goo blog サービス終了のお知らせ 

晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「レディ・バード」(17・米 )65点

2018-12-30 12:15:25 | 2016~(平成28~)


・自伝的要素をもとに17歳から18歳の1年間を描いたG・ガーウィグの初監督作品。

女優のグレタ・ガーウィグが自身の体験をもとに書き下ろしたオリジナルを、単独初監督で映画化。多くの人々の共感を得て、オスカー作品賞・監督賞など5部門にノミネートされ話題となった。

カリフォルニアの片田舎サクラメントのカトリック高校に通うクリスティン。本名を名乗らず自称「レディ・バード」というチョッピリ背伸びした17歳が、大学進学や恋愛・友情・母との亀裂など揺れ動く1年間をエピソードを盛り込んだユーモアたっぷりな青春ドラマ。

オスカー監督賞候補はたった5人しかいなかったのも驚きだが、マイノリティの視点や政治的メッセージもない、ごく普通のいわば王道を行く青春映画が映画ファンの共感を得て大ヒット。
受賞はならなかったが主要5部門にノミネートされたのは、如何に昨今の作品が衝撃的なインパクト競争に走ったものが多かったかを示すものだったかを証明するものだともいえる。

キャスティングが素晴らしい。主演は「つぐない」(08)「ブルックリン」(16)で若手演技派のシアーシャ・ローナン。実年齢は5歳も年上だがそこは演技でカバーしてマセた女子高生に扮している。
筆者が10代の頃、佐久間良子がセーラー服の女子高生役を演じていたのを思い出す。

両親に扮したのはローリー・メトカーフとトレイシー・レッツの舞台俳優でベテランらしい達者な演技。
恋人役に「マンチェスター・バイ・ザ・シー」(16)、「スリー・ビルボード」(17)のルーカス・ヘッジスと、「君の名前で僕を呼んで」(17)のティモシー・シャメラというタイプの違う売り出し中の若手を配していて、それぞれ「レディ・バード」の恋心を惑わす役割を担っている。

17歳の彼女にとってサクラメントは古臭いなんの取り得もない窮屈な街で、文化の香り高い大都市NYへ憧れるのはもっともなハナシ。

母マリオンも若い頃は同じ想いだったが、看護師で一家を支える現実と娘の言動はとても受け入れられない。本作は「怒りの葡萄」の感動度合のギャップから始まる<母と娘の愛と葛藤の物語>でもある。

ジョン・ブライアンの巧みな音楽に乗って次から次へとシチュエーションが変動する94分は、観客が泣いたり笑ったりしながら自分の人生とオーバーラップする作品になったことで高評価に繋がっている。

登場人物の女性の微妙な心情描写は長けているが男性描写が類型的だと感じたのは、筆者が男だからだろうか?

「タリーと私の秘密の時間」(17・米 )70点

2018-12-26 12:45:42 | 2016~(平成28~)



・ 妊娠・出産・育児を通して、母親への応援歌を描いたJ・ライトマン。

「ヤング≒アダルト」(11)のトリオ、ジェイソン・ライトマン監督・マッケンジー・デイビス脚本・シャーリーズ・セロン主演で、3人の子育てに奮闘する母親と若いナイト・ナニーとの不思議な交流を描いたヒューマン・ストーリー。原題は「タリー」

「JUNO ジュノ」(07)では大人に早くなり過ぎた少女、「ヤング≒アダルト」では大人になり切れない女性を描いてきたJ・ライトマン。

本作では親になったことで大人にならなければならない女性を、妊娠・出産・育児という大変さを通じて独特の切り口で描いている。

これはD・コーディが3人目の子供を産んで体験したことをもとにシナリオを書き下ろしているだけに、子を持つ女性の共感を得られる設定。

コメディタッチという前触れだが、世の男性には辛口過ぎて耳が痛いシーンが盛り沢山だ。

いつも感心するのはS・セロンの役作りのストイックさ。今回は出世作「モンスター」(03)を上回る18キロも増量して、体形の崩れを晒しての熱演は<女版デ・ニーロ・アプローチ>を実践している。

