(昨年9月の米大使館とNATO軍司令部へのハッカニ・ネットワークによるテロ攻撃を受けて、ハッカニ・ネットワークの背後にいるとされるパキスタン批判を強めるアメリカに対し、11年10月23日、カルザイ・アフガニスタン大統領は、もしアメリカとパキスタンが戦うことになるなら、アフガニスタンは兄弟国パキスタンにつくと、パキスタンを擁護する姿勢を示しました。
ただ、この3国の関係はなかなか微妙です。アメリカはカルザイ政権に愛想をつかしていますし、カルザイ大統領は国内反米感情に乗っています。一方、パキスタンはインドに近いカルザイ政権を牽制して、タリバンやハッカニ・ネットワークと繋がっています。当然、カルザイ大統領の内心は、表向きのパキスタン擁護発言とは別物でしょう。また、アメリカはパキスタン批判を強めていますが、パキスタンの協力を必要としています。まさに、三者三様の思惑です。“flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/6273746715/)
【「ハッカニ・ネットワーク」の背後にパキスタン アメリカは態度を硬化】
アフガニスタンにおけるテロ活動に関して、「ハッカニ・ネットワーク」の関与をよく耳にします。
「ハッカニ・ネットワーク」とは、“1980年代、ソ連軍のアフガン侵攻に抵抗するムジャヒディン(イスラム聖戦士)として頭角を現したジャラルディン・ハッカニ司令官を首領とする武装集団。推定構成員数は1万~2万人。タリバンの中でも強硬派とされ、アフガン側の米軍などに越境攻撃を繰り返しているとみられる。最高指導者オマル師率いる指導部からは一定程度独立し、自由裁量でテロ活動を展開しているとも指摘される”【4月17日 読売】という組織で、パキスタン北西部に拠点を置いて活動しています。
****アフガン襲う「ハッカニ派」=背後にパキスタン情報機関か****
2014年末までに米軍主導の駐留国際部隊から地元当局へ治安権限が完全移譲される予定のアフガニスタンで、武装勢力によるテロが激しさを増している。中でもパキスタン北西部に拠点を置くアフガン出身の武装勢力ハッカニ・ネットワークが勢力を急拡大。軍・警察の育成に手間取るカルザイ政権をあざ笑うかのように大規模テロを繰り返している。
ハッカニ派は1980年代のソ連のアフガン侵攻に抵抗したムジャヒディン(イスラム戦士)組織の司令官ジャラルディン・ハッカニ氏が創設した武装組織。現在は病気のため息子のシラジュディン氏が統率し、アフガンの反政府勢力タリバンと密接な関係にある。
ムジャヒディンは米中央情報局(CIA)やパキスタン情報機関の3軍統合情報局(ISI)の支援を受けた歴史があり、ハッカニ派とISIとの関係は今も続いているとされる。パキスタンのジャーナリスト、ユスフザイ氏は「ハッカニ派がパキスタンで安全に暮らせるのは軍やISIと良好な関係にあるからだ」と話す。
アフガンの首都カブールの米大使館などへの襲撃事件が発生した昨年9月、米軍制服組トップのマレン統合参謀本部議長(当時)は「ハッカニ派はISIの紛れもない部隊だ」と議会で異例の証言を行った。
パキスタンはこれを否定するが、隣国インドとアフガンでの影響力を競うパキスタンがハッカニ派を保護し、インドと関係を深めるカルザイ政権を同派のテロを通じて脅しているとの見方は多くの米、アフガン当局者が共有する。【5月3日 時事】
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今年4月15日に首都カブールと周辺3州の軍事・外交施設への同時テロがおき、アフガニスタン治安当局の能力に疑問が呈されましたが、アメリカは、この同時テロも「ハッカニ・ネットワーク」によるものとの判断を行っており、背後にいるパキスタンとの関係改善が遅れているとの報道もあります。
****NATO誤爆、米が謝罪拒否=パキスタンに不信感****
米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は27日、アフガニスタン駐留の北大西洋条約機構(NATO)軍が昨年11月、パキスタン北西部の検問所を誤爆した事件で、パキスタン政府の謝罪要求を米オバマ政権が拒否していると報じた。最近アフガンで起きたパキスタン武装勢力による大規模テロで、米側が態度を硬化させた。
同紙によれば、オバマ政権は謝罪を真剣に検討してきたが、カブールなどで大規模襲撃事件が発生した「今月15日、事態が一変」(米高官)した。米政府はパキスタン北西部が拠点の武装勢力「ハッカニ・ネットワーク」の犯行と断定。米軍高官は昨年、ハッカニ派とパキスタン情報機関との関係を公言している。【4月28日 時事】
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アメリカが検問所誤爆事件に関してパキスタンへの謝罪を行わないことで、パキスタン側の報復措置として、パキスタンを通過するISAF向けの物資補給路も遮断された状態が続いています。
