・ 老境の孤独を39歳のベイルマンが描いた傑作。
イングマール・ベイルマンといえば彼を崇拝する映画人も多いスウェーデンの巨匠だが、難解な哲学的な作品で敬遠する人も多い。
筆者もその一人だが、本作は老医師の一日を通して、老いや死、家族などをテーマに夢や追想を交えながら比較的分かりやすいストーリー。
名誉博士号授賞式に出席するため車でストックホルムから出発した医師イーサクが同行した人々との触れ合いから過去の辛辣な出来事や青春時代の失恋や両親との思い出を追想していくロードムービー仕立てで<映像の魔術師>と言われる所以も堪能できる。
医師イーサクを演じたのは78歳の大御所ヴィクトル・シェストレムでこれが彼の遺作となった。
何より驚かされたのはベイルマンが39歳という年齢。普通この年齢で老境での不安・追憶を映画化しようとは思わない。
それを映像化して、そこから救いの光を見出すような鮮やかな結末を余情たっぷりに描いて魅せる力量はただものではない。
筆者も最近若い頃の思い出を夢で回想することが間々にあるが、失敗したことへの自責の念や苦い思い出のほうが断然多いのに気付かされる。
イーサクも初恋の人サーラ(ビビ・アンデショーン)との思い出は弟に奪われるという悲惨なもの。途中同乗してきたヒッチハイクの若者男二人に女ひとりで彼女がサーラとダブって見える。
事故で途中乗せたアルマン夫婦は諍いばかりで過去の自分を見るよう。妻の浮気も見過ごし研究に没頭してきたイーサクには年老いた母の孤独や息子夫婦のことも関心事から遠ざける意識があった。
昨夜見た死に対する悪夢から今夜サーラが夢で言った「私はあなたが好きよ。今日も明日もずっと・・・。」まで、様々な夢と現実が交錯しながら希望の光を見出そうとするイーサク。
長年仕えてきた家政婦アグダとの関係も少し変化の兆しが・・・。
ベイルマンの人間観察に温かさを感じる作品だった。
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