孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

欧州財政・金融危機  EFSFへの出資を中国に要請 対中武器禁輸措置解除の検討も

2011-11-03 21:05:30 | 欧州情勢

(国民の生活と欧州・世界経済の行方を背負って苦悩する(ように見える)ギリシャ・パパンドレウ首相 “flickr”より By theseoduke http://www.flickr.com/photos/theseoduke/6304216809/ )

【「ギリシャの行動は理性を失っており、その考え方は危険だ」】
EUのユーロ圏17カ国は10月26日夜から27日朝にかけ、ブリュッセルで首脳会議(サミット)を開き、民間金融機関の保有するギリシャ国債の元本削減率を50%に引き上げる、金融機関の自己資本比率を9%に引き上げ、資本増強を図る、また、欧州金融安定化基金(EFSF)の融資能力を4~5倍の1兆ユーロ(約106兆円)規模に拡充する内容の包括策で合意、その具体化はともかく、一応の対応策を講じたことは報道のとおりです。

そして、この合意で一息ついたのもつかの間、ギリシャのパパンドレウ首相が、欧州債務危機への包括対策を巡る国民投票を12月4日にも実施するという、「瀬戸際戦術」「感情的な賭け」とも、「ギリシャの行動は理性を失っており、その考え方は危険だ」(フランス大統領筋)とも、また、「首相はギリシャがEUの一員であり続けるかどうかを、賭け事のように扱った。彼はすべてを破壊しようとしている」(国内最大野党の新民主主義党広報担当)とも評される対応を打ち出したことが、欧州各国を驚愕させていることも周知のところです。

国外からは緊縮策を“命じられ”、サルコジ仏大統領からは「初めからユーロ圏にギリシャを入れるべきではなかった」となじられ、国内では生活破壊・窮乏生活の激しい批判の矢面に立つパパンドレウ首相の苦悩は察するに余りあります。
みんなが好き勝手を言うのであれば、この際国民投票に委ね、いかかなる結果になっても、それは“国民の選択”という形にしてしまいたい・・・という気持ちもあるのではないでしょうか。

3兆ドルの外貨準備を持つ中国への期待
ギリシャの対応と並んで、欧州の危機回避のカギを握るのが、世界各国からの資金集めです。
なかでも、巨額の外貨準備を有する中国に欧州から熱い視線が向けられています。
包括案合意直後、欧州金融安定基金(EFSF)のレグリング最高経営責任者(CEO)は北京に赴き、中国政府にEFSFへの出資を要請しています。

****欧州基金トップ、中国と協議 ****
EFSFのレグリング最高経営責任者(CEO)は28日、北京を訪れた。早速、中国の財務省と中国人民銀行(中央銀行)の担当者と協議し、お金を出してもらえないか打診した。
会談後に記者会見したレグリングCEOは「外貨準備が豊富な中国は、安全で魅力的な投資先を常に探している」と述べ、3兆ドル(約225兆円)の外貨準備を持つ中国への期待をうかがわせた。

ただ中国からは、はっきりした返答をもらえなかった。財務省の朱光耀次官はこの日の会見で「まだ議論できる段階ではない」と説明。EFSFがつくる新会社が必要とする資金の規模など「具体策が決まっていない」とみているからだ。

ただし、欧州が包括策を決めたことについては「歓迎」(外務省)する姿勢を表明。欧州は中国最大の貿易相手で、技術や投資の重要な源であるため、EFSFなどにお金を出すことには前向きだ。今後、欧州が示す条件などを見極め、最終的に決めるとみられる。

レグリングCEOは週明け31日に日本を訪れ、資金支援を打診する。日本政府はすでに、欧州への支援を拡大する方向で検討している。【10月29日 朝日】
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【「中国はこれまで、欧州を債務危機から救うことができると言ったことはない」】
“欧州は中国最大の貿易相手で、技術や投資の重要な源であるため、EFSFなどにお金を出すことには前向きだ”とは言っても、信用不安に揺れる地域への投資であり、中国としてもそれなりの見返りを当然に要求するところでしょう。
二つ返事で「了解」とは言えません。

****欧州が中国に救済を期待するのは「見当違い」=元金融政策委員****
中国人民銀行(中央銀行)の元金融政策委員の余永定氏は、英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙に寄稿し、欧州が中国に救済を期待するのは「見当違い」との見方を示した。

同氏は、中国は支援する意思も能力もあるとし「これまでと同様、欧州金融安定ファシリティー(EFSF)債に投資することにやぶさかでない。導入されれば、ユーロ圏共同債にも投資するだろう」と述べた。
一方で「決定は、金融上の条件を考慮した上でなされるべきだ。中国の支援が予想以下でも、中国を責めてはいけない。中国はこれまで、欧州を債務危機から救うことができると言ったことはない」としている。 

