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ドイツの戦車供与がおびき寄せる全面戦争のリスク

2023-02-03 08:39:35 | 日本社会

以下文はヤフーニュース(1月30日)の紹介です。(以下文はコピーです。)、昨今の論調では行け行けどんどんばかりですが、参考になる記事だと思い、紹介します。(著作権の問題も有り、状況により削除予定です。)

 

リンク先 ↓

ウクライナは全世界を戦争に巻き込むのか~ドイツの戦車供与がおびき寄せる全面戦争のリスク(亀山陽司) - 個人 - Yahoo!ニュース

 

以下文は亀山陽司氏の記事です。

亀山陽司氏の紹介

元外交官1980年生まれ、2004年東京大学教養学部基礎科学科卒業、2006年東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻修了、外務省入省後ロシア課に勤務し、ユジノサハリンスク総領事館(2009~2011年)、在ロシア日本大使館(2011~2014年)、ロシア課(2014~2017年)、中・東欧課(ウクライナ担当)(2017〜2019年)など、10年間以上ロシア外交に携わる。

2020年に退職し、現在は森林業のかたわら執筆活動に従事する。日本哲学会、日本現象学会会員、著書に「地政学と歴史で読み解くロシアの行動原理」(PHP新書)、北海道在住

 

「クライナは全世界を戦争に巻き込むのか~ドイツの戦車供与がおびき寄せる全面戦争のリスク」

亀山陽司・元外交官

2023年1月27日

ドイツ製レオパルト2戦車のウクライナへの供与に、一部の人々は歓声を挙げていることだろう。だがしかし、この決断を下したショルツ首相にとっては一か八かの苦渋の選択であったことは間違いない。戦車供与は、ロシアとウクライナの戦争にドイツが参戦することにはならないのだろうか。どこまで関与すればレッドラインを超えるのだろうか。西側はレッドラインを探りながら少しずつ深入りしていっているのだ。

今回のドイツの戦車供与はアメリカも戦車供与するならばという条件で決定されたという。そのため、アメリカも主力戦車M1エイブラムス31台の供与を同時に発表した。その際、バイデン大統領は、「ウクライナが自国の領土を防衛するのを支援するものであり、ロシアを攻撃する脅威となるものではない」と強調した。これは、アメリカとしても対ロシア戦争に突入するつもりはないという意思表示である。

クリミア奪還をあおる米国政府の危険

しかし、である。戦車供与に伴いホワイトハウスで行われたプレスブリーフィングにおいて米政府高官が、ウクライナの領土を奪還することを可能にするものだと述べたのである。領土の回復は、ウクライナの悲願であり、ウクライナを支援する西側の立場からすれば当然の思いであろう。しかし、クリミアを自国領土と主張するロシアからすれば、アメリカがロシア領を攻撃するために戦車を供与していると受け取るだろう。

もう一つの懸念事項は、レオパルト2戦車がドイツ戦車であるという事実が、ロシア人に独ソ戦のトラウマと本能的な恐怖を呼び起こすであろうことだ。これによりロシア国内ではウクライナへのより破壊的な攻撃への圧力が高まるだろう。プーチン政権はこうした国民心理に応じる形で、積極的行動に出ることになる。自国の防衛のために積極的(攻撃的)に行動するというのは、ロシアの伝統的な国防政策であり、私はこの政策を「積極的防衛主義」と呼んでいる(拙著「地政学と歴史で読み解くロシアの行動原理」参照)。

特別軍事作戦か戦争か

こうなると焦点は、いつ「軍事作戦」が戦争に転化するのかであろう。ロシアがこの戦争を「特別軍事作戦」と呼んでいるのはなぜか。これは国内不安を高めないために仕組まれた国民向けのプロパガンダに過ぎないのか。では、そもそも特別軍事作戦と戦争の違いは何なのだろうか。

特別軍事作戦の目標は、プーチン大統領によれば、ドンバスにおける「我々の人々」(同胞)をウクライナの民族主義的な政権(ロシア側は「ネオナチ」とも呼んでいる)から保護するためである。また、もう一つの重要な目標はロシア自体の安全保障、つまりウクライナのNATO加盟を阻止して中立化することであるとされる。つまり、軍事作戦とは、あくまでもこうした目標を達成するためのオペレーションに限定されているというニュアンスが込められている。

そうだとすれば、これに対する全面戦争(特別軍事作戦も実質的には戦争といえるので、それと対比してこちらは全面戦争と呼ぶ方が適切だろう)とは、ウクライナの主権の破壊により、ウクライナを支配する権限を手にすることである。方法的には、常備兵力のみならず、徴兵、物資の徴用など全面的な動員を行う。しかし、ロシアは既に予備役を徴兵し、総力戦に向けた体制作りも行っているのだ(「開戦」秒読み――「総力戦体制」のロシアにどう立ち向かう)。つまり、実質的には全面戦争に向けて動き始めている。

ウクライナ紛争後を見据えるロシア軍

1月11日には、ゲラシモフ参謀総長を特別軍事作戦の司令官に任命した。司令官のレベルを最高に引き上げ、軍事行動の効率性を高めようという考えである。

また、1月10日にはショイグ国防相が、大統領の決定として、ロシア軍の増強計画を発表した。それによれば、核戦力の発展、ウクライナやシリアでの経験を踏まえた兵の訓練プログラムと兵器供給計画の策定、航空宇宙軍の増強、指揮通信システムの整備、そのためのAIの活用などが含まれる。さらに、1月17日には、ショイグ国防相が2023年から2026年にかけてロシア軍の員数を150万人まで拡大(現在約115万人)する計画を発表した。

しかし、これらの計画は、対ウクライナ戦だけを見据えたものではないと見るべきだ。ロシアはウクライナ戦争の後、欧米との全面的な対立関係が継続することを見越して、軍事力増強を進めている。

春季攻勢で再度キエフへ?

