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晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「ザ・パッケージ  暴かれた陰謀」(89・米) 60点

2016-09-17 12:01:37 | (米国) 1980~99 


・ G・ハックマンの存在感が光るポリティカル・アクション。


   

 「刑事ニコ 法の死角」のアンドリュー・デイヴィスは外れの少ない演出に定評があり、本作のあと「逃亡者」(93)でその名を広めた監督。

 主演のジーン・ハックマンは「ボニーとクライド/俺たちに明日はない」(67)、「フレンチ・コネクション」(71)を始め、長期間アクション映画には欠かせない俳優。

 その2人がコンビを組んだ本作は、ベルリンからワシントンまで囚人(トミー・リー・ジョーンズ)護送を命じられた米軍曹長(ジーン・ハックマン)が巻き込まれたソ連書記長暗殺事件を巡ってのサスペンス。

 東西冷戦が緩和され、核兵器問題が取り沙汰される時期にタイミングを合わせたこのドラマはG・ハックマンありきの映画で、本作で監督の目に留まりのちに「逃亡者」で名を挙げたトミー・L・ジョーンズ本来の見せ場は少なく、本格的共演と思って観ると期待外れ。

 このときG・ハックマンはまだ59歳、トミー・L・ジョーンズ43歳は働き盛りの年齢で、90年代からの大活躍を予感させるもの。

 共演に元妻で軍情報部中佐アイリーンにジョアンナ・キャシディ、その部下にパム・グリア、主人公ギャラガー曹長の上司ウィテカー大佐にジョン・ハード、元ヴェトナムで戦友だったシカゴの警部デニス・フランツと手堅い俳優たちが名を連ねているのも魅力。

 このドラマのように米ソ間で核全廃条約が締結されていれば、21世紀はもっと豊かな世界になっていただろうと思うと、このフィクションを絵空事として観ざるを得ないのはとても残念!

 

「最前線物語」(80・米)85点

2016-08-23 12:25:24 | (米国) 1980~99 

 ・ S・フラーの戦争体験から生まれた渾身の戦争ドラマ

       

サミュエル・フラー監督はアメリカではB級映画の異色監督との評価が一般的だが、フランスでは戦後アメリカの三大監督のひとりとして多くの映画人から尊敬されている。

 なかでもゴダール監督「気狂いピエロ」に本人役で出演、「映画とは戦場のようなもの。ひとことで言えばエモーションだ。」というセリフが有名だ。

 そのフラーがライフワークとして長年企画を温めてきたのが本作。なんとオリジナルは6時間という大長編だという。さすがに劇場公開作は116分に短縮版だったが、細切れでストーリーが解りにくいところもあって、DVDは160分に再編集された。

 第二次世界大戦の北アフリカ戦線から、ノルマンディ・シチリア・ベルギー・チェコと転戦を重ねてきた古参軍曹(リー・マーヴィン=好演)と4人の若年兵の分隊が体験したエピソードを通じて、戦争とは何か?を描いている。

 狙撃の腕は抜群だが、殺人はしたくないというグリフ(マーク・ハミル)、ヘミングウェイに憧れる小説家志望のサブ、サックス好きの下町っ子のビンチ、痔持ちの農家の息子ジョーンズの4人は軍曹から「殺人ではない、ただ殺すだけだ」と諭され、まるで機械のように戦場を掻い潜ってゆく。

 北フランスでは妊婦の出産を体験し、シチリアでは農婦が監視兵を切り刻んだのを目撃したり、ベルギーでは精神病人を収容している修道院で、内通者(ステファン・オードラン)が狂人のふりをして踊りながらドイツ兵をメッタギリする場面に遭遇する。

 フラーは自身の体験をモチーフに様々なエピソードを散りばめ、<生き残ることだけが戦場における真の栄光である>ことを説いている。

 同時にユダヤ人である彼が、チェコで目撃した強制収容所の焼却炉から白骨死体を目撃したシークエンスで、軍曹と生き残りの少年との交流はヒューマニズム溢れるシーン。
 
 S・フラー監督渾身の斬新なこの戦争ドラマは、のちのスピルバーグなどに影響を及ぼした隠れた名作だ。

「太陽の帝国」(87・米) 70点

2016-08-12 18:02:13 | (米国) 1980~99 

  ・ スピルバーグ戦争三部作の第一作目は、米映画初の中国ロケに臨場感。




 デヴィッド・リーンが映画化を準備していたという本作。イギリスのSF作家J・G・バラードの少年時代の体験をもとにした原作を、スティーブン・スピルバーグが製作・監督した「戦争三部作」の一作目。

