孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ソマリアへのケニア軍介入  Twitterで攻撃宣言・住民への注意喚起

2011-11-09 21:49:11 | ソマリア

(10月4日 ソマリアの首都マガディシオの教育省建物付近で爆弾テロがり、少なくとも70人が死亡しました。近くにいた兵士のほか、奨学金受給申請の結果発表を待つ学生や親たちが犠牲になっています。イスラム武装勢力アルシャバブが犯行を認める声明を出しています。 “flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/6211127768/

ソマリアのイスラム武装組織に“キレた”ケニア
実質的無政府状態が続き、イスラム過激派組織アッシャバブが広い地域を実効支配しているソマリアに、隣国ケニアが軍事介入したことは、10月21日ブログ「ソマリア  外国人誘拐事件が相次ぐケニアが侵攻 飢饉で住民支持を失うアルシャバブ」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20111021)で取り上げたところです。

上記ブログでも“世界の警察官を自任するアメリカも直接介入したがらない、アフリカ連合のPKO活動も十分に機能していないソマリアに、自国でのテロ激化のリスクを犯してまでケニアが単独介入する意図も、また、どこまで介入する気なのかもよくわかりません”と書いたように、ケニアの意図は不思議でした。

アメリカの支援・要請でもあったのかとも思いましたが、下記Newsweek記事によれば、長年のソマリア内戦で膨大な人数の難民がケニアに押し寄せていること、そのなかに不穏分子も混ざっておりケニアの治安が悪化していること、海賊行為による観光産業が打撃を受けていることなどがあって、そこに一連の外国人誘拐事件が起きたため、ケニア側が「キレた」とのことです。

****悲劇を助長するケニアの怠慢****
アフリカ ソマリアの武装組織によるテロ続発を受けて派兵を決めたケニア政府だが警告を無視してきた責任は重い

雨期が終わるまで待つべきだったのかもしれない。ケニアが先月ソマリアに送り込んだ軍隊は今、文字どおり泥沼と格闘している。しかし隣国の内戦にはまり込むという「泥沼」に比べれば、雨期など問題にならないかもしれない。

ケニアがついに隣国に「キレた」のを責めることはできない。ソマリア内戦のためにケニアが過去20年間に受け入れてきた難民は数十万人を下らない。最近は大干ばつに見舞われた地域からも難民が押し寄せている。世界中から送られてくる緊急援助食糧を、イスラム原理主義組織アルシャバブが横取りしてしまうのも一因だ。
国境から約100キロ内陸にあるケニアの町ダダーブには、「人口」40万人を超える世界最大の難民キャンプがある。しかし新たにやって来る難民の中には密輸業者や武器商人、民兵たちが交じっていて、ケニアの治安に大きな懸念を与えている。

海上では、ソマリアの海賊がケニアのクルーズ観光業と海運業に大きな打撃を与えている。こうした隣国からの迷惑にほとほと愛想が尽きかけていたところに、一連の誘拐事件が起きた。(中略)

こうしてケニアの堪忍袋の緒が切れた。長年ソマリアの武装組織と戦う準備はしてきたが、それを実行に移す時が来たと判断したようだ。ただし派兵の厳密な範囲と目的は、軍も政府も明らかにしていない。
当初は国境に緩衝地帯を設けるのが目的かと思われた。だがケニア軍は国境地帯を越えて、アルシャバブの実効支配下にある港湾都市キスマヨに向けて進軍を続けている。港湾使用料はアルシャバブに莫大な収入をもたらしているから、それを断とうという計画なのかもしれない。【11月9日 Newsweek日本版】
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上記記事によれば、ソマリア暫定政府は、軍隊を派遣したケニアに正式に抗議しているそうですが、これに対してケニア政府は、派兵はソマリア側の要請を受けたからだと主張しています。

****派兵はソマリアの要請*****
・・・・ケニアのモーゼス・ウェタングラ外相は、ソマリアの首都モガディシオを公式訪間中の先月中旬にアルシャバブに狙われたものの、間一髪で難を逃れた。このときソマリア政府に支援をはっきり求められたと言う。
「ケニアはソマリアに侵攻したのではない」と、ウェタングラは言う。「ケニアで訓練を受けたソマリア暫定政府軍の兵士たちを支援しているだけだ」

