(【1月2日 WSJ】非常に印象的な写真ではありますが・・・・)
【政権側が事態収束に向け本格的な武力弾圧に踏み切るかが焦点に】
イランにおいて、核合意後も物価・失業などの経済困難が改善しない状況に対する不満が噴き出す形で始まった抗議行動が、イスラム支配の体制批判に先鋭化している状況については、12月30日ブログ“イラン 異例の抗議デモ 自身がイランの困難の元凶でありながらイランを批判するトランプ大統領”において取り上げました。
混乱は犠牲者増加を伴って拡大しており、収束にはいたっていません。
****<イラン>デモ死者21人に 全土に拡大、首都450人拘束****
イランで昨年12月28日に始まり全土に広がった反政府デモで、当局側との衝突による死者は今月2日までの6日間で少なくとも21人に達した。
警察官にも死傷者が発生。デモ隊などの拘束者は首都テヘランだけでも450人に上る。AFP通信などがイラン国営メディアの情報として報じた。
騒乱は収束の気配が見えず、イスラム体制打倒の主張や治安施設の襲撃も発生。体制護持が任務の「革命防衛隊」などが強硬な鎮圧に転じれば、反発で抗議活動が激化する懸念もある。
イランからの報道によると、死者は西部ツイセルカンと中部ガデリジャンで各6人、中部シャヒンシャハルで3人、西部ドルードで2人、南部イゼーで1人。中部ナジャファバードでは警官1人がデモ参加者に猟銃で撃たれ死亡し、3人が負傷した。今回の騒乱で治安当局者の死亡は初めて。
デモ隊の一部は暴徒化している。警察署や行政施設に投石を繰り返し、警察車両にも放火。治安部隊は催涙ガスや放水で鎮圧を図っている。また、政府はソーシャル・ネットワーキング・サービスを制限し、情報統制を強化している。
デモは最高指導者ハメネイ師の退任を求めるなど、反体制的色合いを強めている。ロウハニ大統領は31日「国民は政府を批判しデモをする権利があるが、暴力や公共施設の破壊は許容できない」と自制を呼びかけたが、効果は出ていない。
イランは1979年の革命で親米派の国王を追放。現在は政教一致の厳格な体制下、宗教的な権威の最高指導者が政治の広範な権限を握る。今回のデモでは王政時代を懐かしみ、一部で「シャー(国王)復活を」との声も上がったという。
イランでは2009年、大統領選で敗れた改革派候補の支持者らによる反政府デモを治安当局が鎮圧し、数十人が死亡。今回はそれ以降で最大規模の衝突となった。若年層の失業率が3割近くと高く不満が高まっていた。デモ隊は今回、シリアやイエメンの内戦など中東各地の紛争への政府の介入も非難し、「国内を見ろ」とも訴えている。【1月2日 毎日】
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政権は、革命防衛隊や民兵などによる武力鎮圧にはまだ踏み込んでいません。
****見えぬ打開策…武力弾圧踏み切るか****
イランで物価高への不満を機に起きた反政府デモは、大統領選の不正疑惑に端を発した2009年のデモ以降では最大規模となった。このときはデモの主導者がおり民衆の要求も明確だったが、今回は国のかじを取る中枢へと不満が拡大した上、各地でデモが同時多発的に進行している形だ。
打開策が見えない中、政権側が事態収束に向け本格的な武力弾圧に踏み切るかが焦点になってきた。(後略)【1月3日 産経】
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今回の抗議行動の様相・性格等については、以下のようにも。
****イランの反政府デモ、知っておくべき5つのこと****
先月28日にイランの各地で始まった反政府デモ。市民は40年近く続いてきた宗教指導者による支配に反発を強めている。
