BE HAPPY!

大山加奈選手、岩隈久志選手、ライコネン選手、浅田真央選手、阪神タイガース他好きなものがいっぱい。幸せ気分を発信したいな

テンさんがan.anに

2007-07-17 16:29:56 | バレーボール


 新潟で大きな地震がありました。台風の被害もあちこちであった模様。
こんな時は楽しいことをするのが申し訳ないような気持ちになってしまいますが、実はそれはよくないんだそうです。
不幸な出来事が起きると、そこからネガティブな波動が発生し、さらなるネガティブなものごとを引き寄せてしまうので、無事だった人はむしろ、楽しい明るいオーラを発信して、ネガティブなオーラを打ち消した方がいいそうです
もちろん、無神経に馬鹿騒ぎをするということではないでしょう。
ただ、自分が「嬉しい」「楽しい」と感じることは否定せず、素直に喜んで大切にすればいいのだと思います。

というわけで(?)、いつも通りいってみよー


 全日本のキャプテン、テンさんがan.anに登場。
この号のテーマは、「タフな女のつくり方」です。
テンさんは、「4人の勝負師に聞きました。本番にめっぽう強くなるためには?」
という頁に、空手家・小林由佳さん、棋士・矢内理恵子さん、バレエダンサー・上野水香さんと共に、本番で力を発揮する秘訣、メンタルトレーニングの3原則を披露。

20代前半の頃は、プライベートな時間も四六時中バレーのことを考えていたというテンさん。

「だんだんと年齢を重ねるにつれ、試合でトップコンディションに持っていくためには、ときどき気持ちの面で手綱をゆるめて調整しなきゃいけないことが分かりました。でも、そのさじ加減は人それぞれ。たくさん経験していく中でどれが正解か不正解か、自分に合っているかいないかを見極めることが必要なんです。
あとは、ひたすら練習を重ねて自信をつけること。何も準備しないで本番に臨めば、失敗するのは当然。『やるだけのことはやったから、もう試合をするだけ』と自分に思い込ませることができればいいと思います」


そして、テンさんのメントレ三原則は…

ちゃんと練習することが何よりの自信に
自分なりの調整法をしっかり作る
試合前は普段どおり。特別なことはしない

さすが、世界で戦うテンさんだけあって、一言一言が説得力あります。
「何も準備しないで本番に臨めば失敗するのは当然」なんて、けっこうグサッときます。
試合場に着いた時には80%勝負は決まっている、なんていわれますが、強いチームほど相手のデータをちゃんととって対策を立てたり、自分達の連携をきちんと詰めたり、準備がしっかりできているんですよね。

ちなみに、他のお三方のメントレ三原則は…

空手家・小林由佳さん
赤いヘアゴム、赤い下着でゲン担ぎ
「押忍!」の声で気合いを注入
「倒したい」より「負けたくない」

棋士・矢内理恵子さん
緊張は決して悪いことではない
客観的になってイメトレする
ずっと集中しようと思わない

バレエダンサー・上野水香さん
練習であらゆる失敗をしておく
ハプニングはむしろ踏み台に
自分だけでなく周りへの気遣いも大切(共演者のコンディションや心理状態にも気を配る)

いずれも、あらゆる分野で参考になりますね。
共通する要素としては、緊張・緩和のメリハリを上手くつける、事前の練習・準備をしっかり、というところでしょうか。
ヘタレの私も、ちょっとずつでも取り入れてタフになりたいです  

被災地に追い打ちの雨が降らないことを祈りつつ…

新しい靴を履いて

2007-07-16 16:51:16 | Weblog
     

 新しい靴を買いました。
私の足は大きさが中途半端で、23.0だと指先がきついし、23.5だと踵がぶかぶか。だから、なかなかぴったりくる靴に出会えません。
一度、「この靴歩くのが楽」というのに出会ったら、そればっかり履きたおします。今までの靴も何年も毎日毎日履かれたので、最近、雨の日に外出すると床上浸水で靴下がぐしょぐしょ。いくらなんでもカナシイので、久しぶりに買い換えました。
新しい靴は雨の日におろさない方がいいといわれたので、台風が去った後の青空の下を、ご近所の花の写真を撮りに行きました。踵が分厚いので歩いていて気持ちいい。これまではいつも、踵が変にすりへっていたけれど、「美人ウォーク」を心がけて、斜めにすりへらないようにしよう。

 ご近所の花シリーズ

今回は、大本命があるんですよ。お楽しみに。
冒頭の猫ちゃんは、なんと、カメラを向けたらこっちを向いてくれました。アリガトー。

     

フューシャにつられて、パチリ。

     

ブレたのは風のせいよ~

     

そして、これが大本命の「カサブランカのお宅」。
こんなにたくさん咲いているのを見たのは初めてです。
道行く人も、「あれ、カサブランカ?」なんて言ってました。

     

アップで。ちょっと画面が暗いのが残念です。

     

風で種が飛んできたんでしょうか。溝に生えていました。

わたしは小心者なので、写真を撮っているところを通りがかりの人に見られるのが恥ずかしいんです。だから、しょっちゅう人が通るところでは、あんまりじっくり構図を考えたりピントを合わせたりできません。
ブログにいつも素敵な写真を載せている方達はそんなことないのかな。
この間、本屋さんにモンシロチョウが一羽舞い込んできて、書棚の間をひらひら飛び回っていました。ブログに載せたい光景でしたが、カメラを持っていませんでした。でも、持っていても、あんな人前で写せなかったかも…
写真は度胸、ですね(笑)



