孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア  弾圧で死者5000人超、更なる大規模弾圧の可能性も

2011-12-14 23:11:35 | 中東情勢

(11月4日 シリア中部ホムス 治安部隊と対峙する抗議行動参加者 “flickr”より By SRGCommission http://www.flickr.com/photos/srgcommission/6384751653/

制裁強化の足並みがそろわない国際社会
シリアでは、反政府行動に対するアサド政権の弾圧が依然として続いており、事態打開の出口が見当たらないまま、犠牲者だけが刻々と増加しています。

****シリア:人権弾圧で死者5000人超…国連が報告****
ピレイ国連人権高等弁務官は12日、国連安全保障理事会でシリア・アサド政権による人権弾圧の状況を報告した。その後、記者団に「死者数は5000人を超えた。少なくとも300人の子供が含まれている」と述べた。

犠牲者数は、230人以上の目撃者の証言に基づく「信頼すべき数字」(ピレイ氏)という。ピレイ氏はこの日、安保理に対し、人道への罪で国際刑事裁判所(ICC)にシリア問題を付託するよう改めて求めた。報告を受け、ライス米国連大使は「報告は、緊急の対応が必要だと強調している。アサド政権に残された日々は限られている」と、シリアを非難した。

シリア問題で安保理は10月、アサド政権を非難し制裁を警告する決議案を採決したが、常任理事国のロシアと中国が拒否権を行使し否決された。【12月13日 毎日】
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シリアはレバノンやイランとの関係、ヒズボラやハマスなどイスラム過激派との関係を有しており、ただでさえ不安定な中東情勢において、シリアの政治的混乱は中東情勢の一層の不安定化を招くおそれがあります。
特に、反米、反イスラエル路線をとるイランとの間で「戦略的な同盟関係」を築いていることから、もし外国勢力がシリアに軍事介入に踏み切れば、イランを巻き込んだ地域紛争に発展しかねない危険もあります。
そのため、アサド政権の人権弾圧を非難しているアメリカなど欧米諸国としても、不用意な軍事介入などはできない事情があります。

現実問題としても、イラク・アフガニスタンからの撤退に苦労しているアメリカにしても、リビアを何とかクリアした欧州諸国にしても、更にシリアに・・・という選択肢はないでしょう。

軍事介入ができないなら、国際社会が結束して制裁措置に・・・ということになりますが、それも上記記事にもあるように、ロシア・中国の反対で統一した行動がとれない状況にあり、アメリカは、イランへの圧力強化に反対するロシアへの苛立ちを強めています。

****ロシアに安保理での行動要求=シリアのデモ弾圧―米****
米国務省のヌーランド報道官は13日の記者会見で、反体制デモ弾圧を続けるシリアへの圧力強化に反対するロシアに対し、「アサド政権の手中で苦しむ罪のないシリア国民のために声を上げ、行動するよう求める」と述べ、国連安保理での対応を改めて迫った。

AFP通信によると、ロシアのラブロフ外相はこれに先立ち、欧米諸国がシリアの「反体制派の武装した過激分子」の存在を否定し、ロシアを批判するのは「不道徳だ」と反発していた。
同報道官はこれに対し、反体制派がおおむね平和的なデモを行っていると反論した上で、「不道徳なのは、自国民に暴力を振るうアサド政権の方だ」と指摘。「安保理が声を上げるべき時はとうに過ぎている」といら立ちを示した。【12月14日 朝日】
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こうした国際情勢を見越してのアサド政権による弾圧継続ですが、仲間内でもあるアラブ連盟が11月下旬に制裁を発動したことは、シリアにとっては痛手となっています。
また、地域大国として独自の存在感を示すトルコ・エルドアン政権も、アサド大統領に辞任を要求する厳しい姿勢を見せています。

****シリア:トルコ アサド政権に対する経済制裁措置を決定****
トルコは30日、民主化要求運動の武力弾圧を続けるシリアのアサド政権に対する経済制裁措置を決定した。トルコはシリアにとって重要な貿易相手国。欧米やアラブ連盟が既に制裁を加えており、シリアは国際的に一段と孤立する。

AP通信によると制裁内容は、シリアへの兵器と軍事物資の売却禁止▽シリア政府幹部の入国禁止▽シリア中央銀行政府との金融取引禁止--など。発表したダウトオール外相は「シリア政府が自国民と平和的な関係を築かない限り、戦略的な協力関係を中断する」と述べた。

