『紺碧のダナウェイ~大空の不死鳥たち~』
「本当はこっちがほしかった~」
(このお話はフィクションです。実在の個人・団体とは一切関係ありません)
「調べる」といっても、分厚い歴史の本を読むわけではない。「ミッドウェー海戦」でググッて、ヒットしたサイトの中からわかりやすそうなのを斜め読みしただけだ。
ところで、おれは細かいことが気になる性分だ
まず「連合艦隊」という言葉。一体どこと連合してたんだ? 日本だけだろ?
幸い、この言葉にリンクが貼ってあったので、クリックした。それによると、明治初期の日本の海軍は、有力艦・新鋭艦で編成された主力部隊を「常備艦隊」、老巧艦などで編成された沿岸防備のための二線級部隊を「警備艦隊」と称していた。日清戦争の際に、警備艦隊を西海艦隊と改名し、この二つが合体されて連合艦隊になったそうだ。
南雲が指揮する「機動部隊」というのもよくわからなかったが、これは空母部隊と考えていいようだ。
ミッドウェー海戦の本筋は、ごちゃごちゃしていてややこしかった。ゲームになるだけあって、「たられば」の宝庫なのだ。
ロールプレイングゲームは、基本的に分岐とループでできている。ループは絵を動かすための処理で、ストーリーを決めるのが分岐だ。プレイヤーが分岐でどういう選択をしたかによってストーリーの流れが変わってくる。
「きみの決断で歴史が変わるかもしれない」とあったのは、多分そういうことだ。分岐で史実と違う選択をすれば、ストーリーが別の方向に流れるので、勝敗がひっくり返ることもありうるのだ。
おれは分岐になりそうなところで史実がどう流れたのかをメモった。思いの外時間がかかってしまったので、ゲームは翌日にやることにした。
次の日、学校で友人の敦と彼女の碧(あおい)に、『紺碧のダナウェイ』がなぜか『群青のミッドウェー』になってしまった話をすると、敦は腹を抱えて笑い転げた。
「面白そー。それ、おれにやらせろよ。その間、おれのダナウェイやってていいからさ」
ダナウェイをやらせてくれるって おれはもちろん、この提案に飛びついた。
まず敦の家へ、ダナウェイのソフトとゲーム機を取りに行き、それからおれの家で、敦はミッドウェーを、碧とおれはダナウェイをやることにした。敦はおれが予習したミッドウェー海戦の説明なんか聞こうとしなかった。敦は何でも体で覚える主義で、パソコンでもスマホでも、取説なんか読まずにどんどん動かしていく。
おれは、憧れのダナウェイがやれて手が震えそうだった。碧もダナウェイのアニメは見ていたという。
「最近のリアルなアニメの中には、メインキャラを死なせて感動をとろうとしてるみたいなのあるじゃない。ダナウェイにはそんなところがなかったから、最後まで見てたけど」
たしかに、最近のはメインキャラでもバンバン死んでいく作品が多い。メインキャラといえども弾はよけてくれないという意味で「リアル」なのかもしれないが、中には、碧の言うように、「衝撃の展開にファンは号泣!!」という風にもっていきたいのかな、と感じるものもある。そういう作品はおれも好きじゃない。
キャラを選択して、さあ始めるぞ、と思ったところへ、敦が、
「なあ、なあ、空母をひとまとめにするか、分散させるかってきかれてるんだけど」
敦は南雲をキャラ選択していた。サポートキャラには源田を選んだようで、「空母を一箇所にまとめれば、直掩機(空母を護衛する戦闘機)で鉄壁の防御ができます」とアドバイスしている。
敦は、「サポートキャラの言う通りにした方がいいのかな?」と、源田の進言に従った。これは史実通りの選択で、実を言うと、後の結果に結構影響してくる。
ダナウェイの画面に戻る。ミッドウェーに比べて色が明るく鮮やかだ。おれはダナウェイの色彩が好きだ。見ていると、アニメの美術の仕事なんかやってみたいな、なんて思えてくる。
みとれていると、また、敦に肩を突かれた。
「なあ、イチダンサクテキ、ニダンサクテキって何?」