台風一過

2007-07-15 17:33:57 | Weblog
   

 まだかなり雲が残っていますが、台風が去って青空が見えます。
私の住んでいる大阪の北の方は、なぜかたいてい台風の「圏外」になるんです。
気がつくと、「結局、台風どないなったん?」みたいな…
今回も「近畿直撃」だったんですが、ちょっと雨が強かったかなーという程度。
母なんかよほど実感がわかないらしく、「何で野球やってないのかしら」なんて言ってました。甲子園やのに、あるわけないやろ
ちょっとした位置関係で本当に幸運な場所です。ありがたや、ありがたや。
こんなところに住んでいたら、よそへお嫁に行けないわ(大笑)

 というわけで、昨夜は広島の黒田投手が記念すべき100勝目をあげた試合を観ていました。
黒田投手は、阪神の下柳投手と、わりと記録がかぶるんですよね。
たしか2005年は、セリーグ最多勝利タイだったし、今年は仲良く100勝到達。
ヒーローインタビューで、周りの人への感謝の言葉が次々出てくる黒田投手。聴いていて感動でした。
こんな選手だから、周りも「勝たせてあげたい」と思うんでしょうね。

台風で2試合が流れた阪神。
4連勝で勢いがついたところでしたが、JFKも休めたし、金本選手も少しは休養になったかもしれません。
膝の調子が悪いとはいわれていましたが、半月板損傷だったとは。
それでも、試合に出れば3塁に激走して相手投手にプレッシャーをかけ、桜井選手の3ランを呼び込む大活躍。ヘタレの私には考えられない根性です
連続試合出場が続いているだけに、休むわけにはいかない兄貴。
今夜はホームランを打ってゆっくり走って下さい 



エビのベーコン巻き

2007-07-14 20:28:58 | クマでもできるシリーズ
     

 以前、何かのついでにチラッと書いた「エビのベーコン巻き」。
「サルりょう」こと「サルでもできる料理教室」(清水ちなみ監修、幻冬舎文庫)で紹介されていたお手軽メニューです。
サルでもできるならクマでもできるか

 クマでもできるエビのベーコン巻き

エビは、ベーコンを巻ける大きさであればOK。「むきえび」はちょっと小さいかもしれません。
今回は「ブラックタイガー」を使いました。

1 エビのからをむいて背わたをとる。
2 塩こしょうで下味をつける。
3 ベーコンを巻いてつまようじでとめ、オーブントースター(1000W)で4分加熱してできあがり。レンジなら、片面1分ずつチンして下さい。

エビが赤っぽいので、緑のものを添えると彩りがつくりやすく、手間のわりにみばがいいです。
冷凍のエビを買っておくと、時間がない時や、手のこんだものを作る気になれない時にぱぱっと作れますよん 

雨はコーラがのめない

2007-07-13 16:56:48 | Weblog
     

   江國香織さんのエッセイ集。
タイトルは一見、「芸術的な文章?」と思ってしまいますが、「雨」というのは江國さんの愛犬の名前なんです。オスのアメリカン・コッカスパニエルで、この本の執筆当時は二歳。
この「雨」と一緒にお気に入りの音楽を聴くというシチュエーションを綴ったエッセイです。

そして、音楽の好みは全然違うのに、雨と私はよく一緒に音楽を聴く。
どうしてかというと、雨は犬で、私は人間なので、一緒にできることがあまりないから。雨は本が読めないし、私は牛の肺を乾かしたものなんか噛めない。音楽なら一緒に聴くことができる。


という具合に。
ブログ仲間の愛犬達の様子を思い浮かべながらこの本を読むと、面白さも倍増です。
たとえば、上の文章の「私は牛の肺を乾かしたものなんか噛めない」というところ。最近知ったんですが、わんこはこういうものが好きなんですね。

勿論、雨はいまでも決して物静かな犬ではない。興奮屋だし破壊屋で、スリッパなら五分、靴下なら三分でぼろぼろにしてしまう。でも、壊したものを食べなくなった。これはほんとうにほっとすることだ。

…一度目はここで私が先に寝て、失敗した。雨は眠れなくて退屈したらしく、私のスリッパと、携帯電話の充電器をぼろぼろにした。


なんていうところも、「あー、同じだー」と、思わず笑ってしまいます。破壊屋なところ、そして、なぜか充電器がターゲットになるところがそっくり。

講演旅行の時に、雨を初めてペットホテルに預けた時も、江國さんはとても心配になります。

雨はいい子だけれど、片時もじっとしていないし、落ちているものはみんな自分の玩具だと思って噛んだり壊したりしてしまう。…散歩中に他の犬とすれ違うだけで興奮してしまう。そんな雨が、知らない犬たちと同宿して上手くやれるはずがない。

あまりに心配なので、ホテルの人と話し合ってケージに入れておいてもらうことにしたのですが、講演旅行から帰ってみると、

雨はケージの中でしっぽを振り続け、「遊びたい遊びたい光線」をだして、見事ホテルの人にケージをあけさせたのだそうだ。そして、三日間機嫌よく遊んだ。ただ、気に入った犬にまとわり続け、そのしつこさに、
「その子にはちょっと嫌われてたみたい」。


普通なら最後のところで、「スミマセン…」と小さくなってしまうものですが、江國さんはツオイです 

私は誇らしくなった。雨はたくましい。

こういうところが、芸術家の感性でしょうか。
そして、その日は「変化を全部受け入れる…たくましく健やかな雨に敬意を表して」、リサ・ローブの「CAKE AND PIE」というアルバムを聴いたそうです。

音楽が好きな人にも、わんこが好きな人にも、おすすめの一冊です。

天才!

