・ F・トリフォーの自伝をもとにした普遍性ある長編デビュー作。
今年亡くなったジャン=ルック・ゴダールと並ぶヌーベルバーグを代表するフランソワ・トリュフォーの長編デビュー作。自身の少年時代をもとに、パリの下町に暮らす12歳の少年が両親の愛を渇望するが果たせず非行に走ってしまう物語。カンヌ監督賞受賞作品。
エッフェル塔が見え隠れするタイトルバックから始まるアンリ・ドカエの映像が映画の醍醐味を味わう期待でワクワクさせてくれる。
12歳の少年・アントワーヌを演じたのはジャン=ピエール・レオ。オーディションで選ばれた14歳だったがその表情からまだ未熟な少年が望んでいる両親からの愛情を得られなかったこゝろの揺れを見事に演じきっている。
本作をキッカケに<アントワーヌ・ドワネルの冒険>シリーズ5作品が生まれ二人のコンビは20年間続いていく。
アントワーヌは未婚の母から生まれ義父との3人のアパート暮らし。決して裕福ではなく共稼ぎの両親は喧嘩が絶えない。アントワーヌはドア越しでその声を聴きながらベッドに入る日々。学校ではルネという親友がいて元気だがイタズラが講じて教師からマークされている。
親友と学校をサボって遊園地で遊び不登校の理由に母が死んだというウソをつき、両親から叱られるなど、現実逃避への道へまっしぐら。
唯一の楽しみは映画を観ること。3人で映画館で「パリはわれらのもの」を観たときの嬉しそうな顔が印象的。
小さなウソから家出・窃盗とどんどんエスカレートしてしまい、とうとう少年鑑別所へ入るハメに。未熟なための言動を導いてくれるはずの両親や大人たちから見放され、護送車で涙するアントワーヌがとっても哀れ。
筆者は高校時代ヌーベルバーグに触れ、イタリア・ネオレアリズモ主流の欧州映画がフランスに席巻される流れを実感した。本作は単なる流行ではなく<無理解な大人社会で子供が途方に暮れるテーマの映画>で普遍性があり、半世紀以上たっても共感を得られ、今観ても時代を超えてうなずきながら鑑賞できる。
華やかな大都会パリに暮らすどちらかというと恵まれない人々の生活が切り取られた街の情景がモノクロ画面から溢れ出てくる。ドカエの映像がみずみずしく、ジャン・コンスタンチンのおしゃれな音楽がその魅力を倍加させてくれる。
映像にはヒッチを尊敬するトリュフォーらしく遊園地の観客としてフィリップ・ド・ブロカとともに出演し、子犬を追いかける女にジャンヌ・モロー、追いかける男にジャン=クロード・ブリアリ、警官にジャック・ドゥミ監督がカメオ出演。
トリュフォーが鑑別所から出所後面倒を看てくれた父親的存在の映画評論家アンドレ・パサンに捧ぐ本作。FINEのクレジットとともにストップモーションの表情がトリューフォーの少年時代と重なって見えた。
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