主人公マーロには、オシャマなサラと発達障害のジョナの姉弟がいる。それだけでも大変なのに3人目を妊娠中。夫ドリューは優しいが無関心。

人には頼りたくないといっていたマーロだが、限界となって兄が世話してくれたナイトナニー(夜だけのベビー・シッター)を頼むことに。

現れたのはタリー(マッケンジー・デイビス)という若い女性だった。その完璧な育児ぶりにすっかり心を許したマーロ。

ふたりの絆の深さが異常なのは、タリーがコスプレで夫のベッドルームへ現れるシーンあたりから。

筆者は当初<ローズマリーの赤ちゃん>のようなサスペンスを予感していたが、このシーンから見事に外れたことを認識、<アメリカン・ビューティ>的なブラック・コメディを想定することに。

以後どんどんエスカレートして行き<ファイト・クラブ>化して行く破目に・・・。

S・セロンの大熱演も空回り?と思わせながら、タリーを演じたM・デイビスの不思議な魅力と音楽の絶妙なストーリー・テイリングに目が離せない。

自動車事故で入院したマーロが、全ての疑問を回収して物語は終焉する。

マーロの問題は全て解決していないが、ヘッドフォンでゲームに興じていた夫が、揃ってキッチンで同じ音楽を聴くシーンは平穏な家族への応援歌でもあった。










「悲しみに、こんにちは」(17・スペイン)70点

2018-12-21 15:57:52 | 2016~(平成28~)



・幼い少女が 母の死をどう受け止めたかを追ったドキュメンタリー・タッチ作品。

両親を亡くした少女が、バルセロナから70キロ離れたジローナに住む叔父夫婦に引き取られた1993年のひと夏を描いた、スペイン新人監督カルラ・シモンの長編デビュー作品。原題は「1993年の夏」
自身の体験をもとに書き下ろしたオリジナルでベルリン映画祭新人監督賞を受賞した。

幼い少女が母親の死をどのように受け止め乗り越えようとしているのかを、ドキュメンタリー・タッチで描いたシモン監督は、自身の記憶をもとに出来事を積み重ねながら、主人公の感情の揺れを紡ぎだして行く過程がとてもドラマチックだ。

少女フリダを演じたライア・アルティガスと従妹のアナに扮したパウロ・ロブレスはとても演技とは思えないナチュラルな言動で観客を惹きつけてやまない。

監督は「ミツバチのささやき」(73)をお手本にしたというが、是枝作品も参考にしたに違いない。

1993年のスペインはフランコ政権の終焉とともに自由を謳歌した頃で、突然の解放感から若者たちにドラッグが蔓延し、HIV感染が増加していたという。

まだ不治の病であったエイズで母を亡くしバルセロナからカタルーニャの田舎へ越してきた6歳の少女の戸惑い不安が見え隠れする序盤は、わがままな甘えっ子を露見させる。

叔父のエステバ(ダビド・ベルダグエル)とその妻マルガ(ブルーナ・クッシ)は実子のアナ同様わけ隔てなく扱うが、フリダは環境の変化に戸惑うばかり。

様子を見に来た祖父母のあとを追って泣き叫ぶフリダのシークエンスでは、ドラマチックに盛り上げようとすれば如何様にでもできそうだが、まるでドキュメンタリーのように映像の力だけで観客に委ねる手法をとる。これは尊敬するミュハエル・ハネケ監督から学んだという。

フリダのはけ口が年下のアナに向かい、時には意地悪なこともしてしまうがアナはお姉ちゃんができて大好きだといって楽しそう。

エピソードを丁寧に描いた映像はジローナという田舎町の風景・石造りの家・森の光と影に溶け込んでいて、まるでドキュメンタリーを観るよう。

そのため説明不足は否めないが敢えて情報過多にならず、観客の想像に委ねている。

森の中で見つけたマリア像に母の好きなタバコや水色のワンピースを渡すフリダ。願いが叶わないことで母の死を受けとめ、家出をしようとしたが「暗いから明日にするわ」と言って戻ってきたことで自分の置かれたポジションを知ったのかもしれない。