2007-07-12 17:12:52 | 野球
   
   「今度はイチローさんと勝負したいです」(セイヤ)
   「絶対イチローさんを応援します!」(イリヤ)

 日本が誇る世界の天才、イチロー選手がやってくれました!
米オールスター史上初のランニングホームラン(日本人のホームランも初めて)で、日本人初のMVP
アメリカは、インタビューの時は着替えるんですね
大リーグにいってからずっと、コンスタントに活躍を続けるイチロー。
オールスターにも出続けていますが、そんなイチロー選手でも過去の球宴は不本意だったようです。「初めて楽しいオールスターになりました」と言っていたのが印象的でした。
契約延長にまつわる噂も流れているようですが、できれば、優勝を経験させてあげたいです。
井川も頑張れよ~

 日本のプロ野球はオールスター前の9連戦に突入。
阪神は巨人に2連勝という好スタートを切りました。
第1戦は、矢野、金本のホームランで2点を取り、必勝リレーで逃げ切った阪神が投手戦を制しました。
昨日は9-4と、念願の打ち勝つ展開。
若い桜井くんがプロ初アーチの3ラン。
JFKも久保田を投入するのみでひと息つけました。
久保田は頑丈だというので、三人のうちの誰かが休める展開でも登板したり、2イニング投げさせられることが多いんですよね。ぼくだってしんどいんですけど~、と思ってたりして
この勝利で、3位横浜に3ゲーム差に迫りました。

「このまま20連勝したらいいんだよね…?」
「あの後、1回負けへんかったか?」
「ドキッ 

十一(トイチ)よりキツいキョコたんの取り立て。
まあ、30連勝すれば優勝も夢じゃないぞ、阪神 

ミラージュ(4)

2007-07-11 16:19:23 | Angel ☆ knight
   

 閃光弾の強烈な光に打たれてアキホがくたくたと座り込むと、セイヤは幅寄せするように777をマンションの屋上に横づけた。
イリヤは阿吽の呼吸で屋上に飛び降りる。
アキホにかけよってヘッドセットを外し、ゲームの電源を切った。
「あなたは…ブルー?」
アキホが訊いた。トランス状態からは醒めたものの、まだゲームの影響が残っているようだ。
「違います。シティ警察のイリヤです。もう大丈夫ですよ」
アキホが彼をゲームの悪役と結びつけないうちに、イリヤはたたみかけた。
「警察…?」
「あなたは、ここでゲームをしているうちにトランス状態に陥ったんです。でも、もう大丈夫です」
「大丈夫」という言葉を繰り返しながら、イリヤはアキホの肩をさすった。アキホはもの悲しそうに地面に目を落とした。
「あたし、また現実に戻ってきちゃったのね。今度こそフェニックスになれたと思ったのに」
「何言ってるんですか」  イリヤは言った。
「間違って飛び降りでもしたら、大変なところでしたよ」
「それでも構わない。こんな現実にいるより!」 アキホは叫ぶように言った。
これは少々厄介なことになりそうだと、イリヤは思った。
「どうして、現実にいたくないんです?」
「つまらないからよ。どんなに努力したって、生まれつきすぐれた人にはかなわない。漫画みたいな一発逆転は現実には起こりえない。味気ないぐらい、何もかも最初から決まってるんだもん」
そこへ、無線が鳴った。
「イリヤです。無事に確保しました。でも、まだ強引に連れ戻さない方がいいようです。少し、彼女と話させて下さい」
―カウンセラーを派遣した方がいいか?」
「そうですね…来て貰えるなら」
「カウンセラーなんかと話したくないわ」
無線を切ると、アキホが言った。
「カウンセラーなんか、何の足しにもならない決まり文句ばっかり。あなたにはあなたの良さがある。あたしだけの良さって何ですかって聞いたら、自分でみつけなさい」
「うーん…」
イリヤには、彼女の苛立ちが理解できた。カウンセラーの言ったことは正論だが、正論で救われる人間はいない。アキホは自分の良さを具体的に指摘ほしかったのに、これではほめるところがないから一般論でごまかされたとしか思えないだろう。
徐々に聞いていくと、彼女が通っているハイスクールは、第一志望の学校ではなく、すべりどめに受けた第二志望であるらしい。彼女が「サイバー・ブルー」を両親にねだったのは、入学直前の春休みだった。両親は、娘を慰める気持ちもあって、高価なゲームを購入してやったようだ。
最初は、彼女も、ゲームは時間を区切ってほどほどにやっていた。同じクラスに心惹かれる男子生徒がいて、学校も楽しくなりつつあった。
しかし、その男子生徒は、上級生の人気投票で「ミス・ニューフェイス」に選ばれた女子生徒と交際を始めたという。
「結局、何もかもそうなっちゃうのよ。あたしなんかがどんなに頑張ったって、生まれつき頭のいい人や綺麗な人にはかなわない。でも、ゲームの中では、あたしはフェニックスになれる。強くて、美しくて、カッコいいヒロインになって、胸のすくような活躍ができる。こんな冴えないちっぽけな自分じゃないんだから」
それからは、たがが外れたように、アキホはゲームに没頭した。「現実」の生活は、ひたすらゲームをする時を待つだけの時間になった。
(やれやれ…)
この少女と自分は似たもの同士だとイリヤは思った。自分の愚かさはなかなか直視できないのに、他人のそれはどうしてこうもクリアに見えるのだろう。アキホは自分自身に強いコンプレックスを抱き、手っ取り早く自分以外のものになろうとしているのだ。
「おい、何やってんだよ」
背後の声に振り向くと、セイヤが777から屋上に移ってくるところだった。セイヤが携帯電話のような機械を777に向けると、機はすーっと垂直降下した。
「777って、リモコン操縦できるんですか?」
「単純な操作ならな」 セイヤは答えた。
「あなたも警察の人?」 アキホが目を見張っている。
「もったいない。二人とも、タレントにでもなればいいのに」
「美形の警察官がいてもいいだろ?」
セイヤは相変わらずしゃあしゃあと言った。
「そうね。きれいな人はどこへいってもちやほやされて、何もかも上手くいくものね」
「それは、本人の心がけ次第だな」  セイヤは言った。
「こいつみたいに、顔がきれいだと弱そうに見えてなめられるなんて考えてる奴は、自分の容貌がハンデとしか思えないが、おれみたいな天才は、相手のそういう油断を利用できてラッキーと考える。自分の持ってるものを生かすも殺すも、自分次第さ」
「あたしは何も持ってないわ」 アキホが呟いた。
「何をどう生かせっていうのよ」
「それはきみが何をやりたいかによるな。自分の中にあるものをどう生かせばいいかは、それによって変わってくる。一体、きみは何をしたいんだ?」
アキホは戸惑ったように目をぱちくりさせた。
「そんなこと、考えたことない…フェニックスになりたいとしか」
「フェニックスって、このゲームのキャラか?」
「そうです。飛翔能力があって、戦闘にも秀で、めちゃくちゃ美人なんです」
と、イリヤは説明した。
「なら、まず格闘術を身につけることだな」 セイヤは言った。
「色んな流派の情報にあたって、ピンとくる道場に行ってみな。飛翔能力は人間には無理だから、パイロット免許を取るしかねえな。パイロットになるには、航空身体検査つって、普通の健康診断より厳しい検査をパスしなきゃなんないから、普段から健康的な生活を送っとけよ。特に、視力とバランス感覚は大事だぜ」
アキホは面食らった表情でぽかんと口をあけている。まさか、フェニックスになるにはどうしたらいいかを真面目にアドバイスする人間がいるとは思わなかったのだろう。
セイヤはその顔を眺めながら続けた。
「きみは色白で肌がきれいだから、美肌をアピールするといいな。そのためには3食ちゃんと食べて栄養バランスに気をつけねえと。睡眠もちゃんと取らなきゃだめだぜ。お肌は眠っている間にターンオーバーするんだ。そういや、今日の晩メシはもう食ったのか?」
「食べてない」
「そいつぁいけねえな。すぐ帰って食え。ベッドには12時までに入れよ。細胞の修復作用が活発化するのは午前2時だ。それまでにきちんと眠りに入ってないと、どんな美人もくすんじまうぞ」

