孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

台湾総統選挙 支持率拮抗 中国は「空母キラー」発射実験で牽制? 五輪開催公約も

2011-12-19 22:27:10 | 東アジア

(台湾総統選直前に中国が発射実験を行う可能性も報じられている「空母キラー」と呼ばれる対艦弾道ミサイル「東風21D」の射程範囲 台湾海峡の他、九州沿岸まで含まれます。このミサイルが実戦配備されると、アメリカの空母もこの海域にはうかつには近づけないことにもなります。)

馬総統、蔡主席の支持が横並びの状況
台湾では来年1月14日に行われる総統選に向けて、国民党の馬英九総統と民進党の蔡英文主席が激しい選挙戦を展開しています。

****台湾総統選、横並びで終盤へ 馬総統と蔡主席****
来年1月14日投開票の台湾総統選に向けた国民党の現職、馬英九(マー・インチウ)総統、民進党・蔡英文(ツァイ・インウェン)主席、親民党・宋楚瑜(ソン・チューユイ)主席の3候補者による2度目の公開討論会が17日、台北のテレビ局で行われた。同日、総統選の選挙活動も正式に始まり、各陣営は台湾全土での集会、街頭活動を活発化させる。今のところ馬総統、蔡主席の支持が横並びの状況だ。

この日の討論会は消費者団体、人権団体などから質問を受ける形で進んだ。
このところ選挙戦は対中政策などの論点がかすみ、国民党政権による蔡主席個人への攻撃が軸となった。蔡主席が民進党政権で行政院副院長(副首相)だった2007年、政府系基金の資金をバイオ企業に投入、家族にも出資させ、副院長退任後には自身がその企業のトップに就いたことを取り上げ、「地位を利用して利益を得た」とイメージダウンを図った。
ところが、当時の経緯を示す文書を政権側が公開する際に文書偽造と疑われる不手際があり、選挙直前に問題を持ち出した手法への反発もあって、得失不明の泥仕合になっている。【12月17日 朝日】
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有権者は対中政策への評価を投票行動に反映させることが多い
“対中政策などの論点がかすみ”とはありますが、やはり台湾にとっては中国との関係は避けて通れない問題です。
国民党・馬英九総統は中国との経済関係強化を重視していますが、中国依存によって将来的に政治的にも台湾が中国に呑みこまれてしまう不安があります。
民進党・蔡英文主席は過度の中国依存を警戒して台湾の主権を強く主張しており、「1つの中国」についても見直しを主張していますが、経済的にはもはや不可欠の存在となった中国との関係悪化の不安があります。中国との関係悪化は安全保障のうえでも問題となります。

選挙戦序盤では、対中政策における自己の立場を主張すれば中間層の反発を、招き却って不利になるといった判断もあって、あまり対中政策は争点となってきませんでした。しかし、争点として表面化する、しないに関わらず、有権者の判断にはこの問題が強く影響します。

****台湾総統選:あと1カ月支持拮抗 米中動向が不確定要素****
台湾総統選は来年1月14日の投開票まで残り1カ月となった。再選を目指す与党・国民党候補の馬英九総統(61)と政権奪回に意欲を示す最大野党・民進党候補の蔡英文主席(55)の支持率は(拮抗きっこう)し、野党・親民党候補の宋楚瑜主席(69)を大きく引き離している。

馬、蔡両氏とも、最も敏感な問題である対中国政策論議は遠ざけて失点を回避してきたが有権者は対中政策への評価を投票行動に反映させることが多く、情勢は依然流動的だ。
各機関の最新の世論調査では、国民党寄りの台湾紙・中国時報が馬氏43%、蔡氏36%、宋氏9%。民進党系のシンクタンク・台湾智庫は蔡氏35・9%、馬氏35・4%、宋氏10・8%。
現時点での選挙戦の争点は▽クリーン政治▽弱者対策▽農業政策--などが中心だ。

馬氏は今年10月、中台間の戦争状態を終結させる平和協定に関する政策発表が性急な印象を与え、不評を買った。「中国寄り」「台湾の主権を軽んじている」と見られるのを避けるため、今は中台関係で踏み込んだ発言を控えている。

一方、独立志向の強い蔡氏は、馬政権と中国が関係改善の基礎とする「92年合意」(中台それぞれが「一つの中国」の原則堅持を口頭で表明する)を承認せず、民主的な方法による新たな対中交渉の枠組み「台湾の総意」の形成を呼び掛ける。
中国側は蔡氏の考えを否定しており、民進党と中国側の対話の糸口は見えないままだ。

米国がアジア・太平洋の安全保障を主導する姿勢を強めていることも台湾情勢に影響を与える。「中国の学者は、米国がアジア戦略や国民党の過度な中国傾斜を懸念する立場から蔡氏に肩入れしていると見る」(台湾紙「旺旺」)のが一般的で、米国に対する中国の不信感は強い。

さらに不確定要素として、11月21日付米軍事専門誌「ディフェンス・ニュース」は、中国が米空母を標的として開発中の「空母キラー」と呼ばれる対艦弾道ミサイル「東風21D」の発射実験を総統選3日前の1月11日に実施する可能性を報じた。
台湾を直接威嚇するのではなく、民衆に「台湾海峡有事の際、米国の軍事介入は難しくなる」と認識させる目的だという。同誌は実験が敢行された場合、「台湾の民衆が(中台関係の安定を求めて)独立志向の低い候補者を選ぶ可能性がある」と分析している。【12月13日 毎日】
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中国指導部:馬英九総統再選を支持
中国は、「アメリカが独立志向の強い蔡氏に肩入れしている」と、アメリカへの不信感が強いとのことですが、中国自身は国民党・馬英九総統支持ではっきりしています。
中国にとっては台湾は「1つの中国」として一体のものである以上、口を出す資格が当然にあるというところでしょう。