「知らねえよ。どんな字書くの?」
敦はゲーム画面をつきだした。部下が南雲に、「一段索敵でよろしいですか? 二段索敵にしますか?」と訊いている。
こんな風にふきだしに台詞が表示されるのは分岐のしるしだ。
「字面からして、偵察みたいなことじゃない?」 碧が言った。「一回だけじゃなくて、二回やるかって、きいてるんじゃないかしら」
南雲は、「そうだなあ。二段にすると攻撃機が少なくなるかなあ」と悩んでいる。やはり決断力レベルが低い。
次の台詞が分岐だ。「1 やはり二段の方がいいだろう。 2 そうだな。一段でいい」 プレイヤーがどちらかを選択する。
「でも、海ってすげえ広いから、そんなに簡単に敵がどこにいるかなんてわかんねえんだろ?」
敦がこんなことを知っているのは、ダナウェイに似たような場面があったからだ。年若いパイロットが引き返すポイントを過ぎても敵を探すのをやめなかった(単純計算で、航続距離の半分で折り返さないと、燃料切れで母艦に戻れなくなる)。燃料計が赤ランプになった時に敵を発見し、その位置と編成を正確に味方に知らせ、直後に撃墜されてしまう。
ダナウェイが他のアニメと違うところは、このエピソードを美談にしなかったことだ。すぐに司令部がどうすれば同じことを繰り返さないか、議論を始める。未来世界が舞台なので、テクノロジー部が、「偵察機が航続距離の半分を過ぎれば自動的に反転するリミッターをつけましょう」なんて言い出し、突貫工事で開発しているシーンがその回のエンディングにちらりと出ていた。
視聴者の反応は賛否両論だったようだが、碧はあれでよかったと思うと言う。
「だって、自己犠牲を手放しで賛美したら、みんなそうしなくちゃならなくなるじゃない」
そんなことを言っているうちに、敦の画面に「TIME OUT」の表示が出て、部下が「では、一段でいきます」と走り去った。
どうやら、一定時間内に決断を下さないと、史実通りの展開になるらしい。 (つづく)
「本当はこっちがほしかった~」
(このお話はフィクションです。実在の個人・団体とは一切関係ありません)
「調べる」といっても、分厚い歴史の本を読むわけではない。「ミッドウェー海戦」でググッて、ヒットしたサイトの中からわかりやすそうなのを斜め読みしただけだ。
ところで、おれは細かいことが気になる性分だ
まず「連合艦隊」という言葉。一体どこと連合してたんだ? 日本だけだろ?
幸い、この言葉にリンクが貼ってあったので、クリックした。それによると、明治初期の日本の海軍は、有力艦・新鋭艦で編成された主力部隊を「常備艦隊」、老巧艦などで編成された沿岸防備のための二線級部隊を「警備艦隊」と称していた。日清戦争の際に、警備艦隊を西海艦隊と改名し、この二つが合体されて連合艦隊になったそうだ。
南雲が指揮する「機動部隊」というのもよくわからなかったが、これは空母部隊と考えていいようだ。
ミッドウェー海戦の本筋は、ごちゃごちゃしていてややこしかった。ゲームになるだけあって、「たられば」の宝庫なのだ。
ロールプレイングゲームは、基本的に分岐とループでできている。ループは絵を動かすための処理で、ストーリーを決めるのが分岐だ。プレイヤーが分岐でどういう選択をしたかによってストーリーの流れが変わってくる。
「きみの決断で歴史が変わるかもしれない」とあったのは、多分そういうことだ。分岐で史実と違う選択をすれば、ストーリーが別の方向に流れるので、勝敗がひっくり返ることもありうるのだ。
おれは分岐になりそうなところで史実がどう流れたのかをメモった。思いの外時間がかかってしまったので、ゲームは翌日にやることにした。
次の日、学校で友人の敦と彼女の碧(あおい)に、『紺碧のダナウェイ』がなぜか『群青のミッドウェー』になってしまった話をすると、敦は腹を抱えて笑い転げた。
「面白そー。それ、おれにやらせろよ。その間、おれのダナウェイやってていいからさ」
