(最近やつれた姿を見ることが多いので、敢えて09年3月頃のティモシェンコ前ウクライナ首相 “flickr”より By European People's Party - EPP http://www.flickr.com/photos/eppofficial/5184390373/ )
【先月20日から抗議のハンスト】
昨日ブログでは、中国の「盲目の人権活動家」陳光誠氏の出国問題を取り上げましたが、国際的に出国が注目されている人物がもう一人います。ウクライナのティモシェンコ前首相です。
****美しすぎるウクライナ前首相が激痩せ…抗議のハンスト2週間****
ロシアとの天然ガス取引をめぐる職権乱用罪で実刑判決を受け収監中のティモシェンコ前ウクライナ首相の近況について、前首相の娘エブゲニヤさんらは3日、収監先の東部ハリコフで記者団に、前首相はこの2週間のハンストの影響で激しく痩せ、一日中、横になっていると述べた。インタファクス通信が報じた。
前首相は脊椎の痛みの治療をドイツで受けることを求めているが、当局が出国を認めないため、先月20日、抗議のハンストを開始。エブゲニヤさんは「前首相の体調は悪くなり、弱っている」と述べた。
前首相は国際社会に対し「ウクライナ政権に(前首相の出国や釈放に向けて)圧力をかけることをやめないで」と求めているという。前首相の弁護士は、前首相はハンスト中、水しか飲んでおらず、動けない状態だと説明した。【5月3日 産経】
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“美しすぎる”という形容は、かつてはそのとおりでしたが、さすがにハンスト中の様子をTVなどで見ると、別人のようにやつれています。ノーメイクで、トレードマークの三つ編みを巻いた金髪もセットされていないこともあります。
ティモシェンコ前首相は体調悪化だけでなく、看守による暴行も訴えており、TVで腹部にできたアザなどを公開しています。
【ウクライナ政府への圧力を強める欧州諸国】
ティモシェンコ前首相については、これまでも再三ブログで取り上げてきました。
最近では2月5日ブログ「中東欧を襲う大寒波 ウクライナ、ティモシェンコ前首相実刑判決でロシア寄りの姿勢を強める」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120205)や、11年8月23日ブログ「ウクライナ 職権乱用罪で公判中のティモシェンコ前首相 闘い日々」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110823)などでも取り上げています。
10年2月の大統領選挙でヤヌコビッチ現大統領に惜敗したティモシェンコ前ウクライナ首相は、選挙後、上記記事にもあるように、首相在任中の09年1月にロシアと天然ガス購入合意を結んだ際、内閣の承認を得ないで不利な条件を受け入れたとして職権乱用に問われ、有罪判決を受けて収監されています。
ティモシェンコ前首相は、この判決は政治的ライバルを葬るための不当な“リンチ裁判”だとして、一貫して無罪を主張しています。
ヤヌコビッチ現大統領が親ロシア派ということもあって、欧米諸国もヤヌコビッチ政権に対し厳しい目を向けています。
****ウクライナ前首相に暴力 EU非難****
ウクライナで職権乱用の罪で刑務所に収監中のティモシェンコ前首相が暴力を受けたと訴え、ヨーロッパ各国の首脳らがウクライナで開かれる行事をボイコットする事態になっています。
ウクライナのティモシェンコ前首相は、首相在任中に合意したロシアとの天然ガスの輸入契約で国に損害を与えたなどとして、去年10月、職権乱用の罪で禁錮7年の実刑判決を言い渡され、刑務所に収監されています。
前首相は、先月、腹部を殴られるなどの暴力を受けたと訴え、抗議のハンガーストライキを行っていますが、ウクライナの検察は暴力の事実は確認されなかったと発表しました。
こうした状況を受け、EU=ヨーロッパ連合のバローゾ委員長は「事態が改善しないかぎり、ウクライナで行われるいかなる行事にも参加しない」と表明したほか、ドイツやイタリア、チェコなどヨーロッパ各国の首脳も、来週ウクライナで開かれる国際会議への欠席を相次いで表明しました。
ティモシェンコ前首相は、2004年、「オレンジ革命」と呼ばれる政権交代を実現させて欧米の支持を受け、当時、ロシア寄りとみなされていた現在のヤヌコービッチ大統領と対立してきた経緯もあり、裁判に対しては欧米諸国が非難していました。【5月2日 NHK】
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欧州各国によるウクライナへの圧力は、サッカー欧州選手権にも及んでいます。
****前首相処遇めぐり包囲網=サッカー欧州選手権も危機―ウクライナ****
在任中の職権乱用罪で禁錮7年の判決を受け、収監されているウクライナのティモシェンコ前首相の健康問題などをめぐり、ヤヌコビッチ政権を批判する国際社会の包囲網が狭まっている。前首相は刑務所での「暴行」を訴えてハンガーストライキを継続中で、ウクライナが6、7月にポーランドと共催するサッカー欧州選手権をボイコットする動きも出てきた。
前首相は椎間板ヘルニアを患い、ドイツでの治療を希望。ウクライナ政府もドイツと協議し、一時前向きな姿勢を見せたものの認めなかった。政権にとって、前首相出国は10月の議会選前に野党勢力の勢いをそぐ「メリット」もあるが、他の罪状での公判が終了していないためだ。
これに対し、ドイツのメディアはメルケル首相がサッカー欧州選手権の「政治的ボイコット」を検討していると報道。今月11日からウクライナで開催される地域サミットもドイツなど5カ国が出席を見送る意向で、前首相の娘エウヘニアさんは欧州各国による圧力を歓迎した。【5月2日 時事】
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【プーチン首相:ロシアへの出国に言及】
昨日朝のTVニュースで、ロシアのプーチン首相がメディア取材に対し、もしティモシェンコ前首相が希望し、ウクライナ政府が認めるならばロシアでの治療も可能であること、また、問題となっている天然ガス取引については、ロシア・ウクライナ双方の法律に照らして全く問題がなかったこと・・・を述べていました。
ティモシェンコ前首相は、かつてはやはり天然ガス取引をめぐってロシアから指名手配を受けたこともあり、親西欧・反ロシアの立場でしたが、首相時代の交渉でプーチン首相とは馬があったようで、両者は比較的良好な関係にありました。
ウクライナへの強い影響力を持つロシアへの出国というのは、上記のような関係を考えると、可能性のある選択のようにも思えます。
【10月には議会選挙】
「ガスの王女」「オレンジ革命のジャンヌ・ダルク」として波乱万丈の経歴を誇るティモシェンコ前首相ですが、今後の運命はどうでしょうか?
なお、昨年10月段階の報道では、“ウクライナ最高会議は来秋までに選挙を行うが、ヤヌコビッチ氏が率いる与党・地域党と、野党・ティモシェンコ連合への支持が20%前後で拮抗している”【11年10月6日 毎日】ということで、まだ政治生命が終わった訳ではないようです。
ただ、海外出国となると政権批判の勢いがそがれる・・・ということは考えられます。