五月の中旬よりアメリカの旅を回想し、最南端のニューオルリーンズにたどり着いて、かなりもたもたした。いや、この街は何年間ももたもたしたい不思議な魅力を持つ町だ。
当然のこととしてラム酒に行き着き、その裏面史である奴隷貿易についてまで書くことになった。奴隷制度--この人間史上最大の恥辱に一応の終止符を打つには、人類はリンカーンの登場を待たねばならなかった。
アメリカには、奴隷の血で血塗られた富の蓄積という「汚辱の歴史」とともに、世界に最も先駆けた「自由と民主主義」を確立してきた歴史が共存する。二度目のアメリカ訪問(1989年)で私は、シカゴからワシントンを訪れ、かのリンカーンをはじめ、自由と民主主義のために戦った巨人たちの実績に触れた。そこで得た実感も素直に書き残しておく必要があろう。
ニューオルリーンズについては、トムソーヤーに思いをはせたミシシッピー・クルージングナッチェス号の思い出や、緑の街中を走る欲望と言う名の電車など、まだ書きたいことは山ほどある。特に欲望と言う名の電車は、わが青春のシンボルヴィヴィアン・リ-を想起させ、彼女の出た数限りない映画・・・とくに『哀愁』など、想いの連鎖は絶ちがたい。
しかしセンチメンタリズムには一先ず区切りを付けて、話をワシントン--アメリカ民主主義の源流、に移す。