孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パキスタン “メモゲート”、ISAF越境攻撃で対米関係更に悪化の様相

2011-11-26 21:38:18 | アフガン・パキスタン

(パキスタン北西部のペシャワル郊外 今年5月23、24日、アメリカによる無人機空爆に反発するパキスタン市民数千人が幹線道路に座り込み、アフガニスタン駐留の北大西洋条約機構(NATO)軍に送られる補給物資の通過を遮断しました。“drone”とはミサイル・無人機などの無人飛行物体のことだそうです。親米とみなされるザルダリ大統領・ギラニ首相の現政権は軍部ともうまくいっていませんが、国民にも極めて不人気です。 “flickr”より By velvetwink  http://www.flickr.com/photos/cosmowink/6215523546/ )

謀略か?政権揺るがす“メモゲート”】
これまでも再三取り上げてきたように、アメリカのアフガニスタン戦略にとって隣国パキスタンは、アフガニスタン国境地域がイスラム過激派の温床となっていること、及びアフガニスタンに展開する米軍・ISAFへの物資補給路となっていることから、その協力が不可欠な存在です。

しかし、もともとパキスタンは反米感情が強い国ですが、度重なるアメリカの越境無人機攻撃による民間人犠牲者の増加、更にはアルカイダのビンラディン容疑者殺害を巡る問題もあって、アメリカとパキスタンの関係は良好とは言い難いものになっています。

パキスタン国内にあっては、特に、実権を握る軍部がアメリカによる“主権侵害”に批判的ですが、その軍部と基盤が弱いザルダリ政権の関係を揺るがす怪事件“メモゲート”が先日発覚しています。
ザルダリ大統領が軍のクーデターを恐れて、米軍制服組トップにクーデター阻止や軍部刷新などの協力を要請したとするメモの存在が明らかになったものです。

****パキスタン政権、米軍にクーデター阻止要請*****
パキスタンで、ザルダリ大統領が軍のクーデターを恐れて、米軍制服組トップのマレン統合参謀本部議長(当時)にクーデター阻止や軍部刷新などの協力を要請したとするメモの存在が明らかになり、“メモゲート”と呼ばれる大騒動に発展している。
軍は強く反発し、政府はメモ作成の関与に疑いがもたれるハッカニ駐米大使を本国に召還。ザルダリ政権と軍の亀裂を象徴する出来事といえそうだ。

発端は先月中旬、英紙に掲載された米国在住のパキスタン人男性による投稿だった。
この男性は今年5月、ザルダリ氏が軍や情報機関を迂回(うかい)して米政府にメッセージを伝達したいとの連絡を、ザルダリ氏の名代という外交官から受けたと主張。国際テロ組織アルカーイダの指導者だったウサマ・ビンラーディン容疑者が米軍に殺害された1週間後のことで、この外交官とのやりとりの末、メモが作成され、同月10日にマレン氏に届けられたという。

最近になってマレン氏がメモの受理を認めたことから騒動が拡大。男性が「外交官はハッカニ駐米大使」と証言し、一部メディアでメモが公開されたことも追い打ちをかけている。「極秘メモ」と題された文書は、「政権が失脚すれば、パキスタンはアルカーイダの狂信的言動やテロの拠点になるかもしれない」と指摘。その上でマレン氏から直接、キヤニ陸軍参謀長らに政権失脚を狙った瀬戸際戦術をやめるよう伝達を求めている。

ハッカニ氏は関与を一切否定している。同氏は、軍政に批判的で親米派と目されるだけに軍部からの批判の対象となってきた。今回の騒動も、同氏の失脚を狙ったものとの指摘もある。
政府は軍の圧力を受けて同氏に本国に戻るよう指示。同氏は政府に辞意を伝えたものの、政権が軍との摩擦を回避するため、軍の要求通りに同氏を更迭するとの見方が強まっている。

ただ、ハッカニ氏を失えば、政権がぎくしゃくした関係にありながらも、頼りにする米国との関係に影響を及ぼしかねない。パキスタン人ジャーナリストのナジャム・セティ氏は、パキスタン紙でハッカニ氏を「ザルダリ氏と米国をつなぐ最も雄弁で友好的な存在」と表現し、そのハッカニ氏を駐米大使ポストから追い出すことは、「ザルダリ氏自身をさらに弱体化させるだけだ」と批判した。【11月20日 産経】
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“メモは「軍からの圧力が強まれば文民政権は耐えきれない」と危機感を示し、キアニ陸軍参謀長を抑えるようマレン氏に要請。米国の介入があれば、国防幹部チームを刷新し、対テロ戦での米国への協力を強化すると約束した”【11月20日 朝日】とのことで、マレン氏側も「受け取ったが信用性が疑わしかったため無視した」とメモの存在を認めています。

パキスタン国軍としては容認できない内容ですが、ハッカニ駐米大使はアメリカ側との太い人脈があり、そんな重要なメモを、何故自分自身ではなく怪しげな“米国在住のパキスタン人男性”に託したのか・・・という疑問もあり、軍部との折り合いが悪いハッカニ駐米大使失脚を狙った陰謀との憶測もあるようです。

