晴れ、ときどき映画三昧

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「アンダーグラウンド」(95・仏/独/ハンガリー/ユーゴスラビア/ブルガリア)85点

2021-09-03 12:02:16 | (欧州・アジア他)1980~99 


 ・ 激動のユーゴ50年を切り取ったブラック・ファンタジー


 セルビア生まれのエミール・クストリッツア監督が「パパは出張中」(85)に続いて二度目のカンヌ・パルムドール賞を獲得したコメディ・ドラマ。20世紀ユーゴの50年に亘る混乱を描いている。
 キャッチコピーに<20世紀最高の映画 歴史に翻弄された人々の痛々しさ>とあるが本当だろうか?

 物語りは三部構成で

 第1章は1941年4月 ベオグラードにナチスドイツ軍が侵攻。パルチザンとして活躍するマルコとクロによる女優ナタリアを巡る愛の物語と、戦乱をエネルギッシュに生き抜く人々の奮闘記。

 第2章は’43年~ユーゴスラビア社会主義共和国におけるチトー大統領時代。大統領側近として出世するマルコとナチス将校の愛人だったナタリアが結婚。負傷したクロはマルコの策略で終戦も知らず地下室で仲間たちと暮らす20年。やがてクロと息子のヨヴァンそして動物園の飼育係だったマルコの弟イヴァンと猿のソニが地下を抜け出す。

 第3章はチトー大統領が死去して民族紛争が続くなか、’90年初頭国連軍が介入。武器商人として暗躍するマルコは妻ナタリアとともに国際指名手配されるはめに。クロは内戦軍の指揮官となって行方不明の息子ヨヴァンを探し続け、イヴァンは内戦の中に放り込まれてしまう・・・。

 本作の完成時は旧ユーゴスラビアが7つの国と地域の分裂状態にあり、民族同士が複雑に絡み合うボスニア紛争のころ。国際社会の思惑も重なって解決の糸口が見えない状態だった。
 
 シュールでエネルギッシュ、フェリーニを想わせるコッテリ感のある作風の監督クリストリッツアは持ちうる才能を十二分に発揮。
 40歳の天才監督を支えたのはジプシー音楽にすさまじい民族エネルギーを感じさせたゴラン・グレコヴィッチ、踊り狂う人々をときには激しくときには優しく捉えたカメラのヴィルコ・フィラチ、喧噪と混乱を絶妙に表現した美術のミリアン・クレノス・クリアコヴィッチなどのスタッフたち。
 さらに義賊から政府要人、武器商人と変遷しながら人を欺くことで生き抜いてきたマルコを演じたミキ・マロイノヴィッチ。同胞クロへの想いは持ち続けていた。粗暴だが家族想いで人を信じやすい一途なクロに扮したラザル・リトフスキー。車椅子の弟を庇いながら本能によって生きてきたナタリアのミリャナ・ブレゴヴィッチなど現地の名優たちである。
 
 激動の50年間を人々が持つ強烈な民族のエネルギーで生き抜くさまを、コミカルに・そして激しく・ときには優しく描いていく。そして終盤では奇想天外なファンタジーに潜む祖国を失った悲哀と憤りがフツフツと湧き出してくる。
 苦痛と悲しみと喜びを幾重にも体験し、啀み合い欺瞞や裏切りもあった。<許す でも忘れない>というエンディングは感動を呼ぶ。

 <セルビア人擁護><民族独立否定>との批判の嵐があって40歳の若さで一度は筆を折ったクストリッツア監督(その後復活)。170分の長編だったが長さを忘れて見入ってしまった。5時間14分の完全版も観てみたい。20世紀最高の映画かどうかはそれからにしたい。
 

 

 

 


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