ダナウェイをやらせてくれるって おれはもちろん、この提案に飛びついた。
まず敦の家へ、ダナウェイのソフトとゲーム機を取りに行き、それからおれの家で、敦はミッドウェーを、碧とおれはダナウェイをやることにした。敦はおれが予習したミッドウェー海戦の説明なんか聞こうとしなかった。敦は何でも体で覚える主義で、パソコンでもスマホでも、取説なんか読まずにどんどん動かしていく。
おれは、憧れのダナウェイがやれて手が震えそうだった。碧もダナウェイのアニメは見ていたという。
「最近のリアルなアニメの中には、メインキャラを死なせて感動をとろうとしてるみたいなのあるじゃない。ダナウェイにはそんなところがなかったから、最後まで見てたけど」
たしかに、最近のはメインキャラでもバンバン死んでいく作品が多い。メインキャラといえども弾はよけてくれないという意味で「リアル」なのかもしれないが、中には、碧の言うように、「衝撃の展開にファンは号泣!!」という風にもっていきたいのかな、と感じるものもある。そういう作品はおれも好きじゃない。
キャラを選択して、さあ始めるぞ、と思ったところへ、敦が、
「なあ、なあ、空母をひとまとめにするか、分散させるかってきかれてるんだけど」
敦は南雲をキャラ選択していた。サポートキャラには源田を選んだようで、「空母を一箇所にまとめれば、直掩機(空母を護衛する戦闘機)で鉄壁の防御ができます」とアドバイスしている。
敦は、「サポートキャラの言う通りにした方がいいのかな?」と、源田の進言に従った。これは史実通りの選択で、実を言うと、後の結果に結構影響してくる。
ダナウェイの画面に戻る。ミッドウェーに比べて色が明るく鮮やかだ。おれはダナウェイの色彩が好きだ。見ていると、アニメの美術の仕事なんかやってみたいな、なんて思えてくる。
みとれていると、また、敦に肩を突かれた。
「なあ、イチダンサクテキ、ニダンサクテキって何?」
「知らねえよ。どんな字書くの?」
敦はゲーム画面をつきだした。部下が南雲に、「一段索敵でよろしいですか? 二段索敵にしますか?」と訊いている。
こんな風にふきだしに台詞が表示されるのは分岐のしるしだ。
「字面からして、偵察みたいなことじゃない?」 碧が言った。「一回だけじゃなくて、二回やるかって、きいてるんじゃないかしら」
南雲は、「そうだなあ。二段にすると攻撃機が少なくなるかなあ」と悩んでいる。やはり決断力レベルが低い。
次の台詞が分岐だ。「1 やはり二段の方がいいだろう。 2 そうだな。一段でいい」 プレイヤーがどちらかを選択する。
「でも、海ってすげえ広いから、そんなに簡単に敵がどこにいるかなんてわかんねえんだろ?」
敦がこんなことを知っているのは、ダナウェイに似たような場面があったからだ。年若いパイロットが引き返すポイントを過ぎても敵を探すのをやめなかった(単純計算で、航続距離の半分で折り返さないと、燃料切れで母艦に戻れなくなる)。燃料計が赤ランプになった時に敵を発見し、その位置と編成を正確に味方に知らせ、直後に撃墜されてしまう。
ダナウェイが他のアニメと違うところは、このエピソードを美談にしなかったことだ。すぐに司令部がどうすれば同じことを繰り返さないか、議論を始める。未来世界が舞台なので、テクノロジー部が、「偵察機が航続距離の半分を過ぎれば自動的に反転するリミッターをつけましょう」なんて言い出し、突貫工事で開発しているシーンがその回のエンディングにちらりと出ていた。
視聴者の反応は賛否両論だったようだが、碧はあれでよかったと思うと言う。
「だって、自己犠牲を手放しで賛美したら、みんなそうしなくちゃならなくなるじゃない」
そんなことを言っているうちに、敦の画面に「TIME OUT」の表示が出て、部下が「では、一段でいきます」と走り去った。
どうやら、一定時間内に決断を下さないと、史実通りの展開になるらしい。 (つづく)