ウィトラのつぶやき

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豊洲市場のおかしな決定に見る組織の脆弱さ

2016-09-15 11:24:35 | 社会

築地市場の移転先である豊洲市場の環境対策がこれまでの発表と異なっている、と言って大騒ぎになっている。これを聞いてすぐに情報公開した小池新都知事は、良い仕事をしていると思う。就任2か月にならないうちに前任の舛添知事の2年以上の仕事に匹敵するくらいの存在感がある。なぜ豊洲市場の建物の下が空洞になっているのか、化学工場の跡地なので盛り土をしないと行けないということは良く知られていたことのはずであり、大部分の人がおかしいと感じている。東京都が勝手に決めたらしいが東京都の職員だってそれなりの良識は持っているはずである。誰が推進したのかはそのうち明らかになってくると思うが、ここで私が指摘したいのは「おかしな決定」がそのまま通ってしまう日本の組織の脆弱さである。上のほうからの指示だとしても、土壌汚染を議論する専門委員会に情報を入れればその時点で問題化されてストップがかかったと思うのだが、それさえも行われなかった。それは理屈上おかしな決定でも「理にかなわない」と言って声を上げる人が非常に少ない、という体制の弱さを意味している。

私が所属している電子情報通信学会でも「明らかにおかしい」と思える決定があった。それはI-Scoverという技術用語の辞書を学会で作ろうという動きである。今時技術用語辞典などはGoogle検索やGoogle ScholarというGoogleのサービスが広く使われており、日本の学界で作った辞書などはほとんど使う人が居ないと思う。ところが、ある時の会長がこれを強力に推し進めると、取り巻きが「すでに決まったことだ」という感じで周りにアナウンスをして具体的な用語集の作成作業を割り振る。それだけでは済まないのでシステム作成を外部に依頼して、学会の会計は赤字になる。仮に一時的にまともなものができたとしても継続的に更新していかないと使える状態は維持できるわけはなく、Googleに対抗できるものになるとはとても思えない。出来立ての今でも使っている人は少なく、数年たつと見向きもされないものになると私は思っている。学会は良識の府であり、大部分の教授たちが「うまくいくわけがない」と思ったはずである。しかし、実際には実行されて大学教授たちの多大な時間がこのために費やされた。これは学会がシステム構築のために支払った金額の100倍くらいのコストになると思うがボランティアのため、目に見えないコストになっている。

要するに、日本の組織では殆どの人が「おかしい」と思うようなことでも、一旦動き始めると実行に向けて突っ走ってしまうことが多いということである。自衛隊の海外での武力行使に関しても、仮に政府が突っ走ろうとしても「野党がいるから大丈夫」、「マスコミがいるから大丈夫」、と今の我々は2重3重の保険がかかっているように感じているが、この保険は案外脆弱で、走り始めると止められないという性格を日本の社会は内蔵しているということを今回の出来事で改めて感じた。