仏カンヌで今週開催される20カ国・地域(G20)首脳会議では、中国からユーロ圏支援を引き出すことが、焦点の1つになる見通しだ。
EFSFのレグリング最高経営責任者(CEO)は週末、中国を訪問し、EFSFへの投資を促した。中国側は、欧州が危機を克服できると確信しているとするにとどめ、欧州政府債の購入増は約束しなかった。【11月1日 ロイター】
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【「中国の資金提供を受ければ、欧州は相応の対価を支払うことになるだろう」】
欧州内にも、こうした中国頼みの姿勢への批判もあります。

****ユーロを中国の人質にしてよいのか(英フィナンシャル・タイムズ紙社説****
ユーロ圏の金融危機を打開する包括戦略を記した文書のインクが乾く間もなく、欧州金融安定基金(EFSF)のレグリング最高経営責任者(CEO)は北京に赴き、中国政府にEFSFへの出資を要請した。ファンドマネジャーたるもの潜在的な投資家のいるところならどこにでも出かけていくのだろうが、欧州の賢明な政治家は今回の同氏の行動を黙殺するに違いない。

■EFSFは中国に距離をおくべき
欧州連合(EU)の首脳の多くは、ユーロ圏が対外的には均衡が取れているという、単純だが本質的な事実関係をきちんと理解していない。ユーロ圏全体としてみれば、輸出入額も出入りする資金量も実際には均衡している。今回の危機は、単一通貨同盟であるユーロ圏が全体として対外的な資金繰りに行き詰まったためではない。あくまで加盟国内の著しい経常収支の不均衡、および公的セクターと民間セクターの負担のインバランスが露呈した結果というのが真実だ。

EFSFの目的はこの不均衡を是正することにある。財政が比較的健全な加盟国の保証を得ることで、EFSFは民間から資金を調達して国債市場で資金調達が難しくなっている加盟国に資金を供給する。EFSFが投資国の候補である中国に接近すること自体は問題ないが、ユーロ圏全体は中国資金を必要としないし、むしろ距離をおくべきだ。

政治を見れば理由は明白である。中国は困難に陥った欧州の足元を見て見返りを求めてくるだろう。世界最大の対米債権国である中国が、米国からなかなか資金を引き揚げられない例からも明らかなように、債権国になることは、債務国を支配すると同時に債務国に支配されることでもある。とはいえ、中国の資金提供を受ければ、欧州は相応の対価を支払うことになるだろう。具体的には、人民元切り下げ問題や中国国内の人権状況に対する批判の抑制を求めてくるのではないか。

■中国からの投資に利点はない
その対価は、経済的に不可欠なものを得るのだとしても、なお割高だ。ましてや手に入る経済的恩恵が単なる幻想とすればなおさらである。もし中国からの投資でユーロ圏への資本の流入が起きればユーロ高となり、加盟国の貿易収支に悪影響が出るだろう。かりにそれが民間資本の流出で相殺されたとしても、本来は欧州の投資家がEFSFに直接提供するはずだった資金を中国が代わって提供するだけのことで、事態は何一つ変わらない。

いずれにせよ、ユーロ圏の得になることはなにもない。対EFSF投資には極めて高いリスクが伴うので中国にそのリスクを負わせたいというのなら話は別だが、欧州首脳としてそんなメッセージを発信してはならないのは明白だ。中国側も欧州のかもにされるかもしれないという警戒感をあらわにしており、いずれにせよ、レグリング氏の努力は大した成果を生まないだろう。

中国マネーはできるだけ話題にしない方が好ましい。自身の信頼性が問題になっている時に、非生産的もしくは逆効果となる恐れのある政策に人々の注目を集める必要はないということである。【11月1日 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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【「中国との関係を将来どうしていくのかという、大きな問いの一部として検討する必要がある」】
“中国の資金提供を受ければ、欧州は相応の対価を支払うことになるだろう”とは言っても、目の前にある危機をなんとか乗り切るためには・・・という思いもあります。
アシュトン外交安保上級代表(EU外相)は、対中武器禁輸措置の解除について、「中国との関係を将来どうしていくのかという、大きな問いの一部として」検討することを明らかにしています。

****対中武器禁輸の解除検討…EU外相、支援思惑****
欧州連合(EU)のキャサリン・アシュトン外交安保上級代表(EU外相)は2日、都内で読売新聞と会見し、中国がEUに求めている対中武器禁輸措置の解除について「中国との関係を将来どうしていくのかという、大きな問いの一部として検討する必要がある」と述べ、前向きに取り組む考えを明らかにした。

アシュトン氏は先月25日、北京で楊潔チ外相らと会談した際も、この問題を協議した模様だ。EUはユーロ圏の債務危機で中国に支援を求めており、3日開幕する主要20か国・地域(G20)首脳会議を前に禁輸解除の可能性を示し、支援確約につなげたい思惑とみられる。
アシュトン氏は会見で、「EUは中国との強固で建設的な関係を望んでいる。中国の主張に耳を傾けることに前向きであることが重要だ」と強調した。【11月3日 読売】
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中国がこの機に乗じて大きな見返りを手にするのか、あるいは、欧州の“かも”にされる危険を避けるのか・・・注目されるところです。

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