フリダが新しい家族の一員になれた実感がラストで味わえる、清々しいひと夏の物語だった。


「ワンダー 君は太陽」(17・米) 80点

2018-12-15 13:50:06 | 2016~(平成28~)


・世代を超えポジティブになれるベストセラーの映画化。

R・J・パラシオの児童文学書「ワンダー」を、「美女と野獣」の脚本を手掛けたスティーブン・チョボウスキーが監督・共同脚本で映画化。

「ルーム」(16)の天才子役ジェイコブ・トレンブレイが顔に傷害を持つ少年を演じ、ジュリア・ロバーツ、オーウェン・ウィルソンが両親役でサポート。

遺伝子の突然変異により顔に疾患を持つオギー(J・トレンブレイ)は、幼い頃から両親や姉から愛されて育ち、スターウォーズ好きな10歳の少年。

母と自宅学習してきたが、将来のために小学5年生の年になって初めて学校へ通うことに。

周りから奇異な眼で見られながらも、徐々に馴染んで友達もできて行くが・・・。

いわゆる<感動ポルノ>と呼ばれる、お涙頂戴の物語では?と敬遠する向きもありそうな展開ながら、フィクション故の原作がしっかりしているのと監督のユーモアセンスやディズニーならではの仕掛けで世代を超えて楽しめる作品に仕上がった。

オギーの心情をナレーションに込めた冒頭では、彼が顔以外は普通の元気な少年で、両親・姉に可愛がられていることが分かる。彼を学校までまで送り出す両親の不安は如何ばかりか・・・。
案の定子供の残酷な反応に遭いながら不登校にならなかったのはオギーの賢さと逞しさが幸いした。

姉のヴィア(イザベラ・ビドビッチ)は手のかからない娘で弟とも仲が良いが、両親が自分を注目してくれないことや親友ミランダ(ダニエル・ローズ・ラッセル)が無視することで密かに悩んでいる。ボーイフレンドには一人っ子とウソをついてしまう。

オギーの同級生ジャック(ノア・ジュプ)はオギーと仲良くなったのに、ハロウィンでの出来事からオギーに避けられてしまう。母親の女手ひとつで育てられ奨学生のジャックは、いじめっ子のジュリアン(プラース・ガイザー)と喧嘩して退学になることを心配する。

ミランダは両親が不仲で夏休みにイケてる友人たちと過ごし、何となく大人しいヴィアを避けるようになる。

オギーを取り巻く人たちは、姿形は勿論それぞれの悩みを抱えていることを視点を変えて描いているので10歳の子供やティーンが観ても共感できる中身が盛り沢山。

オギーが太陽で出てくる人全てが善き衛星という非現実的な描き方に異論もあろうが、こんなポジティブな作品で最後まで観客を惹きつける映画は、流石にディズニー資本らしい作りだ。

天才J・トレンブレイを初めする子役たちはこれからハリウッドを背負って行く逸材揃い。「プリティ・ウーマン」以来四半世紀を経て、こんな抑えた演技で感動を誘うJ・ロバーツの変わらない存在感も凄い。

家族揃って鑑賞できる貴重な作品に拍手を送りたい。



「30年後の同窓会」(17・米 )80点

2018-12-10 12:10:49 | 2016~(平成28~)


・ 中年男3人の再生ロード・ムービー。

「6才のボクが、大人になるまで。」(14 )のリチャード・リンクレイター監督が、ダリル・ポニックの小説「LAST FLAG FLYING」を映画化。

ベトナム戦争の戦友・3人が30年振りに再会、バージニア州ノーフォークからニューハンプシャー州ポーツマスまでアメリカ東部を北上する旅を経て再生する物語。

出演は「フォックス・キャッチャー」(14)のスチーブ・カレルを中心に、「トランボ/ハリウッドに最も嫌われた男」(15)のブライアン・クランストン、「マトリックス」3部作のローレンス・フィッシュバーンのベテラン俳優たち。3週間のリハーサルを積んで撮影に挑んだ。

