晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「夜空はいつでも最高密度の青色だ」(17・日) 70点

2018-03-25 16:13:44 | 2016~(平成28~)

・ 詩からストーリーを起こし映像化した石井裕也監督・脚本によるラブ・ストーリー。




「舟を編む」など若手邦画界をリードしている石井裕也監督が、最果タヒの詩集から東京の片隅で孤独を抱えながら懸命に生きる若者同士の繊細な恋愛模様を映像化。17年キネ旬邦画部門のベスト1に輝いた。

看護師・美香(石橋静河)は言葉で表せない不安や孤独を抱えながら、夜はガールズバーで働いている。
日雇いの工事現場で働いている慎二(池松壮亮)は死の予感を胸に直向きに暮らしている。
そんな二人がガールズバーで出会い、その後運命的な遭遇によって心を通わせて行く。

12本目というハイペースで映画化している33歳・石井監督が、詩からストーリーを組み立て映像化するという実験的な試みに挑んで、リアリティとファンタジーの融合が巧みに絡み合っている。

途中アニメーションに変わったり詩が流れたりするのに戸惑いはあったが、 インテリだった老人の孤独死や出稼ぎ労働者の喜怒哀楽をみながら、現在の様々な世相を反映した時代を切り取ったラブストーリーに仕上がっている。きっと20年後本作を観て、この時代の渋谷や新宿を懐かしむ人も多いことだろう。

美香を演じた石橋静河は、父・石橋凌に面影がそっくりで母・原田美枝子のような演技力には及ばないが、監督の演出によって不安と孤独を抱えながら懸命に生きる女性にピッタリ。

慎二の池松壮亮は監督お気に入りの俳優だが、今回はこんな若者が現代の底辺を支えているのでは?と想わせるイメージぴったりの役柄で最高の演技を魅せている。

もうひとり監督の常連である慎二の同僚に扮した松田龍平、同じく同僚で独身の中年・田中哲司が個性豊かな存在で脇を固め、市川実日子、三浦貴大は友情出演的な役割りで目を引いた。

<透明にならなくては息もできないこの街できみをみつけた>という詩のように、都会で暮らす不器用な二人が、希望をもって生きて行ける社会であることを願わずにはいられない。

「幼な子われらに生まれ」(17・日 )75点

2018-03-20 13:44:09 | 2016~(平成28~)

・ 血縁だけではない<家族とは何か?>を問う人間模様。




作家・重松清と脚本家荒井晴彦が21年前約束した映画化を三島有紀子監督で実現した。

バツイチ同士の田中信(浅野忠信)と奈苗(田中麗奈)夫婦。信の元妻・友佳(寺島しのぶ)と奈苗の元夫・沢田(宮藤官九郎)。4人の不器用な大人たちが繰り広げる、本当の家族とは何か?そして血縁関係の有無だけでは決められない現代の家族の在り方を問う人間模様を描いている。

奈苗の妊娠があって小6の薫(南沙良)が本当の父親と会いたいと言い出し、平穏だった田中家の歯車が狂い始める。
奈苗は元夫の沢田がDV常習者だったため猛反対するが、信は薫の辛辣な言葉に傷つき疲れ果ててしまう。考えあぐねた末、沢田に面会し対面させようとするがお金を要求される。

表面的には普通の人だが、実は一筋縄では行かない役柄に定評がある浅野忠信が、等身大の父親役を演じている。監督が最初から彼をキャスティングしていたのは、観客の予想を裏切ってのことか?
ここでは、仕事より家庭優先のため出向して慣れない倉庫作業を強いられ、家庭では妻に頼られ長女にパパは一人でいいと詰られる気の毒な男。
前妻と実の娘沙織(鎌田らい樹)、妻と二人の娘の5人を相手に、終始受けの演技に徹しながら表情ひとつで微妙な感情の変化で魅せる。

田中麗奈の夫を頼り平穏な家庭を築くことが生き甲斐の専業主婦。寺島しのぶの大学准教授役とは両極だが、ふたりとも現代女性の在り方を象徴していて期待どおりの好演。

宮藤官九郎扮するダメ男ぶりが役得だった。家族に束縛されるのはまっぴらで暴力を振るうDV男だが、長女と対面するとき髭を綺麗に剃り髪を整えたスーツ姿でションボリとベンチで座る姿が愛おしい。

大人たちに交じって3人の子役が大活躍。小6の薫と沙織は思春期の悩みを夫々のキャラクターで演じ、次女の幼い恵理子(新井音羽)の、まるで演技している感じがしない自然な言動は、改めて天才子役であることを証明した。

