歌番号一三一九
原文 世武由布保宇之乃以川乃久尓々奈可佐礼者部利个留尓
読下 善祐法師の伊豆の国に流され侍りけるに
原文 以世
読下 伊勢
原文 王可礼天者以川安比身武止於毛布良无可幾利安留与乃以乃知止毛奈之
和歌 わかれては いつあひみむと おもふらむ かきりあるよの いのちともなし
読下 別れてはいつあひ見むと思ふらん限りある世の命ともなし
解釈 ここで別れてしまうと今度はいつ逢えるだろうと貴方は思っているでしょう。でも、限りあるこの世での命はあっけないものですよ。
歌番号一三二〇
原文 堂以之良寸
読下 題知らす
原文 与美飛止毛
読下 詠み人も
原文 曽武可礼奴万川乃知止世乃本止与利毛止毛/\止多尓志多者礼曽世之
和歌 そむかれぬ まつのちとせの ほとよりも ともともとたに したはれそせし
読下 そむかれぬ松の千歳のほどよりもともどもとだに慕はれぞせし
解釈 世に背くことも出来ない、長い寿命を持つ松、その松が千歳の寿命をもつほどよりも、友の方々とだけでも心を交わしたいものです。
歌番号一三二一
原文 加部之
読下 返し
原文 与美飛止毛
読下 詠み人も
原文 止毛/\止志多不奈美多乃曽不美従者以可奈留以呂尓美衣天由久良无
和歌 ともともと したふなみたの そふみつは いかなるいろに みえてゆくらむ
読下 ともどもと慕ふ涙の添ふ水はいかなる色に見えて行くらん
解釈 友の方々と心を交わしたいと、貴女がたくさんの涙を流れ添うでしょう、その流れ出た河の水はどのような色に見えて流れ行くのでしょうか。(きっと、血の色の河でしょうね。)
歌番号一三二二
原文 天為之乃美可止於利為多万宇个留安幾己幾天武乃
加部尓加幾川个々留
読下 亭子の帝下りゐたまうける秋、弘徽殿の
壁に書きつけける
原文 以世
読下 伊勢
原文 和可留礼止安比毛於之万奴毛々之幾遠美佐良无己止也奈尓可加奈之幾
和歌 わかるれと あひもをしまぬ ももしきを みさらむことや なにかかなしき
読下 別るれどあひも惜しまぬ百敷を見ざらん事や何か悲しき
解釈 御代替りで、今、この弘徽殿の間を離れ別れて行きますが、何も無念と思うことがありません、これから宮中の物事に関与できないこと、そのことにどうして残念と思うでしょうか。(御代替りでの、御方の御付きのものどものことは心配いりません。)
歌番号一三二三
原文 美可止美曽波奈之天於保武可部之
読下 帝御覧じて、御返し
原文 天為之乃美可止
読下 亭子のみかと(亭子帝)
原文 美比止川尓安良奴者可利遠々之奈部天由幾女久利天毛奈止可美左良无
和歌 みひとつに あらぬはかりを おしなへて ゆきめくりても なとかみさらむ
読下 身一つにあらぬばかりをおしなべてゆきめぐりてもなどか見ざらん
解釈 我が身独りは、もう、宮中にはいませんが、あなた達は物事の流れの中で再び宮中に戻ってきて、どうして宮中の物事に関与できないことがあるのでしょうか。(機会があれば、私に遠慮せずに他の御方に仕えてもいいのですよ。)
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