 このあと「シンドラーのリスト」「プライベート・ライアン」とヒット作が続いたが、本作は不発に終わった。原因は11歳の少年の眼を通した上海が舞台で感情移入がしづらい上、本国では日本びいきと思われ敬遠されたことが大きい。

 しかし日本人である筆者にとって、41年12月の日本軍による上海侵攻から始まるこのドラマは、日本が悪役になるはずの決して好んで観たいテーマではなく、公開当時の記憶は殆どない。

 近年、「硫黄島の手紙」「ラスト・サムライ」「終戦のエンペラー」など日本人が観て不自然さがない作品も見られるようになったが、以前はかなり日本を蔑視した作品が多かった。

 今回改めて見てみると、親日家スピルバーグ監督らしく扱いが許容範囲だったので、最後まで観ることができた。

 英国租界の邸宅に住んでいた主人公ジェイミー(クリスチャン・ベール)。ゼロ戦好きの少年だったが、日本軍の侵攻とともに両親とはぐれてしまう。

 上海の街並みで5000人のエキストラを使った雑踏の映像がダイナミックだ。

 2人の米国人に拾われるが、邸宅に戻ったところ日本軍に捕まり龍華収容所へ収容される。
 米国人のひとりベイシー役のジョン・マルコヴィッチがなかな好い。好人物ではないがジェイミー(トム)を利用する毎に結果として大人の世界を実地教育する役割りを果たしている。

 お坊ちゃんで自分の境遇を自慢していたトム。それが何の役に立たないことを知ってから、トムのイキイキした姿が別人のよう。生きる希望を失いかけた大人たちとが対照的で、ここでもスピルバーグ得意のカメラアングルが撮影監督アレン・ダビューによって具象化されている。

 今を時めく大スターC・ベールの貴重な子役時代が今日を予測できる好演だ。
 もうひとり、日本の特攻隊員役の少年に片岡幸太郎が扮している。片岡は「終戦のエンペラー」で昭和天皇に扮した歌舞伎俳優。2人の密かな友情がスピルバーグらしい演出だが、やっぱり今見ると恥ずかしい。

 ジョン・ウィリアムの音楽が印象的な、当時の英・米・日・中の状況が少年の心象風景がうかがえる本作。ラストシーンは如何にもスピルバーグらしい。

 

「エアホース・ワン」(97・米) 60点

2016-07-26 11:33:34 | (米国) 1980~99 
・ トランプが大絶賛した、大統領が勇猛果敢にテロと戦うアクション映画

 

 米国大統領専用機「エアホース・ワン」が、モスクワから帰国途上でハイジャックされる。犯人グループはロシアTVクルー6人になりすましたカザフスタン独裁者ラデクを解放要求するテロリストだった。

 護衛官はマニュアルに沿って大統領を脱出ポットに乗せ脱出させたが、発見されたポットはカラだった。

 貨物室に隠れていた大統領が、愛する家族(妻と娘)や人質を救うため大活躍する。

 共和党大統領候補トランプが大絶賛した本作。ジェームズ・マーシャル大統領を演じたハリソン・フォードがテロにも屈しない強い米国の象徴として登場する。

 元ベトナム戦争の英雄だった大統領は、ホワイト・ハウスと衛星電話連絡に成功するや自ら人質救済のため燃料の一部を投棄、燃料補給のため高度を下げるエアホース・ワンからパラシュートで脱出させる作戦を思いつく。

 その間テロリストのリーダー、イワン・コルシュノフ(ゲイリー・オールドマン)は機長・副操縦士を射殺、ホワイトハウスにラデク釈放を要求。さもないと30分毎に乗員を一人ずつ殺すといい、仲裁を買って出た国家安全保障会議ドハーティ顧問が犠牲となる。