はたで聞いているイリヤも煙に巻かれたようだったが、とにもかくにも、アキホは両親と共に帰宅し、現実の生活に戻っていった。
777を格納庫に戻した後、イリヤとセイヤはシティ警察本部でこってり油を絞られた。正規の警察官でもないのに777や閃光弾を持ち出し、現場に割って入った。結果オーライだったからよかったようなものの、大事に至っていればいいわけが立たないところだ。
ジュンとウルフも二人に協力したかどで一緒に説教をくらった。
ようやく解放されると、イリヤは二人に「すみませんでした」と詫びた。
「かまわねえよ。スターリングさんは、こういうことには甘いんだ」
と、ジュンは鷹揚に笑った。
ウルフも、アキホと対話を持とうとしたイリヤの判断を誉めてくれた。
「ああいう時は、とにかく早く自分の責任を終わらせようと、他の奴に引き渡しちまう奴が多いんだが、おまえはあの子にとっていい方法を取ろうと考えた。そういう気持ちは大切にしろよ」
憧れのウルフにそう言われたのは嬉しかったが、同時にイリヤは面映ゆさを覚えた。あの場を上手くまとめたのは、自分ではなくセイヤだった。
「セイヤさんて、カウンセリングの勉強もしたんですか?」 照れ隠しのように彼は訊いた。
「いいや。何で?」
「丸め込むのがすごく上手かったから」
セイヤは声を立てて笑った。
「あれは、おまえらを指導してるうちに気づいたんだ。凡才には、とにかく具体的に話すのがいいみてえだってな」
この野郎、やっぱりぶん殴ってやろうかと、イリヤは思った。

 同じ頃、シティを騒がせていたジュピター爆破テロ事件がようやく解決をみた。対テロセクションのコマンダー代行には、准コマンダーのラファエルが新たに任命され、エースは残務整理が済み次第教官の仕事に戻る予定だった。
事件後、捜査官の任意の勉強会という位置づけで「ビューティフル・ウェポン講座」が開設された。刑事特捜班のエルシードが講師になって、パーティー会場などに違和感なく溶け込みつつ警備や捜査を行う方法を伝授するのだ。
主な対象は対テロセクションの女性隊員だが、男性捜査官の顔も相当数見える。
訓練生でも参加できるというので、イリヤはこの勉強会に出てみることにした。
ドレスやタキシードといった動きにくい服装で格闘するコツや、見えないところに武器を隠し持ち、素早くそれを取り出す方法などをマスターするのだが、いかにも百戦錬磨の強者という捜査官より、イリヤのような線の細い人間の方が、周囲から浮かずに行いやすい。
イリヤはこれまで、見るからに強そうないかつい風貌の男が羨ましくてならなかった。だが、それはアキホがフェニックスになりたがったのと同じないものねだりだろう。
人間は機械のように、外からパーツを持ってきてバージョンアップするわけにも、気に入らないからといって別のものに取り替えることもできない。最初から自分の中にあるもので勝負するしかないのだ。
(おれは、警察官として市民の安全を守りたい。そのために必要な、おれなりの力を身につける)
イリヤはタキシードを着た自分の姿を鏡に映してチェックした。
鏡に映った自分の顔は、なかなか男前でいいような気がした。