軍の意向を尊重せざるを得ない立場にある政権側は、結局ハッカニ駐米大使を解任しましたが、ザルダリ政権の基盤は更に弱まったと思われます。

****パキスタン:駐米大使を解任 米軍介入求めた疑惑で****
パキスタン政府は22日、フセイン・ハッカーニ駐米大使を解任。後任にジャーナリスト出身の女性政治家であるシェリー・ラフマン元情報放送相を任命した。

ハッカーニ氏は、今年5月に国際テロ組織アルカイダの最高指導者ウサマ・ビンラディン容疑者が米軍特殊部隊に殺害された直後、「パキスタン軍が民政政権を乗っ取る可能性がある」との内容のメモを米軍制服組トップのマレン統合参謀本部議長(当時)に渡し、米国の介入を求めたとの疑惑が持ち上がっていた。
ハッカーニ氏は疑惑を否定したが、辞意を表明し、ザルダリ大統領や軍トップのキヤニ陸軍参謀長との協議後、大使任免権を持つギラニ首相が解任した。【11月23日 毎日】
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報復として補給路を閉鎖
この“メモゲート”はザルダリ政権を揺さぶるだけでなく、ただでさえ関係悪化が懸念されているアメリカとパキスタン国軍の関係をも更に難しくするものでした。
悪い時には悪いことが重なる・・・というのか、それが米軍の実態だと言うべきなのか、パキスタン側を激怒させる事件がきょうまた起きています。NATO主導の国際治安支援部隊(ISAF)のヘリコプターがパキスタン領内の検問所を越境攻撃し、20名超のパキスタン兵士が死亡したという事件です。

****パキスタン兵25人死亡=NATOが越境攻撃―アフガンへの補給停止****
パキスタンからの報道によると、アフガニスタンに駐留する北大西洋条約機構(NATO)軍のヘリコプターが26日未明(日本時間同早朝)、アフガン国境に近いパキスタン領内にある軍の検問所を越境攻撃し、兵士25人が死亡した。パキスタン政府はこの攻撃を「最も強い表現で非難する」と表明、事実上の報復措置として米軍中心のアフガン駐留NATO部隊の「生命線」であるパキスタンを通じた補給を止めた。

米国とパキスタンの関係は、5月の国際テロ組織アルカイダ首領ビンラディン容疑者殺害以来、悪化したまま修復できていない。米紙は10月、アフガン領内に展開する米軍を狙いパキスタン領内からのロケット弾攻撃が激増していると両軍の緊張関係を伝えていた。両国関係はさらに険悪化する恐れがある。

ロイター通信によると、攻撃を受けたのは対アフガン国境から2.5キロパキスタン領内に入った部族地域モフマンド地区にあるサララ検問所。反政府勢力タリバンとの戦闘の最前線に位置する。【11月26日 時事】
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“攻撃があったのは部族地域モフマンド地区の国境地帯にある村で、今年に入り激化していた武装勢力のアフガン側からの攻撃に備えるため、検問所が設けられた。ISAFは最近になりアフガン側での掃討作戦を始めており、今回は誤って越境したとみられる”【11月26日 朝日】

アフガン駐留NATO部隊の「生命線」であるパキスタンを通じた補給を止めた・・・ということで、今後アメリカとしては非常に難しい対応を迫られています。

TTPとパキスタンの和平交渉協議
なお、パキスタン側がイスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」と和平交渉のための協議を行っていることが報じられています。

****パキスタン、タリバン勢力と和平交渉****
AP通信は21日、パキスタン政府が仲介者を通じて、イスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」と和平交渉の可能性を模索するために半年以上にわたって協議を行っていると報じた。

TTP側は、TTPが拠点とする同国北西部部族地域の南ワジリスタン地区からのパキスタン軍撤退や、同地区で2009年から始まった軍事作戦で生じた被害への補償のほか、パキスタン政府に米国との関係を断つことを求めている。

TTPは、複数の武装勢力による連合体で、最近は新たな武装勢力が形成されていることから、合意形成がどこまで可能かは不明。また、米国が和平交渉に難色を示す可能性が強い。パキスタン政府はこれまでも一部地域で武装勢力と和平合意を結んだことがあるが、長く続いたことはなく、武装勢力の再結成や強化につながっている。【11月22日 産経】
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パキスタン政府にアメリカとの関係を断つこと・・・というのはアメリカとしては呑めない条件ですが、“クリントン米国務長官は10月のパキスタン訪問の際、TTPやハッカニ・ネットワークなどの武装勢力を名指しし、交渉に引き込む努力が必要と強調。こうした米国の圧力を受け、パキスタンは武装勢力への働き掛けを強めているもようだ。”【11月22日 時事】ということで、アメリカにとっては内容次第というところでしょうか。

しかし、“メモゲート”、更に今回のパキスタン検問所越境攻撃によって、アメリカにとっては望ましくない方向で協議が進む可能性があります。
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