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随筆 こんな死に方も  文科系

2014年08月18日 21時32分12秒 | 文芸作品
 こんな死に方を選んで、近い終末への途上にあるYという友がいる。僕の高校時代の100余名の同期生のうち8人でここ5年ほど2~3ヶ月おきに酒宴を持ってきた仲間の一人だ。男女半々で一学年わずか100名ほどの皆が友人みたいなものながら在学当時はさほど親しいとは言えなかったが、この五年でとても面白い人物だと分かってきたお方である。非常なグルメであって、若い頃からお父さんに連れられたりして吉兆などなどで食べ尽くして来られたお人だ。また、無類の話好きで、会話自身で人生を楽しませ合うというそんな意味でも人生のディレッタントと感じさせられてきた。話し出したら止まらないのである。それも全く嫌みのない話で、座を楽しませる会話だった。

 さて、そんな彼、去年9月に肺癌が発見された。数年苦しんできた腰痛について精密検査をしてもらったところ、肺癌が元で腰椎にも移転していると告げられたのである。これに対して彼は、こういう死に方を選んだ。いや、こういう場合にはということで、前から準備していたらしい。10年ほど前にお連れ合いに大腸癌が分かって、それからわずか7ヶ月で亡くされていることも、彼の中にこういう決断を生む要因になったようだ。
『 腰の癌には、痛いのが嫌だから放射線治療をします。が、その治療の方が一段落したら肺癌の方はそのままで、あるホスピスにもう予約が取ってありますから、空きが出次第そちらへ移る積もりですから、よろしく』

 このホスピスへ移ってから1ヶ月ちょっと経った。歯医者さんである一人息子さんからも、自分の決意に理解、許諾をきちんと取り付けている。日常生活はというと、一応毎日起きて身体は動かすがほぼ寝たきり、痛みの緩和中心の終末アパート暮らしという、そんな感じだ。入所一時金はほとんど不要で、「個室家賃」や医療その他のサービス料込みで、彼の年金月額ならお釣りが来るらしい。僕はたまたまこの3週ほど毎週お見舞いに行っているが、全く普通の会話を一時間ほどして、帰ってくる。彼が、訪問大歓迎と喜んでくれるからだが、その「平常状態」には驚いている。僕として、この正反対の例を多く知っているからである。たとえば、こんな。
 僕よりも20歳近く若い30年来の親友といえる人が、数年前に食道癌発見手遅れで、確か50そこそこでなくなった。彼から、名古屋でも有数の大病院癌病棟の様子を聞いたことがあるが、その話が凄まじいのである。大の男が、医者にまで文句を言う、本当に身も世もあらず周囲に泣きつき、毒つく。特に、手遅れとか治癒不可能とかで退院させられる時の様子が凄まじかったと語っていた。
 この若い友人もY君と同じように落ち着いて見えたお人だが、普通の人はなかなか彼らのようには行かないようだ。人間、死を覚悟して生きるって、当たり前のことなのだが。


(このY君は、次の当ブログ・エントリー小説におけるのっぽさんのこと、このモデルです。本年1月1日から3日までの連載「死にちなんで」。今思えば、この小説を彼を含めて7人に渡した時には、この肺癌全てついて本人はもう分かっていた。以降上に書いた方向への覚悟も済んでいたということです。それを誰にも気づかせないで1月30日の飲み会に出ていたって、やっぱり凄い人だ) 
コメント (6)
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