だがソマリアヘの軍事介入は規模が小さ過ぎるだけでなく、時期も遅過ぎた可能性がある。アメリカがアフガニスタンやイラクで痛いほど学んだように、アルシャバブのような武装組織を根絶するのは容易ではない。
追い詰められれば、彼らはほぼ確実にゲリラ戦を展開するだろう。その被害を受けるのはソマリアにいるケニア兵だけではない。ケニア国内にはナイロビをはじめ各地に大きなソマリア人コミュニティーがある(ダダーブ難民キャンプもその1つだ)。武装兵らがそこを拠点に攻撃を仕掛けるかもしれない。【11月9日 Newsweek日本版】
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ケニア軍だけでこの問題を解決できるとは思えない
しかし素人考えでも、内戦状態が続くソマリアへの軍事介入は、相当の覚悟が必要に思われます。
****アメリカの二の舞いか****
・・・・ケニアがソマリア発の脅威すべてに対処するのは不可能かもしれない。しかしケニアはまともな国境管理さえ怠ってきた。ケニア軍は無能ではないが、海賊に大きな収入源がある限り、そしてソマリアに海賊行為を取り締まる強力な中央政府がない限り、ケニア軍だけでこの問題を解決できるとは思えない。

何とかキスマヨをアルシャバブから解放できたとしても、ソマリア南部のほぼすべての武装勢力がこの街を制圧するチャンスをうかがっている。
かといってキスマヨの管理をソマリア暫定政府に任せるのも良策とは言えない。暫定政府は確かに国際社会の承認を得ているが、その機能不全と腐敗ぶりは有名だ。地元住民にとって、暫定政府も同じパイに群がる利益団体の1つにすぎない。

アメリカも、この地域で最大の軍事力を誇るエチオピアも、ソマリア内戦を解決しようと試みて失敗してきた。ソマリアは氏族の縄張りによって国内が分裂しているため、内戦が複雑化・長期化する傾向がある。財政問題や政治課題も山積する。

多くのソマリア人は、アルシャバブとその残虐で非情な行為に終止符が打たれるのを心から願っているに違いない。だがアルシャバブが消滅したからといって、魔法のように平和が訪れるとは期待できない。ソマリアには、自分たちの邪魔をする者には誰だろうが戦いを挑む武装組織がうようよしているのだ。

それだけにケニア軍のソマリア駐留が長引けば、アメリカとエチオピアが痛い思いをして学んだのと同じことをケニアも学ぶ羽目になりかねない。どんなに純粋な意図があっても、ソマリアは自分の国に首を突っ込む者をたたきつぶそうとする、ということを。【11月9日 Newsweek日本版 アンドレア・ポーンステット】
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Twitterでの攻撃宣言、注意喚起
現在、ケニアの軍事作戦がどういう状態にあるのかはよくわかりませんが、11月1日にはケニア軍がツイッター上でソマリア10都市への攻撃を宣言し、住民への注意を喚起しています。

****ケニア軍がTwitterでソマリアに宣戦布告****
ケニア軍は1日、ソナリアの10都市へ攻撃を行うということを、公式ツイッター上で宣言した。
アルジャジーラ英語版によると、ケニア軍スポークスマンが、ソマリアの都市への攻撃を予告した。ケニア政府は、ソマリアの武装勢力によって国内で誘拐拉致事件が多発していると断定し、攻撃を行うことを決定した。
攻撃を行う上で、一般市民らに注意を呼び掛ける意味もあり、ツイッターで行った。【11月2日 MSN】**************************

このツイッター上での宣戦布告、住民への注意喚起については、グローバル研究グループの佐藤仁氏が詳しく論じています。

****ケニア・ソマリア紛争~Twitterによる攻撃宣言、注意喚起、戦況報告:「デジタル・デバイド」が生む「犠牲の格差****
・・・・今回のケニアとソマリアの紛争はリアルな紛争である。そのリアルな紛争での攻撃宣言、注意喚起、戦況報告を軍の公式Twitterを通してネット上で行うというのは新たなスタイルとして注目に値する。

