晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「潜水服は蝶の夢を見る」(07・仏=米) 70点

2015-03-23 08:24:17 | (欧州・アジア他) 2000~09

 ・ 斬新な映像で生きる喜びを描いたシュナーベル。

                  

 ELLEの編集長ジャン=ドミニク・ボビー(マチュー・アマルリック)が目覚めると、そこは病院で医師や看護士が覗き込んでいる。

 意識はハッキリしているのに、身体が身動きできず言葉が通じない。動くのは左眼だけという深刻な状況であるにも関わらず、言語療法士アンリエット(マリ=ジョゼ・クローズ)や理学療法士(オラツ・ロペス・ヘルメンディア)の美しさを独白するユーモアを忘れないのが如何にも彼の性格を現している。

 瞬きだけでコミュニケーションする方法で、最初に伝えた言葉は「死にたい」だった。内縁の妻セリーヌ(エマニュエル・ヤニエ)や3人の子供たちに囲まれて人生を謳歌していたこと、父親(マックス・フォン・シド)との会話、元恋人ジョセフィーヌ(マリナ・ハンズ)との別れ・・・、次々と記憶が蘇る。

 現代美術作家のジュリアン・シュナーベルが、ロックド・イン・シンドローム(閉じ込め症候群)という病気で不自由な体でありながら、自伝を出版した男の実話をもとに映画化したヒューマン・ドラマ。カンヌ国際映画祭、監督・高等技術賞を受賞している。

 カメラは、通称ジャン・ドーの左目になって撮られていて視点が定まらない。封切り時は、前から4番目の席で観たため臨場感溢れる映像で観られたのは不幸中の幸い?だった。

 脚本は「戦場のピアニスト」のロナルド・ハーウッド、撮影はスピルバーグ作品の常連、ヤヌス・カミンスキー。2人の連携がこの映像を生んで 、潜水服を着たような主人公を具現化した。中盤以降、大空を自由に飛び回る蝶になった想像の世界が、テーマを必要以上暗くならないものにしてくれた。

 シュナーベル監督は、この愛と感動の物語を必要以上盛り上げることなく<生きることの意義>を静かに訴えている。その分物足りないと感じる人もいるかもしれない。シャルル・トレネの「ラ・メール」が主人公の気持ちを代弁していて、効果的に使われていたのが印象に残った。