孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  “「民主化」に置き去りにされた”少数民族 政権側譲歩で停戦合意も進展

2011-12-17 20:40:44 | ミャンマー

(両親もなく、二人で暮らすカチン族の姉と弟 11年7月 この二人にも「民主化」が届くのでしょうか? “By Steve Gumaer”より http://www.flickr.com/photos/stevegumaer/6009223491/ )

来年の補選がNLDの「党勢」を占う最初の試金石
テイン・セイン大統領のもとで、意外なほどのスピードで“民主化”に向けた変革が進むミャンマーですが、政党法改正によって、民主化運動指導者、アウンサンスーチーさん率いる最大民主化勢力「国民民主連盟」(NLD)の政党としての再登録が承認されました。

****ミャンマー:「国民民主連盟」の政党再登録を承認****
ミャンマー選挙管理委員会は12日、民主化運動指導者、アウンサンスーチーさん率いる最大民主化勢力「国民民主連盟」(NLD)の政党としての再登録を承認した。国営紙が13日報じた。NLDは1年7カ月ぶりに合法政党として復活し、来年前半に実施見込みの国会補選に候補者を立てて国政参加を果たす見通しだ。

NLDは昨年5月、旧軍事政権が制定した「スーチーさん排除」を狙った政党登録法に反発して総選挙参加を拒否し、解党処分となった。
3月の民政移管で就任し民主化や国民和解に積極姿勢を示すテインセイン大統領は、NLDの政党再登録を促すため政党法からスーチーさんを排除する条項を削除。これを受けてNLDは11月、選管に再登録を申請していた。

補欠選挙は欠員になっている上下院計約50議席を巡って争われる。NLDはすべての選挙区に候補者を立てる方針で、党のニャンウィン報道官は、スーチーさん自身はヤンゴン市内の選挙区から立候補するとしている。
スーチーさん自身の当選は確実だが、補選が実施される選挙区は現政権関係者が多数住む首都ネピドーが多い。首都を含めた補選全体で何議席を獲得できるかが、NLDの「党勢」を占う最初の試金石となる。【12月14日 毎日】
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スー・チーさん自身の国政参加とともに、“首都を含めた補選全体で何議席を獲得できるかが、NLDの「党勢」を占う最初の試金石となる”と注目されているところですが、あまり勝ちすぎると軍部・保守派を刺激し、民主化への動きが止まってしまうのでは・・・という不安も感じます。杞憂でしょうか?

政権側譲歩で進む少数民族との停戦合意
その狙いがアメリカなどの経済制裁解除にあるにしても、テイン・セイン政権の変革が評価に値するものなのか・・・という点では、不完全な形になっている政治犯釈放の問題と、少数民族との和解の問題があります。

ミャンマーの民族事情については、“ミャンマーの民族は大きく八つに分けられ、多数派のビルマ族が主に中心部、少数民族は主に国境周辺に住む。1948年に英国から独立した当初から、東部のカレン族が独立闘争を続けてきた。シャン州、カチン州などでも国境貿易で資金を得た少数民族が武装勢力を組織し、独立や自治を求めて中央政府と対立してきた”【12月16日 朝日】ということですが、スー・チーさんなどの民主化運動も多数派ビルマ族を主体とした活動であり、歴代政権による武力弾圧以外にも、一般民衆の感情として、ビルマ族とその他の少数民族の間には微妙な隔たりがあると言われています。

スー・チーさん自身は、「(政権と少数民族)両者の和平交渉の仲介役を務める用意がある」としていますが、
“「私たちはアウンサン将軍を信じた。娘のスーチーは民主化勢力の指導者だが、少数民族の指導者ではなかった」(カチン軍のスンムルット副参謀長)
スーチーさんが政府を評価する半面、少数民族を守る言動を後退させたと疑っている。
記者はヤンゴンでスーチーさんに会った。政府の取り組みを評価したが、少数民族問題は「少数民族の指導者と話したいが、うまく連絡が取れない」と言葉少なだった。強権支配に共闘してきたビルマ族主体の民主化勢力と少数民族。その隙間(すきま)に、かつてない冷たい風が吹き始めている”【11月17日 毎日】といった報道もあります。

その少数民族問題についても、政権側の動きが報じられています。

****ミャンマー、少数民族と和解路線 政権、次々と停戦合意****
ミャンマー(ビルマ)のテイン・セイン政権が、独立や自治を求める少数民族の武装勢力と次々に停戦合意を結んでいる。軍政時代から続く対立解消をはかる国民全体の「和解」だ。恒久的な和平に向けた交渉が今後の課題となる。

14日の国営メディアによると、テイン・セイン大統領はミン・アウン・フライン国軍最高司令官に、カチン独立軍(KIA)への攻撃を、自衛の戦闘を除いて停止するよう命じた。
数千の兵力を持つKIAは、北部カチン州が拠点の少数民族武装勢力の一つ。1990年代に軍政と停戦で合意したが、今年6月以降は国軍との武力衝突で多数の死傷者が出ていた。

軍政時代に定めた憲法が国軍を「唯一の軍」とし、少数民族の武装勢力を国軍傘下の国境警備隊に編入するよう求めて関係が悪化したためだが、これを政府の側から見直す。
新政権は3月の発足以降、少数民族武装勢力との間で停戦合意を進めた。東部シャン州では約3万の兵力を持つワ州連合軍(UWSA)や南部シャン軍(SSA―S)と、東部カイン(カレン)州では民主カイン仏教徒軍(DKBA)の第5旅団と、矢継ぎ早に合意した。他の主要勢力のカレン民族同盟(KNU)とも交渉を続ける。

