嶼国」インドネシアでは、なかなか開発がすべての地域に及んでいないのが実情で、特に、ニューギニア・パプア州は電気普及率が5割に満たない状況にあります。

****インドネシア電気普及率「19年に100%****
 ■政権発足から1割拡大、93%超に
インドネシアは、電気普及率の上昇が続いている。同国のエネルギー・鉱物資源省によると、2017年11月末時点の地域ベースの普及率は93.1%で、6月末時点の92.8%から上昇した。

ジョコ・ウィドド大統領が就任したのは14年10月で、同年末は84.0%だったことから、現政権下で約1割拡大した計算だ。国営アンタラ通信などが報じた。
 
11月末の普及率を地域別にみると、西ジャワ州が99.9%、バンテン州が99.0%、ジャカルタ特別州が98.8%と東部が全般的に高かった。一方、西部に位置する東ヌサトゥンガラ州が59.0%、パプア州が48.9%となっており、東西で格差が生じている。

同省幹部は「島嶼(とうしょ)国というインドネシアの地理特性が普及率のばらつきにつながっている」と分析し、今後は西部の電力インフラ整備に注力するとの方針を示した。すべての国民が電気の恩恵を享受できるよう全力で取り組むとしたうえで、19年には100%を達成できると自信をみせた。(中略)

ただし、今後は電気の普及拡大が難しい局面を迎えるとの意見もある。国営電力会社PLNによると、インドネシア全国で2500の集落に電力網が行き届かず、1万以上の集落は電力供給があっても使用できるのが1日8時間以内にとどまるという。
 
PLN幹部は、電気が普及していない集落は西部だけでなく、西ジャワ州やバンテン州といった普及率の高い東部にも存在すると指摘する。同幹部によると、電気が届いていないのは主に遠隔地にある人口20~50の小規模集落で、地理的に送電線の敷設が難しい。
 
アジア開発銀行(ADB)は、16年に発表したインドネシア電力事情に関する報告書で、電気の普及は人口ベースで最後の10~15%がもっとも困難だと指摘した。中国やタイの例を挙げて、インドネシアが普及率85~90%から100%を達成するまで、20年程度を要しても不思議ではないとしている。【2017年12月26日 SankeiBiz】
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多くの島々からなること、赤道も近いジャングル地帯であることなど、電化・開発が遅れている状況は理解できますが、ニューギニア島は“離れ小島”ではありません。パプア・西パプア両州には400万人以上(3分の2がパプア人)が生活しています。

素人考えでは、送電線のような大規模インフラが難しい地域なら、ローカルな太陽光発電などもあるのでは・・・とも思うのですが。

電気の普及も5割に満たず、冒頭記事にあるように貧困からの栄養失調が蔓延するという現状を見ると、何らかの政治的判断でニューギニアは優先度が劣後しているのでは、もっとはっきり言えば、インドネシア国内にあって差別的処遇を受けているのでは・・・とも考えてしまいます。

“インドネシアのジョコ・ウィドド大統領は、国内で最も開発が遅れている地域の一つであるパプア地方の生活水準を改善させると約束しており、2年前に大統領に就任して以降、たびたび同州を訪問している。”【2016年12月1日 AFP】とのことではありますが・・・。

中心部ジャワ島では日本・中国が受注を争った高速鉄道が中国によって建設されようとしていますが、栄養失調の子供たちに感染症が拡大するような状況の改善のほうが先でしょう。

【「自由パプア運動(OPM)」による独立運動
当然のように、現地には反政府運動・独立運動が起きています。

****西パプア」独立を 解放運動派 国連に請願書提出**** 
インドネシア東端ニューギニア島の西半分を占める「西パプア」の分離・独立を訴える請願書と180万人分の署名がこのほど、国連事務局に提出された。英ガーディアン紙など複数のメディアが報じた。 

半世紀近くくすぶり続ける西パプア独立問題について、アブドゥルラフマン・モハンマド・ファヒル外務副大臣は28日、「動向は注視するが、西パプア問題は(住民投票の行われた)1969年に解決済みだ。請願書は注目を集めるための手段にすぎない」とのコメントを出した。
 
一方、オーストラリア北部からインドネシアにまたがるメラネシア地域の島しょ国であるソロモン諸島のマナセ・ソガバレ首相は「(請願書提出は)より良い将来への願いを表明した」と述べ、独立を目指す国連直訴を歓迎した。
 
請願書を提出したのは、西パプア、パプア両州をまとめた「西パプア」の解放運動派。インドネシア治安部隊による人権侵害を訴えるとともに、自由意思に基づいた、西パプア独立を問う住民投票実施を要求している。
 
