旅のプラズマ

これまで歩いてきた各地の、思い出深き街、懐かしき人々、心に残る言葉を書き綴る。その地の酒と食と人情に触れながら…。

誇り高き伊賀の地酒――「瀧自慢」

2009-03-27 22:00:51 | 

 大手への桶売りをキッパリやめて、「自分たちの酒」、「この地の酒」を誇り高く造り続けている蔵にもう一つ出会った。伊賀盆地の一角、名張市赤目町の「瀧自慢」だ。
 前回書いた「醸し人九平次」と同じく、この蔵も某大手への桶売り酒を造っていた。それを止めて、800石の製造量は400石に半減したが、「これこそ伊賀の米と赤目の水で造った酒」として、地元で50%飲まれ、その他各地に50%売り出している。杜氏こそ南部杜氏高橋成男氏を招いているが、蔵人は杉本隆司社長自らと地元サラリーマンなどの定年退職者3名(現在6568歳)の4人、計5人で造る。
 1112月は4日に1本、年明けは半じまいで計26本の仕込みという。管理しやすい小さな仕込みタンクを使用するなど工夫を凝らし、生詰め瓶燗による瓶詰めなどで酒質を維持している。まさに手づくりによる「俺たちの酒」である。
 水は平成の水百選に選ばれた国定公園“赤目48瀧”の下流の伏流水で軟水。軟水の水は酒つくりには難しい水とされているが、それだけ丁寧に取り組むので、かえってよい酒ができると思っている。

 蔵の方針を示すリーフレットには、「できた酒を気に入ってくださる方がある限り、『この酒でないと・・・』そう言って下さる方がある限り、我々は、我々の酒を造り続けます」とある。そして次の言葉で結ばれている。
 「百人が一杯飲む酒より、一人が百杯飲みたくなる酒」を目指して前進します。

 誰に飲まれているかも分からない桶売り酒を何千石も造る必要はないのだ。心の通う人のために400石を造ることが重要なのだ。

 昨夜、自宅近くの行きつけの飲み屋に立ち寄り、愛知三重酒蔵ツアーの話となり「瀧自慢」の話をすると、店主が「その酒うちに置いてありますよ」という。「ホントかよう」とメニューを繰ると、瀧自慢辛口純米“瀧流水(はやせ)”とある。
 早速注文し、常温で一杯、燗で一杯飲んだ。
 麹米山田錦、掛米五百万石、精米歩合60%、日本酒度5%、酸度1.4、酵母蔵内自家酵母・・・、はやせ(瀧流水)という銘柄の流暢な字体を見ながら、実に生真面目に蔵の案内をしてくれた杉本蔵元を思い出した。そしてその朝散歩した“赤目48瀧”(歩いたのはほんの一部であったが)の清澄な流れを想起した。
 冷で飲むと実にさわやか、燗をするとほんのり甘みが増す酒で、何の飾り気も無いが料理とともにいつまでも飲める酒であった。
 そこに造り手の心意気が現れているのであろう。
                                                


「瀧自慢」にて杉本社長(前列右端)と


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