・ 社会派S・ビアが、ミステリーで味付けした家族ドラマ。
「ある愛の風景」(04)、「未来を生きる君たちへ」(10)のスサンネ・ビア監督、アナス・トーマス・イエンセン脚本によるコンビ6作目は、シリアスなテーマの家族ドラマにミステリー色が加わって新鮮味が増している。
夫々乳幼児を抱えた、妻子を愛する優しい家庭人でもある刑事と、薬物依存症で刑務所帰りの男が、一瞬を越える姿を通して人間の脆さを描いたサスペンス。邦題は如何にもミステリーらしい雰囲気が漂うが、原題は「もう一回のチャンス」。
冒頭トイレの床に横たわるすすり泣く女性に、これから何が起こるのか?不安な気にさせられる。この女性はしばらくするとアンドレア刑事の妻アナだと分かるが、湖畔に瀟洒な家を構え生まれて間もない息子と幸せそうに暮らしている様子が繰り広げられる。
アンドレア刑事が扱ったのは刑務所から出所したばかりのトリスタンの安アパート。パートナーで娼婦だったサネがDVを受ける事件。相棒シモンと踏み込んで見ると、そこには汚物まみれの乳幼児ソーフスがいた。
虐待され育児放棄とみなされてもいいはずのソーフスは施設に入れることができず、トリスタンは無罪釈放で何も解決されず歯噛みするアンドレアス。高福祉国のデンマークにも、こんな格差社会が存在する事実を再認識させられる。
一見幸せそのもののアンドレア一家と、問題だらけで不安いっぱいのトリスタンの家が交錯しながら進展するストーリーに目が離せなくなる。
いつものようにクローズアップを多用し自然光による撮影した画面は、現実と虚構の差の少ない雰囲気が溢れている。
イエセンのシナリオは意外な事実が判明するまでの伏線が巧みで、観客は不自然で気掛かりだったことが一気に霧が晴れるよう。それはアンドレアスの呵責の念が増すばかりのことであった。
アンドレアスを演じたのはTVシリーズで有名なニコライ・コスター=ワールド。彼が誠実な人柄なので一瞬を超える行動に共感が得られるか?が作品の成否を分けている。自分ならどうするか?と考えると同じ行動は取らないが・・・。
同僚のシモンを演じたウルリク・トムセン、トリスタンのニコライ・リー・コーラスはサネの常連で個性豊かに主人公を支えている。
アナに扮したマリア・ボネヴィーは美しい妻と異常な取り乱し振りの落差が鮮やかでミステリアスな役を好演。サネに扮したのはトップモデルで映画初出演とは思えない熱演。
そして何より大変だったと思うのはアレキサンダーとソーフスの乳幼児。撮影で幼児虐待にならなかったか心配してしまった。
救いようがない切ない物語に、少し救いがあったラスト・シーンにサネの優しさを感じた作品でもあった。