同解放運動派のベニー・ウェンダ・スポークスマンは「(インドネシア領入りが正式に決まった)69年の住民投票では治安部隊による住民への脅迫があった。(今回の)請願書の作成過程でも57人が治安部隊に逮捕され、54人が虐待された」と述べ、独立派住民に対する弾圧が続いていることを訴えた。
 
請願書に同意・署名したとされる住民の人数「180万人」は解放運動派の発表に基づくが、正確な数字かは定かでない。中央統計局(BPS)によると、2016年現在のパプア、西パプア両州の人口はそれぞれ約320万、89万人。10年実施の国勢調査によると、両州内に住むパプア人の比率は約66%。
 
パプア、西パプア両州はかつて「イリアンジャヤ」と呼ばれ、ニューギニア島の西半分を占めていた。1898年からオランダの植民地となったが、1961年にスカルノ政権が西イリアン解放闘争を起こしオランダと武力衝突。

62年に米国の仲介で「ニューヨーク協定」に調印し、63年にインドネシア移管。69年の住民投票でインドネシア領となったが、自由パプア運動(OPM)を名乗る独立派が「西パプア共和国」建国を掲げて分離・独立運動を展開した。
 
90年代には、同島の豊富な地下資源の権益をめぐって独立運動が再燃。この結果、広範な自治権を認めるパプア特別自治法などが2001年に制定されたが、インドネシア統治に対する不満、不信感は根強く、独立を求める火種は残ったままだ。【2017年9月29日 じゃかるた新聞】
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20世紀初頭までは“使い道のない島”でしたが、現在は“インドネシア政府は資源が豊富なパプア地方を確固として掌握し続けるため、兵士や警察官を多数配置している。”【2016年12月1日 AFP】とのこと。

住民1300人を“人質”とする村落占拠事件
反政府運動・独立運動のデモ、治安当局との衝突といったニュースはときおり目にしますが、昨年11月には、武装組織が住民1300人を人質にとって村落を占拠するという事件が起き、改めて世界の注目を集めています。

****武装組織が人質1300人、インドネシア・パプア州で謎の村落占拠事件****
<ニューギニア島のパプア州の村で警官らに対する銃撃事件が相次いだことから発覚した大量人質事件。地元では、イスラム系テロ組織説から独立運動説、米資本の鉱山会社での労働争議説まで諸説乱れ飛ぶが、未だ決め手がない>

インドネシア最東端に位置するニューギニア島にあるパプア州で正体不明の武装集団が複数の村を占拠し、住民など1300人を人質にとる事件が起きている。

インフラもほとんど整備されていない遠隔の地だけに、ニュースは地元の州警察や首都ジャカルタの国家警察の発表と数少ない地元メディアの情報に限られている。事件の詳細は不明で現地の様子を伝える映像もほとんどなく、一体何が起きているのか、インドネシア国内でも謎の事件として注目を集めている。

ことの発端は10月21日の現地時間午後12時半ごろ、同州の山間部に位置するミミカ県トゥンバガプラ地方のウティキニ川沿いにある小さな村を巡回警備中の州警察機動部隊車両が突然銃撃を受けて、警察官2人が負傷したことだ。同日朝には離れた場所で鉱山開発関連会社の車が銃撃され、運転手が負傷する事件も起きていた。

この2件の銃撃事件の捜査していた警察部隊が同日午後に再び発砲を受け、警察官1人が死亡、6人が負傷する事態になった。

このため警察は警察官を増員、完全武装で同地域での犯人捜査に乗り出したところ、11月6日ごろから周辺のバンティ村とキムベリー村が正体不明の武装組織に占拠され、住民など1300人が人質に捕らわれていることがわかった。

イスラム系テロ組織の犯行か
「武装した集団が住民を人質に取って村を占拠」という事件の第一報は、インドネシア政府、治安当局をあわてさせた。

フィリピンのミンダナオ島マラウィ市を5月に占拠し、戒厳令下フィリピン国軍と本格的戦闘を10月まで続け、多くの犠牲者がでたイスラム系武装組織と中東テロ組織「イスラム国(IS)」シンパによる事件を想起したからだ。

マラウィ市での状況が武装組織に不利になるにつれ海路インドネシアに逃走したメンバーの存在も伝えられ、インドネシアも国境警備を強化していた経緯がある。

しかし今回はパプア州の南部の山間部でとても外部から入り込める地域でないことや目撃証言による外見や言葉からパプア人の集団であること、武装しているとはいえ、拳銃や小銃レベルで一部は弓や槍を所持していることなどから、イスラム教系テロ組織の可能性は否定された。

警察は「犯罪者集団」との見方
地元パプア州警察、インドネシア国家警察によると、村々を占拠している武装集団は当初20〜25人とみられていたが、その後約100人と判明、ほぼ全員が武装し、住民と近くの金鉱山で働く州外からの労働者1300人が人質になり村外への移動を阻止されているという。

