晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ」(14・米) 75点

2017-01-29 10:53:40 | (米国) 2010~15

  ・ 歴史から学んだ仏・劣等高校生たちの成長物語。


    

 パリ郊外、移民など貧困層が多く住むクレテイユ。高校の問題児だったアハメッド・ドゥラメが、自身の体験をもとにマリー=カスティーユ・マンシオン=シャール監督とともに脚本を書き起こした学園ドラマ。

 レオン・ブルム高校でバカロレア(大学入学資格証明書)を取りに来た卒業生とその母親が、スカーフをとるかどうかで教師と言い争いをしているシーンで始まる本作。

 表現の自由と政教分離の違いによるこの論争は、校長が現れ教育現場の規則優先で幕を閉じるが、母と娘は納得せず決裂し対話の限界を思わせる。

 ベテラン歴史教師アンヌ・ゲゲンは、そんな他民族が多くしかも劣等生クラスの担当だった。自己紹介で「教員歴20年。教えることが大好きで、退屈な授業はしないつもり。」とさりげなく自信たっぷりに述べる。

 教師の奮闘で劣等生たちがどう立ち直っていくか?を描いたドラマはこの手の定番。本作がちょっと趣が違うのはスポーツや音楽ではなく、フランスが実践している<アウシュヴィッツをテーマにした歴史コンクール>という難題に挑むこと。

 近年では、「フリーダム・ライターズ」(07・米)や「パリ20区 僕たちのクラス」(08・仏)のジャンルか。

 当然生徒たちは興味もなく最初からやる気も見せないが、小柄な女性教師は諦めない。生徒たちの能力を信じ、漫画やアンネの日記など生徒たちが取っ掛かり易い教材を提示しながら根気よく見守って行く。

 様々な人種の生徒たちには民族的・宗教的な対立は日常茶飯事。それを踏まえたこのテーマはとてもハードルが高く生徒への愛情と信頼がないと不可能なこと。

 教師を演じたのはアリアンヌ・アスカリット。まるでドキュメントを観るようなこの物語が、俳優によってリアルに再現されているのが驚きである。

 生徒たちは脚本を書いたマリック役のアハメッド・ドゥラメをはじめ、とても自然な演技でぎこちなさはない。

 ある程度予備知識を持ってから、ホロコースト博物館への見学や、強制収容所の生き残りであるレオン・ズィゲルさん(本人)の証言を見聞きする表情には演技を超えた純粋さを感じる。

 本作が訴えた<歴史を知ることで思春期の人生に与える影響力の大きさは計り知れない>というテーマは、教師と生徒たちそしてレオンさんのトライアングルによって成し得たこと。

 予定調和の不自然さと、これも一種のプロパガンダでは?という疑問も残るが、撮影の翌年亡くなったレオンさんの威厳に満ちた証言は体験者の重みで本作を通して深く心に染み入ったことは間違いなく、確実に受け継ぐ者たちがいた。
 

 

 
 

「男の出発」(72・米)70点

2017-01-26 11:36:14 | 外国映画 1960~79


  ・ 地味だが臨場感溢れる拾い物の青春・西部劇。


    

 レイモンド・チャンドラーのハードボイルド小説「さらば愛しき女よ」(75)が代表作であるディック・リチャーズの監督デビュー作。

 カウボーイに憧れる16歳のベン(ゲイリー・グライムス)が、テキサスからコロラドへキャトル・ドライブ(牛追いの旅)するカルペッパー(ビリー・グリーン・ブッシュ)の一行に加わり、様々な体験をする青春西部劇。

 フォトグラファーでもあるD・リチャーズの映像はセピア色で西部の乾いた風景がとてもリアルだ。

 腰に拳銃を持つガンマンの颯爽としたスタイルに憧れていたベンの仕事はリトル・メアリーと呼ばれるコックの助手。

 「カウボーイなんて他に取り柄のないヤツがやること」と言われ憧れだけではやっていけないということを実感する。

 牛泥棒に20頭奪われ3人の部下を失ったカルペッパーは、ベンにラス・コードウェル(ジェフリー・ルイス)を訪ね助っ人を依頼するよう近隣に使いに行くが途中拳銃と馬を奪われてしまう。