「デジタル・デバイド」から「犠牲の格差」へ
一方で、ITUの発表している統計によると、インターネット普及率は2010年ケニアが20.9%、ソマリアは2009年に1.1%である。(2010年はデータなし)
ネットを見ることができる環境にいる国内外の人々は、これらのツイートで状況を把握することが可能かもしれないが、実際に現地にいる人々にケニア軍のTwitterでの攻撃宣言、注意喚起がいったいどれだけの人に届くことができているのであろうか。
本当にこのような情報が必要な人々に情報が届かないで犠牲になってしまうこともあるだろう。

ネットを介した紛争時の攻撃宣言、注意喚起、現状報告というのは今後の紛争時の情報伝達手段として新たな方式になるだろう。また、今までは反戦の署名を集めたり、政府間での交渉に頼らざるをえなかったが、国際社会はネットを通じて一般市民の戦争反対の声を直接政府、軍に伝えることもできる。今回のケニア軍もいくつかのリプライを返してフォロワーらとコミュニケーションをしている。

紛争時のメディアの在り方が変わりつつあることが理解できる。しかし、21世紀のリアルな紛争、内戦、武力行使の犠牲となる人々はインターネットにアクセスして情報収集することができる環境にはいないことが多いだろう。
情報にアクセスできる人々とできない人々との「デジタル・デバイド」が紛争時の「犠牲の格差」を生じることが大きな問題になる可能性が想定される。
紛争終了後に、何らかの形式で事前に通知していたという人道的な立場からも国際社会からの非難は軽減できる可能性がある。

しかし何らかの形式としてネット(Twitter)を用いたとしても、どの程度の人にまで情報が届き、攻撃前に避難することができるかが重要である。他にはICTの活用例としては、携帯電話でのSMS(ショートメッセージ)を活用した周知方法なども考えられる。いずれにせよ携帯電話の保有率やSMSを読める識字率を考慮する必要があるだろう。

今後は「デジタル・デバイド」が紛争時の「犠牲の格差」につながる可能性が出てくることを国際社会は認識する必要がある。
願わくは、あらゆる形式の紛争がなくなることを祈願している。
今回のケニア軍の戦況を伝えるツイートも早く終わり、平和になることを祈願している。
http://www.icr.co.jp/newsletter/global_perspective/2011/Gpre201114.html 【グローバル研究グループ 佐藤仁氏】
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なお10月24日頃、ケニアに続いて、リビアでの戦いを終えたばかりのフランスもソマリアへ軍事介入を計画しているとのTV報道が、「ヌーベル・オプセルヴァトワール」誌の情報としてありました。
ただ、フランス・サルコジ政権は欧州経済危機への対応でそれどころではないように思えますが・・・。
だからこそ、外に国民の目をむけさせるために・・・ということでしょうか。

ダダブ難民キャンプから10万人を移動
軍事介入に併せて、ケニア政府は、ソマリア難民キャンプがテロ組織の温床となるのを防ぐため、ソマリア難民10万人をソマリア国境から離れた別のキャンプに移す方針であることが報じられています。

****ソマリア難民10万人移動へ ケニア政府、テロ警戒****
ケニア東部にある世界最大のダダブ難民キャンプに住む46万人余りのソマリア難民のうち10万人を、ケニア政府がソマリア国境から離れた別のキャンプに移す方針であることが、政府と国連への取材で分かった。ケニア政府は、キャンプを運営する国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に1日までに方針を伝えた。

ソマリア国境近くのキャンプには、イスラム武装勢力シャバブのメンバーや支持者もいると指摘される。ケニア側が、収容能力を超えているキャンプが組織の温床になることを懸念し、治安に配慮したことが移動の背景にあるとみられる。(中略)

移動の対象はここ半年前後でキャンプにたどり着いたソマリア人。移動先はダダブから700キロ以上離れたケニア北西部のカクマ難民キャンプで、現在約8万人のスーダン難民などが暮らしている。時期は未定だが、移動にはバスで4日ほどかかるといい、実際に移動を担うことになるUNHCRが検討を進めている。(後略)【11月2日 朝日】
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なお、周知のように、ソマリアもケニアも深刻な干ばつに見舞われており、ソマリアでは国連による飢饉宣言がだされています。
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