生活用品からアウトドアグッズまで幅広い商品をそろえる「ダイソーマロニエゲート銀座店」=4月、東京都中央区
100円ショップが、曲がり角を迎えている。
ロシアのウクライナ侵攻や円安で商品の原価が高騰し、低価格を維持するのが厳しくなっている。
100円より高い商品にシフトする大手もあるが、
物価高で消費者の節約意識は高まっており、100円が売りの業態を変えるのは難しい。
商品を製造する企業のコスト吸収の努力も限界で、
「事業を続けるのが、きつい」とため息が漏れる。
(石田剛) 【グラフ】100円ショップの市場規模
陶器やガラスの食器、色とりどりのマニキュアやアイシャドー、生花、アウトドア用品・・。
2日に東京・銀座の100円ショップ「ダイソーマロニエゲート銀座店」を訪れると、
約1000平方メートルの売り場に、約2万3000種類の商品が並んでいた。
東京都江東区の女性会社員(23歳)は、
「安いものを探し回らなくても、ここに来れば、何でもそろう」と話した。
この店舗は、高級ブランド店が集まる通りに近い商業施設の6階に入る。
ダイソーのブランド価値を高めようと、グローバル旗艦店として4月にオープンした。
「100円の商品をもっと充実させたい。
物流の効率化などコストの抑制策は、まだある」。
運営する大創産業(広島県)の平本良弘商品本部長は意欲を語る。
100円ショップ業界は、安くて幅広い品ぞろえで、拡大してきた。
帝国データバンクの調査では、大手5社の2021年度の国内店舗数は8410店と、
10年間で約1・5倍に増えた。
総売上高も9555億円と、約1・6倍に伸びた。
「商品の多くは、100円ショップ用に製造されており、
大量発注や製造法の工夫で、原価を抑えている。
独自の商品調達ルートを築いたのが、業界の強みだ」。
小売業に詳しい分析広報研究所(東京)の小島一郎チーフアナリストは、指摘する。
だが、事業環境は厳しさを増している。
熊本県内のメーカーは、100円ショップ向けに、ばんそうこうなど衛生用品を製造する。
原油高騰などで、石油が原料の粘着剤からガーゼ、包装紙まで全ての材料が、
この1年10~15%上がった。
納品価格引き上げの交渉は、難しいといい、
担当者は「大量の注文を失うのが怖い、製造側の立場は弱い。
結局、コスト増加分は自分たちで、負担することになる。
現場は、どんどんきつくなっている」と語る。
業界では、商品の多くを中国や東南アジアで生産するが、
人件費高騰に円安が、追い打ちをかける。
中国で製造委託したスマートフォン用イヤホンを納品する東京の企業の担当者は
「想定以上の円安がきつい。
安い材料や塗料で、コストを抑えてきたが限界だ」と明かす。
100円ショップの運営企業も価格帯を広げている。
大創産業は、原価の高い商品を200~1000円で販売し、全体の商品の約1割を占める。
2018年からは「300円ショップ」を展開しており、
2022年度に計画する国内の新規出店350店のうち、約4割を300円ショップにする。
「ワッツ」や「フレッツ」を展開するワッツ(大阪市)も、
200~1000円の商品数を徐々に拡充し、全体の1割に当たる約2000種類に増えた。
ただ、記録的な物価上昇で、100円ショップの存在意義は高まっており、
大手各社は、100円が中心の商品構成は崩さない方針だ。
「あくまで100円ショップなので、100円より高い商品が増えると、
お客さまの抵抗感も増える。
今の1割程度が、いいバランスではないか」と、ワッツの担当者は語る。
セリア(岐阜県)は、全商品100円均一の戦略を変えていない。
分析広報研究所の小島氏は「小売業は、お得感を出すイメージ戦略が重要だ。
100円ショップの看板は強力で、簡単には下ろせないだろう」と話している。・・ 》