(オシマイ)

ミラージュ(3)

2007-07-10 16:31:08 | Angel ☆ knight


 ―おい、何か事件みたいだぜ」
サムの声がイリヤの携帯に入った。
イリヤ達訓練生は、寮の近くで事件が起きると、見学と称して現場に走る。半分は野次馬根性だが、自分ならどうするだろうと思いながら先輩捜査官の対処を見守るのは勉強にもなった。
今夜の現場は、寮の窓からも見える高層マンションの屋上だ。「サイバー・ブルー」でトランス状態になった少女が今にも飛び降りそうだという。
発売以来、何かと物議をかもしている「サイバー・ブルー」だが、最近になって、長時間ゲームを続けるとトランス状態に陥る現象が問題化されてきた。ゲームが絶えず感覚中枢を刺激するため、脳が現実を正しく認識できなくなるらしい。
「て、何人かで屋上に上がって押さえ込んじまうわけにいかないの?」
寮の入口でサムと出会ったイリヤは、並んで走りながら言った。
「ダメなんだ。トランス状態になったプレイヤーには、近づいてくる人間がゲームの登場人物に見えるらしい。悪の組織が襲ってきたなんて思われたら、何をしでかすかわからない」
マンションの周囲には、既に大勢の人間がつめかけていた。
イリヤとサムは人垣にはばまれて、なかなか前へ進めない。そのうち、サムがセイヤの姿を見つけて声をかけた。
「教官、どういうことになってるんですか?」
「今、ご両親が交代で呼びかけているところだ」  セイヤは答えた。
だが、アキホというその少女は、部屋でゲームをしている最中、母親とケンカになって飛び出して行ったらしい。そのせいか、両親の声に全く反応しないという。
厄介なのは、アキホがフェニックスというキャラクターと同化しているらしいことだ。フェニックスは飛翔能力を備えたヒロインなので、アキホがそのつもりになって虚空へ飛び出せば、即墜落死だ。
「バッテリーはどのくらい保つんですか? 屋上にコンセントなんかないでしょう?」
イリヤが訊いた。非常事態だけに、わだかまりよりも状況を把握したい気持ちが強く働いた。
「あのゲームは電気を食うから、そんなに長時間保たねえと思う。だが、いったんトランス状態に入っちまうと、電源が切れてもすぐに現実に戻れるかどうか…」
言いながらセイヤは、「フム」とイリヤの顔を覗き込んだ。
「な、なんです?」
と訊ねた時には、もう腕をつかまれていた。
「こい」

 二人はシティ警察本部ビルのバックアップセクションに飛び込んだ。
セクション・チーフのジュンとウルフが驚いて顔を上げた。
「閃光弾、ありますか? 花火みたいに明るいやつ」
セイヤが訊いた。
「教官、一体…」
「あの子をトランス状態から覚醒させる」
セイヤはイリヤを振り返って言った。
「今の状態で、あの子にどんな働きかけをしても無駄だ。全てゲームの中の出来事とごっちゃになって、内容が正確に伝わらない。トランス状態に陥った人間の目を覚まさせるには、一点を凝視した状態で強い閃光を視神経に与えるのが有効なんだ。おれが777を飛ばすから、おまえは負傷者の搬入口から閃光弾を撃て」
「ええっ
イリヤは頓狂な声を上げた。セイヤは構わず説明を続けた。
「離陸したら、いったん海上に出て第1方面セクション側からアプローチする。777がマンションに近づいて、彼女が機体を注視したら、搬入口を彼女に正対させる。おまえはその一瞬のタイミングを狙って撃つんだ」
ぐずぐずしていたら、アキホは銃を構えるイリヤの姿に刺激されて、行動を起こすかもしれない。彼女が777を呆然と見つめているわずかの間に片を付けなければならなかった。
「そ、そんなの、リョウさんにやって貰った方が…」
「リョウは今、ガーネットスター・シティに助っ人に行ってる。あいつに次ぐスナイパーつったら、おまえだろう」
セイヤにそう言われて、イリヤは驚いた。こいつはそんなにおれのことを評価していたのか?
「で、でも…」
もし失敗すれば少女の命に関わる。その恐れがイリヤを尻込みさせた。
「おい。おまえが、毎日厳しい訓練を受けて身につけてる力は何のためだ? おれに勝って優越感にひたるためじゃねえだろう? こういう、困った事態を何とかするためじゃねえのかよ」
その通りだ。イリヤは子供の頃から、力を乱用する奴らに閉口してきた。そういう奴らと渡り合いながら、いつも心で叫んでいた。
―力ってのは、他人を支配したり、威張ったり、自分より弱い奴を傷つけるためにあるんじゃねえ。自分や他人を助けるためのものだ
「そら、閃光弾の準備ができたぜ」
ジュンが閃光弾を装填したランチャーをセイヤに手渡した。
救助セクションに電話をしていたウルフが、
「今、777を出す準備をしてる。あいつに乗れる天才ってのは、おまえのことか?」
と言うと、
「そうです。お見知りおきを」
セイヤは悪びれもせずに言って、ウルフと握手をした。
「ちなみに、この作戦は凡才の上官にはおうかがいをたてていませんので」
「わかってるよ」
と、ジュンは笑った。

