路上のソリスト
2009年/アメリカ
感動の押し売りをしないJ・ライト
総合 85点
ストーリー 85点
キャスト 85点
演出 80点
ビジュアル 80点
音楽 85点
英国の気鋭・ジョー・ライトのハリウッド初監督作品は、LAタイムズのコラムニストとホームレスのチェリストの交流を描いた実話をもとにした物語。「エリン・ブロコリッチ」を手掛けたスザンナ・グラントの脚本を除いて「プライドと偏見」「つぐない」で気心の知れたスタッフで挑んだ。
原作はスティーヴ・ロペスという知名度の高いコラムニスト。そのためノンフィクションではなくドラマ化するには幾つかの障害があったハズ。これを乗越えるためにはキャスティングが極めて重要で、J・ライトはロペス役をロバート・ダウニーJRにこだわったという。これがこの作品のリアルな人間像を感じさせて大正解だった。
「統合失調症」を患いLAのスキッド・ロウ地区に路上生活をしながら、音楽だけは捨てない孤高のチェリスト、ナサエル・エアーズには「レイ」でその音楽センスを実証済みのジェイミー・フォックス。難しい役柄を誇張せずにこなして期待通りの演技ぶり。
ジャーナリストとしての独特の嗅覚を利かしたロペスが、ナサエルの特異な生活振りをコラムに取り上げたことで読者の心に訴える静かな感動を与えることができた。それは彼が感じた<精神が高いレベルに浮遊した感覚>を素直にコラムにして行くうちに、自分や世間一般の幸福論の押し付けとなって行くのに気がつくまで時間を要することになる。
J・ライトは感動の押し売りをすることなく、ベートヴェンの音楽とともにLAの街並みを俯瞰で捉えたり、光りの洪水でその世界を描いている。とくにスキッド・ロウ地区にいるホームレスや支援センターのボランティアをエキストラに起用した情景は、J・ライトが最も描きたかったシーンで本領発揮の場面でもあった。それは大都会の恥部を取り上げるのが目的ではなく、そこに住むひとにも希望の光を当てたいと思っているのだ。
人を救うことの難しさを知ったロペスの「友情とは?幸せとは?を真摯に描いたヒューマン・ドラマ」に仕上がっている。
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