(シリア国境のキリス郊外の難民キャンプ コンテナが並び“Container City”とも呼ばれています。
本文【5月18日 毎日】にある“仮設住宅”というのは、このコンテナ群のことでしょうか。
“粗末なテント村”という難民キャンプのイメージより、はるかに快適そうなのは間違いありません。
“flickr”より By FreedomHouse2 http://www.flickr.com/photos/syriafreedom2/6951694634/ )
【医療・食事は無料 生活費も支給】
近年とみに中東地域での存在感を強めており、「アラブの春」ではイスラム民主主義のモデル国とも見られているトルコですが、反体制派への武力弾圧を強めるシリアのアサド政権を強く批判し、ひいてはシリアと友好関係にあるイランとも対立を強めていることは周知のところです。
****イラン:トルコとの関係悪化 アサド政権への対応めぐり****
友好関係にあった中東の2大国イランとトルコが、反体制派への武力弾圧を強めるシリアのアサド政権への対応を巡って対立し、両国間の亀裂が広がっている。トルコは、核開発問題で対立するイランと米欧諸国の間で仲介役を務め、今月13日にトルコでの核協議開催が決まりかけていたが、アサド政権批判を強めるトルコに対してイランが反発。イランが会場変更を求める事態に発展している。
トルコのイスタンブールで1日に開かれたシリア反体制派の支援国会合には米欧やアラブ諸国が多数参加。アサド政権への圧力を確認する場となった。これにシリア政府を支援するイランが反発。ラリジャニ国会議長は3日、「(イランと敵対する)イスラエル支持者ばかりの会合だ」と、トルコを暗に批判。関係悪化を象徴した。【4月7日 毎日】
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シリアの北に隣接するトルコは、2万5000人にも及ぶシリアからの難民を受け入れています。
“難民”キャンプというと、粗末なテントが立ち並ぶ悲惨な光景をイメージしますが、下記記事が伝えるトルコのシリア難民キャンプの様子は、それとは相当に違っており驚きました。
****シリア:難民「家、食料より国がほしい」トルコのキャンプ****
「ほしいのは、家でも食料でもない。国だ」。アサド政権の武力弾圧から逃れてきたシリア人男性が訴えた。隣国トルコ南部キリスの難民キャンプ。「停戦」中のはずの古里では戦闘が続き、犠牲者は後を絶たない。「政権が倒れるまで帰らない」。地雷原を抜け脱出した父親がつぶやく。故国への渇望と、暴力への恐怖のはざまで、難民たちは生きていた。
トルコ政府の許可を得て14日に訪れたキャンプには2000戸の仮設住宅が整然と並び、約1万500人のシリア人が暮らす。学校、病院やモスク(イスラム礼拝所)、品ぞろえ豊富なスーパーもある。難民のほとんどがシリア北部イドリブ県のイスラム教スンニ派だ。アサド大統領の出身母体で支配層の少数派アラウィ派はいないという。
昨年6月に出国した教員のマフムード・ムーサさん(41)は、家族4人で21平方メートルの仮設住宅で暮らす。2部屋でトイレやシャワーもある。電気、水道、医療費、3度の食事も無料だ。トルコ政府は各家族に月400ドル(約3万2000円)の生活費まで支給する。
住宅の屋根には各自が購入した衛星放送のアンテナも目立つ。ムーサさんは「ここでは一日中いつでもお湯が使える。停電や燃料不足のシリアでの生活よりいいぐらいだ」と笑顔を見せた。
キャンプの出入りは原則自由でシリア側との行き来も可能。だが、目と鼻の先の国境の向こうでは、当局の弾圧や政府軍と離反兵士らの衝突が続く。15日には国連停戦監視団までイドリブで戦闘に巻き込まれた。負傷者はなかったが移動車両が損傷し、反体制派に一時保護されたという。
反体制団体「シリア人権観測所」によると民間人の死者は16日だけで約40人。昨年3月の騒乱本格化以降では推計1万人超。簡単に帰れる場所ではない。
「家より、食べ物より、本当にほしいのは祖国なんです」。ムーサさんの声に、望郷の思いがにじんだ。
シリア北部アレッポ近郊の菓子店経営、マフムード・ハンザルさん(31)。家族7人で政府軍の検問所を迂回(うかい)し、国境の地雷原を歩いて13日にキリスについた。「アサド政権が倒れるまで帰らない」と疲れ切った様子だ。
トルコ外務省によると、国内7カ所のキャンプで約2万2500人のシリア人が生活する。難民はレバノン、ヨルダン、イラクにも流れており、国連機関によると全体で約7万人に達している。
アサド大統領は16日、友好国ロシアのテレビで「混とんの種をまいている」と外国の「介入」を批判。反体制派を「テロリスト」と切って捨てた。
シリアに対しては欧米やサウジアラビアなどの一部アラブ諸国が民主政権への移行を要求する一方、ロシアや中国、イランが「シリア人同士の話し合いによる事態解決」を主張してアサド政権を支援。中東の民主化運動「アラブの春」の影響で始まったシリア騒乱は、開始から14カ月を経ても出口が見えない。【5月18日 毎日】
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仮設住宅に学校・病院、医療・食事は無料、生活費まで支給・・・驚くほどの厚遇です。
「停電や燃料不足のシリアでの生活よりいいぐらいだ」というのは正直な感想でしょう。