2009年大統領選の結果に対する暴動以来で最も広範かつ規模が大きい今回のデモで、参加者は政権交代を求めている。イランにはイラク、レバノン、シリア、イエメンといった中東諸国に対する大きな影響力があるので、政権交代となれば広範に大きな波紋が広がる可能性がある。
イラン反政府デモに関して知っておくべき5つのポイントをまとめた。
1. デモはどのようにして始まったのか
昨年9月以来、経済的不満が焦点だった小規模かつ散発的なデモはイランの複数の都市で広がってきた。人々は各地で汚職疑惑、宗教法人への予算配分、退職基金の破綻などに抗議してきた。
12月28日、イラン北東部の都市マシュハドでは、インフレやロウハニ大統領が経済的繁栄をもたらすという約束を破ったことへの怒りを表現するために人々がデモ行進した。
イラン国民はロウハニ政権と欧米など6カ国との核合意によってイランの孤立が終わり、外国からの投資、雇用創出、購買力の増加などがもたらされると期待していた。核合意を受けてイラン経済は成長したものの、政府のデータでは失業率が約12.5%、インフレ率が10%近くとなっている。
そうしたデモのニュースはテレグラム、ワッツアップといったイランで人気のソーシャルメディアで拡散された。すると数時間のうちにケルマーンシャー、イスファハン、テヘランなど、他の都市でも抗議行動が起きた。
2. デモ隊は何を要求しているのか
デモ隊は従来からある改革への要求を越え、政権交代と最高指導者ハメネイ師の退任を要求している。
テヘランではデモ隊がハメネイ師の壁画に向かって「死んでしまえ」と叫ぶ場面もあった。地球上での神の代理人と考えられているハメネイ師をあからさまに批判することは死刑に相当する罪である。
3. デモ隊はどういったスローガンを唱えているのか
イラン国民はペルシャ語で詩の一節であるかのように韻を踏んだ政治スローガンを作ることに長けている。
デモ隊が唱えているスローガンの一部は以下の通り。
「われわれはイスラム共和国を求めていない、そんなものは求めていない」
「彼らはイスラム教を人々を狂気に追いやる言い訳に使っている」
「独立、自由、イラン共和国」
「改革主義者よ、原理主義者よ、ゲームは終わった」
「われわれは皆イラン人だ、アラビア人ではない」
「われわれは貧しくなっているのに、イスラム教聖職者は高級車に乗っている」
4. 政権はどう反応したか
機動隊や私服の民兵がイラン各地の街に繰り出したが、取り締まりは以前の抗議デモよりもかなり緩くなっている。
一部の政府高官は経済的不満について、政府が対処する必要がある正当なものだと認めるなど、従来とは異なる方針も取っている。
それと同時に、抗議活動を乗っ取って政情不安を扇動しているのは外国メディアや亡命中の反体制派リーダーなど外的な力だとも主張した。
5. 抗議デモはどこへ向かうのか、米政権はどう反応するのか
イランでの抗議デモは、リーダーシップや明確な組織がないことから自然消滅する傾向がある。抗議デモが長引けば、政権は大量逮捕や軍による封鎖などでその取り締まりを強化するかもしれない。
ドナルド・トランプ米大統領はツイッターへの投稿で、イランで起きていることには世界が注視していると述べ、デモ隊への支持を表明した。ポール・ライアン下院議長(共和、ウィスコンシン州)やトム・コットン上院議員(共和、アーカンソー州)らもイラン国民との連帯を表明した。
イラン国内のデモ隊にとって、外国からの支持はありがた迷惑になることも少なくない。というのも、政権はそれを外国からの干渉と見なし、国内反対派からの要求を弱体化させるのに利用するからだ。【1月2日 WSJ】