 ホワイトハウスにはベネット副大統領(グレン・クローズ)が指揮を執るが、ウォルター国防長官は次期政権を狙っている風情もあり・・・。

 大統領はテロリストを銃殺し人質となった乗員に遭遇し、特殊部隊との連携、救出機へ移る段取りまで陣頭指揮を執る勇ましさ。

 果ては自ら操縦機を握り、テロリストと組んず解れずの大格闘。

 <アメリカがわが母なる祖国をマフィアと売春婦の巣窟にした>と主張するリーダーに向かって<私の飛行機から出ていけ!>と言って突き落す大統領。

 トランプが大好きな家族愛・愛国心の強い大統領と、アメリカのためなら自己犠牲も厭わないスタッフたち。21世紀には考えられないアメリカ万歳映画だが、ハリウッドの原点を見るような作品でもある。

 

 

 

「インサイダー」(99・米) 70点

2016-05-31 17:09:57 | (米国) 1980~99 

 ・ あんたはビジネスマンなのか?ニュース屋なのか?

                

 人気報道番組・プロデューサーが大手たばこメーカーの不正を糾すために元重役にインタビュー。番組をそのまま、流すために局内で上司に喰って掛かる。

 実話をもとにマイケル・マンが描いた渾身の実録社会派ドラマで、CBC「60ミニッツ」プロデューサー、バークマンにアル・パチーノが扮し、B&W社・元重役ワイガンドにラッセル・クロウが演じている。

 バークマンは看板ジャーナリストであるマイク・ウォレス(クリストファー・プラマー)とともに人気番組を背負っている。自らの信念に忠実であろうとするため、上層部の意向でスクープが骨抜きで放送されることを善しとしない熱血プロデューサーは正にはまり役。

 ワイガンドはB&W社の研究開発部門副社長というポストに高給で迎えられたことで、喘息の娘の医療費を賄い瀟洒な家を持つことができたが、自社製品に発がん性のあるクマリンが含まれていることで板挟みになる。

 2人の立場は働く人間には誰にも思い当たる節がある話だけに、どう対処すべきかはとても緊迫感がある。結局この2人は相応しい行動をする報酬が退職による減収という歯切れの悪さが付きまとう。

 なかでもワイガントは踏んだり蹴ったりで退職金カット、医療保険解約、家族への脅迫、旧悪を暴きネガティヴ・キャンペーンで証言差し止めを迫られる。

 それでも州を超えてミシッピー州で証言することで、告訴を取り下げることができたが、家族は離散してしまい、大きな代償を負ってしまう。

 映画はメディアの在り方を問いかけるテーマでありながら、寧ろそれに関わった人の犠牲が浮き彫りとなていく矛盾が際立ってしまったという現実が印象的になってしまった。

 日本にいたことがあるワイガンドは箸を上手に使い「ちょっと、おねえさん。」というシーンが親近感を持たせてくれる。実在のワイガンドは01年5月27日来日し、WHO世界禁煙デー記念特別講演会で公演している親日家。

 たばこと健康被害の歴史は何十年も繰り返され漸く今日があるが、何人もの犠牲があったことを思い出させてくれる作品だ。

 本作はオスカー7部門にノミネートされながら、受賞はならなかった。何らかの圧力があったのでは?と勘繰るのも不思議ではない。

「摩天楼を夢みて」(92・米) 70点

2016-04-29 15:58:39 | (米国) 1980~99 
  ・ 身につまされるセールスマンの人間模様を描いたドラマを豪華俳優が競演!

                   

 ’83年にロンドンで初演されたデヴィッド・マメットの戯曲「グレンギャリー・グレンロス」を自身が脚本を書き、ジェームズ・フォーリー監督で映画化。

 NYの下請け不動産会社リオ・ランチョ社のレーヴィン(ジャック・レモン)はかつて凄腕と言われたトップ・セールスマンだったが、今は入院中の娘を抱え成績不振。

 レーヴィンが社に戻ると本社幹部のブレイク(アレック・ボールドウィン)が成績が上がらないモス(エド・ハリス)、冴えないアーロナウ(アラン・アーキン)らを無能呼ばわり。成績1位は高級キャデラックに金時計、2位はキッチン・ナイフの賞品がでるが、3位以下はクビだと宣告し、3人にハッパを掛ける。