譲歩するのは政権側だ。国境警備隊への編入要求をいったん取り下げ、少数民族地域の経済発展の推進を約束。合意を重ねることで、「政府が各勢力と和解を進め、戦闘を続けるメリットはない」(武装勢力の関係者)状況をつくった。

テイン・セイン政権は、民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさん率いる国民民主連盟(NLD)の国政復帰に道を開き、国民融和策を続ける。経済制裁を続ける米国もオバマ大統領が「改革が進めば、米国との関係は新しい局面を迎える」と親書を送って高く評価した。

少数民族への攻撃は、民主化運動弾圧と並んで国際社会から批判を浴びてきた。「和解」は制裁解除につながる。国内の対立が解消すれば、権力基盤も安定させられる利点もあり、政府は恒久和平に向けた交渉を続けている。
とはいえ、少数民族は独立や自治を望んでおり、政府との溝はなお大きい。これまでも停戦合意と破棄が繰り返された経緯があり、本格的な和平の進展はこれからだ。【12月16日 朝日】
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【「民主化」に置き去りにされた人々・・・・
今回、政権側が攻撃を停止したカチン族については、先月段階では下記のような報道もありました。
****ミャンマー:民主化進める中 少数民族の弾圧強まる****
民主化運動に携わった政治囚を釈放するなどアウンサンスーチーさん率いる民主化勢力との和解を進めるミャンマーのテインセイン政権。東南アジア諸国連合(ASEAN)の14年議長国就任が内定し、国際社会からも「民主化の進展」と評価を受けるが、一方で自治権を求める少数民族への弾圧を強めている。
政府軍と少数民族との衝突が続く国境地域では、避難民が2万人を超えた。現地に潜入し、「民主化」に置き去りにされた人々の届かぬ声を拾い、この国の知られざるもう一つの顔を追った。

「武器はどこだ。地雷はどこに埋まっている」。ミャンマー政府が政治囚約200人を釈放した4日後の10月16日、中国国境カチン州。少数民族カチンの人々が住む人口約9000人のナムサンヤン村で早朝、牧師のジャンマ・アウンリーさん(47)は、教会に突然押し入った政府軍兵士に両手を縛られ、額をコンクリートの床にたたきつけられた。
カチン戦闘員を捜すため、無差別に家宅捜索する兵士は容赦なかった。戦闘員はいなかったが、村は焼き払われ、4人が死んだ。
11月上旬。記者は国境の町ライザに避難していたジャンマさんと会った。ジャンマさんは「なぜこんな仕打ちを受けるのか」と訴えた。当局は、少数民族地域への外部の人間の立ち入りを規制することで、弾圧状況を事実上隠している。(後略)【11月17日 毎日】
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【12月16日 朝日】で報じられた政権側の少数民族対策と、【11月17日 毎日】で報じられている現地の実情・・・どちらも現実ですが、どちらが今後の大勢となっていくのかが注目されます。
できるだけ政権側が“停戦合意”の方向で進めるように、国際社会は足りないところをあげつらうのではなく、更に前進するようにサポートしていくことが必要だと思われます。

対外的な面では、先月末から今月初めにかけてミャンマーを訪問したクリントン米国務長官の動きに代表されるように、これまで制裁という形で対立していたアメリカとの関係が動き出す気配がしています。

関係立て直しを模索する中国
その一方で、これまでミャンマー軍事政権を支えてきた中国としては、これまで同様、自国の側にミャンマーをつなぎとめておきたい思いでしょう。
温家宝のミャンマー訪問も予定されていましたが、“時期尚早”としてとりやめになったようです。
裏事情はわかりませんが、中国が期待する成果に関する調整がうまくいかなかったのではないでしょうか。

****温首相、ミャンマー訪問中止 関係改善、尚早と判断か****
中国の温家宝(ウェン・チアパオ)首相は19日から予定していたミャンマー(ビルマ)訪問をとりやめた。ヤンゴンの外交筋が14日明らかにした。訪問は、ミャンマーが9月に中国向けの発電ダムの建設凍結を発表して以来、悪化している両国関係の改善に向けた動きと見られていただけに、突然の中止決定をいぶかる声が上がっている。

温首相は、19、20の両日に首都ネピドーで開かれる第4回メコン川流域開発計画(GMS)首脳会議に、流域のインドシナ5カ国首脳とともに出席する予定だった。関係者によると、ヤンゴンの中国大使館から先遣隊がすでに首都に入り、首相訪問の準備が進められていたといい、中止は急に決まったと見られる。会議には、外交担当の戴秉国(タイ・ピンクオ)国務委員(副首相級)が代わりに出席するという。

民主化が進展するミャンマーをめぐっては、米国のクリントン国務長官が今月初めに訪問し、関係改善に乗り出すなど、欧米や日本などが急接近をはかっている。インド洋からのパイプラインや鉄道、港湾の建設などを通じて軍事政権とは緊密な関係を保っていた中国は、今回の首相訪問で関係の立て直しを目指すとともに、欧米の動きを牽制(けんせい)する狙いがあると見られていたが、「時期尚早という判断があったのではないか」(外交筋)との見方が出ている。【12月15日 朝日】
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なお、中国側とスー・チーさんとの接触については、内容抜きで、下記のように伝えられています。
****中国大使がスー・チーさんと面会=ミャンマー****
中国外務省の劉為民報道局参事官は15日の記者会見で、李軍華・駐ミャンマー大使が民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんとこのほど面会したことを明らかにした。
劉参事官は「スー・チーさんは何度も中国側との接触を求めてきており、それに応じた。われわれは内政不干渉の前提で、両国の友好協力を支持するミャンマー各界の人と交流することを望んでいる」と述べた。【12月15日 時事】
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