(ザイド派武装勢力と政府軍の戦闘で犠牲になった子供たち “flickr”より By الوعد الصادق
http://www.flickr.com/photos/42669296@N04/3953876582/)
【3つの紛争】
アラビア半島南西部のイエメンは、物流の要であるスエズ運河に続く紅海への出入り口に、また、海賊問題のソマリア対岸に位置し、地政学上重要な場所にありますが、経済的には中東地域の最貧国で、主要な外貨収入源である原油や天然ガスも枯渇しつつあると言われています。
イエメンは90年に南北が統合しましたが、94年に内戦が発生。開発の遅れる南部では分離派と治安当局の衝突が続き、多数の死者も出ています。
この南部分離派の他、北部のイスラム教シーア派の一派ザイド派武装勢力と政府軍の戦闘、国際テロ組織アルカイダの活動という3つの紛争にイエメンは直面しています。
紛争・混乱が貧困を助長し、貧困が新たな紛争を生む・・・悪循環です。
こうした社会混乱の中で、11月には首都サヌア近郊で、コンサルタント会社社員、真下さんが地元部族民に拉致される事件も起こりました。
【代理戦争】
北部ザイド派武装勢力と政府軍の衝突激化は、8月頃から国際ニュースで見かけるようになりましたが、未だに収まっていません。
イエメン政府はザイド派武装勢力について、共和制に移行した1962年のクーデターまで続いたイスラム聖職者支配体制の復活を狙っていると主張していますが、ザイド派は政府の抑圧政策に抵抗しているだけと反発しています。
事態は、政府軍を支援する隣国サウジアラビアとアメリカ、ザイド派武装勢力を支援するイランを巻き込んで代理戦争の様相も呈しています。
****イエメン:泥沼内紛、代理戦争の様相も サウジ・米国連合VSイラン*****
イエメン北西部の反政府武装勢力と政府軍の戦闘が、サウジアラビアを巻き込んで拡大している。対立関係にあるイランと米国を巻き込んだ「代理戦争」の様相を呈し、避難民は国連推定で15万人以上に達した。世界的な産油地や海上交通の要路が近いだけに、戦闘激化の影響が懸念されている。
戦闘は今月(11月)3日、イスラム教シーア派の一派ザイド派中心のイエメン反政府勢力が、イエメン政府を支援するサウジに攻撃を仕掛けたことで拡大した。サウジ軍は空爆や砲撃で反撃。国境地域に幅約10キロの緩衝地帯を設置しようとしている。専門家からは「ザイド派の背後にいるイランのけん制が狙い」との見方が出ている。各種報道によると、22日までにサウジ側は兵士ら13人が死亡、ザイド派側にも数十人単位で死者が出た。
ザイド派には、シーア派国家イランの宗教指導者らによる財政支援が指摘されている。イランのモッタキ外相は11日、「治安回復のため、イエメン政府に協力する用意がある」と発言したが、イスラム教スンニ派を主流とするイエメン政府は「内政干渉は拒否する」(外務省報道官)という姿勢だ。
米軍事情報誌「ストラトフォー」によると、イランと対立関係にある米国は、サウジやイエメンに反政府勢力の布陣を示す衛星写真などを提供。サウジはイエメンに毎月120万ドル(約1億円)の財政支援を行っているとの情報もある。核開発問題や中東での勢力争いで対立する米・サウジ陣営とイランが、イエメン紛争の両当事者を陰で支援し合っている状況だ。
イエメンの混乱は、国内に拠点を持つ国際テロ組織「アルカイダ」の活動激化につながる懸念もある。4日にはイエメン東部で治安当局幹部ら5人が殺害され、「アラビア半島のアルカイダ」が犯行声明を出した。
国連によると、イエメン国内の戦闘避難民は15万人を超え、難民キャンプでは栄養失調が数百人単位で発生している。サウジ側でも240村の住民が治安上の理由で強制退去させられた。(後略)【11月28日 毎日】
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サウジアラビア、アメリカの関与については、ザイド派武装勢力は今月13日、サウジアラビア軍がイエメン北部サーダ州の村を空爆し、住民70人が死亡、100人以上が負傷したと発表しています。
これに対しイエメン軍報道官は、攻撃したのはイエメン軍機で、標的もザイド派反政府勢力だったと反論しています。また、サウジ軍は自国内でザイド派への空爆を行っていますが、イエメン領内での作戦は否定しています。【12月14日 毎日より】
また、15日には、イエメン北部でアメリカ軍が参加して行った空爆により、少なくとも120人が死亡したと発表しています。アメリカ側はこれまでのところ、この件に関してコメントしていません。【12月16日 ロイター】
この地域での戦闘の激化・長期化は、スエズ運河を経由する海上交通の不安定化を招く恐れがあります。
しかし、サレハ・イエメン大統領は「反政府勢力の完全排除まで戦いは継続する」と強気の姿勢を崩していません。戦闘は標高2000メートル前後の山岳地帯でゲリラ戦化しており、さらなる長期化が予想されています。
【アルカイダ】
一方、アルカイダ関連では、その拠点を治安当局が急襲したことが報じられています。
****アルカイダ系34人殺害=外国施設に自爆テロ計画-イエメン*****
イエメンからの報道によると、同国治安筋は17日、南部アビヤン州と首都サヌア北方のアルハブ地区で武装勢力の拠点を急襲し、外国施設を狙った自爆テロを企てていた国際テロ組織アルカイダ系の武装勢力34人を殺害、17人を拘束したことを明らかにした。
同筋はロイター通信に、8人の自爆テロ実行犯が爆発物を準備し、外国施設や学校などを攻撃対象としていたと言明。今回の作戦によりテロ計画を阻止することができたという。【12月17日 時事】
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アメリカがイラク・アフガニスタンでテロとの戦いを進めて、仮にその地で成果をあげたとしても、アルカイダのような武装勢力は、パキスタン、ソマリア、イエメンなど周辺地域、紛争地域に拡散していくように見えます。