 777の白い機体は暗い夜空に溶け、ちかちか瞬く飛行灯がスケルトンのように輪郭を描いていた。
セイヤは海上で旋回すると、イルミネーションの上を滑るようにマンションに向かった。
―降下する」
イリヤは閃光弾を手に搬入口に待機していた。落ち着け。訓練と同じだ。訓練では、ジェットヘリから自動車に乗ったターゲットを正確に撃ち抜いた。自分はちゃんとただ一瞬のチャンスを狙うことができる。
―扉を開けるぞ」
風がイリヤの髪を煽った。高度はマンションの屋上とほぼ同じだ。機体はまるで固い地面のように安定している。悔しいが、こいつは本当に天才パイロットだ。
―よし。アキホは機体を見てる。5秒後に正対するぞ。5、4、3,2…」
「1!」
イリヤはセイヤの声に合わせて引き金を引いた。計算された距離。
閃光弾はアキホの眼前で真昼のような光を放った。

(続く)

ミラージュ(2)

2007-07-09 16:27:06 | Angel ☆ knight
   

 イリヤは翌日の射撃特別訓練に備えて自主練をしようと、射撃場に向かった。
ヤードでは、それぞれの分野で抜きん出た能力を示す訓練生に、よりレベルの高い個人レッスンを受けさせている。イリヤは射撃が得意なので、シティ警察一のスナイパーといわれるリョウの特別指導を受けていた。
射撃場からは、いつになく華やいだざわめきが洩れてくる。
(なんだ?)
と覗き込むと、セイヤが高速で移動するターゲットを次々と撃ち抜いていた。
初級段階のメニューだが、見守る訓練生達は、ターゲットが撃ち落とされるたびに嬌声をあげた。
(あの野郎、こんなとこでまで目立ちやがって)
イリヤは頭に来たが、次の瞬間、
(そうだ。射撃なら…)
勝てるかも知れない、と思った。あの天才面を今日こそ踏みつぶしてやる。
イリヤはセイヤの隣のレーンに入ると、言った。
「教官、おれと1セット、勝負しませんか?」
「いいよ。どのモードにする?」
射撃練習のモードは、静止したターゲットを撃つスティル、動いているターゲットを撃つムーヴ、前後左右上下とあらゆる方向から攻撃を受けるディメンションなど様々な種類と難易度がある。イリヤは、現在、自分も高速で移動しながら、同じく高速移動するターゲットに命中させる訓練を受けていた。
セイヤは「どのモードにする?」と軽く言うが、
(ジェットヘリから高速道路を走る車を撃つなんてモードがてめえにできるのかよ)
と、イリヤはむかっ腹が立った。よっぽどそれを指定してやろうかと思ったが、それでは子供のいじめと変わらないだろう。
「教官が今やってらしたのでいいですよ」
と、余裕を見せて言った。こちらが固定した地面にじっと立っての動体射撃など、イリヤにとっては、もはや遊びのようなものだ。
周りで見ていた訓練生がこの成り行きに沸きたつ中、ゲームが始まった。
セイヤはどこで射撃を身につけたのか、イリヤと同じように軽々とターゲットを撃ち抜いてゆく。二つのスコアボードには同じ数字が並び続けた。
とうとう、どちらも満点で終了してしまったので、2on1モードで決着をつけることになった。同じ標的を二人同時に狙い、より早く中心部に命中させた方が勝ちだ。
引き金を引いた瞬間、イリヤは「勝った!」と思った。標的のど真ん中に当たることが感覚としてわかる。しかし、弾丸はなぜかターゲットの直前で大きく横に弾き飛ばされた。標的は無傷のまま移動してゆく。
誰もが、一瞬、今起きたことを理解できず、ぽかんとしてレーンの先を見つめている。
やがて、二つの弾丸が全く同じタイミングでターゲットの中心に向かったため、弾道が交錯して衝突し、互いに弾き飛ばされたのだとわかると、射撃場全体がどよめいた。
「引き分けってことみたいだな」
セイヤは言って、さっさと片付けを始めた。
イリヤのもとへも同期生が何人かかけつけてきた。人の好いサムが、
「二人とも、すげえなあ」
と感心すると、イリヤはようやくわれに返って、唇を噛みしめた。
「馬鹿野郎。こっちは専門的な訓練を受けてるんだぞ。素人相手に同点なんて、負けたも同然だ」
すると、ヒューという同期生が、
「わざわざ相手のレベルに合わせてやるなんて、おまえは、やっぱり甘ちゃんだなあ」
と言った。
「おれなら、もっと高いレベルのモードを指定してやるな。向こうがああだこうだ言ってきたら、『教官、天才なんじゃないですか?』つってやりゃいい。ま、教官もおまえのそういう馬鹿正直な性格見透かしてたのかもしれねえけどな」
この最後の一言で頭に血が上り、イリヤはヒューを殴りつけた。逃亡犯をやっつけた時の再現のように、ヒューは床にひっくりかえった。
だが、同時にイリヤも背後から肩をつかまれた。騒ぎをききつけたセイヤが戻ってきたのだ。
「何で、そいつを殴ったんだ?」
厳しい目でセイヤは訊いた。イリヤも彼をきっと見返した。
「教官。教官は、おれが易しいモードを選択することを見越して、おれに選ばせたんですか?」
「こっちの質問にまず答えろよ」
「ヒューがそう言ったから殴ったんです」
イリヤは床にのびている同期生を指さした。
「なるほどな」 セイヤは言った。
「おまえが、やたらおれにつっかかってくるのは何でだろうと思ってたんだが、そういうことだったのか」
「どういうことだっていうんですか?」
イリヤは気色ばんだ。
「なあ、天才と凡才の違いはどこにあると思う?」
「そんなの…才能のあるなしでしょう?」
何をあたりまえのことを、とイリヤは思った。
「違うね。凡才は自分を否定してないものねだりばっかりしてるんだ。天才は持って生まれたものを最大限に活用するのさ」
そう言って、セイヤはイリヤの胸を指でトンと突いた。
「いいかげん、大人になりな。いつまでも未熟なままだと、辛いのは自分自身だぜ」

