・ リアリティ溢れるプロスポーツとドーピングの関係を描いた実録ドラマ。
日本ではあまり馴染みがないが、欧州ではサッカー、モータースポーツと並んで人気スポーツの自転車競技。
その最高峰の<ツール・ド・フランス>で99年~05年まで前人未踏の7連覇を果たしたランス・アームストロング。
アメリカ人によるツール総合優勝を果たし、しかも生存率50%のガンを克服し奇跡の復活を遂げた英雄ランス。
かねてより薬物使用の噂が絶えなかった彼の栄光と挫折人生をサンデータイムズ記者だったデイヴィッド・ウォルシュのドキュメントを原案にジョン・ホッジが脚本化、「クイーン」(06)のスティーヴン・フリアーズが監督した実話ドラマで、原題は「プログラム」。
レース愛好者には物足りないかもしれないが、筆者にはロードレースを充分臨場感を持って観ることができ、このレースが如何に過酷なものかレースの醍醐味を実感できた。
ランスを演じたのはベン・フォスター。風貌もなんとなく似ていたが、実写を交えても遠目では区別がつきにくいほど不自然さはなかった。
<熱望と野心は誰にも負けない>という彼を、病気で憔悴したときと過酷な肉体改造に挑みムキムキのキン肉マンに返信したときの落差を見事に再現。
恐らく病も薬の副作用と思われ、いわば薬漬けのレース生活を送っていたのだろう。財団を作りがん撲滅運動に熱心でがん患者サポートや慈善活動でその英雄度は益々上がって行く。
一方で勝つたびに自信を深め、半ば傲慢になって行くさまをとてもリアルに演じて、本作成功の最大功労者だ。
限りなく黒に近いグレーの彼は何故ドーピングを切り抜けてきたのかが克明に明かされる本作は、巨大な金が動く人気スポーツ界全体への問題提起にもなっている。
メディアの指摘も、ランスの「ドーピング検査が陽性だったことは一度もない。それが答えだ。」と自信たっぷりのコメントで幕が下りてしまう。
人気スターを巡る組織グルミの隠蔽を黙認してしまう連盟・団体を、メディアもペン先を鈍らせてしまう現実があることを知らされる。
他の選手によるアシストなしでは個人の栄冠(マイヨ・ジョーヌ)を取れないツール・ド・フランス。ランスはダンダン善悪の判断を超えた言動でチームの団結を失い一旦引退するが、4年後復帰し3位。
時代のヒーローはランスではないことから、薬物使用はメディアの目から逃れなくなっていく。時効8年がありながら、全てを失い永久追放され記録も抹消されたランスはまだ40代である。
あたかも本当のスケープ・ゴードはランスだったのでは?と思わせるフリアーズの俯瞰的な演出だった。
エンディングで<ミセス・ロビンソン>が流れたとき、ダスティン・ホフマンを連想してしまった。