レスラー
2008年/アメリカ
低予算ゆえのリアル感を味わう
総合 85点
ストーリー 85点
キャスト 90点
演出 85点
ビジュアル 85点
音楽 85点
ダーレン・アロノフスキー監督が温めていたプロレスをテーマにした企画を、ミッキー・ローク主演で実現、ヴェネチア国際映画金獅子賞をはじめ数々の賞を獲得した。
ランディ(M・ローク)は’80年代はマジソン・スクエア・ガーデンを満員にした花形プロレスラーだった。スーパーでアルバイトをしながら週末に現役を続けているが、身体はステロイドの影響でボロボロになり心臓手術を受けドクター・ストップに。不器用で現実の世界を避けてきた中年レスラーは、定年退職した仕事一筋のサラリーマンのよう。気がつけば、相談相手は好意を持っている酒場のポール・ダンサーのキャシディ(メリサ・トメイ)しかいない。疎遠だったひとり娘のステファニー(エヴァン・レイチェル・ウッド)に会いに行くが、今さらスムーズに行くハズもない。
M・ロークは’80年代は「イヤー・オブ・ザ・ドラゴン」「ナイン・ハーフ」と立て続けにヒット作の主演でハリウッドの大スターだった。その後低迷を続けボクサーとなり、整形手術を受け復活を遂げたが鳴かず飛ばずの20年間を過ごしている。この役は自身とオーバーラップするのか文字通り吹き替えなしの体当たりの演技が感動を呼ぶ。アロノフスキーはニコラス・ケイジで決まっていたキャスティングをM・ロークにこだわり続けた所以もそこにあるのだろう。
お陰でベタな作りながら「ロッキー」のような派手さがなく、製作費600万ドルの低予算ゆえのリアル感を味わうことができた。プロレス好きの監督らしく、興行の裏面も描かれていてマニアの期待も裏切らない。また興味のないひとにも流血場面などは適度に抑えられ、男のドラマとして不可欠な要素として受け止められている。折りしも三沢事件が起きたフェイクとリアルが交錯するこのエンターテイメントは、好き嫌いがあるものの本物のプロレスラーも出演したこの映画で理解が深まるのでは?
9歳の男の子のために必死に生きるダンサー役のM・トメイもM・ロークに劣らない体当たりの演技。役柄が役柄だけに44歳にして惜しげもなく裸身を晒しながら、好きな男との生活に踏み切れない愛おしさが滲み出ている。2度目のオスカー獲得はならなかったが、この映画を見事に支えている。
ブルース・スプリングスティーンの主題歌がこの哀しい男の心情と重なって胸を打つ。