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【体制批判を強める抗議行動 ロウハニ大統領の立場は?】
TVニュース映像では、最高指導者ハメネイ師の肖像を群衆が踏みつけにするなど、行動は過激化してもいるようです。
体制側が管理しづらいソーシャルメディアで拡散した今回の抗議行動ですが、“リーダーシップや明確な組織がないことから自然消滅する”という限界もあります。
イスラム支配体制の閉塞感に不満を感じている国民がすくなからず存在するのは事実です。
昨年7月にイランを旅行した際にも、そのあたりは感じました。
ある者は「イランはイスラムではない」とも。その言わんとすることは、イランのアイデンティティーはペルシャ以来の歴史・文化にこそあるのであって、イスラムは数百年前にイランに入ってきたものでイランの本質に根差すものではない・・・ということでしょう。
実際、一介の旅行者の目からしても、イスラム支配体制という割には、イスラムがそれほど目立たないような印象も受けました。
ただ、そうしたイスラム支配体制に距離感を感じる一般国民が動かない限りは、体制の変革はなかなか実現しないようにも思えます。
体制批判があからさまに叫ばれる状況で、穏健派ロウハニ大統領の立場は微妙です。
ロウハニ大統領は、前回ブログでも取り上げたように、抗議行動が起きる直前に、「権利は政府にではなく、国民にある」と強調した上で、国民に対し、自らの権利を主張するよう呼びかけていました。
****イラン大統領、デモに自制促す=批判と暴力「違う」****
イランのロウハニ大統領は12月31日、国内各地に波及している反政府デモに関連し「国民は憲法に則して自由に政府を批判したり、抗議したりできる。だが、暴力や公共物の破壊行為は批判とは異なる」と述べ、デモ隊に自制を促した。閣議での発言を国営メディアが伝えた。
28日に始まった反政府デモに大統領が反応を示したのは初めて。デモ隊は、当初の経済苦境に対する不満への抗議にとどまらず、最高指導者ハメネイ師の退任を求めるなど「イラン革命体制」への批判も強めてきた。抗議行動が収拾に向かうかは不透明だ。
首都テヘランでは31日も200人規模のデモが行われた。大量拘束の情報も伝えられる。
また、ロウハニ大統領は閣議で、トランプ米大統領が「抑圧的な体制が永遠に続くことはあり得ない」とツイートしたことに反論。「イランという国家を敵視する男がイラン国民に共感する権利はない」と強く反発した。【1月1日 時事】
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混乱が収束したのちに、体制批判ともなった混乱の責任を問われる事態も想定されます。
ただ、今回の抗議行動の発端は、保守強硬派側の“仕掛け”によるものとの指摘もあります。
“今回のデモの広がりは、反ロウハニ強硬派が意図したわけではなく、強硬派が開いた集会がたちまち制御不能となり各地に飛び火したもののようだ。”【12月30日 BBC】
“発火点は先月28日、北東部マシャドで起きた反政府デモだった。イランで信仰されるイスラム教シーア派の聖廟があるマシャドには、昨年の大統領選で穏健派のロウハニ現大統領の対抗馬として保守強硬派に支持されたライシ前検事総長が、管理を任された宗教関連財団もある。
このため、欧米メディアでは当初、ライシ師と関係が深く国内に大きな影響力を持つ革命防衛隊が、ロウハニ師の求心力を弱体化させるため、取り締まりの手を緩めたとの観測が出た。”【1月3日 産経】
そうした背景がイラン政治において、どのように扱われるのか?