もちろん、1日も早く故郷に戻りたいという難民の思いは強いのでしょうが。
【自由シリア軍を庇護下に置くとともに、勝手な行動を取らぬよう監視】
シリア難民だけでなく、アサド政権打倒を目指す離反兵らの武装組織「自由シリア軍」もトルコ領内に拠点を置いて活動しています。
****袋小路の打倒アサド武闘路線 自由シリア軍拠点ルポ****
シリアのアサド政権打倒を目指す離反兵らの武装組織「自由シリア軍」がトルコ南部に置く拠点に2日入った。取材に応じた幹部は国際社会の武器支援を訴え、不利に傾く戦況に焦りの色を濃くしていた。
ただ、反体制派の在外代表組織「シリア国民評議会(SNC)」と同様、同軍も国内反体制派との連携を欠く上、主導権争いが顕在化。武装闘争路線は袋小路に入り込んでいる。
政権側の攻撃を逃れた約1万7千人が避難しているトルコの南部アンタクヤ。その郊外に点在するシリア人キャンプの一つ、アパイデンには、自由シリア軍の指導部や、一部の戦闘員とその家族らが暮らすテントが立ち並んでいた。
作戦基地だというこのキャンプの門では、警備のトルコ兵が人の出入りに目を光らせる。アサド政権を強く批判しつつも国境付近での戦闘激化は避けたいトルコには、自由シリア軍を庇護(ひご)下に置くとともに、勝手な行動を取らぬよう監視する目的があるとみられる。
「いま必要なのは、対戦車砲や携行式の地対空ミサイルだ」。会議用のプレハブ小屋で会見した自由シリア軍ナンバー2のクルディ大佐は、こう力を込めた。
同軍は、3月に西部ホムスの拠点を政権側に制圧されて以降、各地で撤退を続け苦戦を強いられている。
もともと同軍は「少数部隊が各自で自由に活動する」(別の幹部)ネットワーク型組織の性格が強く、指揮系統は確立されていない。装備も脆弱(ぜいじゃく)なため、現在は戦車やヘリで攻勢を強める政権側によって各個撃破されているといい、大佐の言葉には焦りがにじむ。
カタールなど湾岸アラブ諸国が武器供与を主張してはいるが、イラクなど周辺国には、それらが国際テロ組織アルカーイダ系勢力に流出することへの懸念が強い。アナン前国連事務総長が暴力停止に向けた調停努力を続ける中、指導部が望む武器を質・量ともにそろえるのは難しいといえる。
組織運営の問題も多い。2月に、政権軍からの離反では最高位のムスタファ・シェイフ准将一派が独自の組織を結成。その後、自由シリア軍と統合で合意したものの、権限配分でクルディ大佐ら同軍指導部と対立している。さらに最近では欧州在住の退役軍人らが新組織「シリア国民軍」を設立し、一本化どころか分裂が加速しかねない状況だ。
キャンプでは、子供を肩車する父親の姿も見えた。国内に潜入することが多い戦闘員らにとっては、つかの間の休息の場でもある。激しい戦闘が続く北部イドリブ出身の戦闘員は「十分な武器があれば政権軍をたたきつぶす」と息巻いた。
しかし、今月1日、有志国の「シリアの友人」会合で「全シリア人の正統な代表」に承認されたSNCでも、主導権争いは収束していない。戦闘員らは士気の高さに胸を張ったが、反体制派につきまとう内紛体質は、米欧などに武器供与をためらわせ、求心力低下につながる可能性もある。【4月3日 産経】
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さすがに武装組織の拠点ですから、“仮設住宅が整然と・・・”ではなく、テントが立ち並ぶ状況のようです。
【思惑に反して長期化する事態に苦慮しているのでは】
「自由シリア軍」や「シリア国民評議会(SNC)」など、反政府組織側の内部対立の問題はさておき、印象深いのは、トルコが随分と反政府側に肩入れしていることです。
アサド大統領の辞任を要求するトルコは、11年11月30日、武力弾圧を続けるシリアのアサド政権に対する経済制裁措置を決定しています。
また、トルコのダウトオール外相は、11年11月29日、“仮にシリア政府の国民に対する弾圧が続けば、トルコとしては如何なるシナリオにも対応する用意がある。我々は軍事介入が必要とならないことを願う。”と、事態の進展次第では軍事介入する可能性もあることをも示唆しています。
外相は更に、弾圧による難民が急増すれば、彼らのために緩衝地帯を創設する可能性があることにも言及しています。
エルドアン首相も3月、緩衝地帯に言及していますが、いろんな状況を考慮せねばならず、選択の余地は大きいとも発言しています。
アサド政権の力が及ばない「緩衝地帯」をシリア北部に設けることについては、反政府組織側も緩衝地帯を軍事作戦の拠点とし、アサド政権打倒の足掛かりにしたいと期待しています。
しかし、緩衝地帯設置にはトルコ軍の軍事的介入の必要性が予想されます。
アサド政権との全面対決ともなるこうした措置の実現については、トルコ政府も慎重とならざるを得ないと思われます。
武器援助も、内戦を激化させるという容易ではありません。
トルコとしては、シリア問題で立ち位置を鮮明にして解決への道筋をリードすることで、この地域でのトルコの存在感を更に高めたい思惑があったと思われます。
しかし、1日に1000人にも及ぶほど難民が急増【3月15日 AFP】する一方で、一向に弾圧を停止しないアサド政権の頑なな姿勢から解決の道は見えず、長期化する事態への対応に苦慮している・・・というのが、今の状況ではないでしょうか。