ボイ・ラフリ州警本部長は11月11日に武装集団のメンバーとして21人を指名手配したと発表。このうちリーダー格はサビヌス・ウェーカーという人物でこれまでに「殺人、銃の不法所持・不法発砲」容疑がある人物で、集団には類似の犯罪者が多く含まれている、としている。

パプア州警本部長だったこともある国家警察のティト・カルナフィアン本部長も「今回事件のあった一帯で金鉱山を無許可で採掘する労働者の中に武装グループが存在していることを当時確認していた」とわざわざコメントした。

これは今回の事件がテロや独立運動とは無関係であることを強調する意図があるものとみられているが、一部マスコミからは「そんなグループを確認していたのならなぜその時に摘発しなかったのか」と逆に批判を受けている。

独立運動の一派、労働争議との見方も
占拠された村には武装集団の求めに応じる形でこれまでに外部から食料などコンテナ20個分が届けられており、人質からは「子供用のミルクを届けてほしい」などの要望がでているという。

パプア州は西パプア州とともにニューギニア島の西半分にあり、旧オランダ領から国連統治を経て1969年に帰属を問う住民投票が実施された。しかし自国領と主張するインドネシア軍の投票操作とその後の軍の侵攻でインドネシアへの併合が実質上決まったことを背景に独立を求める武装闘争が細々とではあるが現在も続いている。

独立運動の主体は「自由パプア運動(OPM)」という武装組織で、インドネシア警察、軍への散発的襲撃やパプア州南部で大規模な金、銅鉱山開発、採掘を続ける米資本「フリーポート社」関係者への襲撃事件などを起こしている。

こうした経緯から今回の人質事件も警察官襲撃が前段になっていることからOPMの一派の関与を指摘する報道も出ている。

もっともOPMは当局が封じ込めほぼ活動停止状態と主張してきたインドネシア治安当局にしてみれば、「OPMの活動は認めたくないところ」。それがために「犯罪者集団の犯行説を強調しているのではないか」(インドネシア人記者)との見方も出ている。

さらにフリーポート社の現地子会社でもある「フリーポートインドネシア」や関連する下請けの鉱山開発各社では最低賃金や労働環境を巡る労働争議も頻発している。争議の大半は州外からの労働者とパプア人労働者の待遇格差とされ、今回も人質の中に州外からの鉱山労働者が300人含まれていることから、労働問題が関連している可能性もあるという。(後略)【2017年11月15日 大塚智彦氏 Newsweek】
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この事件については、続報で自由パプア運動(OPM)幹部が「パプア独立のため戦闘」と認めているとも報じられています。

****パプア独立のため戦闘」 CNN報道 武装組織、「人質」は否定**** 
米系鉱山フリーポート・インドネシアの拠点があるパプア州の村を武装集団が占拠した事件で、CNNインドネシアは、関与を指摘されている分離独立派武装組織・自由パプア運動(OPM)幹部の電話インタビューに成功し、その内容を15日に詳報した。

それによると、幹部は「(西パプアの)主権を取り戻すため、軍・警察と戦っている」と話し、村付近に戦闘員を展開していることを認めた。同幹部は、OPM作戦司令官のヘンドリック・ワンマン氏。

交戦地域に近い同州ミミカ県トゥンバガプラ付近で、村民約1300人が人質になっているとの当局発表、報道については、「村民は弾に当たるのを恐れて出歩かないだけ。われわれは人質を取ったことはなく、間違った情報だ」と否定した。その上で「耕作や家畜の飼育、村から村への移動、売り買いなど普段通り自由にできる」と付け加えた。(後略)【2017年11月16日 じゃかるた新聞】
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弾圧より、開発による生活水準向上が治安安定の方策
その後、“国家警察は占拠12日目の17日、「人質」となっていた住民の一部344人を救出したと発表した。救出時、武装集団が発砲したが、けが人の報告はないという。人質になった住民は総勢1300人とされ、残る約千人の安否は分かっていない。”【2017年11月18日 じゃかるた新聞】という報道がありましたが、それ以降どうなったのかは知りません。

“残る約千人の安否は分かっていない”のに続報がない(少なくとも日本語メディアでは)という無関心さが、ニューギニアの置かれている状況を示しているとも言えます。

インドネシア国軍の分離・独立運動への厳しい対応・弾圧は、東ティモールでも実証済みです。

しかしながら、そうした厳しい弾圧よりは、冒頭記事にあるような麻疹と栄養失調で子供たちが死んでいく現状を1日も早く改善し、差別的処遇をなくしていくことが、治安を安定させる最も有効な方策でしょう。
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