再会のキッカケはドク(S・カレル)が、サル(B・クランストン)の経営するバーに現れたこと。
ドクは1年前に妻を亡くし、2日前イラク戦争で亡くした息子の遺体対面に立ち会って欲しいという。

途中立ち寄ったのは教会で、牧師は元戦友のミューラー(L・フィッツバーン)だった。3人は忌まわしい過去を引き摺ってもいた。

哀しみに暮れ塞ぎがちなドク、酒好きでジョークばかりのサル、神に仕え旅に気乗りしなかったミューラー。50代になり境遇も変わった3人の中年男が旅を続けるうち、徐々に打ち解け昔に戻って行く。

原作者で本作の共同脚本を手掛けたD・ポニックの原作に「さらば冬のかもめ」がある。ジャック・ニコルソン主演で映画化されたが、その30年後のイラク戦争の時代の頃である。

息子を故郷へ埋葬したいドクとアーリントンで英雄として扱いたい上官。二人の支援で故郷へ戻ることになり、息子の親友である若い軍曹ワシントン(J・クイントン・ジョンソン)とともに戻る途中のエピソードがハイライト。
テロリストと間違えられたり、アムトラック内での猥談で大笑い、携帯を買って列車に乗り遅れたりする帰路ではすっかり30年前に戻っていた。

シリアスな反戦映画にもなるストーリーを馬鹿話や猥談を交え、ユーモラスな展開にしながら中年男3人の人物像をリアルに浮き彫りにするストーリー展開は流石だ。
なかでも、思い通りの行動で優しさもあるストーリーを動かす役柄のB・クランストンの好演が目立った。

二つの戦争をテーマにしながら戦争シーンは一切なく会話だけでその状況が目に浮かんでくる。忌まわしい過去も戦友の実家を訪ねることでひと区切りがついた。

正義の戦いが欺瞞でありながら愛国心は失わない3人の生きざまがアメリカという国を支えており、若い世代にも脈々と引き継がれて行く姿を息子の遺書が象徴しているようだ。

家族愛・友情・大切な人を失う哀しみについて語りかける本作は、青年期を謳歌したり悩んだりする日常を切り取ってきたリンクレイターが成熟期を迎えた証か。

エンディングに流れるボブ・ディランの「Not Dark Yet」が染み入ってくる。









「さよなら、僕のマンハッタン」(17・米 )70点

2018-12-05 12:10:22 | 2016~(平成28~)

・ M・ウェブ監督によるNYを舞台にした青春ドラマは、ブラックリストからの映画化。

「(500)日のサマー」(09)のマーク・ウェブ監督が、大学卒業後進路に迷う青年の恋愛や大人への成長を描いた88分。原題は劇中曲でもあるサイモン&ガーファンクルの「ニューヨークの少年」。主演のモラトリアム青年・トーマスに扮したのはカラム・ターナー。

マンハッタンのロウアー・イーストに暮らすトーマスはアッパー・ウェストの親元から離れて独り暮らし。ある日、想いを寄せるミミと一緒にいたナイトクラブで父の密会の場を目撃。

恋人がいるミミとの関係に悩み、父親の不倫で実家に戻っても両親とギクシャクしてしまう。

そこへ隣人の初老の男が加わって思わぬ展開へ・・・。

M・ウェブはブラックリスト(映画化されていない脚本の会員制ウェブサイト)から、10年掛りで念願のアラン・ローブのシナリオを監督。キャスティング、ロケ地、音楽、衣装や小道具全てに彼のセンスが織り込まれている。