昨年の両国間貿易は計約25億ドル(約1940億円)に達するなど、元々は友好関係にあった。しかし政権による武力弾圧が強まったのを受け、トルコのエルドアン首相がアサド大統領に辞任を要求。さらにアサド政権打倒を目指す離反軍人団体の一部幹部らがトルコに拠点を構えるなどして圧力を強めている。【12月1日】
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シリアはアラブ連盟の制裁圧力をかわすため、監視団を受け入れる考えを示してはいますが、“時間稼ぎ”とも見られています。

****シリア受け入れ表明 監視団派遣、制裁解除が条件****
シリアの外務省報道官は5日、同国での市民への暴力停止に向けてアラブ連盟が求めていた国際監視団派遣について、「(提案に)すぐにでも署名できる」と述べ、監視団を受け入れる考えを示した。

同国のアサド政権はこれまで、主権侵害にあたるとして受け入れを拒否していたが、アラブ諸国が経済制裁に踏み切る中、権力維持のために譲歩を余儀なくされた格好だ。
ただ、中東の衛星テレビ局アルジャジーラなどによると、提案受諾の見返りとして、アラブ連盟による制裁や加盟資格停止措置の解除を要求しており、連盟側がこれらの条件をすぐに受け入れるかどうかは不透明だ。

監視団派遣案をめぐっては、シリアが11月下旬の期限までに回答しなかったことからアラブ連盟が制裁を発動。連盟側はその後、今月4日に期限を再設定し受け入れを迫っていた。報道官によると、シリアのムアリム外相は4日夜、連盟のアラビ事務局長に「前向きな返答」をしたという。

シリアでは3月の反政府デモ発生以降、アサド政権の弾圧によって死者は少なくとも4千人に達している。10月以降、離反兵らによる政権側への攻撃が相次ぎ、本格的な内戦状態に陥る懸念が強まっていた。
アサド政権は、サウジアラビアなどアラブの有力国が公然と反体制派支援に回ることを最も恐れている。それを回避するには、外交的に柔軟姿勢をみせ、当面は交渉によって時間を稼ぐのが得策だと判断したものとみられる。
シリアに対してはアラブ連盟に先立ち、米欧も独自の制裁に乗り出している。【12月6日 産経】
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ただ、アラブ連盟の制裁といっても、レバノン・イラクがこれに反対しており、効果には疑問もあります。
****制裁 そろわぬ歩調 ****
シリアをめぐって、国連安保理は10月、弾圧をやめなければ加盟国に「対抗手段」を取ることを認める決議案を採決したが、ロシアと中国が拒否権を行使した。国連主導で弾圧防止の実効策を講じるには両国の同意が不可欠だ。
ロシアのチュルキン大使は12日の非公式協議後、「シリアの状況の唯一の解決策はシリア人主導の政治プロセス」とする従来の見解を強調し、内政干渉につながるとして安保理決議への警戒を示した。

アラブ連盟は、シリア政府との商業取引の停止や、在外資産凍結などの経済制裁の発動を決め、15日からはシリアと加盟国との航空便を半減するとしている。だが、シリアを支えるイランと近い関係にあるレバノンとイラクが制裁に反対しており、連盟が今後、さらに制裁を強化しても、シリアと国境を接する両国が「抜け穴」となって、骨抜きになる可能性もある。【12月14日 朝日】
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さらに大規模な武力行使を準備している可能性
シリアの問題は、アサド大統領の出身母体で権力を独占する少数派のアラウィ派イスラム教徒と、多数派であるスンニ派イスラム教徒の抗争の色彩が濃いとも指摘されており、アサド政権としては、ここで弾圧を緩めると多数派のスンニ派にすべてを奪われてしまう・・・という事情もあって、引くに引けないところでもあります。

多数派のスンニ派に属する兵士の離反により、内戦状態に近づいているとも言われているなかで、国連のピレイ人権高等弁務官は12日、反政府行動の中心である中部ホムスに政権側が戦車数百台を集結させ、街の周囲に塹壕を掘っているとして、さらに大規模な武力行使を準備している可能性があると報告しています。

