BE HAPPY!

大山加奈選手、岩隈久志選手、ライコネン選手、浅田真央選手、阪神タイガース他好きなものがいっぱい。幸せ気分を発信したいな

Counteraction(6)

2007-02-15 00:45:46 | Angel ☆ knight
     

     
「もともとは、これが核爆弾を無効化する装置のはずやってんやろ?」
「でも、途中でビームサーベルになっちゃったから、急遽ガリルの中和装置に変更になりましたー」
「アンジーは相変わらず、いきあたりばったりやなぁ」

 ついに、予告期限当日がやってきた。
ウルフはフィリップの店で(酒は飲まずに)早めの夕食をとっていた。テレビはどの局もニュース特集だ。
タイムリミットまであと30分に迫った時、テロリスト逮捕の第一報が入った。店内に歓声が上がる。
『怒りの雷』の実行メンバーは、捜査本部の張った網に次々とからめとられているようだ。爆弾が3個回収されたところまで、立て続けに速報が入った。その後、続報が途絶える。爆弾は全て回収され、『ライオン・ハート』の作戦は壊滅したのか?
ウルフの胸の携帯が震えた。シンからのメールだ。

『やばいです。ビームサーベルが必要になりそうです』

次の瞬間、ウルフは席を立って駆けだしていた。

 橙系統逮捕、爆弾を起動前回収。緑系統逮捕、爆弾を起動前回収。黄系統逮捕、爆弾を起動前回収。
現場から報告が入る度、捜査本部も湧いた。しかし、その後が続かない。もう一つあるはずの藍色系統が。
「爆弾は6個だったのか?」 捜査員の一人が希望的観測を口にした。
既に回収した赤、青、紫と、今日回収した3個。虹の七色には一つ足りない。
「もしかしたら、逆の意味で罠だったのかもしれないな。実際には爆弾は6個しかない。しかし、7個目があるかもしれないと思えば、市長は要求をのまざるをえない」
これまでの陰険なやり口からすればあり得ることだ。しかし、本当に一発残っていたら? ナイトは人工衛星のモニター画面を食い入るように見つめた。
「あれ、爆弾じゃないですか?」と、画面を指さした捜査員がいる。
全員の目がその指先に注がれた。シティのはずれの田園地帯だ。照明はまばらで、幹線道路を走る車両以外に賑わいはない。その道路沿いのガソリンスタンドの屋上に、四角い銀色の物体がのっていた。
「倍率を上げろ」 ナイトは叫んだ。禍々しい物体が次第に大写しになる。
(まさか、こんなところに)
盲点だった。今回のテロはシティの破壊より、市長を失脚させることの方が主目的だ。既に、世界連邦発足会議を提唱したせいでシティにテロを招いたと、市長を非難する声が上がっている。爆弾の被害は小さくとも、一人でも死傷者が出れば市長は辞任に追い込まれるだろう。必ずしもシティの中心部を爆破する必要はないのである。
「きっと、ガソリンスタンドの従業員の一人が『ピース』だったんだ。5分前の映像には、あんなもの写っていなかった」 爆弾を発見した捜査員が言った。人工衛星の動きも計算に入れて爆弾を時間差で屋上に置き、自分は逃走したに違いない。
それまで救助セクションと打ち合わせを続けていたユージィンが、ナイトを振り返って言った。
「あの場所ならSRFよりも小回りのきくロードマスターで行った方がいい。だが、いずれにせよ、今からじゃ、爆発前に現場にたどり着くのが精一杯だ。こうなったら、あのビームサーベルを使うしかない」
ナイトは既に対策本部を呼び出していた。改造ビームサーベルは、ちょうど最後の不具合を調整したところだという。ナイトは対策本部の門前で待機しているエルシードにビームサーベルを渡すよう指示した。
その時、受話器をひったくるような気配がして、思いがけない声が飛び込んできた。
―ナイトか? 爆弾の位置を教えろ。おれが行く」
「ウルフ…?」

 「ウルフさん、待って下さい。現場へはわたしが行きます」
シルフィードと志摩の足音が後ろから追いかけてくる。
「実験はまだ完璧に終わったわけじゃありません。100%作動するという保証はないんです」
「だから、おれが行くんだよ」 ウルフはシルフィードを振り返った。
「あんたにはもしものことがあったら、泣く人がいる」と、後方の志摩に目をやった。「そういう奴は無茶をしちゃいけない」
シルフィードの青い瞳にみるみる涙が盛り上がったので、ウルフはうろたえた。
「お、おい、何で泣くんだよ」
「ウルフさんにだって、泣く人がいます」 涙をぼろぼろこぼしながら、シルフィードが言った。「私が泣きます」
「…あんたは負い目を感じているだけだ」 あっけにとられつつも、ウルフは言った。
「おれがこんな体になったのは、別にあんたのせいじゃない。責任を感じる必要はないんだ。あんたも、ナイトも」
「そんなこと言ってるんじゃありません」 シルフィードは叫んだ。
「わたしだって、ウルフさんと同じで家族なんかいません。ものごころついた時はもう学研都市(アカデミア)にいました。それでもわたしを大切に思ってくれる人はいます。ウルフさんもそうなんじゃありませんか?」
「……」
「あの店で…あなたは自分が辛くてたまらない時に、わたしを気遣ってくれました。本当に強くてやさしい人じゃなきゃできることじゃありません。そんな人に死んでほしくない…っ」
シルフィードが頭を振ったので、涙の滴がウルフの手にかかった。感情を伴った涙は不思議に熱い。救出できなかった被害者や、殉職した同僚の遺族は、いつもこんな、しぼり出すような慟哭の涙を流していた。そのような絆を持たない自分が真っ先に危険に飛び込むべきだとずっと思ってきた。だが、現にシルフィードは彼のために泣いている。いや、彼女だけじゃない。ナイト。テロの捜査でくたくたのはずなのに、毎日フィリップの店まで迎えに来てくれた。フィリップも、説教がましいことは何一つ言わず、ただ黙って見守っていてくれた。時々妙に酒が水臭いことがあったが、あれはおれの健康を気遣っているつもりだったのか。
「わかったよ。おれの言い方が悪かった」
ウルフはシルフィードの肩に手を置いた。
「だが、勘違いするな。おれは死にに行くわけじゃない。今頃ナイト達が、あの道路を封鎖してスタンドの人間を避難させてるだろう。爆弾がどうしても止まらなければおれも退避する。そういうのは、現場を経験してる人間の方が上手くやれるんだ。だからおれが行く。わかるな?」
シルフィードは静かに顔を上げて頷いた。ビームサーベルを指差し、
「それの使い方はご存じですか?」と訊いた。
「ああ。制式採用された時に説明会があったからな」
「ビームが青色になるまで出力を上げて、爆弾の中央部に突き刺して下さい。正確に中心である必要はありませんが、あまりずれると干渉派が全体に行き渡らなくなります」
「わかった」
「これも持って行って」
志摩が後ろから予備のビームサーベルを二本差し出した。ウルフはそれを受け取ると、また走り出した。