 カルペッパーが奪い返し大事には至らなかったが、今度は見張り中、馬泥棒に遭い親元に返されそうになる。

 その際酒場で泥棒を発見。仲間と撃ち合い初めて人を射殺することを体験し、カウボーイは牛を守るためには何でもすることを身をもって知ることになる。

 旅の途中には危険がいっぱい。理不尽なことも多く、悪徳牧場主の土地へ牛が水を求め侵入した際には法外な賠償請求をされたうえ、拳銃を奪われてしまう。

 悪を倒す正義の味方は存在しないこの西部劇はとても臨場感を持った進行で、バックには「アメージング・グレイス」が流れる結末へ・・・。

 ベンを演じたG・グライムスは「おもいでの夏」でおなじみ。大人の世界に混じった背伸びしている少年の心情を見事に演じ切っている。

 ボスのカルペッパーに扮したB・G・ブッシュをはじめ、ラス(J・ルイス)・ルーク(ルーク・ラスキュー)・ディキシー(ボー・ホプキンス)・ミズーラ(ウェイン・サザーリン)の助っ人4人組など、地味だが個性的な俳優が脇をがっちり固めていて見応えがあった。

 ベトナム戦争が映画界にも影を落としていたこの時代。フロンティア・スピリットだけでは成り立たないことを再認識する拾い物の異色西部劇だ。
 

  

 

 

「ニック・オブ・タイム」(95・米) 65点

2017-01-23 15:30:59 | (米国) 1980~99 


  ・ 普通の男を演じたJ・デップのリアルタイム・サスペンス。


    

 ロス郊外ユニオン駅に降りた会計士のジーン。警官を装った2人に幼い娘を人質に取られ、渡された封筒の人物を銃殺するよう脅迫される。

 正午から90分の間に遂行できなければ娘の命はないという究極のストーリー展開が、ほゞリアルタイムで進行するサスペンス。

 ジーンを演じたのは、近年特異な役柄を演じていたジョニー・デップで、普通の男を演じていてとても新鮮。

 相手は、再選を目指して遊説中のメイソン・カリフォルニア州知事だと分かり、呆然とする。

 男(クリストファー・ウォーケン)の監視のなか、固い警護をすり抜け知事に近づけたのは裏があった。

 想定外の設定による有無を言わせぬ臨場感溢れる手持ちカメラの映像に、結構ハラハラ・ドキドキ感が楽しめる。

 J・デップとC・ウォーケンでは、どう見てもデップに勝ち目がなさそうながこの作品のキモ。

 味方だった秘書がウォーケンに射殺され、敵だらけで四面楚歌のジーンの味方・元軍人で義足の靴磨きヒューイ(チャールズ・S・ダットン)によるナイス・サポートに拍手!

 同じ年に上映された「陽のあたる教室」の脚本で有名なパトリック・シェーン・ダンカンのシナリオは、突っ込みどころ満載ながら当時としては斬新なアイデア。
「サタデイ・ナイト・フィーバー」(77)のジョン・バダムは、あらためて娯楽映画を作るのが上手い監督だと再認識させられた。

「疑惑のチャンピオン」(15・英/仏)75点

2017-01-21 12:22:34 |  (欧州・アジア他) 2010~15

 
 ・ リアリティ溢れるプロスポーツとドーピングの関係を描いた実録ドラマ。


   

 日本ではあまり馴染みがないが、欧州ではサッカー、モータースポーツと並んで人気スポーツの自転車競技。

 その最高峰の<ツール・ド・フランス>で99年~05年まで前人未踏の7連覇を果たしたランス・アームストロング。

 アメリカ人によるツール総合優勝を果たし、しかも生存率50%のガンを克服し奇跡の復活を遂げた英雄ランス。

 かねてより薬物使用の噂が絶えなかった彼の栄光と挫折人生をサンデータイムズ記者だったデイヴィッド・ウォルシュのドキュメントを原案にジョン・ホッジが脚本化、「クイーン」(06)のスティーヴン・フリアーズが監督した実話ドラマで、原題は「プログラム」。