 アキホは、学校から帰ると、一直線に部屋にかけこんで、サイバー・ブルーのプレイイングキットを取り出した。飢えた人間が食事にがっつくように、ヘッドセットをかぶり、電源を入れる。
すぐに、自分の部屋は消えて、大空を飛翔する感覚に捉えられた。

ゲームの中で、アキホは深紅の翼を持った美しいヒロイン、フェニックスだった。ヒーローの少年と力を合わせて世界を悪の手から救うのだ。
今、彼女は空の上で、悪の組織が作り出した飛翔型アンドロイドと闘っている。手強い相手だが、わたしは負けない。だって、こんなに強くて美しいんだもの。

「アキちゃん、いいかげんにしなさい。晩ご飯だって何遍呼べばわかるの
部屋の扉を叩いたが、返事はない。母親は構わずドアを開けて中に入った。
娘はカバンを放り出したまま、服も着替えずゲームに没頭している。母親は、ひきむしるようにコンセントからコードを抜いた。
プレイイングボードにはバッテリーが内蔵されているが、コードを引き抜かれた気配に、娘が振り返った。イヤホンとゴーグルを合わせたようなヘッドセットが、娘の顔を昆虫の頭部のように見せている。
母親は、娘の目を覆っているゴーグルをはね上げた。
「何すんのよ」
「何すんのよじゃありません。どうしてもって言うから、高いのにそのゲーム買ってあげたのに、勉強も何かもかもそっちのけじゃないの。こんなことなら、お父さんの期末手当、そんなものに使うんじゃなかったわ。お母さんだって、お掃除ロボットが欲しかったのに」
「勉強…お掃除ロボット…小さいわね」 娘が言った。
「あんた、情けなくないの? 一生そんなちまちましたことばっかり言って過ごすの、悲しくない? 現実っていつもそう。みみっちくって、味気なくて、つまらない。ヴァーチャル・ワールドにいた方がずっといいわ!」
アキホはそう叫ぶと、キットを抱きしめて部屋を飛び出していった。

(続く)

ミラージュ(1)

2007-07-08 17:27:26 | Angel ☆ knight
   
「今回は番外編です。エースがテロの捜査に奔走していた頃、訓練所では何が起きていたんでしょう」
「イリヤくん、ストレス溜まりまくりでんな」

 「なるほど。随分機嫌が悪そうだな」
イリヤの顔を見るなり、江流(コウリュウ)は言った。
陽射しは強く、まだ午前なのに二人の影がくっきりと落ちている。
今日はエスペラント・シティ警察訓練所(ヤード)の訓練が休みなので、賞金稼ぎ(バウンティ・ハンター)の仕事を手伝ってくれと、江流がイリヤを呼び出したのだ。訓練生とはいえ、身分は公務員だからアルバイトは禁止されている。
「アルバイトじゃない。無料奉仕(ボランティア)だ」
江流は言った。
「ただ働きさせる気ですか」
「ストレスが溜まっていそうだから発散させてやるんだ。ありがたく思え」
江流はいつもこれだ。人にものを頼む時ですら恩に着せる。
「まあ、何を悩んでいるのかぐらい聞いてやる。話してみろ」
「悩んでるんじゃありません。怒ってるんです
イリヤは言った。

『金の獅子』航空テロ事件の記憶も生々しいこの時期、シティ警察は異例の人事を発表した。『金の獅子』事件で負傷した対テロセクションのコマンダー・ユージィンに代わり、航空宇宙局スペシャル・タスク・フォース(ナッツ)のメンバーの一人、エースが同セクションのコマンダー代行に任命されたのだ。
エースはその少し前から、ナッツが開発設計を担当した救助隊機シルフィード・マークⅡの移行訓練と、イリヤ達4月生の武術クラスの講師を務めていた。彼がコマンダー代行に就任すると同時に、その任はナッツの同僚、セイヤに引き継がれたのだが、これがイリヤの憂鬱の始まりだった。
温厚なエースと違い、セイヤは口から発する一言一言が挑発的だった。
最初の授業で、その日練習する技を説明したセイヤは、早速こう言い放った。
―ぼくの説明、わかりにくかったら言ってね。おれは天才だから、凡人にどこまでかみくだいて話せばいいかよくわからないんだ。
この一言で、イリヤ達は凍り付いた。
聞けば、救助セクションでのマークⅡ移行訓練もその調子らしい。
―だけど、実際に腕はいいんだよな。ウルフの愛機だった777(トリプル・セブン)も、あいつは軽々と乗りこなしちまうし。
ウルフは、イリヤの育った児童福祉施設『安楽園』の出身だ。今は負傷してバックアップセクションに移っているが、救助隊時代はシルフィードのエースパイロットだった。『安楽園』の壁には、今も往事の彼の活躍を伝える新聞記事が何枚も貼り付けられている。
777はウルフのような飛び抜けた腕を持つパイロットが操縦していたせいか、性能がめいっぱい突き抜けてしまい、他のパイロットは皆機体に振り回されるようだといって、この機を扱えなかった。ただ一人、セイヤだけが、
―乗りやすいです。
と、涼しい顔で777を操っているのだ。セイヤはイリヤといくつも年が違わない若者だが、救助セクションの猛者達もその実力の前には頭が上がらないらしい。
(777のバカヤロー。もっと、パイロットを選べよ)
さらに腹立たしいのは、女性訓練生がセイヤにキャーキャーいうことだ。あんな鼻持ちならない男のどこがいいのだ。
―あの、自信に溢れた態度が男らしくて素敵なのよ。
―二言目には自分のこと、天才だとか美形だとか言うところがか?
―もちろん、口先だけならただのバカだけど、教官の場合は実質が伴ってるんだもん。有言実行タイプなのよね。