****シリア中部に戦車数百台集結 デモ弾圧強化の準備か****
国連のピレイ人権高等弁務官は12日、国連安全保障理事会の非公式協議に出席し、反政府デモ参加者への武力弾圧を続けるシリアのアサド政権が、さらに大規模な武力行使を準備している可能性があると報告した。市民の虐殺を防ぐ措置を講じるように安保理に求めた。

ピレイ氏の報告内容を国連人権高等弁務官事務所(OHCHR、本部・ジュネーブ)が公表した。OHCHRによると、アサド政権はシリア中部ホムスに戦車数百台を集結させ、街の周囲に塹壕(ざんごう)を掘っている。ピレイ氏はアサド大統領に対し、攻撃中止命令を明確に出すよう要求した。

また、デモ弾圧による死者は、推定で子ども300人以上を含む5千人を超えるとも報告。シリアを「人道に対する罪」で裁くため国際刑事裁判所(ICC)に国連安保理が捜査を要請することも求めた。【12月13日 朝日】
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“(ホムス)近郊では同日夜、ガスのパイプラインが爆破された。ホムス周辺でのパイプラインの爆破は、この1週間で2度目。政権側はいずれも「反体制派の破壊工作」としているが、反体制派の中核組織シリア国民評議会は関与を否定し、「政権側がホムスを攻撃する口実を作ろうとしている」と反発している”【12月14日 朝日】
なにやら危うい雰囲気です。

【「シリア国民評議会」と「自由シリア軍」が連携
一方、反体制派側の動きとしては、在外反体制派組織「シリア国民評議会(SNC)」と離反兵らで作る軍事組織「自由シリア軍」との間で連携が合意されています。

****シリア反体制派、連携合意 戦闘行為「市民防衛」に限定****
シリアの在外反体制派組織「シリア国民評議会(SNC)」が、離反兵らで作る軍事組織「自由シリア軍」との間で、バッシャール・アサド政権打倒に向け緊密に連携することや、シリア国内での戦闘行為は市民防衛に限定することなどで合意したことが分かった。SNC幹部が産経新聞の電話取材に明らかにした。

同国では最近、自由シリア軍による政権への攻撃が頻発し本格的な内戦状態に発展する懸念が強まっている。SNCとしては同軍と連携して活動強化を図るとともに、戦闘激化に歯止めをかけ、「平和的なデモ」とのイメージを維持して政権打倒に向けた国際世論を喚起する狙いがある。
両者はいまのところ、別個の組織として活動しているが、SNC幹部の一人は「将来的に自由シリア軍をSNC軍事部門として統合することもあり得る」としている。

SNC最大勢力であるシリアのイスラム原理主義組織ムスリム同胞団トップ、ムハンマド・シュクファ氏らによると、SNC主要幹部が11月下旬、自由シリア軍幹部のもとを訪れ、戦闘を防衛目的に限定するほか、相互を正統な機関として承認することで合意。今後の戦略を練るため、双方から数人が参加する合同委員会を設置する方向で協議しているという。

ただ、政権のデモ弾圧が続く中、戦闘行為を「防衛」か「攻撃」かに峻別(しゅんべつ)するのは難しく、合意内容が徹底されるかは不透明だ。トルコ南部に拠点を置く自由シリア軍司令部は、シリア国内の離反兵を統制しきれていないとの指摘もあり、同司令部やSNCの思惑とは裏腹に、戦闘が泥沼化する懸念は拭えない。(後略)【12月10日 産経】
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自由シリア軍は7月に離反将校らが結成を表明した組織で、シリア中部のハマ、ホムス県などに「1万5000人以上の兵力を持つ」(副司令官、マリク・クルディ海軍大佐)とのことですが、弾圧による死者は「1万人を超えた」とも主張、シリア軍をけん制するため、国際社会に対し、飛行禁止区域の設定や武器供給を呼び掛けています。

一方、総兵力約32万人のシリア国軍は幹部をアサド大統領の出身母体でイスラム教シーア派の一派アラウィ派が占めており、自由シリア軍のクルディ大佐も「国軍幹部の多くは今も大統領に忠誠を誓っており、兵士は殺害を恐れて離反が難しい」とのことです。【11月22日 毎日より】

なかなか、情勢は厳しそうです。
なお、宗教的には規制が緩く世俗主義的なアサド政権に対し、反政府側は保守的で、政権崩壊後はイスラム急進派の台頭も指摘されています。

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