晴れ、ときどき映画三昧

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『アラバマ物語』 90点

2009-06-20 11:28:07 | 外国映画 1960~79

アラバマ物語

1962年/アメリカ

子供と大人の2つの視点で描いたアメリカの恥部と良心

総合★★★★☆ 90

ストーリー ★★★★☆90点

キャスト ★★★★☆90点

演出 ★★★★☆90点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆85点

ハーバー・リー原作「ものまね鳥を殺すには」をアラン・J・パクラが製作、米アカデミー賞3部門を獲得した人間ドラマ。「アラバマ物語」は邦題。グレゴリー・ペックが演じた正義漢溢れる弁護士アティカス・フィンチがAFI(全米映画協会)が選ぶヒーローNO1に選ばれている。
ときは'30年代初頭大恐慌時代のアラバマ州の小さな町。黒人差別が根強いこの街に住むアティカスは妻を亡くした2児の父親。娘のスカウト(メアリー・バダム)が6歳の頃を30年後に回想することで物語が進行する。そのため子供と大人の視点で同時にものごとを捉える想定が心憎い。
スカウトはH・リー自身がモデルで、アラバマ州で起きた「スコッツボロ事件」(黒人少年9人が白人女性強姦容疑で8人が死刑判決を受けた)をヒントにしてこの小説を書いて900万部のベストセラーとなり、ピューリッツア賞を受賞している。カポーティの「冷血」取材で友人として出ていた女性で映画ではキャサリン・キーナーが演じている。そのカポーティがモデルの小生意気な少年もディルと言う名で登場し、前半は無邪気な子供の日常が微笑ましく描かれる。兄のジェムとともに隣人のブーが父親に閉じ込められている家を怪人屋敷と呼んで、その行為は差別だとは思ってもいない。子供達はそれぞれ個性的。演技しているとは思えない程達者で感心させられる。
アティカスは黒人青年トム・ロビンソン(ブロック・ピータース)の白人女性暴行容疑の弁護を引き受ける。法廷ドラマとしても見応えたっぷりだが、想定外の進行とともに傍聴していた子供達は社会の矛盾や不公正なことが起きることを学ぶことになる。そしてアティカスが理想の父親であることを再認識させられる。まさにG・ペックならではのはまり役でアカデミー主演男優賞受賞も納得。
終盤、隣人ブー(ロバート・デュバル)の思わぬ登場に心が救われ、タイトルバックが新たな意味を持つようになる。
アメリカの教科書にも載るこの名作を、セットで撮影したとは思えないほどリアルに再現した傑作である。