竹取翁と万葉集のお勉強

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万葉雑記 色眼鏡 二三一 今週のみそひと歌を振り返る その五一

2017年09月09日 | 万葉集 雑記
万葉雑記 色眼鏡 二三一 今週のみそひと歌を振り返る その五一

 今週鑑賞しました歌を代表して次の歌を再度、鑑賞します。
 現在進行中の「再読、三十一歌」の鑑賞は、原則として表面上のものを紹介して、比喩などによる隠された意図までは紹介していません。そこまでしますと、伊藤博氏の「萬葉集釈注」のような大部なものになります。「再読、三十一歌」は私の趣味の鑑賞であって、本格的な学問ではありません。そこをご了解下さい。しかしながら、週末にはその週を振り返り、多少の詳説や鑑賞の背景を紹介します。
 歌は巻七の譬喩謌と云う大きな部立の中で「寄花」と云う小部立に載るものです。つまり、これらの歌では比喩の対象や事象を想像しながら鑑賞する必要があります。

集歌1362 秋去者 影毛将為跡 吾蒔之 韓藍之花乎 誰採家牟
訓読 秋さらば移(うつ)しもせむと吾が蒔きし韓(から)藍(あゐ)し花を誰れか採(つ)みけむ
私訳 秋がやって来ると色を移して染めようと私が蒔いた紅花の花を誰が摘んだのでしょうか。

集歌1363 春日野尓 咲有芽子者 片枝者 未含有 言勿絶行年
訓読 春日野に咲きたる萩は片枝(かたえだ)はいまだ含(ふふ)めり言(こと)な絶えそね
私訳 春日野に咲いた萩は、一部の枝がいまだにつぼみです。伝言は絶やさないでください。

集歌1364 欲見 戀管待之 秋芽子者 花耳開而 不成可毛将有
訓読 見まく欲(ほ)り恋ひつつ待ちし秋萩は花のみ咲きにならずかもあらむ
私訳 眺めてみたいと焦がれて待っていた秋萩は、花だけが咲いて実はならないのでしょうか。

 これらの歌は和歌がお好きなお方ですと、紹介する必要が無いくらいの直接的な比喩歌です。ただし、まじめに歌を鑑賞しますと非常に隠卑な雰囲気があります。集歌1362の歌の「韓藍之花」は早乙女の比喩ですし、「誰採家牟」は早乙女の花散らしを示します。ただ、この早乙女は「吾蒔之」と詠うように家主たる男が早乙女が幼いころから恋人とするべく育てた雰囲気があります。源氏物語では光源氏が若紫を育て、花散らしをしました。鎌倉時代の問はず語りでは二条はこの集歌1362の歌のように家主とは違う恋人によって花散らしを為しています。そのような雰囲気の歌で、このような背景を持つ比喩歌は万葉集に他にも見られますから、正妻とは別として、十歳前後の幼女を貰い受け、男好みに育てるような社会が存在したのかもしれません。非常にこの方面では興味が湧く歌です。
 次の集歌1363の歌は、ままです。雰囲気からしますと早乙女はおよそ近々に初潮を見たのでしょう。ただ、裳着の儀式を経ていないようで、正式な成女ではないのでしょう。ですから、正式の慣習と社会的忌諱からしますと恋人との夜の密会は出来ません。その時間帯での歌です。裳着の儀式が終わり成女になった段階で、夜に逢いましょうと云うことでしょうか。
 最後、集歌1364の歌は集歌1363の歌と同じような場面ですが、男と女の間では裳着の儀式の後での密会の確約が取れていないのでしょう。それで女から男への確認の歌なのでしょう。逆に見ますと、女は男に対して身を許していませんが、それにより男の気持ちが他の女へと移ることを気にしているのかもしれません。時代、男女の好きは、即、肉体関係を持つことに通じる風習であり、認識です。
 歌の続きとして次のようなものが連続として載せられていますから、男から女の許に裳着の儀式を経たら通うとの確約があったのでしょう。

集歌1365 吾妹子之 屋前之秋芽子 自花者 實成而許曽 戀益家礼
訓読 吾妹子し屋前(やと)し秋萩花よりは実になりにこそ恋ひ益(まさ)りけれ
私訳 私の愛しい貴女の家の前庭の秋萩よ、その花が咲くよりは実がなって初めて恋しさが増すでしょう

 ただ、集歌1363の歌から集歌1365の歌までの三首を組歌としますと、男女恋愛歌でのお手本のような歌となります。裳着の儀式は女が十三歳から十四歳ぐらいで行うようですから、そのような若い女が、かように巧みに和歌を漢語と漢字だけで詠えたでしょうか。それも問答形式です。やや、疑問があります。
 さらに万葉集編纂において採歌された経緯などを推定しますと、宮中などでの歌会で披露された歌垣形式の場面を想像した男女問答歌であったのかもしれません。

 比喩歌ですが、歌が比喩する世界を想像しますと、なかなか一筋縄では行かないようです。

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