主人公の脇を固めるのは3人のベテランだ。
作家を目指し挫折、出版社経営で成功した父イーサンに007シリーズのピアース・ブロスナン。
躁鬱症に悩まされながら息子を気遣う母ジュディスに「セックス・アンド・シティ」のミランダで生粋のNY育ちのシンシア・ニクソン。
トーマスに何かとアドバイスをする謎の隣人W・F・ジェラルドに製作総指揮のジェフ・ブリッジス。ナレーションも務めているが終盤でその訳が分かる。「恋のゆくえ フェビラス・ベイカー・ボーイ」(90)、「クレイジー・ハート」(09)、「トゥルー・グリッド」(10)などが記憶に残る名優だが、今回は渋い演技で存在感たっぷり。

加えて、古書店員でミュージシャンの恋人がいながらトーマスも気になるミミにカーシー・クレモンズ。

さらに、父の愛人でトーマスに付きまとわれる知的でセクシーなジョハンナに、「アンダー・ワールド」シリーズでお馴染みのケイト・ベッキンセール。複雑な役柄で筆者には腑に落ちていないが、本作では欠かせない存在となっている。

それぞれの住まいとファッションを丹念に映像化。流れる楽曲もサイモン&ガーファンクルを初め、ボブ・ディラン、ルー・リード、チャールズ・ミングスなどで彩り、キャラクターやシークエンスを惹き立てる。

グランド・セントラル オイスターバー&レストラン、ロウワー・イーストサイド ナイトクラブ「The BIX」、ブルックリン・ミュージアム、バー「ブルックリン・イン」、レコード・ショップ、古書店など80年代のNY映画好きには見逃せないスポットも効果的。

「卒業」(67)のNY版ともいえる本作。ジョハンナがトーマスに言った「人はいつも無意識に行動をしてしまうもの」がキイワードだが、終盤の展開は出来過ぎながら悩む青年トーマスが少し大人へと成長していくのが、若かりし頃のモヤモヤ感を思い出させてくれた。


「モリーズ・ゲーム」(17・米 )65点

2018-11-24 14:10:23 | 2016~(平成28~)


・ 実在ポーカー・ルーム経営女性の栄光と挫折をA・ソーキンが初メガホンで描いた半生記。

セレブが集うポーカー・ルームの若き女性経営者モリー・ブルームの半生記をもとに「ソーシャル・ネットワーク」の脚本家アーロン・ソーキンが初メガホンで撮った栄光と挫折の物語。主演は「女神の見えざる手」のジェシカ・チャステイン。

モーグルで全米オリンピック候補のモリー(J・チャステイン)は予選会でケガをして引退。ロースクール生で頭脳明晰な彼女だったが、休学中アルバイト先のハリウッド・クラブ常連客ディーン・キース(ジェレミー・ストロング)にスカウトされ、セレブが集まる高級ポーカー店のアシスタントとなる。

客のチップが収入源だったが、その才能は桁外れで映画スター・プレイヤーX(マイケル・サラ)と組んで独立。順風満帆のときFBIからゲーム手数料(レーキ)を取った疑いで全財産を差し抑えされ一文無しとなってしまう。

さらに2年後突然逮捕される。FBIの狙いは?

M・ザッカーバーグ(ソーシャル・ネットワーク)、B・ビーン(マネー・ボール)、S・ジョブス(スティーヴ・ジョブス)など実在人物のサクセス・ストーリーの脚本を手掛けているA・ソーキンは、当初興味を示さなかった。

だが、回顧録を読み本人に会って即座に撤回、シナリオのみならず監督まですることに。彼女を弁護するチャーリー・ジャフィー弁護士(イドリス・エルバ)は自身を投影した役柄として登場している。

ソーキンは彼女を父親(ケヴィン・コスナー)との関係を絡め高潔さと負けず嫌いの人格形成にスポットを当て、栄光と挫折から再起へと歩もうとするキャラクターを膨らませている。

一大スキャンダルとなった回顧録には実在の顧客名(L・デカプリオ、T・マグワイア、B・アフレック、A・ロッドなど)があったが、本作では顧客名は決して明かさなかったという設定で、ロシアン・マフィアとの関係もフィクション?とのこと。

男性社会の中で頭脳明晰のエリート女性による栄光と挫折の末、自らの才覚で切り抜けようとポジティブに行動するヒロイン像といえば、J・チャステインしか思い浮かばないほどのハマリヤク。年齢不詳で20代でも通用するはち切れそうな若さと魅力を発散している。