「そいつ、自分のことをそんな風に言うのか?」
江流は可笑しそうに笑い出した。
「そうなんですよ。天才はまだしも、美形なんて、男が自慢することですか?」
イリヤが一番癇に障るのはそこだった。柔らかい亜麻色の髪。睫毛の長い切れ長の瞳。セイヤはたしかに美青年だ。
イリヤも美形だと言われることがあるが、それを自慢に思ったことは一度もない。この顔のせいで、なめられたり甘く見られたり、どれほど損をしてきたかわからない。
(それなのに、あの野郎、見てくれを鼻にかけやがって)
ある日、イリヤは授業が終了すると、数人の同期生と共に、
―教官、稽古つけて下さい。
と、順番にかかっていった。稽古などもちろん口実で、セイヤに喧嘩を売ったのである。しかし、全員あっという間にやられてしまい、セイヤの株を上げるだけに終わった。
江流はそれを聞いて、また爆笑した。
「そういうところが、てめえは馬鹿なんだよ。訓練生がちょいと束になったぐらいでやられちまうような奴を、ヤードが教官に招くと思うか? ちったぁものを考えな」
そう言って、つんつんとこめかみを指でつつく仕種は、これでも聖職者の端くれかと思うほど憎らしい。江流にとってもバウンティハンターはアルバイトで、本業は仏教の僧侶と『安楽園』のファーザーである。
「ファーザー。よく、『自分に自信を持て』とか、『自己評価を高く』なんて言いますけど、おれは、自分に自信満々で自己評価の高い奴を好きになれたためしがありません。それって、本当にそんなにいいことなんですか?」
「相変わらず幼稚なことで頭を悩ます奴だな
江流は大仰にため息をついた。
「そういうくだらねえことが気になるのは暇だからだ。おら、逃亡犯のヤサについたぞ。さっさと準備しろ」

 イリヤはその夜、久しぶりに『安楽園』に立ち寄って、子供達と夕食を共にした。
江流が受け取った賞金で、夕餉の卓にはステーキが並んでいる。
「どうせ、イリヤが一人で捕まえたようなものなんでしょう? どうもありがとう」
シスター・エリアーデがわけしり顔に微笑んで、彼の皿にひときわ大きな肉を載せてくれた。
彼女の言う通り、逃亡犯はイリヤが一撃で仕留めた。
そいつは彼の顔を見るなり、
―なあ、頼むよ。ちょっと話を聞いてくれ。おれはちゃんと裁判までには戻るつもりだったんだ。子供が病気になったんで、一目会いに行ってやりたかったんだよ。
と、使い古された泣き落としを使い、しかもそう言いながら後ろ手に武器を取り出そうとした。
次の瞬間、その顔面にイリヤのパンチが炸裂した。自然に手を振り上げただけのように見えて、スピードと体重ののった、骨まで響くパンチだ。逃亡犯は一発で昏倒した。
―ヤードじゃ、今みてえな技を教わるのか?
逃亡犯に手錠をかけながら、江流も驚き顔になっている。いつも自分をいいようにあしらう彼のそんな表情を見て、イリヤは少し気分が良くなった。
彼もヤードに入る前はバウンティハンターをしていたが、今日のように泣き落としをかけてくる奴は大嫌いだった。イリヤの顔を見て、一瞬のうちに、
(こいつなら、お涙ちょうだいの話をでっちあげればほだされるかもしれない)
と値踏みする心の動きが手に取るようにわかるからだ。
セイヤはこんな経験がないのだろうか?、とイリヤは思う。
(あいつにはちゃんと親がいるもんな)
セイヤは対テロセクションの准コマンダー、ラファエルの養子だ。彼女に引き取られるまではストリートチルドレンだったというが、警察官の親ができてからはぬくぬくと育ったのだろう、とイリヤは想像する。自分のような後ろ盾のない孤児と違い、隙あればつけこんでこようとする輩と闘う必要もなかったに違いない。
夕食の後、イリヤはシスター・シシィの部屋に招かれた。
シシィの部屋には、何種類もの紅茶とクッキーが常備されており、彼女は時々子供達を呼んで茶菓をふるまった。そして、彼らの話にじっと耳を傾け、その時は意味がわからないことが多いが、含蓄に富んだ話をしてくれるのだ。
「イリヤはオレンジペコが好きだったわね」
シシィは、子供の頃彼が好きだったカップに、バラ色の液体を注いでくれた。
オレンジペコの香りに目を細めた瞬間、セイヤの紅茶色の瞳が唐突に思い浮かんで、イリヤは思わず顔をしかめた。
「おいしくない?」
「いえ、違うんです」
イリヤはわけを説明した。
「あら、まあ、随分気になる人がいるのね。まるで恋をしているみたい」
「冗談じゃないですよ。神経に障るだけです」
「嫌いなのに気になってしょうがない人っていうのは、自分の鏡なのよ。たいていは、自分にとてもよく似ている人だわ」
「やめて下さい。あんな奴に似てるなんて、正直言って心外です」
イリヤは憮然として紅茶をすすった。
「あなたは、まだ鏡にうつった自分の顔が好きではないのね」
シスター・シシィはふっくりと笑った。

(続く)