 レース愛好者には物足りないかもしれないが、筆者にはロードレースを充分臨場感を持って観ることができ、このレースが如何に過酷なものかレースの醍醐味を実感できた。

 ランスを演じたのはベン・フォスター。風貌もなんとなく似ていたが、実写を交えても遠目では区別がつきにくいほど不自然さはなかった。

 <熱望と野心は誰にも負けない>という彼を、病気で憔悴したときと過酷な肉体改造に挑みムキムキのキン肉マンに返信したときの落差を見事に再現。

 恐らく病も薬の副作用と思われ、いわば薬漬けのレース生活を送っていたのだろう。財団を作りがん撲滅運動に熱心でがん患者サポートや慈善活動でその英雄度は益々上がって行く。

 一方で勝つたびに自信を深め、半ば傲慢になって行くさまをとてもリアルに演じて、本作成功の最大功労者だ。

 限りなく黒に近いグレーの彼は何故ドーピングを切り抜けてきたのかが克明に明かされる本作は、巨大な金が動く人気スポーツ界全体への問題提起にもなっている。

 メディアの指摘も、ランスの「ドーピング検査が陽性だったことは一度もない。それが答えだ。」と自信たっぷりのコメントで幕が下りてしまう。

 人気スターを巡る組織グルミの隠蔽を黙認してしまう連盟・団体を、メディアもペン先を鈍らせてしまう現実があることを知らされる。

 他の選手によるアシストなしでは個人の栄冠(マイヨ・ジョーヌ)を取れないツール・ド・フランス。ランスはダンダン善悪の判断を超えた言動でチームの団結を失い一旦引退するが、4年後復帰し3位。

 時代のヒーローはランスではないことから、薬物使用はメディアの目から逃れなくなっていく。時効8年がありながら、全てを失い永久追放され記録も抹消されたランスはまだ40代である。

 あたかも本当のスケープ・ゴードはランスだったのでは?と思わせるフリアーズの俯瞰的な演出だった。

 エンディングで<ミセス・ロビンソン>が流れたとき、ダスティン・ホフマンを連想してしまった。

 

 

 


 
 

 
 

「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」(15・米)80点

2017-01-19 17:18:29 | (米国) 2010~15


   ・ 「ハリウッドの汚点」を生き抜いた実在脚本家の伝記ドラマ。

   

 名作「ローマの休日」(53)の脚本家がイアン・マクラレン・ハンターではなくダルトン・トランボだったのは何故か?

 本作はハリウッドの汚点であるハリウッド・テンの実在脚本家D・トランボの半生について、数々のエピソードをテンポよく描いた伝記ドラマ。監督は「ミート・ザ・ペアレンツ」(01)のジェイ・ローチ。

 米ソ冷戦下の米国では、<赤狩り>と称される共産主義者追放運動が吹き荒れた。映画界もその影響が大きく、チャップリンやジョン・ヒューストンなどはよく知られている。

 「アメリカの理想を守るための映画同盟」なるものが組織され、その会員には大スター、ジョン・ウェインや後の大統領ロナルド・レーガンもいた時代。

 議会の証言を拒否したトランボは、赤狩りの標的となり投獄され1年の刑務所暮らしまで経験する。

 釈放後もハリウッドの追放は続き、MGM創始者のひとりメイヤーも赤狩り協力者と化し、俳優エドワード・G・ロビンソンやプロデューサーのバディ・ロスなど盟友たちも流れに逆らえなかった。

 そんな中、映画の虫・トランボは偽名を使って長い間脚本を書き続けた。彼を支え続けたのは家族と数少ない映画関係者だった。

 トランボを演じたのはブライアン・クランストン。筆者は知らなかったが、2000年代最高のTVシリーズと言われた「ブレイキング・バッド」に主演した俳優とのこと。

 実在のトランボは恐らくこんな人だったろうと思わせる、エネルギッシュで映画のためなら全てを犠牲にすることを厭わない性分を見事に演じている。

 妻役のダイアン・レインは、夫や家族を支える良妻賢母、長女役のエル・ファニングは反抗期を上手く乗り越える父親思いの理想的な描写は如何にもハリウッドの伝統か?

 浴槽にタイプライターを持ち込みクワエ煙草でウイスキーを飲みながら、あの「ローマの休日」が生まれたかを想像するとどこか滑稽だ。

 「クイーン」のオスカー女優ヘレン・ミレンが仇敵のヘッダ・ホッパーに扮している。元女優のホッパーは映画界のゴシップで伸し上がったコラムニストだが、何故か憎めないのはミスキャスト?