こうした背景の下で、西側がウクライナへのより強力な兵器(戦車や装甲車)の供給に踏み切ったことで、ロシアはウクライナへの攻撃を早める必要性を感じることになった。これは、昨年2月のウクライナ侵攻を思い出させる状況だ。当時のロシアは、時間がたてば西側の支援を受けたウクライナがロシアの脅威となるまでに軍備増強するだろうとの懸念を抱いたため、そうなる前に「解決」しようとして軍事行動に訴えた。

今回も、仮に欧州中のレオパルド2戦車が前線に投入されることになればロシアにとって非常に望ましくない。西側は前線に複数の戦車大隊を配備してロシアの攻勢に対する防御としようと考えている。それはロシア側もよく理解している。ロシアはそうなる前に戦術的な成果を求め、同時に戦略的な成果を求めるだろう。戦略的な成果とはゼレンスキー政権の瓦解である。そのため、来るべき春季攻勢においては、再度のキエフ方面への侵攻を目指す可能性がある。

世界を巻き込みたいウクライナ政府の主張の危険性

ウクライナはインフラを破壊され、はっきり言えば、もはや自力でロシアの攻勢に耐えきることは不可能な状態だ。ウクライナは西側の軍事支援、経済支援によってかろうじてロシアに対抗している。むしろ、世界中をロシアとの戦争に巻き込むことで生き残るという戦略をとっている。今年の元旦、NHKのインタビューに応じたウクライナのダニロフ国家安全保障・国防会議書記は、「私たちは(NATOの)同盟国になりたい。パートナーと同盟国には大きな差がある。文明社会全体にとって脅威であるロシアを倒す同盟となればもっと私たちは楽になる」と述べ、早期のNATO加盟を改めて訴え、「文明社会全体がウクライナの味方であるべきだ。私たちは、自分たちのためだけでなく民主主義や自由のために戦っている」と強調した。ウクライナは「ロシアを倒す」ためにNATOに加盟して、文明社会全体をロシアにぶつけようと主張している。ウクライナ政府の不屈の抵抗精神は敬意に値する。しかし、その主張は極めて危険である。

第一次世界大戦はオーストリアとセルビアの戦争に世界中が参戦して勃発し、第二次世界大戦はもともとはポーランドをめぐって勃発した。今回、なぜすぐに本格的な第三次世界大戦に発展しなかったのかといえば、核抑止が働いていたからだ。しかし、どんな形であれ第三次世界大戦があるとすれば、それはウクライナをめぐってであることは間違いない。そして、現在、なし崩し的で曖昧なエスカレーションが進んでいる。

残念ながら、世界の大国たちはこの戦争を止めるよりは、様子を探りながらその激化に加担しているのが現状だ。しかし、そうした態度が続けられるかどうかは、春季攻勢の結果次第だろう。

ウクライナ訪問を検討する岸田首相の不可解

それにつけても不可解なのは、現在、岸田首相がウクライナ訪問を検討していることである。このきわめて難しい状況で、何らの見通しも目的も狙いもなく、ただ連帯を示したり、「自由や民主主義」を奉じる立場を表明したりすることは、個人としては大変結構なことかもしれないが、国家を代表して行動するのであれば十分慎重であらねばならないだろう。

もし、岸田政権が、今ウクライナに寄り添うことで、例えば、来るべき対中問題で欧米の支持を得られるだろうとの目算を抱いているのだとすれば、それは早計である。国際政治はそれほど単純ではなかろう。また、政権がウクライナに同情を寄せる日本国民の支持を期待しているのだとすれば、それは浅はかである。万が一、ウクライナの危機にかこつけて、日本の防衛力整備(と増税)の補強材料としたいと考えているならば、それは短絡的である意味危険な思考回路である(そんなことはあり得ないと信じているが)。これは正々堂々と国民的な議論に付すべき問題である。そもそも、極東に戦火を到来せしめない外交努力こそが日本国政府としてとるべき方針ではなかろうか。この状況で対立構造にむやみに飛び込むことはただただ無益である。それとも欧米諸国が見いだせない事態打開の妙案を携えていくのであろうか。

時々見られるような、中国≒ロシア、台湾や日本≒ウクライナというアナロジーは安易である。もしこのアナロジーでいけば、中国やロシアと日本が事を構えた時に、西側諸国は我々に武器を供与してくれるだけということになる。日本が身を挺して中国やロシアの「侵略的行動」にただ一人立ち向かうことになるのである。

確かにウクライナは勇敢にロシアに立ち向かっているが、なぜロシアはウクライナに侵攻したのだろうか?そこを改めて思い返したい。そもそもの初めにウクライナ侵攻を抑止できなかった外交的失策を繰り返してはならないのだ。

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亀山陽司氏経歴

元外交官1980年生まれ、2004年東京大学教養学部基礎科学科卒業、2006年東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻修了、外務省入省後ロシア課に勤務し、ユジノサハリンスク総領事館(2009~2011年)、在ロシア日本大使館(2011~2014年)、ロシア課(2014~2017年)、中・東欧課(ウクライナ担当)(2017〜2019年)など、10年間以上ロシア外交に携わる。

2020年に退職し、現在は森林業のかたわら執筆活動に従事する。日本哲学会、日本現象学会会員、著書に「地政学と歴史で読み解くロシアの行動原理」(PHP新書)、北海道在住

 

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