ドキュメンタリー出身らしく即興演技を巧みに演出した三島監督、21年前書き下ろした原作・重松清の先見性、荒井晴彦の巧みな人間の心理描写によるトライアングルが<家族とは?>を観客に問いかけてくる。



「追憶」(73・米 )60点

2018-03-15 10:58:11 | 外国映画 1960~79

・ B・ストライサンドの主題歌が記憶に残るラブ・ストーリー。




37年大学の創作クラスで同級生だったケイティとハベルが再会し結婚、そして別れる15年間のラブ・ストーリー。シドニー・ポラック監督で左翼思想に傾倒するケイテイにバーブラ・ストライサンド、スポーツ万能のノンポリ・ハベルにロバート・レッドフォードの異色コンビ。

「ファニー・ガール」(68)、「ハロー・ドーリー!」(69)などミュージカルの大スターB・ストライサンドが、遅咲きながらイケメン俳優として売り出し中のR・レッドフォードを迎えてのメロドラマ。

第二次大戦の前後最も激動の時代を背景にアメリカが思想的に揺れ動いた時期を甘く切ないメロディで包み描いている。

上映された73年は、パリ協定で米軍がベトナム撤退の年。ようやくアメリカがこの時代を振り返って見ることができるようになったころでもある。

日本では好き嫌いが多いB・ストライサンドだが、本作ではとてもチャーミングで好感を持つひとも多いのでは?
不器用で一途な性格が影響して決して恵まれたとは言えない半生を主義主張を貫いてゆくヒロイン像は彼女にとてもマッチしている。

対するR・レッドフォードは海軍の制服がお似合いのモテモテで、はずみで結婚してしまった感があるほど。本作を機に「スティング」(73)、「華麗なるギャッツビー」(74)で大スターの地位を得た。

こんな二人はスペイン・フランコ独裁政権、英国ウィンザー公の結婚、ルーズベルト大統領の死など象徴的な出来事とともに関係が近づいたり離れたりする。

結婚後ハリウッドで脚本家になったハベルは赤狩りに巻き込まれ、ケイテイの活動が決定的ネックとなり離婚するが、最初から合わない二人だった。

50年代初めNYプラザホテル前で再会したケイテイとハベル。懐かしさでいっぱいだが、TVプロデューサーで妻と一緒のハベルとラジオ局で働きながら原爆反対のビラ配りのケイテイには距離感があった。エンディングに流れる主題歌が切ない。

「シェイプ・オブ・ウォーター」(17・米 )60点

2018-03-11 16:58:18 | 2016~(平成28~)

・ 第90回オスカー作品賞は、時流に乗ったサブ・カルチャー版「美女と野獣」。




サブ・カルチャーの奇才ギレルモ・デル・トロが製作・監督・脚本を手掛けた第74回ベネチア金獅子賞作品のファンタジー・ラブストーリーが、第90回オスカー作品・監督賞など4部門を受賞した。

62年冷戦下の米国・ボルチモアにある極秘研究所に不思議な生き物(半魚人)が運ばれてくる。幼いころ声を失ってしまった女性イライザ(サリー・ホーキンス)は半魚人が解剖されるのを知り、何とか海に逃がしてあげたいと行動を起こすうち心を通わせて行く。

種族を超えた者同士が魂を通わせ、かけがえのない存在として愛し合うファンタジー・ラブストーリーといえば「美女と野獣」を思い起こす。

本作は若くて美しいヒロインではなく、言葉というコミュニケ-ション手段を持たないハンデキャッパーで清掃員のイライザで異色のヒロイン。
演じたS・ポッターは失礼ながら決して美人ではないアラフォー女優だが、地味ながら演技派で筆者には「人生は時々晴れ」(02)、「17歳の肖像」(09)、「ブルー・ジャスミン」(13)などで記憶に残る助演女優。
監督は彼女をイメージしてシナリオを書いたという程、心優しいイライザ役にピッタリ。

いきなりスレンダーな裸身を晒しバスタブでの自慰行為から始まるヒロイン像は、<美女と野獣への対抗心>がありありと感じられる。

半魚人は、監督が幼い頃観たアマゾンの秘境で神として崇められていた「アマゾンの半魚人」のキャラクター。スーツアクターを演じたのはダグ・ジョーンズだが、これも<美女と野獣>とは違って王子様の化身ではない。