そもそも、核合意後も物価・失業が改善しないことの批判をロウハニ大統領は受けていますが、そうした経済状況の背景には、前回ブログでも触れたように、アメリカ・トランプ政権のイラン敵視政策があります。
それに加え、保守強硬派を支える革命防衛隊や宗教関連団体が経済を牛耳る構造も大きな原因としてきされています。
“ロイター通信に識者が語ったところでは、革命防衛隊や宗教関連団体は国内資産の6割に関与しているとされ、経済改革の大きな障害になっており、ロウハニ師が打てる手段はほとんどないとしている。同師への民衆の期待がしぼみ、反米を掲げる保守強硬派が大統領の“失政”を批判し続ければ、経済改革の実現がますます遠のくという悪循環に陥る事態も予想される。”【1月3日 産経】
【アメリカなど“イランの「敵」”によって扇動されていると責任転嫁する体制側】
一方、体制側は、“暴動”の背景にはアメリカなど外国勢力の画策があるとしています。
****イラン最高指導者、デモは「敵」のせいと非難 米は国連会合要請へ****
イランの最高指導者アリ・ハメネイ師は2日、同国各地でこれまでに21人が死亡した反政府デモの責任は「敵たち」にあると非難した。一方、デモへの支持を表明している米国はイランに対する圧力をさらに強め、国連(UN)での緊急会合開催を要請する方針を示した。
ハメネイ師は国営テレビで放送された演説で、先月28日に始まった抗議行動について沈黙を破り、「敵たちが団結し、あらゆる手段、金、兵器、政策、保安機関を用いてイランに問題を生み出そうとしている」「敵は常に、イランに侵入し攻撃する機会と隙を狙っている」と非難した。
今回の反政府デモや、同デモを支持する米国の姿勢については、2009年に行われた大規模な抗議運動を支持した改革派からも批判の声が上がっている。
米国のニッキー・ヘイリー国連大使は、イラン反政府デモの問題について国連安全保障理事会と国連人権理事会での緊急会合の開催を求めていくと言明。さらに、抗議行動がイランの「敵」によって扇動されたというハメネイ師の主張について、「完全なたわ言」だとはね付けた。【1月3日 AFP】
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イランメディアは以下のようにも。
****イランが、同国での最近のデモに関するアメリカの内政干渉的な発言を非難****
イラン国連代表部が声明を発表し、イラン国内で最近発生した暴動や騒乱を支持するという、アメリカの政府関係者の内政干渉的な発言を強く非難しました。
イルナー通信によりますと、イラン国連代表部は2日火曜、この声明において、イラン国内で最近発生した暴力行為や放火などの行為をアメリカが支持したことは、アメリカとこれに同盟する地域諸国の政策の失敗を隠蔽するための工作であるとしています。
また、「アメリカによるこうした発言は、地域におけるアメリカとその地域同盟国の地域での失敗を隠蔽するためのものであり、このような方法によって勇敢なイラン国民に復讐しようとしている」としました。
さらに、「過去40年間においてイランの治安と安定は国民の力によるもので、イラン国民はメディアに惑わされることなく自らの業績を維持し、その本来の権利や歴史に残る業績が暴力によって破壊されることを許さない」としています。
この声明はまた、アメリカのヘイリー国連大使の脅迫的な発言が、イランにおける暴力主義や騒乱を支持するものであるとしています。(後略)【1月3日 Pars Today】
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トランプ大統領は抗議行動を支持するツイートを行っていますが、“イラン国内のデモ隊にとって、外国からの支持はありがた迷惑になることも少なくない。というのも、政権はそれを外国からの干渉と見なし、国内反対派からの要求を弱体化させるのに利用するからだ。”【前出 1月2日 WSJ】とも。
****「抑圧政権は永続しない」 イランのデモでトランプ大統領がツイート****
イランで広がる反政府デモについて、トランプ米大統領は30~31日、ツイッターに「イランの善良な国民が変革を欲していることを世界中が理解している」「抑圧的な政権は永遠には続かない」などと投稿した。
トランプ氏は「イランで大規模な抗議活動が起きている。国民はいかに自分たちの金と富が(政権に)盗まれテロに浪費されているか、ようやく分かった。国民はもう現状を甘受しないつもりのようだ」ともツイート。イラン政府に言論の自由など国民の権利を尊重するよう訴えた。(共同)【1月1日 産経】
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イランにおける抑圧的なイスラム支配体制を変えるには、アメリカ・トランプ政権がイラン敵視政策をやめて、イランの経済状況改善を支援し、国内で保守強硬派と対峙する穏健派・改革派の影響力を強めていく・・・というのが現実的方策だと考えますが、現状は逆方向にあるようにも思えます。