 その頃バーで顧客に人生論で煙を巻きながらセールストークしていていたのが、成績トップで自信満々のローマ(アル・パチーノ)。

 コネで成り上がりの支店長ウィリアムソン(ケヴィン・スペイシー)はマネジメント力は皆無だが、保身力はある。

 詐欺紛いの不動産ブローカーたちのセールスは顧客のためを思っていないのは明らか。こんな5人のトークバトルは全米でのセールス・マニュアルとなっていたとか。筆者には営業経験はないが、身につまされる営業経験者は結構いるのでは?昨今の日本では笑い事ではなく、似たような事例は決して珍しくない。

 本作の見どころは豪華俳優たちの競演だ。なかでもJ・レモンの姑息だが必死な姿は切なく哀愁が漂いピカイチ。

 ウィリアムソンにリベート交渉してまで優良顧客情報を得ようと必死になったかと思えば、顧客への電話は愛想たっぷりに話しかける様子はまさにカメレオン俳優のよう。

 対するA・パチーノは口八丁手八丁のやり手で、平気で嘘をつく自信家役はまさにハマリ役。

 A・ボールドウィンの如何にも冷徹なエリートでパワハラ男、E・ハリスの口だけ達者だが実践できない不満家。A・アーキンのどこでもいそうな目立たない平凡な男など、それぞれのキャラクターにドップリ浸かった演技合戦は見所一杯だ。

 ここではまだブレーク前のK・スペイシーが、のちに「アメリカン・ビューティー」(99)でオスカー受賞したときのJ・レモンに感謝したスピーチは、本作での共演での演技を学んだからだった。
 

 

 

「シルバラード」(85・米) 65点

2016-04-14 18:09:57 | (米国) 1980~99 
 ・ L・カスダン監督・脚本による貴重な80年代・正統派西部劇。

               

 ローレンス・カスダンは脚本家として大ヒット作を手掛けているが、監督としてもデビュー作「白いドレスの女」(81)以降多数作品を残している。

 60年代、マカロニウェスタンに席巻され久しく途絶えていた痛快・西部劇を作ったのが本作。

 西部の街シルバラードに集結した4人のガンマンが、街を牛耳る悪徳保安官と土地の独占を狙う牧場主達と対決するという、セオリーを踏まえた展開だが内容は盛り沢山。

 出獄して故郷シルバラードへ向かうエメット(スコット・グレン)が途中の砂漠で身ぐるみを剥がされたペイドン(ケヴィン・クライン)と出会う。
 2人が立ち寄った街・ターリーで黒人ガンマン・マル(ダニー・グローバー)と知り合い、投獄されていたエメットの弟ジェイク(ケヴィン・コスナー)を脱獄逃亡させる。

 4人が向かったシルバラードは無法者の元リーダーだったコップ保安官(ブライアン・デネヒー)が君臨し、酒場経営も取り仕切っている。さらに悪徳牧場主・マッケンドリック(レイ・ベイカー)が土地の独占を狙ってエメット兄弟の姉一家は土地を追われ、マルの父がいた開拓地は占領されていた。

 4人が出会うエピソードがかなりの時間を割いて描かれ、登場人物も多いため単なる勧善懲悪ものではない作風を意識しているが、西部劇ファンでなければかなりまどろっこしく感じるかも。

 西部劇ファンには欠かせない風景・幌馬車隊・牛の暴走・馬の疾走などまんべんなく盛り込まれ、節目毎に撃ち合いがあって大満足。

 黒人ガンマンの登場と先住民が登場しないところが人権問題に敏感なこの時代背景を窺わせ、家族愛は描かれているがラブロマンスがほとんどないのも珍しい。

 主役の2人K・クライン、S・グレンはどちらかというと脇役で力を発揮するタイプだし、準主役のK・コスナー、D・クローバーはブレイクする前なので出番は少ない。

 敵役ではコップ保安官が悪代官風でいい味を出しているが、酒場の女主人ステラを巡るペイドンとの争いがいまひとつ。これはステラを演じたリンダ・ハンタのミス・キャストと言わざるを得ない。

 西部劇に欠かせない拳銃さばきは4人とも素晴らしく、まだ細身で2丁拳銃を携えたK・コスナーの若者らしくイキイキとしたアクションが拾い物をしたようで得した気分にさせてくれる。

 
 

 
 

「シンプル・プラン」(98・米) 70点

2015-12-11 14:31:25 | (米国) 1980~99 

 ・ 拾い物だったが、「ファーゴ」には敵わないS・ライミ監督のサスペンス。

                  