 数少ない協力者B級映画「キング・ブラザーズ」社長フランク・キング(ジョン・グッドマン)が「思想や権力より金儲け」という理由でトランボに救いの手を差し伸べたのも皮肉な現象。ここでもトランボの天才ぶりが披露される。

 カーク・ダグラス(ディーン・オゴーマン)の「スパルタカス」や、オットー・プレミンジャーの「栄光への脱出」が実名入りでクレジットされたのは’60年。

 エンディングのスピーチは静かな感動を呼ぶが、どこか綺麗ごとに終始したのは実在の人を多数登場させた本作の限界か?

 それでもハリウッドの懐の深さを感じさせてくれたが、トランプ大統領が就任するこれから、ハリウッドはどんな作品を製作していくのだろう。

 
 
 


「大鹿村騒動記」(11・日)70点

2017-01-12 11:48:34 | 日本映画 2010~15(平成23~27)

  ・ 原田芳雄の念願だった村歌舞伎を舞台にした人情喜劇


    

 南アルプスの山麓・長野県下伊那郡の大鹿村に300年伝わる村歌舞伎を舞台に繰り広げる、過疎化・高齢化など深刻なテーマを笑いに包み込んだ人情喜劇。

 公開直後に亡くなった主演の原田芳雄念願の映画化で、彼の人望で集まったスタッフ・キャストによる愛すべき人間賛歌のドラマだ。

 「六千両後日文章 重忠の館」という村歌舞伎公演の5日前、主役の景清を演じている風祭善(原田芳雄)。独りで鹿料理の店<ディア・イーター>を営んでいるが、18年前駆け落ちした妻の貴子(大楠道代)と幼馴染みの治(岸部一徳)が突然戻ってきた。

 貴子は記憶障害を患っていて、困り果てた治は善に返すと言いに来たのだ・・・。


 大鹿村は実在の村で、伝統の村歌舞伎も寺の境内で続けられているもの。2045年リニア新幹線が開通する問題で村には亀裂が入りそうだが、風光明媚でまるでユートピア。

 延江浩原案を阪本順が監督を担当し、10年来疎遠だった荒井晴彦とともに共同脚本化、僅か2週間で撮り終えた。

 3人を中心に群像劇のような趣きで、村役場の職員・美江に松たか子、バスの運転手・一平に佐藤浩市、郵便局員・寛治に瑛太や石橋蓮司、小野武彦、小倉一郎、でんでんなど多士済々。

 異色はアルバイトの雷音(冨浦智嗣)で性同一障害の悩みを抱えこの村にやってきた。ドラマでは村の案内役・狂言廻しの役割を担っている。

 絡みがないのは残念だったが故・三國連太郎が貴子の父親役で存在感を魅せ、佐藤との親子出演があったのも見逃せない。

 この年は東北大震災があって、誰しも故郷や家族を想い起こさせるときでもあった。歌舞伎はこの村が抱える諸々の問題を浄化させる役割を果たしているのだろう。

 貴子は記憶障害がありながら歌舞伎・道柴のセリフだけはシッカリ覚えていた。舞台の袖で<景清が最後に眼をくり抜くところ、あたし好きです>という。

 <仇も恨みも是まで是まで・・・>という景清の善は貴子を赦し、この村で暮らしていくことに・・・。

 諸問題は何ら解決しない<ありそうでありえないこの群像劇>は苦労の果ての大円団となり、エンディング・忌野清志郎の主題歌{太陽の当たる場所}とともにホッコリさせてくれる。
 
 本作の最大の功績はこの村が観光名所となり、村歌舞伎が存続できることかもしれない。

「天国から来たチャンピオン」(78・米) 70点

2017-01-08 15:23:11 | 外国映画 1960~79


 ・ 戦前の作品をリメイクしたW・ベイティのファンタジック・コメディ。


   

