・ 2度目のタッグを組んだP・T・アンダーソン監督とD・デイ=ルイス主演作は究極の?ラブ・サスペンス。
50年代のロンドンで高級仕立服の天才として知られる「ハウス・オブ・ウッドコック」の経営者レイノルズ(D・レイ=ルイス)が、平凡なウェイトレス・アルマ(ヴィッキー・クリーヴス)を自身のミューズとして迎える。完璧を目指すエゴイストと若きミューズとの禁断の愛の物語。原題は「幻の糸」という意味でオスカー6部門ノミネート作品。
若くして欧州3大映画祭の監督賞を受賞したアンダーソンと「マイ・レフトフッド」「ゼアウィルビー・ブラッド」「リンカーン」で3度オスカー受賞のデイ=ルイスのタッグは、「ゼアウィルビー・ブラッド」以来2作目。
本作で俳優業引退表明したダニエルの役作りアプローチはデ・ニーロと双璧で、今回も衣装作りを1年間学んで挑んでいる。
脚本はもとより撮影まで関わった完璧主義者のアンダーソンとは似た者同士だ。
天才にありがちな自分のスタイルを崩さないレイノルズ。朝の支度は一分の隙もない身だしなみで、朝食は音を立てることもタブー。そんなレイノルズを見守るのは姉のシリルで、弟に生涯を捧げてきた善き理解者であるという自負がある。演じたレスリー・マンヴィルの弟を溺愛する厳格な演技が光る。
亡き母から裁縫を習ったマザコンのレイノルズは独身で、新たなミューズを見つけ創作意欲が蘇る。見初められたアルマは意外にも男の色には染まらない女で、普通のシンデレラ・ストーリーでは終わらない。
流れが変わったのは二人だけのサプライズ・ディナー。レイノルズが嫌うバターたっぷりのパンやキノコ・パスタやティーカップに注ぐ音。
ここからはヒッチコック風サスペンスが強烈に漂い始め、王女や伯爵夫人が顧客の「マイ・ハウス・ウッドコック」が全てというレイノルズの価値観が揺らいでくる。オスカー衣装デザイン賞受賞のマーク・ブリッジスの50年代英国ファッションとジョニー・グリーンウッドのピアノが奏でる音楽が格調高い。
シックという言葉が流行し始めたこの時代、社会からの疎外・孤独感に苛まれることを予感させるウッドコック家がアルマというミューズによって矯正されるのか?それとも破滅に向かうのか?
毒キノコがもたらす禁断の愛の行方が気になる終焉だ。
エンド・クレジットにあるジョナサン・デミに捧ぐという本作は、これが最後の俳優業を宣言したD・レイ=ルイス。
アンダーソン監督には、かつて靴修行中だった彼を説得したM・スコセッシのように、3度目のタッグを組んで更なる刺激的な物語を映像化して欲しいと願っている。
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