愛する人
2009年/アメリカ=スペイン
さまざまな「母親と娘」の心理描写を繊細に
shinakamさん
男性
総合 80点
ストーリー 80点
キャスト 85点
演出 80点
ビジュアル 80点
音楽 80点
「彼女を見ればわかること」「美しい人」と女性をヒロインにした心理描写をオムニバスで描いてきたロドリゴ・ガルシア監督が3人の母を同時進行させながら観客に問いかけるヒューマン・ドラマ。原題はズバリ「母と娘」。
カレン(アネット・ベニング)は14歳で出産して養子に出した娘を37年間忘れられずにいる。エリザベス(ナオミ・ワッツ)は17歳から独り暮らしの自立した女で弁護士としてキャリアを積んでいるが、結婚・妊娠を拒否している。ルーシー(ケリー・ワシントン)は愛する夫との間に子供ができず、20歳のレイが出産する子供の養子縁組を望んでいる。
カレンとエリザベスは母と娘であることは冒頭から容易に想像できるが、2人がいつ、どんなタイミングで再会するのだろう?ルーシーはどう絡むのだろう?という想定で観ていると、なかなか進展しない。ガルシア監督は3人のヒロインが出産・別れ・出会いを機に微妙な内面の変化を丁寧に描くことが本題であって、結末ありきのシナリオにはしていない。この作品の良いところでもありテンポを悪くしている部分でもある。
カレンは老いた母と2人暮らしだったが、母を亡くし独りに。介護士の同僚パコ(ジミー・スミス)の愛情も素直に受け入れられない。エリザベスはキャリアを積みながら上司ポール(サミュエル・L・ジャクソン)の子を身ごもり、打ち明けずに事務所を辞める。ルーシーに優しかった夫は養子縁組を反対し去ってゆく。他にもカレンの初恋の男トム(デイヴィッド・モース)など、ここに出てくる男たちはみな優しいが、女にとって大切なとき何の役にも立っていないのがちょっと類型的。対する女はカレンの家政婦、ルーシーやレイの母親を始め、ポールやパコの娘、盲目の少女ヴァイオレット(ブリット・ロバートソン)など皆な自分の感情をハッキリ伝えるしっかりものである。何度かある出産シーンとともに女の強さを見せつけられる。唯一の例外はエリザベスの隣人夫婦で、夫はエリザベスの誘いに見境なく乗ってしまうし妻は妊娠を自慢することで優越感を持つ。どこにでもいそうな等身大の人物でこの辺りはリアルで面白かった。
N・ワッツは単なるヌードではなく妊娠9カ月の妊婦姿を惜しげもなく曝し大熱演。こんなヒトは周囲の女性から疎外されそうで、孤独な生い立ちを癒すために言動する自立した女の危うさが良く出ていた。A・ベニングはメリル・ストリープと並んで今やベテラン女優としてハリウッドきっての演技派だろう。年相応のシワがかえって魅力を増している。今回はC・ワシントンが損な役回りとなってしまった。
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