昭和28年の新東宝作品だが、その後大蔵貢が主導したエログロ路線ではなく、いたって「きまじめ」な作品である。内容としては、当時まだまだ戦後の貧困とカオスが残る渋谷のドヤ街を舞台にした純愛ドラマといった風情だが、おきまりの通俗恋愛ドラマになるすれすれのところで、今一歩調高い仕上がりになっているのは印象深い。なにしろ、本作の監督は田中絹代。一時スランプに陥った彼女が女優として復活した直後、まさに満を持してという感じで、監督業に進出した第一作だった訳だから、「ありきたりの通俗作品にしてたまるか」という踏ん張りがよく出た仕上がりになっている。
主演は中心となるカップルが森雅之と久我美子、このふたりに絡むのが宇野重吉、道三重三という布陣。宇野が営むアメリカに帰国したアメリカ兵に送る恋文の代筆業(これと主人公が大事にしているラブレターをひっかけて、タイトルが「恋文」となっているのか)を主人公の森が手伝い、それがきっかけで長年探していた女がそこに訪れる。ところが彼女は戦後の貧困で外人の結婚同様の生活をしていた過去があったことが、主人公に知れてこのふたりの懊悩が始まる…というものだが、共演の宇野重吉がなにしろ若い。また、久我美子は個人的にはあまり好みじゃないが、この時期の彼女の清楚さは抗しがたい魅力を感じた。ついでにいえば、新東宝らしくデビュー直後に三原葉子、それと何故か安西郷子も出てくるのも楽しいところだ。
ストーリー展開はさすがに昭和20年代だけあって、実にのんびりしたものだ。なにしろ二人が駅で再開するまでに45分もかかるのだ。今の感覚ならもう待ちきれないというか痺れを切らすようなテンポだか、その分、当時の渋谷の風景(まだ江戸が残っている東京という感じ)やそこに生きる人間達の風俗のようなものがたっぷりと拝めるのは、今だからこそ魅力だろう。後半は主人公の弟がキューピット役となって奔走しつつ、お決まりのハッピーエンドに行く手前で唐突に結末を迎える。こうした余韻を残す終わり方は、昭和28年にしてはけっこうモダンなスタイルだったはずだが、こういうところに田中絹代なりのこだわりを感じないでもない。
ともあれ、この作品、主人公に関わるエピソードも多いし、田中監督の初演出ということで顔見せの大物ゲストも多数で、なかなかまとめるのは大変だったはずだが、初監督としてはなかなかの手堅くかつ堂々たる演出だったように思う(大監督の助言もかなりあったようだが)。あと、木下恵介による脚本にはたっぷりと織り込まれていたであろう反戦的メッセージは、けっこうそぎ落とされているようで前半と終盤に出てくるくらいになっている。当時はおそらくこのあたりが「手ぬるい」と批判の対象となったのかもしれないが、現在の視点でみるとこのくらいの方が、嫌みにならず恋愛映画としてはよかったとも思った。
主演は中心となるカップルが森雅之と久我美子、このふたりに絡むのが宇野重吉、道三重三という布陣。宇野が営むアメリカに帰国したアメリカ兵に送る恋文の代筆業(これと主人公が大事にしているラブレターをひっかけて、タイトルが「恋文」となっているのか)を主人公の森が手伝い、それがきっかけで長年探していた女がそこに訪れる。ところが彼女は戦後の貧困で外人の結婚同様の生活をしていた過去があったことが、主人公に知れてこのふたりの懊悩が始まる…というものだが、共演の宇野重吉がなにしろ若い。また、久我美子は個人的にはあまり好みじゃないが、この時期の彼女の清楚さは抗しがたい魅力を感じた。ついでにいえば、新東宝らしくデビュー直後に三原葉子、それと何故か安西郷子も出てくるのも楽しいところだ。
ストーリー展開はさすがに昭和20年代だけあって、実にのんびりしたものだ。なにしろ二人が駅で再開するまでに45分もかかるのだ。今の感覚ならもう待ちきれないというか痺れを切らすようなテンポだか、その分、当時の渋谷の風景(まだ江戸が残っている東京という感じ)やそこに生きる人間達の風俗のようなものがたっぷりと拝めるのは、今だからこそ魅力だろう。後半は主人公の弟がキューピット役となって奔走しつつ、お決まりのハッピーエンドに行く手前で唐突に結末を迎える。こうした余韻を残す終わり方は、昭和28年にしてはけっこうモダンなスタイルだったはずだが、こういうところに田中絹代なりのこだわりを感じないでもない。
ともあれ、この作品、主人公に関わるエピソードも多いし、田中監督の初演出ということで顔見せの大物ゲストも多数で、なかなかまとめるのは大変だったはずだが、初監督としてはなかなかの手堅くかつ堂々たる演出だったように思う(大監督の助言もかなりあったようだが)。あと、木下恵介による脚本にはたっぷりと織り込まれていたであろう反戦的メッセージは、けっこうそぎ落とされているようで前半と終盤に出てくるくらいになっている。当時はおそらくこのあたりが「手ぬるい」と批判の対象となったのかもしれないが、現在の視点でみるとこのくらいの方が、嫌みにならず恋愛映画としてはよかったとも思った。