異色のカップルを暖かく見守るのは隣人の老画家ジャイルズ(リチャード・ジェイキンス)と、清掃員のゼルダ(オクタビア・スペンサー)の二人。ゲイであることを隠しているジャイルズと、黒人なるが故貧しい生活を強いられているゼルダは、何れもマイノリティである。

対して敵役のスクリックランド大佐は、マイノリティを抑圧する横暴な白人で、早く現状から脱出して出世街道を走り続けようとする傲慢な男。
演じたマイケル・シャノンは、やることなすこと憎々し気な60年代の白人男性の象徴的存在で現大統領のイメージと重なってしまうのはうがち過ぎか?愛読書が「パワー・オブ・シンキング」というのも同じ。暮らしを豊かにすることを最優先し、愛車はティールカラー(淡い緑)のキャデラック。

時代を反映したポップスが流れ、青緑と赤をアクセントカラーにした美しい映像が際立ち高次元の演出と卓越した演技でサブカルチャーの存在を主張した怪奇映画へのオマージュともいえる本作。本国ではその暴力とセックス描写がR18以上指定になってしまった。

筆者はオスカーを獲らなかったら映画館へ足を運ばなかっただろうが、再度観る機会があれば新たな発見があるかもしれない。



「女神の見えざる手」(16・仏/米 )80点

2018-03-05 15:17:21 | 2016~(平成28~)

・ アクション映画の快感を味わえる社会派サスペンス・ドラマ。




米国に3万人いるという、政治の裏で暗躍する戦略のプロであるロビイストの活動実態を描いた社会派サスペンス。監督は「恋に落ちたシェイクスピア」(98)のジョン・マッティン、主演「ゼロ・ダーク・サーティ」(12)のジェシカ・チャステインで映画化。原題はズバリ「ミス・スローン」。

プロローグは、古巣の会社での不正疑惑問題で聴聞会に挑み、合衆国憲法第5条により証言拒否を連発し続ける女性の姿で始まる。
大手ロビー会社の花形ロビイスト、エリザベス・スローン(J・チャスティン)で、アラブ某国と議員の癒着に関わったものらしい。
話しは3か月前にさかのぼり、彼女のもとに銃擁護団体から銃規制の法案に反対する議員獲得のため、銃所持賛成の女性を増やして欲しいというオファーが舞い込んでくる。
エリザベスは一笑に付し、上司の反対を押し切って部下を引き連れ小さなロビー会社へ移籍、銃規制法案を可決すべくあらゆる手を駆使して行く。

なぜ銃規制が進まないのかという現実に迫る一見シリアスな社会派ドラマだが、テンポの良い演出はまるでアクション・ドラマのヒロインが大活躍するような展開で快感を覚える。
緻密な組み立てでスリリングな展開の脚本は、元弁護士で英語教師のジョナサン・ペレラという人。共和党ロビイスト<ジャック・エイブラモフ>の不正事件をヒントに書き起こしたオリジナルである。

J・ジャスティンのイメージにピッタリのヒロイン像だが、決して正義の人とはいえず目標達成のためにあくなき執念を燃やし、非合法な手段や同僚を犠牲にすることも厭わない戦う女性だ。
サンローラン、マイケルコースなどのファッションに身を包み、高いピンヒールと赤い口紅、黒のネイルで戦いに挑む。薬を手放さず、常に先を読んで先手を打ち早口で男社会の敵を論破して行く。

そのやり方は、自費で盗聴チームを雇って相手の弱みを握ったり、独自の手法で1500万ドルの寄付金を集めたり常に一歩間違えれば万事休すことばかり。

エピローグで聴聞会に戻り、二転三転のスリリングな展開にはサスペンス好きの筆者にも想定外の面白さだった。
まさに<肉を切らせて骨を断つ>。こんな女性に憧れ真似をする若い女性が現れないよう願っている。

本作はあくまでフィクションだが、オスカーには不都合なテーマで<米国の銃規制問題の根深さ>や<ロビイストという仕組みの弊害>を訴えるエンタテインメントとして拍手を送りたい。

日本でもロビイ活動で政治が不当に動くことのないよう祈るのみ。




「あさがくるまえに」(16・仏/ベルギー)80点

2018-03-04 13:22:22 | 2016~(平成28~)