 「死霊のはらわた」シリーズでデビューし、「スパイダーマン」シリーズでファン層を拡げたサム・ライミ監督。その中間に監督したサスペンスで原作のスコット・スミスが脚本も担当している。

 アメリカ北部の田舎町に妊娠中の妻・サラと平穏に暮らしているハンクは、大晦日に兄・ジェンキンスとその友人ルーとセスナ機が墜落したのを発見。操縦士は死亡しており、中には大金があった。440万ドルを巡って巻き起こしていく事件の数々で、人生の歯車が狂っていく・・・。

 カルト映画でその名を知られるようになったS・ライミ監督だが、本作は不気味なシーンはほとんどなく僅かにセスナ機発見の導入部のみ。

 事件など起こりそうもない雪深い田舎町で事件発生という設定は、一見コーエン兄弟の「ファーゴ」(56)を思い出させるが、主人公は人柄の良さそうな保安官ではなく善良なハズの小市民夫婦とその兄である。

 誰でも突然大金を手にしたら、欲にかられ善からぬ行動に出てしまうかもしれない。自分ならどうするかと思いながら観てしまう。

 警察に届けようというハンクに黙っていれば分からないから山分けしようというルーと、優柔不断だが密かに死んだ父親の農場経営の生活設計を望んでいた兄・ジェイコブ。

 2人に押されたハンクは、自分が金の管理をしてホトボリが冷めるまで黙っているというプランを条件に渋々同意する。

 夫婦・兄弟・友人という最も身近な人間関係がいきなり大金を手に入れたことで狂っていくさまは、なかなか面白い展開で拾い物という感じで鑑賞した。

 ハンクを演じたビル・パクストンよりも、ジェイコブに扮したビリー・ボブ・ソートンの演技が光る。賢弟愚兄の2人が歩んできた半生は余りにも対照的で、貧しいながら大学を出て地元の飼料会社に勤めサラと結婚子供も生まれようとしているハンクと、独身で恋人もいない失業中のジェイコブ。

 常識をわきまえているハンクが段々善悪の判断が狂い、ジェイコブが罪の意識に苛まれ自らを追い込んで行く現象は、近頃の偽装事件など社会のあちこちにみられることなのかもしれない。

 最も罪の意識がなく、兄弟の人生を狂わせてしまったのはブリジット・フォンダ演じる妻のサラだったのが、皮肉なところ。

 平穏な田舎町で起きた事件は、銃社会の米国ならではの悲劇でもあった。
               
     

「ブラック・レイン」(89・米)70点

2015-09-28 16:21:16 | (米国) 1980~99 
 ・ アメリカから見たバブル期の大阪を舞台にした刑事アクション。                   
                    
                    

 「ブレード・ランナー」(82)のリドリー・スコット監督による刑事アクション。

 NYで逮捕した日本人ヤクザを大阪に護送中逃げられ、言葉の通じない日本で犯人を追う2人の刑事と府警の警部補との交流を描いている。

 大阪が舞台となっているため、多くの日本俳優が出ているハリウッド作品は貴重な存在。なかでも出番はそれほど多くないが、ヤクザ佐藤を演じた松田優作の代表作であり、遺作としても有名だ。

 日本(人)が出てくるハリウッド作品は中国と紛らわしいものが多く、怪しげな日本人が出てガッカリすることが多いが、本作は粗があまり目立たないのが心地よい。

 主演はNY市警の刑事ニックにマイケル・ダグラスが演じている。離婚して慰謝料に苦労していて、調停委員に調査されているグレーな部分を持つが、犯人逮捕には執念を持つ。バイク乗りには絶対の自信がある個性的な刑事役を気持ちよさそうに演じている。

 相棒チャーリーには売り出し中のアンディ・ガルシアが扮し、ニックの良きサポート役となっていて旬な二大俳優の共演が最大の売り。

 当初監督は「ロボコップ」(87)のボール・バーホーベンだったが、黒澤映画と新宿歌舞伎町好きのR・スコットに変更となった。

 当初舞台を東京・歌舞伎町を想定していたが許可が下りず急遽大阪に変更、思ったより綺麗な街並みにガッカリしたという。どうやら香港の下町をイメージしていたきらいもあり、新日鉄堺の自転車シーンはまるで中国のよう。監督は否定しているが、4半世紀前のハリウッドは日本と中国の区別がはっきりしていなかったのでは?