****ビンラーディン殺害1年 思惑三様 パキスタン 対米関係は悪化の一途****
ビンラーディン容疑者が潜伏していたパキスタンと米国との関係は、同容疑者殺害を契機に悪化し続けている。米軍の誤爆でパキスタン兵が死亡した事件について米側は4月下旬、謝罪を保留し、新たに武装勢力を狙った空爆も行った。
一方のパキスタンは、アフガニスタンに駐留する国際治安支援部隊(ISAF)への物資補給路の遮断を続けており、両国の関係改善の見通しは厳しい。
ビンラーディン容疑者殺害をめぐっては、米軍が急襲作戦を事前に知らせなかったとしてパキスタン政府が「深い懸念」を表明。軍部も「主権侵害」と非難した。以来、両国関係は悪化の一途をたどっている。
米軍が昨年11月にパキスタン北西部を誤爆し、パキスタン兵多数が死亡した事件は両国間の緊張をさらに高め、パキスタンは報復措置として、国内を通過するISAF向けの物資補給路を遮断した。
だが、米紙ニューヨーク・タイムズによると、グロスマン米特別代表(アフガン・パキスタン担当)は4月26日にパキスタンを訪れ、同国政府高官と会談した際、誤爆事件への謝罪を保留した。
4月中旬にアフガンのカブールで起きた大使館地区へのテロ事件で、パキスタン北西部の部族地域を拠点とするイスラム過激派のハッカニ・ネットワークが実行犯である可能性が高まり、オバマ米政権が態度を硬化させていることが背景にあるという。
米軍は同月29日には、部族地域の廃校となった女子校の校舎に無人機で爆撃を行い、武装勢力の4人が死亡した。
ISAF向け物資補給路をめぐっては、パキスタンの議会で最近、再開へ向けた手続きが進んでいたが、パキスタン政府が求める無人機爆撃の中止に米国側が応じる気配はなく、再開のめどは立っていない。
パキスタンの政治評論家、ハッサン・アスカリ・リズビ氏は「両国とも歩み寄りが必要だが、ともに選挙を控え、内政に足をとられている面もある」と指摘した。【5月1日 産経】
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“選挙を控え、内政に足をとられている”ことで歩み寄りができず解決が遅れる・・・というのは、この問題に限らず、多くの問題で見られることです。
とかく“強硬論”が一般受けし、政府の“弱腰批判”が幅をきかす“選挙”とか“民意”“国民世論”というのは一体何なのか?という、ポピュリズムに陥りがちな民主主義への疑問も感じます。
【タリバンと「ハッカニ・ネットワーク」の間に対抗意識】
話を「ハッカニ・ネットワーク」にもどすと、4月15日の同時テロは「ハッカニ・ネットワーク」ではなく、タリバンによるものだとの報道もあります。
この報道は、タリバンと「ハッカニ・ネットワーク」の関係について、最近対抗意識が激しくなっており、連携がとれていないことを報じています。
****襲撃事件が示すタリバンの新戦略****
アフガニスタン:カブールなどで発生した同時多発攻撃は14年末の米軍撤退後に治安維持を担う 政府軍の力不足をあらためて浮き彫りにした
「この攻撃は連携した共同作戦だ。計画どおりにいった」と、カリ・タルハはアフガニスタンの首都カブールで自慢げに語る。
タルハは反政府武装勢カタリバンの有力司令官の1人。タリバンは4月15目、カブールと周辺3州の軍事・外交施設を一斉に襲撃した。
この事件は「まだ序の口だ」と、タルハは言う。「今年から来年にかけて、アメリカとデフガニスタン大統領の」 ハミド・カルザイにわれわれの力を見せつけてやる」
タルハによると、作戦の首謀者はハッジ・ララ。輸送と通信の専門家として知られるタリバンの東部方面司令官兼「影のカブール総督」だ。自爆テロと銃撃を主体とする今回の攻撃は、数カ月前から準備を進めてきたものだという。
作戦の中身は昨年9月、米大使館とNATO(北大西洋条約機構)軍司令部がロケット砲と小火器の襲撃を受けた事件と驚くほどよく似ている。今回もタリバンはカブールで進む都市開発をうまく利用した。
前回は1カ所だったが、今度は数カ所の高層ビル建設現場を占拠して攻撃の拠点にした。標的はイギリス、ドイツの両大使館、さらにはアフガニスタン議会、米軍をはじめとする国際治安支援部隊(ISAF)が利用するキャンプ・エガーズ基地。カブール東部では別の基地と刑務所の近辺が襲撃に遭った。
タルハを含むタリバン側の関係者によると、前回との大きな違いは東部戦線で協力関係にある民兵組織ハッカニ・ネットワークの影が薄かったことだ。今回の攻撃に参加した戦闘員はすべてララの指揮下にあったと、タルハは言う。
ハッカニ・ネットワークの悪名高い指導者ジャラルディン・ハッカニと息子のシラジュディンは、かつてタリバンの最高指導者ムハマド・オマル師に忠誠を誓っていた。だが現在、2つの勢力は互いに強烈な対抗意識を持つようになった。
「われわれもカブールで攻撃を実行できることを他の勢力に見せ付けたい」と、タリバンのある司令官は匿名を条件に語る。
