桜井昌司『獄外記』

布川事件というえん罪を背負って44年。その異常な体験をしたからこそ、感じられるもの、判るものがあるようです。

電車

2009-11-18 | Weblog
俺は、余り混雑した電車には乗らない。別に痴漢冤罪が恐いからではなくて、窮屈な場所にいるとパニックになりそうで嫌だからだ。大体、隣に座る人の足などが触れるのも嫌いだ。何故か判らないが、平然と足などを付ける人が来ると逃げ出したくなる。
俺の思想や行動は、総てが長い獄の生活から生まれ出ている。それが総てだと思うなと、信頼する人から叱責されたこともあったが、俺は、あの月日に型作られた男だから仕方がない。
昔は満員電車なんて屁のカッパだった。毎日、布佐から東京に通って、電車内で身動き出来ないような体験をしていた。だから、今の感覚は獄で芽生え、育ったものだと思うが、習性、慣性は恐いね。
刑務所の独房暮らしでは、隣に人がいることは、そう多くない。ましてや触れ合うなんてことは皆無に等しいから、隣の人の足が触れる状態に、どう対応していいのかが判らなくなってしまったのだろう。
今日も若い男が、俺の隣に座って平然と足を触れさす。気持ち悪いって言うか、落ち着かないと言うか、逃げ出したくなった。
これにも慣れなくてはいけないのだろうか。
まだまだ俺は完全に社会復帰をしていないのかも知れない。