****台湾総統選、中国が馬氏再選支持を示す談話****
中国共産党ナンバー4の賈慶林・政治局常務委員(人民政治協商会議主席)は16日、来年1月の台湾総統選を前に談話を発表した。

談話は、中台が「一つの中国」原則で歩み寄ったとされる1992年の「92年合意」を否定すれば「中台双方の利益が損なわれる」として、合意を否定する野党・民進党候補の蔡英文主席をけん制する内容で、国民党の馬英九総統再選の支持を中国指導部として初めて示すものとなった。

総統選への介入とも言える談話発表に踏み切ったのは、独立志向の強い蔡氏が当選する可能性が排除できない現状への焦りから「中台交流停滞の可能性をちらつかせて台湾世論に揺さぶりをかける」(台湾メディア関係者)狙いだったとの見方が出ている。【12月17日 読売】
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【「空母キラー」で「台湾海峡有事の際、米国の軍事介入は難しくなる」】
【12月13日 毎日】にある“中国が米空母を標的として開発中の「空母キラー」と呼ばれる対艦弾道ミサイル「東風21D」の発射実験を総統選3日前の1月11日に実施する可能性”については、その効果はどんなものでしょうか?

1996年に行われた台湾総統選挙で、独立志向の強い李登輝氏が優勢との予測に対し、中国は “恫喝”として、台湾の基隆沖海域にミサイルを撃ち込むなどの軍事演習を強行しました。このため一気に緊張が高まり、“台湾海峡有事”が現実問題として懸念される事態となりました。
中国はアメリカに対しても、「台湾問題に米軍が介入した場合には、中国はアメリカ西海岸に核兵器を撃ち込む」と威嚇しました。【ウィキペディアより】
これに対しアメリカは、台湾海峡に空母を派遣し、圧倒的な軍事力を誇示する形で、中国の力の行使を抑え込んだことがあります。

中国の「空母キラー」開発は、この時アメリカに抑え込まれた屈辱が土台になっているとも言われますが、それはともかく、台湾総統選挙への影響という点では、中国の威嚇への反発が高まり、独立志向の強い李登輝氏が地滑り的勝利を収める結果となっています。

当然に中国はこの96年の失敗を忘れてはいませんので、今回は「空母キラー」発射実験によって、“台湾を直接威嚇するのではなく、民衆に「台湾海峡有事の際、米国の軍事介入は難しくなる」と認識させる目的”とのことです。これからは96年のようにアメリカが助けに来てくれることはない・・・と言いたいのでしょう。
ただ、どうでしょうか・・・・やはり、対中警戒感を刺激することになる可能性もあります。

【「選挙チャーター便」と「子豚の貯金箱運動」】
安全保障面を離れて経済面に限っても、国民党・馬英九総統が進めてきた中国との関係強化は、大企業には利益となっているが、資本の中国進出で台湾経済の空洞化を招き、一般労働者の生活は苦しくなっており、経済的格差が拡大する結果となっている・・・との批判が民進党側からはあります。
そうしたこともあって、両候補の支持層に大きな差が見られるようです。

****台湾総統選:馬氏は大企業、蔡氏は庶民が支持層****
台湾総統選(来年1月14日投開票)に立候補する与党・国民党の馬英九総統(61)と最大野党・民進党の蔡英文主席(55)の支持層に明確な違いが出ている。
馬氏には中台間の経済安定を期待する大企業トップ、蔡氏には労働者や農民らが主な支持層になり、陣営をもり立てる。

電子製品の生産受託で世界最大手の鴻海グループの郭台銘会長は今月1日、南部・高雄の研究施設着工式に馬氏も招待し、「来年に経済危機の大波が来る。熟練によるかじ取りが必要だ」と馬氏支持を表明。従業員が故郷に戻って投票できるよう選挙チャーター便を飛ばして側面支援する計画も立てている。
他に、電源ユニット大手・台達電子工業(デルタ)の鄭崇華社長、自動車大手・裕隆グループの厳凱泰CEOらも馬氏支持だ。

一方、民進党は少額献金を募る「子豚の貯金箱運動」を通して一体感を強めている。今月10日、配布した子豚の貯金箱の回収集会「子豚の里帰り」を開いたところ、約7万個が届けられ、蔡氏は手応えを感じた。巨額の資産を持つ国民党を「大怪獣」に例え、それに対抗しようと始まった子豚貯金箱運動は、予想外の成果を収めているようだ。蔡陣営は「陳水扁前政権の汚職事件で民衆の支持を失った。子豚の貯金箱は、党がどん底からはい上がり、改めて団結する象徴となっている」と分析する。【12月17日 毎日】
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【「24年の五輪開催をめざす」と「25年までに脱原発をめざす」】
ここにきて、国民党・馬英九総統は「24年の五輪開催をめざす」との公約を発表しているそうです。
****馬氏「24年に五輪」 台湾総統選で公約****
・・・・討論会で馬氏は中国との関係改善や外交実績を強調した上で、先月、2017年のユニバーシアード夏季大会の開催権を台北市が獲得したことを踏まえ、「24年の五輪開催をめざす」との公約を初めて明らかにした。五輪は国家ではなく都市が主催する。
一方の蔡氏は、「25年までに脱原発をめざす」と従来の主張を展開。両氏の論戦の間に立った宋氏は、「国民党と民進党の政争に人々は疲れている」と訴えた。【12月18日 産経】
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公約なんて景気づけのアドバルーンだと言ってしまえばそれまでですが、台湾での五輪開催・・・・難しそうです。
台湾が中国と一体化して「1つの中国」を実現することを確約すれば、中国も後押しするでしょうが・・・。
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