それでもタルハは、いずれはハッカニ・ネットワークと戦闘員を共同運用できるようになればいいと話す。「2つの勢力が連携できれば、アフガニスタン全土で攻撃の回数と規模を2倍に増やせる」【5月2日号 Newsweek日本版】
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「2つの勢力(タリバンとハッカニ・ネットワーク)が連携できれば、アフガニスタン全土で攻撃の回数と規模を2倍に増やせる」・・・・今でも対応しきれないアフガニスタン治安当局にとっては、そうなるといよいよ大変です。
【「好きなときに好きな場所に潜入できる」】
アフガニスタン治安当局の問題については、人的資質・訓練不足・定着の悪さ・タリバン支持者の混入など、かねてより指摘されていますが、上記報道は治安組織内の民族対立を指摘しています。
****政府軍内部の民族対立****
今回の襲撃事件で最も意外で気掛かりなのは、タリバンが戦闘員や自爆テロ要員、爆発物、ロケット砲、自動小銃を首都と周辺3州の主要都市にやすやすと送り込めたことかもしれない。
アフガニスタン政府の治安部隊は今や兵力30万人以上。行く先々で政府軍の制服を目にする。
だが政府軍や警察、情報機関が肥大化すればするほど、組織の効率は悪くなると、タルハは言う。「カブールの情報機関と警察はかつてなく弱体化している。だからこそ、われわれは敵を驚かせる作戦を実行できる」
タルハと同様の見方はアフガニスタンの政府内部にもある。「心配だ。タリバンが連携を向上させているのに、情報機関や治安部隊は逆に連携が悪くなっている」と、東部パクティア州の中央政府高官は匿名を条件に打ち明ける。
厄介なのが情報機関と警察、軍の間に民族同士の対立感情があり、(多数派の)パシュトゥン人と少数派のタジク人、ウズベク人が互いに不信感を抱いていることだと、この高官は指摘する。「彼らはお互いに協力しない。タリバンにとっては絶好のチャンスだ。好きなときに好きな場所に潜入できる」
治安部隊は数で勝るが
(中略)
一連の攻撃は、今年の春と夏に向けたタリバンの新戦略に対応したものだと、タルハは言う。「今後はよく訓練された少人数の戦闘員に政府やアメリカ、NATOの重要施設を攻撃させたいと考えている。兵力不足の心配はない。複雑な攻撃作戦を連携して実行する能力も十分だ」
その根底には、軍や政府の施設を標的にすることでメディアの注目を集めようとする狙いがある。タルハによれば、今回の襲撃参加者はパキスタン北西部のペシャワルと南西部のクエッタにいるタリバン最高指導部とも連絡を取り合っていたという。
それでも、圧倒的に数で勝るアフガニスタン政府の治安部隊とISAFの反撃に耐えることはできなかった。タリバン側の抵抗は16日までにほぼ鎮圧され、襲撃を受けた地区は平静を取り戻した。
アフガニスタン政府とアメリカ、NATO軍の当局者は、今回のタリバンによる襲撃を失敗と呼ぶはずだ。だが大半のアフガニスタン国民にとって、この主張はほとんど何の慰めにもならない。
米軍は14年末までにアフガニスタンからの撤退を完了する計画だ。完全撤退の日が刻一刻と近づくなか、人々の間には既に不安が広がっている。今回の襲撃事件は、アフガニスタン政府軍の治安維持能力に対する国民の疑念をさらに強めることになりそうだ。【5月2日号 Newsweek日本版】
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【揺らぐ“アフガン派兵の成果”】
オバマ米大統領は1日夜、アフガニスタンを予告なしで訪問し、駐留米軍が14年末の戦闘任務終了後も駐留を継続することなどを柱とするアフガン政府との戦略協力協定に調印しました。
大統領は調印後、米国民向けに「(国際テロ組織)アルカイダ打倒という目標は手の届く範囲にある」とテレビ演説し、01年の同時多発テロ後にアルカイダ掃討を目的に開始したアフガン派兵の成果を強調しています。【5月2日 毎日より】
しかし、オバマ大統領が出国して数時間後には、カブールで再び自爆テロが起きており、“アフガン派兵の成果”が揺らいでいます。
****アフガン:首都でテロ6人死亡 オバマ大統領の出国後****
アフガニスタンの首都カブール東部のホテル前で2日午前6時15分(日本時間同10時45分)ごろ、車による自爆攻撃があり、AFP通信によると、護衛と通行人の計6人が死亡した。
標的のホテルは外国人がしばしば利用しており、ロイター通信によると、旧支配勢力タリバンが「欧米諸国を標的にした」との犯行声明を出した。
爆発は電撃訪問したオバマ米大統領が出発して数時間後だった。タリバンが訪問に反発し、攻撃した可能性がある。カブールでは先月15日、タリバンが大規模な攻撃を仕掛け、日本大使館など外国大使館が集まる地区で治安部隊との激しい交戦があったばかり。【5月2日 毎日】
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