 スコット監督は松田優作の個性豊かな存在感に驚き、続編の可能性まで考慮したストーリー変更までしたが、残念ながら病魔に侵されていた彼は期待に応えられなかった。せめてデ・ニーロとの企画まで存命であればと無い物ねだりをする気にさせる鬼気迫る演技であった。

 映画の出来は平板だが、出演者の演技は本物揃い。なかでも脇に廻った高倉健の演技には感心させられた。日本のトップスターでありながら、自己主張することない抑えた演技で名脇役ぶりは流石。

 ガルシアとの掛け合いで「What’d I Say」を歌うシーンは邦画では絶対見られない。また「日本人は力を合わせて経済力をつけた。いまアメリカにあるのは、映画と音楽だけじゃないか」というセリフにバブル期ならではの自信を感じる。


 やくざの親分・菅井には若山富三郎が扮している。貫禄たっぷりの関西弁の迫力は、アメリカ人には伝わらなかったと思うが、題名ともなっている<B29爆撃のあと、黒い雨が降ってきた経緯を語る姿>は重厚な存在感ある俳優として印象に残ったことだろう。

 R・スコットならではの光と影の幻想的な映像はヤン・デ・ポンのカメラが支え、ハンス・ジマーのやるせないメロディで東アジアの異国情緒を醸し出していた。

 21世紀のいま、こんな映画は良くも悪くも作れないだろう。
 

「ロング・キス・グッドナイト」(96・米) 60点

2015-07-09 16:22:48 | (米国) 1980~99 

 ・ R・ハーリン監督得意のジェットコースター・ムービー。

                   

 ジェーン・ブラックの脚本料が400万ドルという破格の費用で話題となったアクション・ムービー。

 監督は「ダイ・ハード2」(90)、「クリフ・ハンガー」(93)のレニー・ハーリンでオスカー女優で妻のジーナ・デイヴィスが主演、「パルプフィクション」(94)、「ダイ・ハード3」(95)で注目されたサミュエル・L・ジャクソンが共演している。

 8年前海岸で発見されたサマンサ(G・デイヴィス)は記憶喪失していたが、小学校の教師として夫(トム・アマンデス)と娘(イヴォンヌ・ジーマ)とともに幸せに暮らしている。
 
 ときどき自分が予期しない行動で戸惑うこともあり、過去の人生を知りたくて私立探偵を雇って調べていた。

 イヴの夜、交通事故の衝撃で失われていた記憶が断片的に蘇ってくる。そんなとき突然殺し屋が自宅に現れ襲われるが、サマンサは男を倒し止めをを刺してしまう。

 ちょうど雇っていた3流私立探偵ヘネシー(S・L・ジャクソン)が持ってきたある情報をもとに、自分の過去を探る旅へ出た・・・。

 最大の見どころは、ヒロイン・サマンサが夫と娘を愛する善き妻・母・教師から一転して、政府お抱えの冷徹な殺し屋・チャーリーに変身するギャップを味わうこと。それでもなお娘を想う母親であることを再認識するところは、彼女のイメージには欠かせない。

 G・デイヴィスは本来得意とは思えないながら、精一杯女殺し屋を演じていた。吹き替えなしでの湖への飛込みや、水車の拷問にも夫のため?によく耐え、変身ぶりも見事。

 ハーリンは終盤シナリオを無視?して、暴走するかのような何でもありのノンストップ・ムービーへ変身させている。とくに橋の爆破シーンには目を奪われる。

 この有り得ない展開に、程よく中和剤として絡むのがヘネシーだ。ダイ・ハード3で見せた巻き込まれた運の悪い男を再現。金のためなら法を破ることは厭わないが、情に厚くて命がけでチャーリーをサポートする。S・L・ジャクソンお気に入りの役柄を、嬉々として楽しそうに好演している。

 大統領やCIA高官が出てくる政治の駆け引きは如何にも安易だが、ナイヤガラの滝での<ハネムーン計画>は無事終了し、不死身の2人はご帰還というハッピー・エンドで、めでたしめでたし。

 面白かったが製作費の回収はままならず、パート2は制作されず、この後ハーリン・デイヴィス夫妻は離婚してしまう踏んだり蹴ったりの顛末は気の毒だった。もっとも得をしたのはS・L・ジャクソンだったかもしれない。