・ 心臓移植を巡る群像劇を、映像の力で捉えた仏カテル・キレベレ監督。




メイリス・ド・ケランガルのベストセラー「The Heart」を、長編3作目のカテル・キレベレ監督で映画化。

サーフィン帰りの交通事故で脳死状態の若者シモン(ギャバン・ベルデ)と、重い心臓疾患で苦しむ音楽家クレール(アンヌ・ドルバル)の心臓移植を巡る家族・恋人・医療従事者たちによる24Hの群像劇。

この手の物語は、愛と感動の物語に終始しがちだが、本作は生と死の当事者とそれに関わる医療従事者たちの心境の変化を俯瞰的に捉えた24H。

前半は仏北西部ルアーヴルに住むシモンとその恋人との青春恋愛ドラマで進行する。シモンがサーフィン・自転車・スケボーで躍動する姿が印象的。夜明けの海でのサーフィンは、美しい映像とともに何処か不穏な気がするのはこれから起きようとすることが予め分かっていたせいか?

思いテーマなのに客観的で多くを語らず映像の力だけで展開して行く演出は、大胆な省略の人物描写で観客の想像力を促し、やたら感情過多にならずに当事者の心情を捉えて行く。シモンの母マリアンヌ(エマニュエル・セリエ)の哀しみがひしひしと伝わってきた。

パリ在住のレシビエンド(臓器受容者)のクレール(アンヌ・ドルバル)は、半ば達観した残り少ない人生を受けとめている。そんななか、別れた恋人リシューのピアノ演奏会があって再会する。その晩、医師から臓器提供者があったと電話が入る。

その橋渡しをするのが多くの医療従事者たち。一人ひとりの医師と看護師たちにも夫々の人物描写が垣間見られるのが見所のひとつ。

監督は手術シーンもリアルに描写することにこだわりがあって、ちょっと正視できないようなシーンも。だからこそ若い医療コーディネーターであるトマの人間の尊厳を大切にする丁寧な心遣いに心打たれる。デリケートな役柄に扮したタハール・ラヒムの演技が光る。

トム・アラリの躍動する映像や、要所要所に流れるピアノを主体にしたアレクサンドル・デブラの音楽が物語を支えていて、これぞ映画ならではの技法であることがひしひしと伝わってくる。

もう少し編集に工夫があれば、極上のヒューマン・ドラマになったことだろう。







「レッド・オクトーバーを追え」(90・米)70点

2018-03-02 12:15:59 | (米国) 1980~99 

・ <J・ライアン>シリーズのデビュー作は、米ソ冷戦時代での原潜を巡るポリティカル・アクション。




5作が映画化されているトム・クランシーの小説<ジャック・ライアン >シリーズ。デビュー作「乱気流/タービュランス」を「ダイ・ハード」のジョン・マクティアナン監督、ショーン・コネリー主演で映画化。撮影は後に「スピード」で監督デビューしたヤン・デ・ボン。

本作のCIA分析官J・ライアンに扮したたのはアレック・ボールドウィン。その後ハリソン・フォードが2作、ベン・アフレックなどが主演しているが、初演した彼のイメージが一番お似合いだ。

主演はソ連原潜「レッドオクトーバー号」艦長ラミウスのJ・コネリー。威厳のある風貌で物語を惹き込む力量は男のドラマに相応しい。

ゴルバチョフ政権が発足する’84年の米ソ冷戦時代。北大西洋で原潜レッドオクトーバー号が不審な航海をしているのを発見した米国は、その調査にCIAライアン分析官(A・ボールドウィン)があたることとなった。
ソ連はKGB政治官プーチンがレッドオクトーバー号で事故死したことに不審感を持ち、コノヴァロフ号などが追跡を始める。

ライアンはラミウスが亡命するためではないかと推測するが、国家安全対策本部は取り合わない。グリーグ提督の進言もあってライアンが3日以内にその真意を証明するよう命令を受ける。

一度しか会ったことがないラミウスとライアンの二人が、どう絡んで行くかがハイライト。

長編を2時間余りにドラマ化したため、流れに無理があるものの潜水艦同士の対決や男対男の意地の張り合いなど見所は満載。

脇を固めた脇役陣が多士済々。レッドオクトーバー号副長にサム・ニール、USAダラス艦長にスコット・グレン、ソ連コノヴァロフ号艦長にスティラン・スカルスガード、CIA本部提督にジェームズ・アール・ジョーンズなど顔を見ればお馴染みの男たちが登場するたびその言動に目を奪われる。

荒唐無稽で非現実的な展開にもかかわらず、結末まで興味深々で観ることができたのは、スタッフ・俳優たちの技量の賜物だろう。