 ハリー・シーガルの戯曲「天国は待ってくれる」を映画化した「幽霊紐育を歩く」(41)のリメイクを、ウォーレン・ベイテイが製作・監督・脚本・主演している。

 ベイティは、主人公を原作同様ボクシングのチャンピオンで企画。モハメッド・アリをキャスティングしようとしたが実現せず、テーマを自分が好きなアメフトに書き換えた。

 怪我から復帰しようとしていたフットボール選手・ジョー(W・ベイティ)が交通事故で亡くなったが、原因は新米天使のミスで余命はあと50年だった。

 困った天使長(ジェイムズ・メイソン)は、彼の魂を殺されたばかりの若い実業家・ファーンズワースに移り込ませようとする。気が進まなかったジョーだが、公害問題を抗議にきた教師ベティ(ジュリー・クリスティ)に一目惚れして同意する。

 妻と愛人の秘書は殺したはずの男が蘇り焦って何度も殺そうとするが失敗する。ファンズワースに成り切ったジョーは再びフットボールの世界へ乗り出す・・・。

 天国から蘇る作品は良くある設定だが、シリアスなものよりこういったファンタジーのほうが多く「オールウェイズ」(89)、「ゴースト ニューヨークの幻」(90)あたりが代表作か。

 「俺たちに明日はない」(67)でブレークしたW・ベイティはその後も第一線で活躍、女性との交際ぶりでも話題にこと欠かない大スター。本作では「ギャンブラー」(71)、「シャンプー」(75)で共演し浮名も流したJ・クリスティを指名して息の合ったファンタジック・コメディに仕上げた。

 脇を固めた天使長のJ・メイソンが、のほほんとした雰囲気で存在感を見せ、ファンズワースの妻に扮したダイアン・キャノンと愛人で秘書のチャールズ・グローディンがコメディ・メーカーとして迷コンビぶりを発揮。

 ジョーのトレーナー・マックス役のジャック・ウォーデンが、丁度クリント・イーストウッド主演のモーガン・フリーマンのような役柄で、熱い男の友情と喪失感を演じてシンミリさせてくれる。

 ご都合主義的なストーリーながら、ベイティが吹くソプラノ・サックスの音色が程よいアクセントとなって「あなたクォターバックね!」というベティの言葉に安堵したラストシーンだった。
 

「帰らざる河」(54・米) 70点

2017-01-04 17:00:26 | 外国映画 1946~59

  ・ ワイドスクリーンで観るマリリンと大自然描写で伝説の映画となった。


    

  東部からやってきたマット(R・ミッチャム)は、ゴールド・ラッシュに沸く北西部のテント村へ9歳の息子マーク(トミー・レティグ)を探すために訪れた。

 マークの面倒を見ていたのは酒場の歌手ケイ(マリリン・モンロー)で、彼女は婚約者ハリー(ロリー・カルホーン)と下流の町カウンシル・シティへ向かう。

 再会したのは筏で漂流していたケリーとハリーをマットが助けたときだったが、ケリーは馬と拳銃を奪い逃げてしまった。

 マットとマーク、そしてケイは筏に乗って通称・帰らざる河を下って後を追うことに・・・。

 伝説のハリウッド女優マリリン・モンローが西部劇に出演した本作は、シネマスコープによる大自然描写で大ヒット。「黄金の腕」や「悲しみよこんにちは」へと続くオットー・プレミンジャーの監督としての地位を確立させた作品でもある。

 一言でいうとM・モンローの魅力満載の映画で、主題歌の「帰らざる河」は彼女のセクシーボイスとともに不滅の名曲となっている。

 酒場の歌手役なので歌うシーンは必然性はあるものの、冒頭で赤と緑の太ももを網タイツに包んだドレスで2曲も歌って魅了し、結局ミュージカルでもないのに4曲も歌うシーンがある。

 役柄も健気で愛らしい魅力的な人物設定で、いわゆるセックス・シンボルと言われるステレオタイプな役からは一歩前進していて好感が持てる。

 R・ミッチャム扮するマットは開拓者に相応しい正義の男で、ならず者やピューマと闘うが恋には不器用。我慢できずにケイを襲ったりするシーンには??

 当時最先端だった激流下りでの合成技術の粗さや、西部劇には常識の先住民=略奪者、子供が拳銃を使うことなど現在では無理な設定が気になるが、全てを帳消しにする赤いハイヒールの粋なラスト・シーンが救ってくれている。