晴れ、ときどき映画三昧

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「あさがくるまえに」(16・仏/ベルギー)80点

2018-03-04 13:22:22 | 2016~(平成28~)

・ 心臓移植を巡る群像劇を、映像の力で捉えた仏カテル・キレベレ監督。




メイリス・ド・ケランガルのベストセラー「The Heart」を、長編3作目のカテル・キレベレ監督で映画化。

サーフィン帰りの交通事故で脳死状態の若者シモン(ギャバン・ベルデ)と、重い心臓疾患で苦しむ音楽家クレール(アンヌ・ドルバル)の心臓移植を巡る家族・恋人・医療従事者たちによる24Hの群像劇。

この手の物語は、愛と感動の物語に終始しがちだが、本作は生と死の当事者とそれに関わる医療従事者たちの心境の変化を俯瞰的に捉えた24H。

前半は仏北西部ルアーヴルに住むシモンとその恋人との青春恋愛ドラマで進行する。シモンがサーフィン・自転車・スケボーで躍動する姿が印象的。夜明けの海でのサーフィンは、美しい映像とともに何処か不穏な気がするのはこれから起きようとすることが予め分かっていたせいか?

思いテーマなのに客観的で多くを語らず映像の力だけで展開して行く演出は、大胆な省略の人物描写で観客の想像力を促し、やたら感情過多にならずに当事者の心情を捉えて行く。シモンの母マリアンヌ(エマニュエル・セリエ)の哀しみがひしひしと伝わってきた。

パリ在住のレシビエンド(臓器受容者)のクレール(アンヌ・ドルバル)は、半ば達観した残り少ない人生を受けとめている。そんななか、別れた恋人リシューのピアノ演奏会があって再会する。その晩、医師から臓器提供者があったと電話が入る。

その橋渡しをするのが多くの医療従事者たち。一人ひとりの医師と看護師たちにも夫々の人物描写が垣間見られるのが見所のひとつ。

監督は手術シーンもリアルに描写することにこだわりがあって、ちょっと正視できないようなシーンも。だからこそ若い医療コーディネーターであるトマの人間の尊厳を大切にする丁寧な心遣いに心打たれる。デリケートな役柄に扮したタハール・ラヒムの演技が光る。

トム・アラリの躍動する映像や、要所要所に流れるピアノを主体にしたアレクサンドル・デブラの音楽が物語を支えていて、これぞ映画ならではの技法であることがひしひしと伝わってくる。

もう少し編集に工夫があれば、極上のヒューマン・ドラマになったことだろう。








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