・ 地味だが臨場感溢れる拾い物の青春・西部劇。
レイモンド・チャンドラーのハードボイルド小説「さらば愛しき女よ」(75)が代表作であるディック・リチャーズの監督デビュー作。
カウボーイに憧れる16歳のベン(ゲイリー・グライムス)が、テキサスからコロラドへキャトル・ドライブ(牛追いの旅)するカルペッパー(ビリー・グリーン・ブッシュ)の一行に加わり、様々な体験をする青春西部劇。
フォトグラファーでもあるD・リチャーズの映像はセピア色で西部の乾いた風景がとてもリアルだ。
腰に拳銃を持つガンマンの颯爽としたスタイルに憧れていたベンの仕事はリトル・メアリーと呼ばれるコックの助手。
「カウボーイなんて他に取り柄のないヤツがやること」と言われ憧れだけではやっていけないということを実感する。
牛泥棒に20頭奪われ3人の部下を失ったカルペッパーは、ベンにラス・コードウェル(ジェフリー・ルイス)を訪ね助っ人を依頼するよう近隣に使いに行くが途中拳銃と馬を奪われてしまう。
カルペッパーが奪い返し大事には至らなかったが、今度は見張り中、馬泥棒に遭い親元に返されそうになる。
その際酒場で泥棒を発見。仲間と撃ち合い初めて人を射殺することを体験し、カウボーイは牛を守るためには何でもすることを身をもって知ることになる。
旅の途中には危険がいっぱい。理不尽なことも多く、悪徳牧場主の土地へ牛が水を求め侵入した際には法外な賠償請求をされたうえ、拳銃を奪われてしまう。
悪を倒す正義の味方は存在しないこの西部劇はとても臨場感を持った進行で、バックには「アメージング・グレイス」が流れる結末へ・・・。
ベンを演じたG・グライムスは「おもいでの夏」でおなじみ。大人の世界に混じった背伸びしている少年の心情を見事に演じ切っている。
ボスのカルペッパーに扮したB・G・ブッシュをはじめ、ラス(J・ルイス)・ルーク(ルーク・ラスキュー)・ディキシー(ボー・ホプキンス)・ミズーラ(ウェイン・サザーリン)の助っ人4人組など、地味だが個性的な俳優が脇をがっちり固めていて見応えがあった。
ベトナム戦争が映画界にも影を落としていたこの時代。フロンティア・スピリットだけでは成り立たないことを再認識する拾い物の異色西部劇だ。