・ A・リーが描きたかった、人間の哀しみ。
’42年の上海、ひとりの女(タン・ウェイ)がカフェで人待ち風。カウンターでの電話や周りへの視線に緊張感が漂う。
その3年前、香港の大学生だったワン・チアチーは、演劇部の抗日活動家クァン(ワン・リーホン)に誘われて舞台に立つ。その高揚感とクァンへの片想いで、王傀儡政権の高官イー(トニー・レオン)暗殺を狙うスパイとなって行く。
ワンは貿易商の若夫人マイを装い、イー邸で夫人(ジョアン・チェン)との麻雀で、頻繁に出入りするようになる。
「ブロークバック・マウンテン」のアン・リー監督が、再び禁断の愛を描いた当時の話題作。ヴェネチア国際映画祭グランプリ受賞作品。「インファナル・ア・フェア」のT・レオンと新人タン・ウェイの主演。
3シーンで合計20分ほど、想像を遥かに上回る過激な性描写が独り歩きして話題を醸し出したが、緻密な必然性を持っている。極限の世界にいる2人が、最初は暴力的に、次に戸惑い、最後に情愛をこめて、そのシーンは変化して行くのだ。
もうひとつの見せ場は、女たちの麻雀シーン。混迷時で外出も儘ならない女にとって、たまの買い物と麻雀だけが楽しみ。その優雅な手つきウラハラな会話が女の戦いそのものである。
結局、香港大学生たちは反日上層部のコマでしかなく、純粋だったクァンも3年後は愚かな活動家となってチアチーを利用しようとする。チアチーにとって敵であるはずのイーは、孤独な哀しさが漂って逢うたびに愛おしさが募って行く。
当時の複雑な時代背景=抗日・中国内戦状況を想うと、単なるラブ・ストーリーではなく、台湾出身である中国人監督の<心の襞を覗き観るような気分>になる。
ポスト、チャン・ツィイーとも第二のコン・リーともいわれたタン・ウェイは、相田翔子に似た愛くるしい風貌で、その体当たり的な演技はモデル出身のせいか豊満さや卑猥な感じがしない。微妙な女の変化を、その視線で見事に演じ切っている。
T・レオンは今までの甘さを捨て、誰も信じない冷酷さと不安な気持ちを漂わせた名演技で、彼の代表作と言えるだろう。
本作での日本は蔑視される個所が随所に窺える。日本人として居た堪れない気分もあるが、ここはフィクションの世界だと割り切るほかない。