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随筆  僕の渓流釣・「クライマックス」  文科系

2024年05月20日 14時20分52秒 | 文芸作品
 我が人生の中で、25年ほどの渓流釣り経歴を持っている。愛知、岐阜、三重、滋賀、福井にまで足を踏み入れ、北海道、伊豆半島などの旅先でめぼしい川を見つけたときには、「竿を出してみた」ことも多い。そのクライマックス場面を描いてみよう。丹念に付けてきた釣り日記をひっく襟返してみると、1984年9月24日のことだ。その日、その場所は、岐阜県白川村の飛騨川(木曽川の大支流である)に東から流れ込む白川、その上流・東白川村のさらに東方。その日の同行者が我が一人息子K、当時12歳、その初釣行の出来事である。


 この時、Kの渓流釣り初体験を思い立ったのには、大きな背景があった。前年83年の8、9月と、僕の渓流釣り15年ほどの記録になった大物が2回も上がった場所なのだ。ヤマメの兄弟であるアマゴのいわゆる「尺物」が、初めは31センチ、2度目が32センチ300グラム。ちなみに、アマゴというのは、ヤマメとほとんど同じ体型、体色だが、アマゴには赤い斑点がある。
〈こんな面白いこと、Kにも味あわせてやろう〉
 この翌年に早速ここへと連れ出したのだ。僕ができることをほとんど教えてきたKであったが、ハエの流し脈釣りだけは一応教えてあったので、その応用として、初の渓流ヤマメ釣りであった。

 「トウちゃーん!」。
 晴れた日の午前6時過ぎ、甲高い声が大きな川音(と朝霧)の間から僕の耳に飛び込んできた。僕の下流100メートルほどの岩の上で釣っていたKに目をやると、大きく曲がって水に引きずり込まれそうになった釣り竿に全体重を乗せて堪えている小柄なその姿がすぐに目に飛び込んできた。
〈相当な大物、それも深場だ。その中心部の流れに魚が乗せられたら、0・6号の糸が持たないだろう〉
 この瞬間、乗っていた岩場から左手の浅瀬にゴム長靴のまま飛び込んでいる自分がいた。浅瀬といっても胸近くまでの深さの急流とあっては、体を半分引き倒されるような衝撃を感じたものだ。なかば水に引き倒され半分泳いでいるような形で岸辺、浅瀬に身を寄せて、後で振り返ればその浅瀬をKの岩まで飛んでいったはずだ。体を水から引き起こしてからのことは「半ば泳いでいた」以外にはほとんど覚えていなくって、記憶にある次の僕は、Kから引き渡された竿をゆっくりと寄せ上げているもの。「慎重に、慎重に」と、この時ばかりは釣り師の全体験が総動員されているのである。それで、やっと落ち着いたのは、僕が寄せた魚を、Kが指示に従って玉網に納め、それをつくづくと眺めている時。30センチの尺物と気づいた僕の気分は、自分が2度これを釣り上げたときなど比較にならぬ高揚感に躍り上がっていた。その日これ以降、何度繰り返したことか。
「すごい魚だなー、良かったな、K!」
 が、そんな感嘆の声を上げるたびにKの応答は今一つ、なんとも物足りなかったもの。まー、趣味というのは、そんなものなのだろう。渓流の趣味も、Kへの僕の過去いろんな「教え」の執着も。


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