その脇を固めるのがI・エルバとK・コスナーという主役級の存在が贅沢だ。そのため少しいい人過ぎる感も無きにしも非ずだったが・・・。

時系列ではなく過去と現在をシャッフルし、洪水のようなマシンガン・トークの展開はテンポよく140分の長さは感じなかった。

17世紀末に起きた<セイラム魔女裁判>(アーサー・ミラーの戯曲)のような事件だと例えた本作。モーグルも人生も一寸先は闇だが、モリーのように周囲のバックアップと自らの才覚で光が見えてくることで世の女性に共感を与えてくれる。



「ファンタム・スレッド」(17・米 )70点

2018-11-22 12:04:03 | 2016~(平成28~)


・ 2度目のタッグを組んだP・T・アンダーソン監督とD・デイ=ルイス主演作は究極の?ラブ・サスペンス。

50年代のロンドンで高級仕立服の天才として知られる「ハウス・オブ・ウッドコック」の経営者レイノルズ(D・レイ=ルイス)が、平凡なウェイトレス・アルマ(ヴィッキー・クリーヴス)を自身のミューズとして迎える。完璧を目指すエゴイストと若きミューズとの禁断の愛の物語。原題は「幻の糸」という意味でオスカー6部門ノミネート作品。

若くして欧州3大映画祭の監督賞を受賞したアンダーソンと「マイ・レフトフッド」「ゼアウィルビー・ブラッド」「リンカーン」で3度オスカー受賞のデイ=ルイスのタッグは、「ゼアウィルビー・ブラッド」以来2作目。

本作で俳優業引退表明したダニエルの役作りアプローチはデ・ニーロと双璧で、今回も衣装作りを1年間学んで挑んでいる。

脚本はもとより撮影まで関わった完璧主義者のアンダーソンとは似た者同士だ。

天才にありがちな自分のスタイルを崩さないレイノルズ。朝の支度は一分の隙もない身だしなみで、朝食は音を立てることもタブー。そんなレイノルズを見守るのは姉のシリルで、弟に生涯を捧げてきた善き理解者であるという自負がある。演じたレスリー・マンヴィルの弟を溺愛する厳格な演技が光る。

亡き母から裁縫を習ったマザコンのレイノルズは独身で、新たなミューズを見つけ創作意欲が蘇る。見初められたアルマは意外にも男の色には染まらない女で、普通のシンデレラ・ストーリーでは終わらない。

流れが変わったのは二人だけのサプライズ・ディナー。レイノルズが嫌うバターたっぷりのパンやキノコ・パスタやティーカップに注ぐ音。

ここからはヒッチコック風サスペンスが強烈に漂い始め、王女や伯爵夫人が顧客の「マイ・ハウス・ウッドコック」が全てというレイノルズの価値観が揺らいでくる。オスカー衣装デザイン賞受賞のマーク・ブリッジスの50年代英国ファッションとジョニー・グリーンウッドのピアノが奏でる音楽が格調高い。

シックという言葉が流行し始めたこの時代、社会からの疎外・孤独感に苛まれることを予感させるウッドコック家がアルマというミューズによって矯正されるのか?それとも破滅に向かうのか?

毒キノコがもたらす禁断の愛の行方が気になる終焉だ。

エンド・クレジットにあるジョナサン・デミに捧ぐという本作は、これが最後の俳優業を宣言したD・レイ=ルイス。

アンダーソン監督には、かつて靴修行中だった彼を説得したM・スコセッシのように、3度目のタッグを組んで更なる刺激的な物語を映像化して欲しいと願っている。

「散り椿」(18・日 )75点

2018-11-01 11:53:02 | 2016~(平成28~)