 ビルの外へ駆け出すと、エルシードがロードマスターに跨って待っていた。通常のオートバイよりはるかに高性能なので、これに乗るには特別なライセンスが要る。対テロセクションの人間は全員取得が義務づけられているが、他の部署の職員は任意である。
「それが改造ビームサーベルか?」 エルシードは寄こせというように手を伸ばした。
「時間が残り少ない。手は多い方がいいと思うぜ」
エルシードは余計な押し問答はしなかった。「ヘルメットをかぶれ」
ウルフが予備のヘルメットをつけて後部座席に跨ると、戦闘機のようなキャノピーがカウルの上にかぶさった。エルシードがスロットルを開ける。
ロードマスターは風のように夜の道を疾駆した。
「あなたは、さすがパイロットだな」 エルシードが呟いた。
「バランス感覚がいい。おかげでコーナーを切るのが楽だ」
エルシードの背中越しに速度計を見て、ウルフはのけぞりそうになった。777で夜空を飛んでいるのと何ら変わらない感覚だ。
「現場だ」
「もう着いたのか? さすが『飛ばし屋エル』だな」
「何をのんきなことを言っている。爆発まであと5分だ」
付近に車両は一台もなく、ガソリンスタンドももぬけのからだった。道路の両側には見渡す限り田畑が広がっている。
エルシードはキャノピーをたたんでマシンをジャンプさせ、ウルフはリアシートから屋上に飛び移った。コンクリートの床に受け身を取って転がる。爆弾は貯水タンクの上だ。鉄のはしごに飛びついて、ウルフはタンクに上った。
「あと4分」 エルシードの声が響く。
ウルフはビームサーベルの励起スイッチを押した。ウィーンという音がして、オレンジ色のビームがほとばしる。出力を上げるにつれ、ビームの色はオレンジからルビー、ヴァイオレットへ変化し、最高出力に達すると青白く発光した。
爆弾の中央部に突き立てると、装置の内部に干渉派が走るのが天板越しにも見てとれた。サーベルが倒れないよう根本まで刃を沈めると、ウルフは貯水タンクから飛び降りて、屋上の手すりから身を躍らせた。いったん手すりにぶらさがって勢いを殺し、ロードマスターのリアシートめがけて飛び降りる。
エルシードにしがみつくような形になったが、彼女はかまわずマシンを発進させた。一分以内に爆発の圏内から逃れるために、フルスロットルで走る。キャノピーが開いたままなので、上着がちぎれそうにはためいた。
「おい」 風の音が凄まじいので、ウルフはエルシードの背に口を押し当て、振動で言葉が伝わるように言った。
「もう大丈夫みたいだぜ」

 タイムリミットが過ぎても、爆発は起きなかった。シティは救われたのだ。レーヴェの関与を暴くところまでは行かなかったが、その陰謀は阻止された。機械の部品と違い、人間は感情を持った生き物だ。どんなにマインドコントロールし得たと思っても、必ず思いがけない動きをする。
ウルフはスターリング本部長に呼び出されて直々に礼を言われた。
「おれのは、いいとこどりですから」 ウルフは正直なところを言った。
もっとも、スターリングのことだから、捜査本部も対策本部も遺漏なくねぎらったことだろう。
「それより、次の部署なんですが」
現在欠員のある部署を訊くと、バックアップセクションだという。ウルフは不思議な縁を感じた。捜査員が安心して活動できるよう、ジュンのようにがっちり後方を支えるのもいいかもしれない。
彼は特別休暇を返上してバックアップセクションに転属し、シルフィードらと共にガリルを中和する作業に加わることになった。自分の人生を変えたガスを自らの手で消すことが、新しい部署での最初の仕事だった。
ウルフのようなヒーローが地味なバックアップセクションを希望してくれたというので、スタッフは大喜びだった。ガリルを中和する薬剤放出のスターターはぜひ彼に務めてほしいと、ジュンは言う。面映ゆいものを感じながらも、ウルフはそれを受けた。
志摩とシルフィードが設計した中和装置は、巨大ロボットのアームのようだった。
重量は意外に軽いそれを、彼はメトロに続く穴に向けると、ひきがねのようなスイッチをぐいと引いた。

(オシマイ)