晴れ、ときどき映画三昧

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「悪い種子」(56・米)85点

2022-07-30 12:16:35 | 外国映画 1946~59


 ・ 才気溢れるM・ルロイ監督のサイコ・サスペンス。


 サイコパス映画といえばA・ヒッチコックの「サイコ」(60)が有名。それ以前では「狩人の夜」(55・チャールズ・ロートン監督ロバート・ミッチャム主演)ぐらいしか思い浮かばなかったが、その翌年に公開された本作はウィリアム・マーチの原作をマックスウェル・アンダーソンの戯曲で大ヒットしたブロードウェイ・ミュージカルの映画化である。
 製作・監督は「オズの魔法使い」(39)「若草物語」(49)のマーロン・ルロイで主な配役は舞台俳優がそのまま演じている。

 クリスティーン(ナンシー・ケリー)は優しい夫(ウィリアム・ホッパー)と8歳のひとり娘ローダ(パティ・マコーマック)との3人家族。軍人である夫が四週間も留守をするのが寂しいが、アパートの大家モニカ(イヴリン・ヴァーデン)が何かと気遣ってくれている。
 そんななかローダがピクニックの日に同級生の少年が桟橋から落ち溺死してしまう。何ごともないように帰宅したローダだが、事故の直前少年と一緒だったことが分かりクリスティーンは一抹の不安を感じる。

 予めストーリーを知って観るのと事前情報なしで観るのとでは大分印象が違うものの、可愛い金髪のお下げ髪のローダは両親に可愛がられお行儀が良く利発だが、時折見せる良心の欠如・他人に対する冷淡さ・口が達者で平然と嘘をつく姿は全く罪悪感を感じさせない犯罪者にそっくり。
 クりスティーンはオママゴト遊びを無邪気にするローダを観ながら一抹の不安を感じる・・・・。

 ローダを演じたP・マコーマックはスケートが達者な10歳の子役で、その一見無邪気な風貌から自己主張が強く物欲への執着心を見せる表情の変化など物語を牽引する堂々の主役ぶり。
 <名子役必ずしも名俳優ならず>と言われるが、作品には恵まれないものの長く活躍を続け「フロスト×ニクソン」(08)「ザ・マスター」(12)などでも健在ぶりを見せている。
 クリスティーンを演じたN・ケリーはジェームス兄弟を描いた西部劇「地獄への道」(40)に出演していた以外殆ど記憶がないが、本作では犯罪者が遺伝子なのか環境なのか起因に悩むヒロインを好演。
 ともにオスカー主演候補にノミネートされ受賞はならなかったが代表作となった。

 ローダを疑う少年の母アイリーン・ヘッカート、アパートの清掃人ヘンリー・ジョーンズもオーバー・アクトながら達者な演技でドラマを盛り上げる。

 「サイコ」はネタバレ禁止と途中入場禁止を宣伝し大ヒットしたが、本作はエンディングマーク後に驚くべき結末としてネタバレ禁止のクレジットが入る。
 原作や舞台ではOKだったエンディングが当時の映画禁止事項(ヘイズコード)に触れるため苦肉の策だったが、オリジナルで付け加えた本作は因果応報の幕切れとなった。さらに元は舞台らしくカーテンコール付きだ。
 
 何より音声や映像で驚かせることなくこれだけ衝撃的なスリラー映画を作る名匠M・ルロイの才能に感服させられる作品だ。ヒッチが本作をリメイクしたらどうなっていたいただろうか?二人の名シェフの料理を味比べしてみたかった。


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