(テランガナ地方の農民 干ばつの畑で “flickr”より By mbharathbhushan
http://www.flickr.com/photos/68672615@N00/1129143793/)
中国と並ぶ新興国インドは、多民族・多宗教国家ながら独立以来政党政治が定着しており、軍事クーデターなども起きていないことから、その膨大な人口と併せて、“世界最大の民主主義国”とも呼ばれています。
ただ、貧困・格差・身分制度・宗教対立など、根深い多くの問題を抱えていることも周知のところです。
【経済発展の恩恵を受けていない・・・】
そのインドで、南部のある地域の単独州への昇格を政府が認めたことから、大きな社会混乱がおきています。
****インド、州昇格を容認 テランガナ 他地域の運動刺激****
半世紀にわたり、インド南部アンドラプラデシュ州から単独州への昇格を求めていたテランガナ地域に対し、インド政府が要求に応じて昇格を容認した。これを受け、同州は昇格をめぐる賛成・反対派が衝突、バスが焼き討ちにあうなど治安が悪化している。政府は昇格を認めることで長年の地域対立の幕引きを図ろうとしたが、対立に拍車がかかる事態になっている。また、今回の政府判断が、他地域の昇格運動を刺激するのは必至で、「パンドラの箱をあけてしまった」との指摘も出ている。
政府が9日夜、決断に踏み切った背景には、テランガナ地域の政党代表が州昇格を求めて約10日間、断食を続け、衰弱が激しくなったことがある。地元筋によると、同州の国民会議派幹部が、断食で政党代表の生命が危険にさらされれば、問題拡大を招きかねないとして、昇格容認を決定。最終的に政府が決断したという。州都で、インドのIT(情報技術)企業の集積地ハイデラバードは外国資本の受け入れに懸命なだけに、混乱によるダメージ回避の狙いもあったようだ。
テランガナは1950年代に、ほかの地域との合併でアンドラプラデシュ州となった。もともと反対を押し切っての合併だったことに加え、テランガナ地域の住民は、同地域にあるハイデラバードが経済発展を遂げる一方で、「その恩恵を受けていない」との思いが強く、単独の州になることが、現状打開の唯一の方法だと訴えてきた。だが、インドの歴代政権は、他でくすぶる州格上げ運動への影響を懸念し、テランガナ問題を放置してきた。
政府の決断で同地域は歓喜にわいたが、新たな州ができれば、ハイデラバードも新州に移されかねないとして、テランガナ地域以外の州議会議員(定数294)らが猛烈に反発。11日までに120人以上の州議員が抗議して、辞職する事態に発展した。
インドは現在、国内9カ所で単独州への昇格を求める運動を抱えている。すでに他州では州昇格運動の活発化を宣言する動きも出ており、今後これが勢いを増せば、政府を揺さぶる可能性もある。【12月12日 産経】
**************************
テランガナ地域の単独州への運動は、“同地方は州人口7600万人のうち3100万人を占め、州都ハイデラバードを除くと、開発から取り残された貧困人口が多い。独自の方言や文化があるとされ、1969年には、分離派と治安部隊が衝突し、約360人の死者を出した過去がある。”【12月15日 朝日】という背景があります。
一方、州分割に反対する他地域の住民は、鉄道駅を襲ったり、バスに放火したりして暴徒化し、3人が抗議の自殺を図る混乱が生じています。
【開いたパンドラの箱】
更に、上記産経記事で懸念されていたように、混乱は同様問題を抱える他の地域に拡大しています。
****インド南部の暴動、各地に飛び火 州分割めぐり大混乱*****
アンドラプラデシュ州の動きに触発され、西部マハラシュトラ州ナグプールでは「ビダルバ州」の分離を求める若者グループが14日、急行列車を乗っ取った。東部の西ベンガル州では「グルカランド州」の創設を求めるネパール系グルカ族が、観光都市ダージリン一帯の道路を一時封鎖。一部の活動家は無期限の断食を始めた。
混乱に拍車をかけるように西ベンガル州で活動する反政府武装勢力・インド共産党毛沢東主義派が、同派の勢力下にある3地区の自治を要求すると発表した。北部ウッタルプラデシュ州でも、野党系の州首相が同州を3分割する案を中央政府に提案。これに対し、与党・国民会議派は「騒ぎに便乗して、混乱の火に油を注ごうとしている」と警戒感を強めている。