・ 移り行く美しい日本の四季を背景にした本格時代劇。

昨年逝去した葉室麟の原作を、小泉堯史が脚本化、撮影監督の大御所・木村大作が監督も兼ねた本格時代劇。主演は今や時代劇の顔となった岡田准一。共演西島秀俊・黒木華・池松壮亮など今旬な若手に奥田英二・富司純子・石橋蓮司らベテラン脇役陣が顔を揃え、ナレーターを豊川悦司が務めている。

享保15年扇野藩の不正を糺そうとした瓜生新兵衛(岡田准一)が病弱の妻・篠(麻生久美子)の最後の願いを聞き届けるため故郷へ戻る。善き友で因縁の相手・榊原采女(西島秀俊)と対峙した新兵衛は、篠の一途な想いを知ることになる・・・。

鮮血が噴き出す鮮烈な殺陣、岡田自身が考案した散り椿を背景にした新兵衛と采女の決闘シーン。
五色の「八重散り椿」・「龍虎図」など長谷川等伯の屏風を使用した豪華な美術。
眼目山立山寺の並木道などの風情ある富山・彦根・長野などふんだんにあしらったロケ地。
佇まい・セリフ回しに拘った演技。

アニメやCGで時代を超越した時代劇が主流の昨今、黒澤明のカメラ助手だった木村とADだった小泉のコンビによる本作は時代劇の本流を多分に意識した拘りとオマージュが窺える。

俳優陣では岡田の武骨だが一途な男、麻生・黒木の姉妹が時代劇的風情、富司・奥田・石橋のベテラン・トリオの存在感が光る。
池松壮亮は重要な役柄で頑張ったが台詞が時代劇向きではなく、ミスキャスト。平山道場主の柳楽優弥にやって欲しかった。

エンディング近くでの唐突なカット割りや采女の母・滋野(富司純子)の篠への感情はどちらだったのか?など破綻が気になった。 派手さはないが、TVでは果たせない贅沢な時代劇を堪能した。


「女は二度決断する」(独・17) 70点

2018-10-23 13:54:11 | 2016~(平成28~)

・ D・クルーガー渾身の演技による復讐ドラマ。




突然の爆発事故で、愛する夫と息子を失った主人公の女性が憎しみと絶望のなか下した行動は?

<愛・死・悪に関する三部作>など、欧州での三大国際映画祭で賞に絡んだドイツの若手ファティ・アキン監督・脚本によるサスペンス・ドラマ。

ドイツ警察戦後最大の失態と言われた極右グループNSU(国家社会主義地下組織)による連続殺人事件がヒントになっている。

主演は「ナショナル・トレジャー」、「イングロリアス・バスターズ」のダイアン・クルーガーが母国語で初挑戦し、カンヌの主演女優賞を受賞した。

ドラマは家族/カティアの失意と喪失感、正義/裁判シーン、海/ギリシャの海の三部構成。

ドイツ・ハンブルグ。トルコ移民のヌーリと結婚したカティア(D・クルーガー)は幸せな日々を送っていたが、白昼起こった爆発事故で突然夫と息子・ロッコを失ってしまう。

警察はトルコ人同士の抗争を疑っていたが、カティアの証言をもとにNSUによるテロと判断する。ここから法廷劇となるが、思わぬ判決に・・・。

カティアに扮したD・クルーガーによる渾身の演技が最大の見所だ。

幸せだった家族との想い出、移民との結婚による実家との確執、事件後の嘆きを、悲しみ・怒り・戸惑いなど様々な感情で演技する様子は本人になりきっての大熱演。

脇役陣では夫の友人でカイアを親身になって庇う弁護士ダニーロのデニス・モシット、容疑者の父で証人として出廷した容疑者の父役のウィリッヒ・トゥクール、厳つい顔で容疑者の弁護をして観客の反感を買うハーベックに扮したヨハネス・クリシュが印象に残った。

トルコ系移民の両親を持つF・アキン監督は、移民問題という社会的テーマを背景に主人公のパーソナルなドラマへと集約して、家族を理不尽に殺された一般人の自衛ムービーで観客に判断を委ねている。

サムライのタトゥをした主人公の行動は、法律では解決しない哀しみを癒す唯一の方法だったのだろうか?