インドには800以上の言語があるとされ、47年の独立後、言語圏に応じた州の再編が進み、現在28州がある。今年5月に開票された総選挙では、特定の州を基盤とした多数の地域政党が連合を組む動きを見せている。 【12月15日 朝日】
**************************
まさに“パンドラの箱が開いた”状況です。
インド共産党毛沢東主義派の問題だけでも手に余るような大問題なのに、こんなにあちこちで問題が噴出したらシン首相も頭を抱えていることでしょう。
【毛派に、アッサム州分離独立派】
インド共産党毛沢東主義派については、こうした反政府勢力が放置され、警察も全く手出しできないような形で多くの地域をその影響下に置いていること自体が不思議でしたが、11月に政府が大規模掃討作戦を行うことが報じられていました。
****インド毛派が猛威、政府は大規模掃討作戦へ*****
インド東部一帯で、左翼過激派「インド共産党毛沢東主義派(毛派)」が鉄道や公共施設を襲撃する事件が頻発し、犠牲者の数も急増。危機感を募らせるインド政府は、11月中にも大規模な毛派掃討作戦を開始する構えと報じられている。
ジャルカンド州西シングブムでは19日深夜、線路が爆破され通過中の客車が脱線。印PTI通信によると2人が死亡、55人が負傷した。数時間後には、ジャルカンド州とオリッサ州の州境で武装集団が鉱山に侵入して鉄鉱石輸送施設を爆破する事件も起きた。当局は二つの事件とも毛派の仕業と断定している。
インドのシン首相は10月、毛派は「国内治安上、最大の脅威だ」と述べ強い危機感を表明。地元報道によると、政府は、毛派が拠点とする密林地帯での作戦に備え、内務省精鋭部隊の訓練や空軍の無人偵察機による監視活動を実施している。
毛沢東思想の影響を受け、農民や貧困層救済を掲げて1960年代から警察署や政治家襲撃を繰り返してきた毛派は現在、インド29州中20州で活動が確認されている。構成員は数万人とされるが詳しい実態は不明。今春には総選挙妨害を狙って各地で投票所を襲撃するなど攻勢を強めている。
ニューデリーの「紛争管理研究所」の集計によると、毛派絡みの事件による死者数(毛派メンバーを含む)は2008年の638人に対し、09年は11月16日現在873人と急増している。【11月21日 読売】
*************************
掃討作戦がどのように実施されているのか、そのあたりのニュースは目にしていません。
インド北東部アッサム州では分離独立派のテロも頻発しています。
****連続爆弾テロ、7人死亡 インド・アッサム州****
インド北東部アッサム州ナルバリで22日、警察署の前で2回の爆発があり、地元テレビなどによると少なくとも7人が死亡、35人が負傷した。警察当局は過激派によるテロとみて、同州の分離独立派「アッサム統一解放戦線(ULFA)」などの関与を調べている。(中略)インド北東部では、ULFAをはじめ多数の武装グループが活動し、爆弾テロが相次いでいる。【11月22日 朝日】
**************************
【安定した日本社会】
こうした一連の記事を見て私が思うのは、インドが抱える問題の話ではなく、日本がいかに安定した社会であるかということです。
たとえば基地問題で揺れる沖縄。
固有の歴史・文化を持ち、歴史的には薩摩藩、明治政府による収奪、先の戦争における惨劇、現在の基地問題など、常に本土の犠牲になってきました。
街角のアンケートで聞く「やっぱり基地は沖縄で・・・」といった本土住民の言葉に、暴動のひとつやふたつ起きても不思議はないようにも思えるのですが、そういったことはないようです。
鳩山首相も連日マスコミに叩かれて心が折れそうな日々でしょうが、インドのシン首相の抱える問題に比べれば、あるいはチベット・ウイグル問題、経済格差、多発する住民暴動など、中国・胡錦濤国家主席の抱える問題に比べたら、とるにたりない問題ばかり・・・というのはなんの慰めにもならないでしょうか。